64 / 360
第1章 7 異世界でも俺は引きこもりたい
本当の強さ
しおりを挟む
「さっきからなにキメェこと言ってんだよ! どうやら死にてぇみてぇだなぁ」
顔を真っ赤にした大度出が駆け寄ってくる。
「お前、今俺を哀れんだなぁ。ふざけんなよ。【葬乱】ッ!」
いつの間にか、大度出の両手に紫色に発光するバッドが握られていた。
逃げなきゃ、と思う前に、俺はそのバッドで右肩をぶん殴られ、後方に吹っ飛ぶ。
床の上を転がって壁に当たって止まった後、右肩に激痛が走った。
「ざけんな! ふざけたこと抜かしやがって。【酸発連続蹴】ッ!」
気がつけば大度出は俺を見下ろしており、腹に一度目の蹴り、右肩に二度目の蹴り、顔に三度目の蹴りを食らう。
蹴られた場所が燃えるように熱くなっている。
皮膚が少し溶けているかもしれない。
「お前なんかに哀れまれてたまるかよ! このクズがっ。クソ引きこもりがっ! 【豫番死命打捨】ァァアアアッ!」
髪をつかまれて強引に体を持ち上げられ、紫に光るバッドで腹を殴られる。内臓が焼けるような痛みが走り、大量の血を吐いた。
「俺は毎日楽しく過ごしてんだよ。お前ごときが、俺に勝ってることなんかなにひとつねぇんだよ。【惨連弐連撃】ッ!」
禍々しい紫色の光をまとった拳を三発体に叩き込まれ、吹っ飛ばされる。
壁に背中からぶつかって、床の上にどさりと落ちた。
体内ではまだ衝撃が乱反射しており、体の内側を殴られつづけているかのような痛みに、気絶することすら許されなかった。
ああ、やっぱり俺はボコられて終わるのか。
また、これなのか。
女神様の言う通り、俺が助けにきても無駄だったのか。
――誠道さんの情けない姿なんかもう見飽きています。こんなことで、私は失望なんかしませんよ。
いや、違う。
――私をどうか、見捨てないで!
俺はミライの思いに応えなきゃいけない。
何度殴られようとも、蹴られようとも、対抗手段がなにもなくとも、立ち上がって、立ち向かって、こいつらを張り倒して、ミライと一緒に家に帰らなきゃいけない。
だって俺は引きこもりだから。
俺の引きこもり生活をサポートしてくれるミライと一緒に、最強の引きこもりになると約束したのだから。
ミライが俺を信じてくれたのだから!
「けっ、クズが。お前なんか俺様の足元にも及ばねぇんだよ」
溜飲が下がったのか、ようやく大度出が暴力を止める。
横たわっている俺に近づいてきて、下卑た視線で見下し、唾を吐きかけてくる。
「惨めだなぁ。いつも、いつまでも、これからもお前はずっと俺の奴隷なんだよ」
「惨めなままで、かまわない」
俺は歯を食いしばって立ち上がる。
瞼が腫れているのか、視界は狭い。
口の中には血の味が広がっていく。
呼吸をするたびに胸に激痛が走る。
でも、そんな些細なことは俺の覚悟を揺るがさない。
俺の中で燃えている炎は、絶対に消えない。
「俺はっ、ミライのために、お前らなんかに負けられねぇんだよ」
何度ボコられても、何度だって立ち上がる。
ミライのために、そう決めたのだから。
逃げるわけにはいかないのだから。
「こいつ……ウゼェんだよ弱虫がぁ!」
大度出が拳を振りかざしたときだった。
「誠道さんは弱虫なんかじゃありません」
女神像の後ろから、あざだらけのミライが姿を現した。
大度出たちを鋭い目で睨みつけている。
「大度出さん。弱虫なのはむしろ、あなたの方です」
「はっ? 今なんつった?」
大度出がミライの方を向く。
ミライは険のある表情を崩さない。
