上 下
22 / 54
第一章 異世界召喚

22. 異世界アゼル ②

しおりを挟む

 この世界の名は、【アゼル】

最初aから最後zまで、自力で永久機関を作り上げ、完結させるという意味なのよ」

 俺の母なる故郷、青き地球とは別の世界なのだと彼らは言った。

「次元が違うと思ってくれていいわ」

 世界にはそれこそ無限大の平行世界が存在する。
 ただそこにある分は互いに互いを認識する事はなく、一切の交わりを持つ事もない。
 フアナ達も自分たちの世界の他に無数の世界が存在する事を知らなかったが、聖女リアにより、そういうものがあるのだと教えられたのだそうだ。

「聖女ってのはそもそも何だ?」

「ああ、そこからね」

 俺の住む世界とは違う次元にある【アゼル】は、その名の意味が示す通り、生命エネルギーの循環によって成り立つ世界なのだという。

「そのエネルギーを私達は、、と呼んでいます」

 この世界はひとりの女神によって創造つくられた。
 神の力とはマナの力。
 女神は自分の姿によく似た「人間」と、それから供に連れていたペットを模した「魔族」を創り、二分割された二つの大きな大陸にそれぞれを住処とさせた。


「生き物には全てマナが備わっているのです」

 マナの力は森羅万象。
 あらゆる事象に関与する。

 例えば繁殖。例えば繁栄。
 マナが満ちれば生き物は育まれ、進化し、数を増やす。
 大地は実り、水は溢れ、天は穏やか。食い物にも困らず、そして万物の力を得る。

「それがすなわち、魔法ですわ」

「リア様が泣いた時、凄い力が巻き起こったでしょ?厳密にいうとあれはちょっと特殊だけど、まあ、そんな感じのものよ」

 だが世界に充満するマナは無限でありつつも、有限でもあった。
 つまりマナの数は固定。それ以上でもそれ以下でもない。
 マナが世界に喪われる事はないが、世界に巡らない限り、生命の源が停滞する。

「マナの絶対数は変わらない。極端に言えば、人と魔族に1ずつ。残りの8は自然界に漂っている。何もしなければ、そのまんまなの。何も生む事は無い」

「だから女神はマナの循環を行ったんだよ。人間と魔族、それぞれを永遠に戦わせる事によってね」

「オレたちゃそれを、人魔戦争と呼んでる」

 フアナにボコボコにされたハゲのオッサンがパチンと頭を叩く。
 その呑気な様が、戦争などという物騒で大それた単語を、殊更軽いものとさせた。


 戦争ではマナの覇権を争うのだという。
 創造の女神は、二つの種族に優劣を与えなかった。それぞれに得手不得手と、保持するマナの仕組みだけをちょっとだけ変えて争わせた。

 人間は器用。団体行動と規律と秩序を重んじる。
 マナは各々が保持していて、そのエネルギーの量も個々で違う。
 人は集団で戦い、武勇と知略の両方を持ち合わせる。それが文明を築かせ、更なる発展を目指す種族である。

 対して魔族は力。単独でも生きられる強さとタフさを持ち、個々の能力も高い。様々な形状をしているのも特徴だが、一貫して協調性が無くまとまりもない。
 だが、個々のマナが繋がっていて仲間意識が高く、ひとたび闘いが始まるとわらわらと集まってくる。
 考えるのは苦手で、本能のまま生きている者も多い為に、文明開化にも興味が無いのが挙げられよう。

「マナの覇権って、昼間にフアナが言ってた…ほら、マナの劣勢が何とかって言ってたあれか?」

「ふふふ、頭のいい人は好きですわ」

「ど、どーも」

「その通りよ。女神はマナの恩恵に優劣をつけたの」

 2つの種族を互いに争わせ、勝った方に「マナ」という褒美を贈る。
 森羅万象のエネルギーは種族の発展に繋がる。
 本能として子孫繁栄を組み込まれている生き物は、是が非でも欲しい力だろう。

「なるほど…エネルギーを魔族か人間か、どちらかに独占させるのか。でもそうなると独占した方が完全有利にならねえか?」

「なりますね」

 と、エリザ。

 マナの優勢種族はまさに天国。
 逆に劣勢種族は地獄なのだそうだ。
 木々は枯れ果て、水は干上がり、大地は痩せる。作物が実らないので日々の食事にも事欠く有様。
 そのような状態で出生率は下がり、築いた文明も維持する力もなく廃るだろう。

「さっきの数字で云うなら、勝った方に7。負けた方に1。残りの2は自然界に漂っているってとこかしら」

「こりゃひでえ差だな…」

「だから血眼になって、マナの恩恵を取り戻そうとするんです」


 女神は劣勢種族の救済措置として、『勇者』を誕生させるのだそうだ。
 勇者を介した種族は瞬く間に強くなり、それこそ死に物狂いでマナの覇権を獲得しに、相手側の大地に侵略する。

「これが戦争になるきっかけ。この戦争で互いに多くの死傷者を出して、大地は削れ踏み荒らされ、マナは搔き乱されるんだよ」

 そしてマナは女神の元に還り、再び巡らせる。
 新たな勝者の元に、失ったマナを一気に与えるのだ。


 この繰り返しによって、【アゼル】はマナというエネルギーの自己補完と生物の存続を可能とさせた。
 女神の造りたもうた、この世界の仕組みなのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

欲しいのならば、全部あげましょう

杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」 今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。 「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」 それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど? 「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」 とお父様。 「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」 とお義母様。 「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」 と専属侍女。 この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。 挙げ句の果てに。 「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」 妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。 そうですか。 欲しいのならば、あげましょう。 ですがもう、こちらも遠慮しませんよ? ◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。 「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。 恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。 一発ネタですが後悔はありません。 テンプレ詰め合わせですがよろしければ。 ◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。 カクヨムでも公開しました。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...