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第3章 1 ポストに謎のプレゼント
カモメイド
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「誠道くん。俺たちはもう逃げも隠れもしないから、どいてくれないだろうか」
「……わかった」
逃げようとする素振りはなかったので、俺は親玉を押さえつけるのをやめる。
「ありがとう」
わずかに笑みを浮かべた黒髪七三分けの親玉は、他の三人の前で正座をした。
やっぱり睾丸と借用書を送りつけるなんて陰湿な嫌がらせをするようなタイプには見えない。
「とりあえず、どうして毎日のように嫌がらせをしてきたのか、説明してくれ」
「いや、がらせ?」
親玉が眼鏡をキリッと持ち上げた。
「とぼけても無駄だぞ。俺はさっきこの目で見たんだからな」
俺はポストの中に手を入れて、ゴブリンの睾丸と借用書を取り出す。
「これが嫌がらせの動かぬ証拠だよ」
「ちょっと待ってくれないか。嫌がらせだなんて、なにかの間違いだ」
「まだとぼける気か」
「だってそれらは、誠道くんたちの大好きなものなんだろ?」
「……は?」
親玉の男が変なことを言い出した。
なんかもう、どう考えても陰湿な嫌がらせをするようなバカにしか見えなくなった。
「俺がいつ、睾丸やら借用書やらを大好きだって言ったよ」
「俺たちは街で聞いたんだ! 誠道くんがゴブリンの睾丸を好んで食べていて、借金も好んでしているという噂を。だからこうして善意というか誠意というか謝意というか」
「おい待てなんだその噂は! ゴブリンの睾丸はいいとして、誰が借金を好んでするかよ!」
「え? だってその筋の人たちはみんな言ってたんだ。あのカモメイドが『引きこもりのご主人様の欲望を満たすため、私が代わりに借金してるんです』と言いながら、嬉しそうに借金を重ねてるって」
「全部ミライのせいなのね!」
あと、ミライは金融業者からカモメイドって屈辱的なあだ名をつけられてもいるんですね。
「ってかそもそもゴブリンの睾丸もよくなかったわ!」
「え? そっちも?」
「当たり前だろ! とにかく、こんなものもらっても俺たち――俺は嬉しくないから! 金輪際やめてくれるかな」
これまでの会話から、悪気があるのかないのか判断はつかなかったが、とりあえずきっぱりと言っておくことにする。
「……誠道くんがそういうのなら仕方ない。誠道くんの役に立てればと、ただその一心だったんだが」
親玉の男はものすごく悔しそうにしている。
いや、借金が好きだから借用書をプレゼントって、どういう思考回路?
「誠道くん。皇帝さんを許してやってください。悪気があったわけではな――」
「馬鹿野郎が! それだけはするなって言ってあっただろうが!」
坊主が親玉の男をかばったのだが、親玉自身がそれを一喝してやめさせる。
――って、そんなことどうでもよくて。
「か、皇帝?」
いま、確実にそう言ったよな。皇帝って、こいつ大度出皇帝なの? まさか、だってあいつはこんな七三分けなんかする真面目ちゃんじゃなかったはず……。
「嘘だろ」
俺は皇帝と呼ばれた男をよく見る。髪型が変わり、眼鏡もかけているため気づかなかったが、たしかにこいつは間違いなく大度出皇帝だった。
「ってことは」
後ろの三人も……やっぱり。坊主が勅使太一、坊ちゃん刈りが鶏真喜一、茶髪湘南サーファー男が五升李男だ。
「……わかった」
逃げようとする素振りはなかったので、俺は親玉を押さえつけるのをやめる。
「ありがとう」
わずかに笑みを浮かべた黒髪七三分けの親玉は、他の三人の前で正座をした。
やっぱり睾丸と借用書を送りつけるなんて陰湿な嫌がらせをするようなタイプには見えない。
「とりあえず、どうして毎日のように嫌がらせをしてきたのか、説明してくれ」
「いや、がらせ?」
親玉が眼鏡をキリッと持ち上げた。
「とぼけても無駄だぞ。俺はさっきこの目で見たんだからな」
俺はポストの中に手を入れて、ゴブリンの睾丸と借用書を取り出す。
「これが嫌がらせの動かぬ証拠だよ」
「ちょっと待ってくれないか。嫌がらせだなんて、なにかの間違いだ」
「まだとぼける気か」
「だってそれらは、誠道くんたちの大好きなものなんだろ?」
「……は?」
親玉の男が変なことを言い出した。
なんかもう、どう考えても陰湿な嫌がらせをするようなバカにしか見えなくなった。
「俺がいつ、睾丸やら借用書やらを大好きだって言ったよ」
「俺たちは街で聞いたんだ! 誠道くんがゴブリンの睾丸を好んで食べていて、借金も好んでしているという噂を。だからこうして善意というか誠意というか謝意というか」
「おい待てなんだその噂は! ゴブリンの睾丸はいいとして、誰が借金を好んでするかよ!」
「え? だってその筋の人たちはみんな言ってたんだ。あのカモメイドが『引きこもりのご主人様の欲望を満たすため、私が代わりに借金してるんです』と言いながら、嬉しそうに借金を重ねてるって」
「全部ミライのせいなのね!」
あと、ミライは金融業者からカモメイドって屈辱的なあだ名をつけられてもいるんですね。
「ってかそもそもゴブリンの睾丸もよくなかったわ!」
「え? そっちも?」
「当たり前だろ! とにかく、こんなものもらっても俺たち――俺は嬉しくないから! 金輪際やめてくれるかな」
これまでの会話から、悪気があるのかないのか判断はつかなかったが、とりあえずきっぱりと言っておくことにする。
「……誠道くんがそういうのなら仕方ない。誠道くんの役に立てればと、ただその一心だったんだが」
親玉の男はものすごく悔しそうにしている。
いや、借金が好きだから借用書をプレゼントって、どういう思考回路?
「誠道くん。皇帝さんを許してやってください。悪気があったわけではな――」
「馬鹿野郎が! それだけはするなって言ってあっただろうが!」
坊主が親玉の男をかばったのだが、親玉自身がそれを一喝してやめさせる。
――って、そんなことどうでもよくて。
「か、皇帝?」
いま、確実にそう言ったよな。皇帝って、こいつ大度出皇帝なの? まさか、だってあいつはこんな七三分けなんかする真面目ちゃんじゃなかったはず……。
「嘘だろ」
俺は皇帝と呼ばれた男をよく見る。髪型が変わり、眼鏡もかけているため気づかなかったが、たしかにこいつは間違いなく大度出皇帝だった。
「ってことは」
後ろの三人も……やっぱり。坊主が勅使太一、坊ちゃん刈りが鶏真喜一、茶髪湘南サーファー男が五升李男だ。
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