「あなたは世界一の小心者だと言ったんです。だってあなたは異世界にきた当初、絶対に反抗しない誠道さんで経験値稼ぎをした。それは、固有ステータスをカンストできていたのに、魔物と戦うのが怖かったから。怯えていたから。違いますか?」
「調子乗んなよテメェ!」
大度出はミライのもとへ走り、彼女の顔を思いきり蹴飛ばした。
「くぁあがっぁぁ」
ミライの悲鳴が教会内にこだまする。
――その瞬間、俺の中でなにかが崩壊した。
ぷつりという音が体の中から聞こえてくる。
「……した……」
「あん? なんだって? 聞こえねえよ」
「お前、ミライになにをしたぁぁぁぁ!」
自分でもこんな声が出るとは思わなかった。
頭に血がのぼるとは、こういうことを言うのか。
怒り狂うとは、こういう感覚になることを言うのか。
「ふざけたこと抜かすやつを制裁してなにが悪い? 嘘つきは泥棒のはじまりだって言うだろ?」
気持ち悪い笑みを浮かべながら、足の裏でミライの顔を踏みつける大度出。
「……いいかげんにしろ」
俺は拳をぎゅっと握りしめた。
「大度出。覚悟はいいんだな」
体がものすごく熱い。
なんだろうこの感覚は。
意識が保てない。
だけどこの感覚に身を委ねていいと、体中の細胞が確信している。
「ミライを傷つけたこと、後悔しても遅いからな」
そして、俺は意識を失った。
その直前に流れた天の声を俺自身が理解するのは、もう少し後のことになる。
「ステータス【新偉人】保有者の『大切な人が傷つけられ、怒りが頂点に』達しました。特殊条件を満たしたため、【無敵の人間】が発動します」
顔を真っ赤にした大度出が駆け寄ってくる。
「お前、今俺を哀れんだなぁ。ふざけんなよ。【葬乱】ッ!」
いつの間にか、大度出の両手に紫色に発光するバッドが握られていた。
逃げなきゃ、と思う前に、俺はそのバッドで右肩をぶん殴られ、後方に吹っ飛ぶ。
床の上を転がって壁に当たって止まった後、右肩に激痛が走った。
「ざけんな! ふざけたこと抜かしやがって。【酸発連続蹴】ッ!」
気がつけば大度出は俺を見下ろしており、腹に一度目の蹴り、右肩に二度目の蹴り、顔に三度目の蹴りを食らう。
蹴られた場所が燃えるように熱くなっている。
皮膚が少し溶けているかもしれない。
「お前なんかに哀れまれてたまるかよ! このクズがっ。クソ引きこもりがっ! 【豫番死命打捨】ァァアアアッ!」
髪をつかまれて強引に体を持ち上げられ、紫に光るバッドで腹を殴られる。内臓が焼けるような痛みが走り、大量の血を吐いた。
「俺は毎日楽しく過ごしてんだよ。お前ごときが、俺に勝ってることなんかなにひとつねぇんだよ。【惨連弐連撃】ッ!」
禍々しい紫色の光をまとった拳を三発体に叩き込まれ、吹っ飛ばされる。
壁に背中からぶつかって、床の上にどさりと落ちた。
体内ではまだ衝撃が乱反射しており、体の内側を殴られつづけているかのような痛みに、気絶することすら許されなかった。
ああ、やっぱり俺はボコられて終わるのか。
また、これなのか。
女神様の言う通り、俺が助けにきても無駄だったのか。
――誠道さんの情けない姿なんかもう見飽きています。こんなことで、私は失望なんかしませんよ。
いや、違う。
――私をどうか、見捨てないで!
俺はミライの思いに応えなきゃいけない。
何度殴られようとも、蹴られようとも、対抗手段がなにもなくとも、立ち上がって、立ち向かって、こいつらを張り倒して、ミライと一緒に家に帰らなきゃいけない。
だって俺は引きこもりだから。
俺の引きこもり生活をサポートしてくれるミライと一緒に、最強の引きこもりになると約束したのだから。
ミライが俺を信じてくれたのだから!
