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第1章 7 異世界でも俺は引きこもりたい

本当の強さ

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「さっきからなにキメェこと言ってんだよ! どうやら死にてぇみてぇだなぁ」

 顔を真っ赤にした大度出が駆け寄ってくる。

「お前、今俺を哀れんだなぁ。ふざけんなよ。【葬乱ホームラン】ッ!」

 いつの間にか、大度出の両手に紫色に発光するバッドが握られていた。

 逃げなきゃ、と思う前に、俺はそのバッドで右肩をぶん殴られ、後方に吹っ飛ぶ。

 床の上を転がって壁に当たって止まった後、右肩に激痛が走った。

「ざけんな! ふざけたこと抜かしやがって。【酸発連続蹴ハットトリック】ッ!」

 気がつけば大度出は俺を見下ろしており、腹に一度目の蹴り、右肩に二度目の蹴り、顔に三度目の蹴りを食らう。

 蹴られた場所が燃えるように熱くなっている。

 皮膚が少し溶けているかもしれない。

「お前なんかに哀れまれてたまるかよ! このクズがっ。クソ引きこもりがっ! 【豫番死命打捨ヨバンシメイダシャ】ァァアアアッ!」

 髪をつかまれて強引に体を持ち上げられ、紫に光るバッドで腹を殴られる。内臓が焼けるような痛みが走り、大量の血を吐いた。

「俺は毎日楽しく過ごしてんだよ。お前ごときが、俺に勝ってることなんかなにひとつねぇんだよ。【惨連弐連撃トリプルダブル】ッ!」

 禍々しい紫色の光をまとった拳を三発体に叩き込まれ、吹っ飛ばされる。

 壁に背中からぶつかって、床の上にどさりと落ちた。

 体内ではまだ衝撃が乱反射しており、体の内側を殴られつづけているかのような痛みに、気絶することすら許されなかった。

 ああ、やっぱり俺はボコられて終わるのか。

 また、これなのか。

 女神様の言う通り、俺が助けにきても無駄だったのか。



 ――誠道さんの情けない姿なんかもう見飽きています。こんなことで、私は失望なんかしませんよ。



 いや、違う。



 ――私をどうか、見捨てないで!



 俺はミライの思いに応えなきゃいけない。

 何度殴られようとも、蹴られようとも、対抗手段がなにもなくとも、立ち上がって、立ち向かって、こいつらを張り倒して、ミライと一緒に家に帰らなきゃいけない。

 だって俺は引きこもりだから。

 俺の引きこもり生活をサポートしてくれるミライと一緒に、最強の引きこもりになると約束したのだから。



 ミライが俺を信じてくれたのだから!



「けっ、クズが。お前なんか俺様の足元にも及ばねぇんだよ」

 溜飲が下がったのか、ようやく大度出が暴力を止める。

 横たわっている俺に近づいてきて、下卑た視線で見下し、唾を吐きかけてくる。

「惨めだなぁ。いつも、いつまでも、これからもお前はずっと俺の奴隷なんだよ」

「惨めなままで、かまわない」

 俺は歯を食いしばって立ち上がる。

 瞼が腫れているのか、視界は狭い。

 口の中には血の味が広がっていく。

 呼吸をするたびに胸に激痛が走る。



 でも、そんな些細なことは俺の覚悟を揺るがさない。



 俺の中で燃えている炎は、絶対に消えない。



「俺はっ、ミライのために、お前らなんかに負けられねぇんだよ」

 何度ボコられても、何度だって立ち上がる。

 ミライのために、そう決めたのだから。

 逃げるわけにはいかないのだから。

「こいつ……ウゼェんだよ弱虫がぁ!」

 大度出が拳を振りかざしたときだった。

「誠道さんは弱虫なんかじゃありません」

 女神像の後ろから、あざだらけのミライが姿を現した。

 大度出たちを鋭い目で睨みつけている。

「大度出さん。弱虫なのはむしろ、あなたの方です」

「はっ? 今なんつった?」

 大度出がミライの方を向く。

 ミライは険のある表情を崩さない。

「あなたは世界一の小心者だと言ったんです。だってあなたは異世界にきた当初、絶対に反抗しない誠道さんで経験値稼ぎをした。それは、固有ステータスをカンストできていたのに、魔物と戦うのが怖かったから。怯えていたから。違いますか?」

「調子乗んなよテメェ!」

 大度出はミライのもとへ走り、彼女の顔を思いきり蹴飛ばした。

「くぁあがっぁぁ」

 ミライの悲鳴が教会内にこだまする。



 ――その瞬間、俺の中でなにかが崩壊した。



 ぷつりという音が体の中から聞こえてくる。

「……した……」

「あん? なんだって? 聞こえねえよ」

「お前、ミライになにをしたぁぁぁぁ!」

 自分でもこんな声が出るとは思わなかった。

 頭に血がのぼるとは、こういうことを言うのか。

 怒り狂うとは、こういう感覚になることを言うのか。

「ふざけたこと抜かすやつを制裁してなにが悪い? 嘘つきは泥棒のはじまりだって言うだろ?」

 気持ち悪い笑みを浮かべながら、足の裏でミライの顔を踏みつける大度出。

「……いいかげんにしろ」

 俺は拳をぎゅっと握りしめた。

「大度出。覚悟はいいんだな」

 体がものすごく熱い。

 なんだろうこの感覚は。

 意識が保てない。

 だけどこの感覚に身を委ねていいと、体中の細胞が確信している。

「ミライを傷つけたこと、後悔しても遅いからな」

 そして、俺は意識を失った。

 その直前に流れた天の声を俺自身が理解するのは、もう少し後のことになる。



「ステータス【新偉人ニート】保有者の『大切な人が傷つけられ、怒りが頂点に』達しました。特殊条件を満たしたため、【無敵の人間インヴィジブルパーソン】が発動します」
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