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二. ニーナの章

2. Animalia

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 両手を出して、一本一本指を数えて全部で10本。
 ほんの両手で数えられる数年前まで、世界は変わらずここに在った。

 人間と、魔族と。精霊と、魔物。

 勇者様は魔王を倒す旅に出て、冒険者は魔族を倒す糧となる。
 多くの冒険者と、対抗する魔族の軍団は、ごく普通にいつもどこかで小競り合いをしていた。

 何千年も、何万年も、人間と魔族は争ってきた。
 でもそれは何の変哲もない、ただの日常に過ぎなかった。

 二つの種類の争いがマナを巡らせ、マナは散々かき回されて再び循環してくる。
 マナの下に生きる生命は、輪廻の回路に導かれ、再生し、争い続ける。
 それでも私達にとっては、何の変哲もない日常だった。

 両手を出して、一本一本指を折る。
 ぎゅうと握りしめられた拳の先に、今は何が見えるだろう。

 一本の指が消えてゆくたび、わたしたちの「当たり前」も消えていく。

 ほんの両手で数えられる数年前まで、私たちに在った世界は。



 ――もう消えた。



 ■■■


  

 頭の中で深く集中する。
 銀色の杖の先、六角の珍しい形をした真霊晶石マナの石が青く光る。

     

 私の背後に、幾つもの水飛沫が上がる。
 飛沫は次第に形を伴って、水滴一つ一つに鋭い刃が生まれだす。
 私の中のマナがごっそりと減った感覚。汗が滲みだし、腰から力が抜けていく。

 まだだ。集中を切らせてはいけない。

 早く。
 まだか、合図はまだか。

 目を固く瞑る。いい加減頭もクラクラしてきた。


 ドゴン!


 すると少し遠くで小さな爆発音。

 合図だ!


#____#

 待ち望んだ合図に心底ホっとする。

 魔法は得意な方だが、マナの許攸量は他の人とあまり変わらないのだから。いつまでも精霊を降臨させるには、私のマナは少々足りない。
 水の刃、真っ直ぐに目標へと飛んでいく。

 グギャアアアアアア!!!

 半魚人のような、目玉が異様にでかい魔物を一斉に貫く。

「やった!」

 爆発がした辺りで男の声。

 刃に貫かれた魔物は、水の力もあってか動けない。
 シャアシャアと口から涎をだして、私たちを威嚇するのみだ。

 それを見止めて、防波堤の下に隠れていた仲間たちが一斉に飛び出す。
 有無を言わせず、各々が持った得物で魔物を突き刺す。
 剣やナイフや斧や槍に攻撃された魔物は、敢え無くその命を捨てざるを得ない。醜く緑の臭い血を垂れ流し、息果てる。

 ついにその魔物がその身を砂に投げ出した時、私たちは勝利の雄たけびを上げる。

「やったああ!!!」
「倒した倒した!!」
「やったぜ!」
「これでここら辺も探索できますね!!」

 私も嬉しくなって、ぴょんと跳ねる。

 跳ねた拍子で落ちてしまった伊達メガネを、筋肉隆々の男が拾う。その力で眼鏡を壊されてしまうんじゃないかと心配したけれど、武骨な割に意外と繊細な手つきで私に返してくれた。

「良くやったなあ!、ニーナ」

 にっかりと笑う歯は、とても白かった。
 この人はやる事成す事なんでも大げさだけれど、悪い人じゃない。

「はい!」

 マナを酷使した疲れも一瞬で吹っ飛んで、私はともに戦う仲間の方へと駆けて行った。





 潮風をまともに浴びて、脆く崩れた柱の残骸を触る。
 ざらざらと砂が纏わりつく。
 辛うじて、屋根を支えているだけの、心もとない柱が数本だけの、10年間も野ざらしで見る影もなくなった教会跡地に、私たちはいる。