「けっ、クズが。お前なんか俺様の足元にも及ばねぇんだよ」
溜飲が下がったのか、ようやく大度出が暴力を止める。
横たわっている俺に近づいてきて、下卑た視線で見下し、唾を吐きかけてくる。
「惨めだなぁ。いつも、いつまでも、これからもお前はずっと俺の奴隷なんだよ」
「惨めなままで、かまわない」
俺は歯を食いしばって立ち上がる。
瞼が腫れているのか、視界は狭い。
口の中には血の味が広がっていく。
呼吸をするたびに胸に激痛が走る。
でも、そんな些細なことは俺の覚悟を揺るがさない。
俺の中で燃えている炎は、絶対に消えない。
「俺はっ、ミライのために、お前らなんかに負けられねぇんだよ」
何度ボコられても、何度だって立ち上がる。
ミライのために、そう決めたのだから。
逃げるわけにはいかないのだから。
「こいつ……ウゼェんだよ弱虫がぁ!」
大度出が拳を振りかざしたときだった。
「誠道さんは弱虫なんかじゃありません」
女神像の後ろから、あざだらけのミライが姿を現した。
大度出たちを鋭い目で睨みつけている。
「大度出さん。弱虫なのはむしろ、あなたの方です」
「はっ? 今なんつった?」
大度出がミライの方を向く。
ミライは険のある表情を崩さない。
「あなたは世界一の小心者だと言ったんです。だってあなたは異世界にきた当初、絶対に反抗しない誠道さんで経験値稼ぎをした。それは、固有ステータスをカンストできていたのに、魔物と戦うのが怖かったから。怯えていたから。違いますか?」
「調子乗んなよテメェ!」
大度出はミライのもとへ走り、彼女の顔を思いきり蹴飛ばした。
「くぁあがっぁぁ」
ミライの悲鳴が教会内にこだまする。
――その瞬間、俺の中でなにかが崩壊した。
ぷつりという音が体の中から聞こえてくる。
「……した……」
「あん? なんだって? 聞こえねえよ」
「お前、ミライになにをしたぁぁぁぁ!」
自分でもこんな声が出るとは思わなかった。
頭に血がのぼるとは、こういうことを言うのか。
怒り狂うとは、こういう感覚になることを言うのか。
「ふざけたこと抜かすやつを制裁してなにが悪い? 嘘つきは泥棒のはじまりだって言うだろ?」
気持ち悪い笑みを浮かべながら、足の裏でミライの顔を踏みつける大度出。
「……いいかげんにしろ」
俺は拳をぎゅっと握りしめた。
「大度出。覚悟はいいんだな」
体がものすごく熱い。
なんだろうこの感覚は。
意識が保てない。
だけどこの感覚に身を委ねていいと、体中の細胞が確信している。
「ミライを傷つけたこと、後悔しても遅いからな」
そして、俺は意識を失った。
その直前に流れた天の声を俺自身が理解するのは、もう少し後のことになる。
「ステータス【新偉人】保有者の『大切な人が傷つけられ、怒りが頂点に』達しました。特殊条件を満たしたため、【無敵の人間】が発動します」
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
1000億円の遺産があります、異世界に
克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に投稿しています。
19話10万字の完結作です。
『異世界で人生やり直し』
佐藤直太朗は夢の中で見ず知らずに金髪老女に話しかけられた。
とんでもなく居丈高な態度で、普通の人間なら聞く気になれない話し方だった。
しかも異世界に千億もの遺産があると言う荒唐無稽な話だった。
普通の人間なら絶対に信じない話だ。
それでなくても弟と手を組んだ伯母に陥れられた直太朗は人間不信となっていた。
だから完全拒否の態度で応答した。
その態度に苛立った金髪に老女は、強硬手段に出た。
無理矢理直太朗を異世界に召喚したのだった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる