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第2章 1 なにか忘れてるような 

可能性癖

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「要するに、ミライも技を使えるってことでいいんだよな?」

「はい。そういうことです」

 ミライがうなずく。

 でもさ、そういう初歩的で大事な内容って、熟読しないといけないような場所に書かれてあるかな?

 まあいいか。

「ちなみにだけど、その鞭はどこで買ったんだ? まさかとは思うけど、これまでみたいに借金して」

「誠道さんひどいです。私をなんだと思ってるんですか」

「借金を作る天才」

「ひどすぎます! たしかに私は天才で優秀なメイドですけど。借金してなにかを買うなんて、そんなバカなことするわけがありません」

「いやそれをずっとしてきたんだけどね君は」

 今の言葉を過去のミライに聞かせてやりたいなぁ。

 反省という言葉を知らないミライさんは、自分の胸に手を当てて、過去を振り返ってみてはいかがでしょう。

「とにかく、この鞭は借金で買ったのではありません」

「じゃあどうやったんだ? まさか盗み」

「本当に心外です。女神様がくれたのです」

「え、あの女神様が?」

 思わず目を丸くする。

 あの転生者を弄んで楽しむことで有名な女神リスズが、そんな親切なことをしたっていうのか!

「『本当は最初から持たせておく予定が、ついうっかり忘れてました』って言ってましたよ」

「そういうことだろうと思ったよ! あのクソ女神ちゃんとしろよ。ついうっかりって、全知全能者しか神になれないんじゃないのか」

 脳内で女神リスズのニヤニヤした顔が浮かんでしまい、さらにムカついた。

「とにかく、これで私はただの足手纏いにはなりませんから。戦いの面でも誠道さんを支援できます」

 ミライは嬉しそうに鞭を抱きしめながら、何度もうなずいている。

「そうか。頼りにしてるよ」

「はい。まだ技は覚えられていませんが……」

 急にミライがしおらしくなって、鞭を大切そうに撫ではじめる。

 俺の体を舐めるように見た後、頬を紅潮させながら目を横に逸らした。

「誠道さんから頼りにされているのであれば……その、私……」

 髪を耳にかけながら、ぷっくりとした唇を動かしてしゃべるミライ。

 す、すげぇ色っぽくて、かわいい。

 心がどうしようもなくときめく。

「誠道さんがいま望んでいること、したいこと、なんでもしてあげますよ」

 ……え? 今なんでもって言った?

 先ほどのミライのセリフがアニメとして放映されたら、そのコメントで溢れかえっていることだろう。

 俺もそのコメントを打ったことがある。

 しかも一度や二度ではない。

「ミ、ミライ……それは……なんでもって」

「誠道さん。なにを恥ずかしがっているのですか?」

 ミライがとろけるような声を出しながら、俺に近づいてくる。

 出会ったときにもこんなことがあったなぁと思い出す。

 あのときは期待させるだけ期待させといて――いや俺が勝手に期待しただけだけど――結局筋トレの話だった。

「石川誠道という人間のすべてをさらけ出してください。私はどんな誠道さんも受け入れますから。なんでもしてあげますから」

 でも、今回はどうだ?

 あのときよりも確実に仲は深まっている。

 膝枕だってしてもらった。

 つまり、俺が勘違いする要素なんてなにもない。

「では誠道さん。ベッドに座ってください」

「は、はひ」

 言われるがままベッドに座る。

 ミライがいつもの二割増しで綺麗に見える。

「あのぉ、いろいろとご奉仕しているときの顔を見られるのは恥ずかしいので、目を閉じてくれると助かります」

「わ、わかった」

 ミライに言われた通り目を閉じる。

 視界が奪われたことで他の感覚が鋭敏になった気がした。

 ああ、心臓の鼓動がやばい。

 俺、これからどうなっちゃうのー!

「それじゃあ、しますね。痛かったら遠慮なく言ってください。私は誠道さんに気持ちよくなってもらいたいだけなので」

 ん? 痛かったらって、もしかしてミライが責める側なの?

