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第1章 3 はじめての敵、それはゴブリン

男に二言はない

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 それから、五分くらいたっただろうか。

 ゴブリンロードの体液まみれになってようやく満足したのか、聖ちゃんは「えへへ。やりましたっ」と満面の笑みで俺たちを見た。

 そのときに感じた謎の美しさを、俺は一生忘れないと思う。

 狂気の先にある洗練された美だと思った。

「……あ」

 しかし、すぐに聖ちゃんは申しわけなさそうに表情を曇らせる。

「ん? どうしたんだ?」

「いや、でも私だけこんなに強くなってごめんなさい。誠道さんをおいてけぼりにしたような気がして」

 そんなこと気にしてたのかよ。

「なんでだよ。強くなることが悪いわけねぇだろ」

 ちょっと寂しいけど、仕方ないことだ。

「それに、そういう気遣いができる聖ちゃんは優しい子でもある。優しいってことは元から強かったってことだ。だから誇っていい。自分の強さも、優しさも」

「はい。ありがとうございます」

 聖ちゃんが俺に駆け寄ってきて、泣きながら抱き着いてきた。

 庇護欲というか、可愛さに体が無意識に反応したというか、俺は気がつけば聖ちゃんの頭を撫でていた。

 ああ、妹がいたらこんな感じなんだろうなぁ……じゃなくて俺まで体液まみれになってるぅぅ!

「そこまでして聖さんを抱きしめたかったとは」

 体液まみれの女の子を抱きしめている俺を、ミライはゴミを見るような目で見ている。

「はー、なるほど。そういうことですか。これはギルドに討伐依頼を出した方がいいですね。女の子を体液まみれにして連れまわしているロリコン男がいると」

「語弊がありすぎる言い方やめてくれるかなぁ」

「あ、ご、ごめんなさいっ」

 聖ちゃんが後ろに飛びのいて俺から離れる。

「ついテンション上がって誠道さんを体液まみれにしてしまいました。これは仕方ありませんね。誠道さん。これまでのお礼も兼ねて、今から私が一緒にお風呂に入って体を洗い流してあげます」

 ん? たった今、爆弾発言が飛び出した気がする。

 聖ちゃんが「今から私が一緒にお風呂に入って体を洗い流しあてあげます」って言ったよね。

「体液まみれになってよかったぁああ! 逃げずに勇気を出して戦えば、いいことが待っているんですねぇ!」

「だめです。そんなの絶対によくありません」

 もはやミライの冷たい目なんてどうでもいい。

「いやでもさ、聖ちゃんから言ってきたわけだし。これまでのお礼も兼ねてるわけだし」

「はー、そうですか。聖さんと一緒にお風呂に入れることがそんなにも嬉しいんですね。やっぱり誠道さんは変態さんですね」

「変態って、やましい気持ちは一切ないからな」

 本当です。

 本当の本当に、純粋に体を洗いっこして、一緒に湯船につかって、裸のつき合いをしたいだけです。

「あの、やっぱりだめですか?」

 上目遣いで問われたらもう悶絶。

 吾輩の辞書に否定の文字はない。

「そんなことないよ。さぁ、早く一緒にお風呂に入って体洗いっこしよう」

「やったっ」

 控えめにガッツポーズする笑顔の聖ちゃん、可愛いなぁ。

「これで誠道さんの睾丸をむしり……あっ、体を綺麗に洗い流せますね」

「ごめんやっぱりひとりで入ってくれるかな?」

「誠道さん。男に二言はないのでは?」

「ここぞとばかりにミライはニヤリとすな。二言もなにも、そうしたら男じゃなくなっちゃうんだよ!」

 不満げに唇を尖らせる聖ちゃんを見て心が痛んだが、俺はまだ男でいたいからね!



 それから一週間後、ゴブリンの睾丸が街に大量に供給されて価格が大暴落したのは、一体なにが理由なのだろうか。

 聖ちゃんの洗練された美しさが頭をよぎったが、俺には全くワカラナイナァ。
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