 壁が無い分、隙間から入る風がとても涼しくて気持ちが良かった。

「…で、ついにここに到着したわけだが…」

 ああ、いけない。風に気を取られている場合じゃなかった。

 パチパチと頬を叩いて座りなおす。その様子を見ていた団長が、身体ごと私の方に向いた。

「ニーナ、大丈夫かあ?すげえ魔法使ってたもんなあ。疲れたならば言いたまえよ」
「え?いや、あの…」

 団長を中心に、円陣を組んで私たちは座っている。
 皆の視線が私に集まって、いたたまれなくなってしまった。

「確かに、今日の作戦はニーナさんの魔法なしじゃこんなにうまくはいってなかったかも」
「だよな!ニーナはすごいなあ!!」

 バンバンと背中を叩かれる。
 正直言って、痛い。

 ガハハと豪快に笑う団長に、円陣を仕切っていた参謀の男が毒気を抜かれて喋るのをやめてしまった。
 それから今日の功績はどうだこうだと、花を咲かせてしまったのである。


 今月の『探索』は、このエリアに住まう魔物のボスを倒さなければ進まないミッションだった。

 東エリアはほぼ、安全地帯である。
 私たちが定期的に魔物を退治するので、いつしか魔物も寄り付かなくなった。自由闊歩できるが故に、『探索』もこの10年で粗方終えてしまったのだ。

 過去の遺物と、生活物資の調達が主な仕事の私たちは、徐々に成果の上がらなくなった東エリアに見切りをつけ、この10年間、全くの手つかずだった西エリアへの侵攻を開始する。

 西エリアは海を削って大量の土を盛って作った人工丘だ。

 あの災厄で唯一繋がる橋が落ち、渡る術を失った。
 残るは断崖に立つ教会から落ちた瓦礫を伝って西側へ行く手段しかなく、それには波止場を越えねばならなかった。

 その波止場に、あの魔物がいたのだ。

 大人二人分もある大きな金魚のような頭に、目玉をギョロギョロさせた醜悪な魔物。
 それは人間を見るなり攻撃してくる好戦的な輩で、見た目以上にその力は強く、変幻自在だった。

 私たちは数か月、あの魔物を狩る作戦を立ていて、じっくりとその機を狙っていたのだ。

 ようやく今日、願いは果たされ、魔物は死んだ。

 私たちはついに、念願の西側エリアに辿り着いたというわけだ。

「やはり、生き残っている人はいないようですねえ…」

 ねっとりとした喋り方が特徴の、特攻隊長が周囲を見回しながら言う。

「あれから何年経ったと思っているんだ!」

 私の背中を叩くのをやめてくれた男――ロルフ団長が応える。

「10年…」

 私はポツリと呟いた。

 10年。そう、10年なのだ。
 あの災厄から、10年が経った。

 私たちの町は運良く災害を逃れたけれど、この港街は違う。

 この街は、10年前に死んでいた。


 ■■■


 10年前、突然、何の前触れもなく、この世界に【カミが堕ちて】きた。

 突如この世界にやってきて、それは私たちの永遠の好敵手だった魔族を滅した。
 奴らはそのまま《王都》を占拠し、以来、人間を蹂躙し続けている。

 白いモヤのような、形のはっきりしていない化け物。
 無慈悲で、無感情。
 人間に対し剥き出しの殺意を発するそれを、私たちはいつしか【怒れる神(グレフ)】と呼ぶようになった。

【災厄】とは、怒れる神が起こした凄まじい地震の事だ。

 経験した事のない揺れが、縦に横に大地を壊した。大地は抉れ、その形を変え、隆起し、陥没し、人の営みを壊した。容赦なく町は破壊され、何千人もの人が死んだ。

 平地にいた人は、陥没した地に吸い込まれてしまっただろう。
 荒野にいた人は、砂にのまれてしまっただろう。
 高台にいた人は、崖に落ちてしまっただろう。
 山にいた人は、土砂崩れにすべてを失ってしまっただろう。

