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第4章 4 束縛の果てに

愛し合うということ

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「どういうことだよ……」

 俺は混乱状態で、わけもわからず自分を攻撃しそうになっていた。

 虎の魔物の正体がコハクちゃんで、ハクナさんはその虎の魔物に呪いをかけられていて、虎の魔物を倒さないとその呪いは解けなくて、その呪いをかけた張本人のコハクちゃんがハクナさんを熱心に看病していて。

 本当にわけがわからない。

 いったいどういうことなのだろう。

「心出さん。見間違いということはありませんか?」

 ミライが心出に問うと、心出は力なく首を横に振った。

「俺がコハクちゃんを見間違えるわけがない。そもそも俺はコハクちゃんを長い間ストーカー……警護していたんだぞ。さすがに途中で気づく」

「うん。ストーカーって自分でもう言っちゃったからね。できれば言い間違いじゃなくて見間違いであってほしかったけどね」

 本心がツッコみに混じってしまう。

 心出が本当に見間違えていないとして、コハクちゃんが虎の魔物だとして、じゃあいったいなんのためにコハクちゃんはこんな面倒くさいことを。

「ずっと自分に縛りつけておくため……でしょうか」

 ミライがぼそりと呟く。

「自分に、縛りつけておく?」

「はい。コハクさんはずっと独りぼっちでした。だからこそ、ようやくできた自分の大切な人が絶対に自分から離れないように、ハクナさんを呪うことで、ハクナさんがコハクさんを頼らざるを得ない状況を作り出したのではないか、と」

「なるほど」

 ミライの考えは一理ある。

 俺も独りぼっちで引きこもっていたことがあるから、独りぼっちのさみしさはよくわかる。

 大切な人から大切にされつづけたいから、大切な人を傷つける。

 そんな本末転倒な思考に至っても、おかしくはない。

 独りぼっちとは、それほどまでに苦しいものなのだ。

「とにかく、俺たちがここで考えていてもしょうがない」

 体にまとわりついている陰鬱な気分を振り払うように、肩をぐるぐると回してからつづける。

「コハクちゃんに会って話をしよう。まずはそれからじゃないか?」

「そうですね」

 ミライが俺を見て安堵したように笑った。

「コハクさんにしか、コハクさんの本当の気持ちはわからないですから」

「間違っているなら間違っているってきちんと伝えないといけないよな」

「はい。コハクさんはこんなことをしなくても、充分に魅力のある素敵な女の子ですから」

 ミライの言葉に漂う哀愁が俺の身を少しだけざわつかせる。

 本当に、どうして真実ってやつはこんなにも……。

「誠道くん、ミライさん……」

 俺が、憤りや悔しさを震える息に混ぜて口から吐き出していると、うずくまっていた心出が俺たちを見上げ、深くうなずいた。

「二人の言う通りだと俺も思う。コハクちゃんには魅力しかない。そして、『愛し合う』は『相手のすべてを受け入れる』とは違うんだ。ダメなものはダメだと言える、それが真の意味での『愛し合う』なんだ」

「うん。すごくいい言葉だと思うんだけど、まず二人は愛し合ってないからね! 妄想ひどいよ? 俺はさっきからずっとお前にダメなものはダメだと言ってるんだけど全然聞いてくれないよねぇ?」

 よしっ!

 いつものツッコみの調子が戻ってきたぞ。

 そしてケモナーストーカーの心出は連れていかないほうがいいのかな?
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