 たしかに俺は目を閉じているし、どちらかというとMだからまあいいか。

 ああ、ほんとマジやばすぎて語彙力がどんどんなくなっていく。

 興奮が止まらないよぉ。

 興奮の先にいきたいよぅ。

「ミ、ミライさん。よ、よろしくお願いします」

「わかりました。では――」

 ミライが隣に座るのがわかった。

 俺はごくりとつばを飲み、そのときを待つ。

「手から縛っていきますね」

「はひ。よろしくお願いしま――え?」

 ん?

 聞き間違いかな?

 耳まで興奮して正常に働いていないのかな?

「あの、ミライさん。今縛るって言わなかった?」

「はい! もちろんです!」

 ミライの嬉々とした返事が聞こえてくる。

「うまくできるかはわかりませんが、誠道さんが満足してもらえるよう頑張って縛りますね」

「満足するかー」

 俺は慌てて立ち上がってミライから距離を取る。

 ミライは恍惚の表情を浮かべながら、鞭を両手で引っ張っていた。

「どうして逃げるんですか? 恥ずかしいんですか?」

「恥ずかしいとかのレベルじゃねぇ!」

「大丈夫です。私もはじめてですから。誠道さんになら、はじめてをあげてもいいと思っていますから」

「そんなはじめてもらいたくねぇよ!」

「さぁ、私と誠道さんのはじめての共同作業です! 誠道さんの望むこと、なんでもしてあげたいんです!」

「だから俺はこんなの望んでないんだよ!」

 必死で説得しようとするも、目がキマっているミライは言うことを聞いてくれない。

「望んでない? それはあり得ません。だって私の専用の武器は鞭なんですから!」

「なんですから、じゃねぇよ! 理由になってねぇだろ!」

「聖さんの技を見ていないんですか? 基本的に転生者に与えられる技はその人が求めるものを具現化できるようになっているんです!」

 ……なるほど。

 たしかに聖ちゃんは魔物をぐちゃぐちゃにできる技を習得している。

 そう考えると、必殺技が転生者の欲求を叶えるためにあるという説明にも納得がいく……のか?

「つまりですね! 誠道さんを支援するメイドである私がやろうとすることはすべて、誠道さんが求めるものに合致しているのです!」

「俺は借金を望んでないけど。はい論破」

 あぶねー。

 なんかミライに都合のいいように言いくるめられるところだった。

「論破なんて関係ありません」

「いや関係あるだろ」

「もう! 強がらないでください。早く私に縛らせてください!」

「目をぎらぎらさせんな! 必殺技より先に変な性癖獲得してんぞ!」

 俺がミライに縛られる前に、ミライが俺を縛らなければいけないっていう妄想に縛られてますよ。

「誠道さん。自分に正直になってください。新たな可能性癖、見つけたいですよね?」

 可能性と性癖で可能性癖かぁ、なんか深いなぁ(浅い)。

「だったら俺は今すぐ自分探しの旅にでるから! それで新しい自分見つけるから!」

「そんなことで見つかる自分は大したことないって言ったのは誠道さんです。ブーメランでは?」

「鞭で縛られることで見つかる自分の方が絶対大したことないから!」

 その後もしばらく言い争っていたが、最終的にはミライに無理やり体を抑え込まれ、鞭で縛られてしまいましたとさ。

 そして、その時に聞こえてきた天の声は。



「サポートアイテム、ミライが装備主の内に秘めた真なる欲求を満たすことに成功しました。特殊条件を満たしたため、サポートアイテム、ミライに必殺技【拘束バインド】が付与されます」



 天の声まで俺をいじってるじゃねぇか。

 べ、別に俺は縛られて嬉しぃ、なにこれしゅごいぃぃいい! なんて新たな自分に出会ってないからね。

 仕方なく、ミライが折れないから仕方なく、縛られてあげただけだからね。

 ほ、ほんとなんだよー。 
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