 そして、海にいた人は。

 逃れるすべもなく、目の前を覆いつくす水の壁に立ち尽くすしかない。




 この港街は、《王都》と《中央》、そして《魔族の地》との交易で栄えた一番大きな街だった。
 私たちの住まう、ちっぽけな港町とは規模が違う。
 大きくて、キラキラしていて、活気があって、いつも元気だったこの街は、あの災厄から溺れてしまってもう息をしていない。

 津波に半分の街が海の藻屑と消え、それでも懸命に生きる人たちに追い打ちをかけるように波は容赦なく襲ってきた。
 あの災厄から灰色の雨を降らす街は、海に出る事も外に出る事も叶わず、死体を増やしていくだけだった。

 橋が落ち、東と西の繋がりさえも絶たれ、西側は完全に孤立。陸に面した東側にいた僅かな生き残りが、街を捨てて出て行った。

 吹き荒れる嵐と、砂と潮に穢された街は、もはや廃墟と化した。

 私たちが今いるこの地こそ、かつては最大の賑わいを見せた貿易都市リンドグレンなのである。




「いやあ、オレサマの作戦通りだわーいやーつれえわー」

 ハっと覚醒する。いけない、物思いに耽りすぎたかもしれない。
 しかしそんな私を余所に、団員達は各々楽しそうに喋っている。

「爆発で気をそらしたのはボクだからね。あのタイミングが良かったから、魔物は気を取られたんだからね」

 ぷうと頬を膨らますのは、男なのに妙にあざとく女の子っぽい仕草をする子。
 最近メンバーに加わったばかりの新人だ。

「てんき…見てたから…」

 その横で、ボソボソと喋る陰気臭い男。
 この男は団の参謀の一人で、元・船乗りだ。その経験から天気を読む事が出来る。

「僕はどんどん殴ったよーーーー!!!」

 元気だけが取り柄の男が、斧をぶんぶんと振り回しながら立ち上がる。

「危ないって、もうー」

 その頭を、ねっとりとした喋り方の神経質な男が抑えている。

「まあ、一番の功労者はニーナだな。お前の魔法があの魔物の動きを止めていなければ、成功していなかったからな」

 この中で唯一まともそうな、副団長がニコニコと笑った。

「はい、ありがとうございます!」

 せっかく褒めてくれているのだ。ここは素直に感謝を受けるべきだ。

 災厄から10年。
 冒険者になるつもりで勉強していた知識を、ここで役立てる事ができて心底良かったと思ってるのは事実なのだから。



 ひとしきり騒いだ後は、軽く探索という流れになった。

 拠点をこの教会にして、メンバーは互いの位置がわかる範囲まで足を延ばして各自が動いている。
 この地は未開拓だから、色んなものが出るだろう。

 保存食ならば最高。生活品ならば上々。
 宝石や宝物なら軍資金に役立つ。

 私は、教会の裏手に回っている。
 かつてそこには立派な教会が建っていたのだろう。

 《王都》、《中央》に続く、第三の都市ともいわれた街だ。
 生きていた頃の街を見た事は無いが、その噂から金をふんだんに用いた煌びやかな教会だったと聞いている。

 唸るほど金を持っている貴族が道楽で作ったとされるそれは、今は海風に曝されて見る影も無く廃れている。

 何階建てだったのかは知らないが、裏手は文書の跡が散乱していた。
 その全ては破れ、濡れていて読むことはできない。
 稀少価値の高い文献もあっただろうに。この蔵書の痕から高価な魔法書もあったかもしれない。

「あ~あ…」

 しゃがみ込んで、濡れた紙を摘まむ。
 紙は簡単に千切れて落ちてしまった。

 魔法はその威力は物理攻撃の何倍も凌ぐが、発動条件が非常に面倒臭いという一点で敬遠されている力である。
 一度発動してしまえばとても強い。先ほどの魔物のように、一撃でその一切の動きを封じる事もできるし、もっと上位になると、一発で殺せる力を発動できる。

