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第6章 1 私は買い物上手です
油を買いにいく女
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「誠道さん、ただいま帰りました」
リビングのソファに寝転がってごろごろしていると、ミライの声が聞こえてきた。
「おー。おかえり」
そのままの体勢で返事をして、怠惰を続行する。
ミライの言葉から察するに、買い物から帰ってきたのだろう。
「今回は思った以上にたくさん買えましたよ。本当にラッキーでした」
リビングに入ってきたミライをチラ見すると、パンパンに膨れた袋を四つ、両手で抱きかかえるようにして持っていた。
よほど重かったのか、リビングに入ってすぐのところでいったんすべて床に置き、
「ふぅー、想像以上に重かったです」
と腕で額の汗を拭う。
「買い物お疲れー。あとは俺がやっておくからそこに置いたままで――って待てよおい!」
怠惰モード強制終了。
俺はソファから飛び降りてミライの前へ一直線。
もちろん、重い荷物をミライの代わりにキッチンへ持っていこうとしているわけではない。
最初はそのつもりだったのに、そんな思いやりは一瞬にしてどこか遠くへ吹き飛んでしまった。
「どうしたんですか? いきなりそんなに慌てて」
「なにとぼけてんだ。いつも通りの展開だろうが!」
「いつも、通りの、展開?」
首をこてりと傾げるミライ。
ああ、いったい俺はあと何回このやり取りをすればいいのだろう。
俺はため息をつきながら、床の上に置かれている四つの袋を指さす。
「どう考えたってこんなに買う必要なかっただろ! いつも通り無駄遣いのオンパレードだろうが」
「むだ、遣い?」
「また首傾げやがったな。たしか出かける前に『ちょっと油を切らしてしまったので買ってきます』って言ったよな? なのにこの有様はどういうことだよ!」
パンパンに膨れ上がった買い物袋が四つって、大家族の買い物風景かよ!
俺たちは密着取材なんかされてねぇぞ。
「この有様って、まるで私が悪いことをしたみたいな言い方」
「その通りだが」
「誠道さんはいったいなにをおっしゃっているんですか?」
ミライが少しだけ俺を見下すような、冷めた笑みを浮かべ。
「いつも通りの展開? 無駄遣い? それってあなたの感想ですよね?」
「感想じゃなくて買い過ぎなのは紛れもない事実だろうが」
「今回ばかりは、この私を貶せる要素なんてなにひとつないんですぅ」
ミライが不満げに唇を尖らせ、ぷいっとそっぽを向きながら弁解する。
「油を買いにいった帰りに、ちょっと実演販売をのぞいたらお買い得商品ばかりが売ってあったので軒並み購入しただけなんですぅ。私ほどの買い物上手の節約上手主婦は他にいないと思うんですぅ。大家族の主婦として家計を任せられるほどの逸材だと思いますぅ」
「今すぐ業務用スーパーやらを駆使する真の節約上手ママさんたちに謝れ。お前に大家族の家計なんか任せたら一日で破産してカードローン地獄に陥るわ!」
「もう、誠道さんの目は節穴ですか。引きこもりすぎて世間知らずになってしまったんですか」
「なんで俺が非難されてるんだよ! 油を買ってくるだけって話だっただろうが」
何度目かの正論をぶちかましてやると、ミライは目を閉じてなにか考えるようなそぶりを見せる。
すぐに深々と頭を下げて謝ってきた。
「そうでしたね。誠道さんが世間知らずなわけないですもんね。むしろ世間のことをよく知っていますもんね」
顔を上げたミライは、自慢げに人差し指をぴんと立て。
「だって節約上手な主婦が業務用スーパーを使うなんて知識、平日昼間の帯番組でしかやっていないので、普通の高校生は知りませんから。引きこもりは平日昼間の番組を見ることができるので、主婦が求めている常識を得ることができるんですもんね」
「引きこもりあるあるを的確に拾ってくんなよ!」
さっきまでだらけていたはずなのに、なんで俺はこんなにも疲れているんでしょうか。
主に精神的に。
リビングのソファに寝転がってごろごろしていると、ミライの声が聞こえてきた。
「おー。おかえり」
そのままの体勢で返事をして、怠惰を続行する。
ミライの言葉から察するに、買い物から帰ってきたのだろう。
「今回は思った以上にたくさん買えましたよ。本当にラッキーでした」
リビングに入ってきたミライをチラ見すると、パンパンに膨れた袋を四つ、両手で抱きかかえるようにして持っていた。
よほど重かったのか、リビングに入ってすぐのところでいったんすべて床に置き、
「ふぅー、想像以上に重かったです」
と腕で額の汗を拭う。
「買い物お疲れー。あとは俺がやっておくからそこに置いたままで――って待てよおい!」
怠惰モード強制終了。
俺はソファから飛び降りてミライの前へ一直線。
もちろん、重い荷物をミライの代わりにキッチンへ持っていこうとしているわけではない。
最初はそのつもりだったのに、そんな思いやりは一瞬にしてどこか遠くへ吹き飛んでしまった。
「どうしたんですか? いきなりそんなに慌てて」
「なにとぼけてんだ。いつも通りの展開だろうが!」
「いつも、通りの、展開?」
首をこてりと傾げるミライ。
ああ、いったい俺はあと何回このやり取りをすればいいのだろう。
俺はため息をつきながら、床の上に置かれている四つの袋を指さす。
「どう考えたってこんなに買う必要なかっただろ! いつも通り無駄遣いのオンパレードだろうが」
「むだ、遣い?」
「また首傾げやがったな。たしか出かける前に『ちょっと油を切らしてしまったので買ってきます』って言ったよな? なのにこの有様はどういうことだよ!」
パンパンに膨れ上がった買い物袋が四つって、大家族の買い物風景かよ!
俺たちは密着取材なんかされてねぇぞ。
「この有様って、まるで私が悪いことをしたみたいな言い方」
「その通りだが」
「誠道さんはいったいなにをおっしゃっているんですか?」
ミライが少しだけ俺を見下すような、冷めた笑みを浮かべ。
「いつも通りの展開? 無駄遣い? それってあなたの感想ですよね?」
「感想じゃなくて買い過ぎなのは紛れもない事実だろうが」
「今回ばかりは、この私を貶せる要素なんてなにひとつないんですぅ」
ミライが不満げに唇を尖らせ、ぷいっとそっぽを向きながら弁解する。
「油を買いにいった帰りに、ちょっと実演販売をのぞいたらお買い得商品ばかりが売ってあったので軒並み購入しただけなんですぅ。私ほどの買い物上手の節約上手主婦は他にいないと思うんですぅ。大家族の主婦として家計を任せられるほどの逸材だと思いますぅ」
「今すぐ業務用スーパーやらを駆使する真の節約上手ママさんたちに謝れ。お前に大家族の家計なんか任せたら一日で破産してカードローン地獄に陥るわ!」
「もう、誠道さんの目は節穴ですか。引きこもりすぎて世間知らずになってしまったんですか」
「なんで俺が非難されてるんだよ! 油を買ってくるだけって話だっただろうが」
何度目かの正論をぶちかましてやると、ミライは目を閉じてなにか考えるようなそぶりを見せる。
すぐに深々と頭を下げて謝ってきた。
「そうでしたね。誠道さんが世間知らずなわけないですもんね。むしろ世間のことをよく知っていますもんね」
顔を上げたミライは、自慢げに人差し指をぴんと立て。
「だって節約上手な主婦が業務用スーパーを使うなんて知識、平日昼間の帯番組でしかやっていないので、普通の高校生は知りませんから。引きこもりは平日昼間の番組を見ることができるので、主婦が求めている常識を得ることができるんですもんね」
「引きこもりあるあるを的確に拾ってくんなよ!」
さっきまでだらけていたはずなのに、なんで俺はこんなにも疲れているんでしょうか。
主に精神的に。
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