 だが、魔法を行使するには自らが身体にそなえる真霊力(マナ)を使わなければならない。
 真霊力(マナ)は、すなわちその者の持つ生命力である。

 余りに魔法の威力が強いと、そのマナの放出に人体は耐えられなくなる。
 私が異常な疲れを感じたのも、その所為だ。

 さらに魔法は、マナに直接関与することができず、地水火風光闇の六大元素を司る精霊の力を借りなければ発動できない。
 強く集中し、その原理を把握し、正確に詠唱を唱えた後に、真霊晶石を触媒としてようやく発動できるのだ。

 威力云々よりも、その手間に人々は敬遠した。

 魔法一発撃つまでに、一体どれだけの斬撃を食らわせる事ができるのか。
 単純に考えても、成果に見合った代物ではない。

 しかもだ。魔法はその詠唱中、完全無防備になるのだ。

 一度集中が切れると初めからやり直しである。そんなのを護ってまで戦う暇は、誰も持っていない。

 だから、魔法職は不人気なのだ。
 そして、不人気が故に、師事する人間も殆どいないのが実情である。

 正しく六大元素を学び、原理を理解するには勉強が必要となる。
 教師は物書きと一般常識、簡単な剣の扱いは教えるけれど、魔法は教えない。

 魔法使いを志す人は、もれなく大きな街で専門学校に入って学ぶか、強運にも特別な人に弟子入りしてその知識を学ぶか、私のように参考書とにらめっこしながら独学するしかないのだ。

 町の学校に少しだけ置いてあった教科書で、初歩の魔法を覚えた私は、それ以上の成長は師事を得ない限り見込めなかった。
 だが、この港街の廃墟を『探索』すると、本当に僅かだが、魔法書を発見する事もあるのだ。

 それなりに大きいこの街は、それだけ物も知識も集まったのだろう。
 一年前、学校らしき跡地で、私たちは様々な文献を発見した。しっかりと作ってあったのだろう、原型をほぼ残していたお陰で、その財産は守られていた。
 生活するには不要なものばかりだったけれど、魔法使いを志す私にとっては宝の山だった。

 私は度々この『探索』について行って、少しずつ魔法書を家に持ち帰っては勉強していた。

 その結果が、今日である。

 私の努力が実を結んだ瞬間だったのだ。嬉しいと思う気持ちは、人一倍だ。

 だから、今回も期待していたのだ。

 西側は、陸にも面していない完全孤立の孤島。
 誰も足を踏み入れてないからこそ、あっと驚くお宝もあるだろう。
 でも、今日は不発だ。

 うきうきと浮立った気持ちで散乱する文書を探したけれど、一つも読めるものはなかった。

「おおーい、武器があったぞ~!!!」

 上半身がほぼ裸、急所の部分に鉄を当てているだけの簡素な鎧を見に着けたロルフ団長が、両手に剣をぶんぶん振り回しながら叫んでいる。

 その声に、団員達が集まりだす。
 武器屋を見つけたのかもしれない。

「わあああああ!!!」
「すごいっすねえ!」
「錆びてねえのか?」
「食べ物あるう?」

 口々に喜びを示す団員達と気持ちを分かち合いたいと思って、私も団長の方に行こうと足を踏み出す。


 その時。

 キラリと光る何かに目を奪われる。

 私がいた文書の中、地面に埋もれた何かが光っている。

「なんだろ」

 落ちて湿った紙の束をざっくばらんに掴んで後ろに置く。

 しゃがむ。

 果たしてそれは、透明な小さな石だった。
 人差し指と親指で摘む。親指の爪二つ分ぐらいの小さな石。

「うわ…綺麗…」

 思わず声に出る。

 透明な石は、私の肌色を写す。摘んで空を見上げたら、とても美しい青に染まる。
 キラキラとした光沢が、まるで宝石のようだ。
 見回すが、この石一つしか落ちていない。

「黙っちゃおう…」

 幸い、この石を見た者は誰もいない。皆、団長の武器に興味を惹かれていて、こちらを見ていない。

『探索』した物は、原則的に完全折半が団のルールだ。
 団員と、団員を養う町とで二分して、その財産を分け合う事で町と共存している。

 しっとりとした光沢のある石は、煌びやかに光るのにひんやりと冷えて落ち着いた感じもする。

 真霊晶石マナの石かもしれないとも思うが、私の持っている石とはどこか違うようにも見える。
 真霊晶石とは、その名の如くマナの力が圧縮されたマナそのものの原石の事だ。
 人工的に作る事はできず、その全てが自然物であるのが特徴だ。
 マナが濃い所で、何千年もかけて石を作ると言われているが、その正体は判明していない。

 私達魔法使いが魔法を発動する最後の条件が、これである。

 真霊晶石は、なのだ。
 精霊の力を借り、その力を具現化するのに、触媒という変換機を必要とする。
 先も述べた通り、石は自然物だ。どこでどう出来るのかも分かっていない。

 よって、真霊晶石はとても高価な代物となっている。

 市場に出回る事すら少ない。魔法使いを目指す者は、まずこの触媒探しで挫折する。

 一番安価に買える「純度1」ですら、馬一頭と同じ値段なのだ。貧乏人はまず持てない。
 魔法を勉強するのに金を使い、触媒を買うのに更に金を使い、実際は余り役に立たないとあっては、一体何のために「魔法使い」というものは存在するのだろうと思ってしまう。

 私はこの『探索』で、稀少な魔法書の他に、「純度2」の真霊晶石を手に入れる事が出来ている。

「純度2」は、マナの許容量は勿論の事、そのパワーも桁違いだ。純粋に買おうとすると、《中央》に家が一軒建つぐらい、バカ高い。

 そんな価値の石を何故私が持っているかというと、団員が全員一致で私にくれたからに他ならない。
 団で魔法を使うのは私一人。私の魔法に対する勤勉さを知っている団員達が、金にして一時の潤いを満たすよりも、魔法を有効活用して団に貢献する方を優先してくれたのだ。

 その善意をこうやって魔法で返す事が出来て、本当に良かったと思う。

 改めて拾った石を見る。


 
 これが真霊晶石ならば、精霊の呼びかけに反応して光るはずだ。
 しかし石は沈黙したまま、何の変化もない。
 逆に私の持つ晶石が反応してしまったので、詠唱を止める。

 ならばこれはただの石だ。

 綺麗なだけで高価ではなさそうだと安心して、私はそれをポケットに突っ込む。


 そうだ、テルマに見せてあげよう。
 ずっと部屋の中にいるのだ。今日あったこと、海がきれいだったこと、話したいことはたくさんある。
 ベッドの上で、ふわふわのシルバーブロンドが微笑む姿を想像する。
 いいお土産ができた。テルマは綺麗なものが好きだから、喜んでくれるに違いない。

 そう思ったら、早く帰りたくなっていてもたってもいられなくなった。

「ニーナああああ!!!」

 武器屋の残骸の前で、団員達が全員揃ってこちらを見ている。

「そろそろ撤退するぞお!!」
「グレフが来ちゃうかもしれないからねえ!!」

 ああ、良かった。今日はこれで終わりだ。
 私も魔法を使って疲れている。早く帰ってテルマに会いたい。あの子の笑顔に癒されたい。

「はい!!」

 グレフは神出鬼没だが、夜になるとその頻度が高くなる。
 この街は、馬を走らせても少なくとも3時間はかかるのだ。早く帰らないと、夜になるかもしれない。

 私たちは、魔物は殺せるけれど、【怒れる神グレフ】には通じない。
 出会ったら最後、逃げるか死ぬかのどちらかなのだ。

 ならば行動は早い方がいい。

 私はポケットの中にしっかり石があるのを確認してから、団員の待つ場所まで駆けた。




 ほんの出来心のつもりだった。

 ただあの子を喜ばせたくて。

 綺麗なものを共有したかっただけなのだ。

 私の可愛い妹が笑っている顔が見たかった。

 悪ふざけでも、いたずらでもなかった。

 本当に、私はあの子が好きなのだ。

 私の可愛い、大事な大事な妹。





 本当に、ごめんなさい。
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