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一章 異世界
4 僕は部屋で
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「三階が私の私室だよ。さあ、おいで」
階段から見える下は緑が多く、近くを川が流れている。山の中腹に建てられたお城みたいだ。高い塀でぐるりと囲んでいて、塀には門がある。ジーンに肩を抱かれ、三階へ上がり部屋へ案内された。
「三階は特別なんだ。父母と私の部屋しかないよ。安心していいからね。今日はもう遅いから食事を部屋で取ろう」
大きな扉はジーンが触れると簡単に開き、驚いてる見ると室内は広々としていた。二間造りで、片方は寝室だ。こちらにはトイレと作り付けの広いシャワー付きバスタブがある。
「マナにより水もお湯も流れるし、シャワーも出来る。マナのコントロールが出来るまでは、私が着いていよう」
寝室にはシングルベッドが二つ。シングルベッドでも一つ一つが大きい。シルクなのか光沢のある折り方のベージュのリネンが、研究室のベッドとは違った。ゆっくりくつろぐためのソファとテーブルもある。本棚もあった。これからここで暮らすのだって言われてもピンとこないけど、落ち着いた感じの部屋は安心できた。
「ああ、来たね。軽食だけれど、寝る前だからね」
ジーンが扉を開けてワゴンを引き入れる。サンドイッチとホットミルクが置かれていて、ジーンはお茶だ。
僕にホットミルクを差し出しサンドイッチを食べながら、
「もう深夜だね。眠たくないかい?」
と聞かれた。レトロで巻き取り式に見える立ち時計は振り子がなくて、空中でくるくると輪が回転している。そんな時計は真夜中を示していた。僕は二つサンドイッチを食べ終わると目は冴えていたが、ジーンに言われてとりあえず頷いた。
「アキラの寝台は窓際にしよう。朝は窓に鳥が飛んでくるよ。パン屑を与えたいなら用意させるよ」
「ありがとうございます」
ジーンが寝室に僕を連れてくると、窓際のベッドを指さす。それからクローゼットを開いて、服を引き出した。
「君のマナとオドを感じて以来、服を作らせ続けたんだ。君の気に入るものがあればいいが、全部アキラの服だよ。洗濯物は浴室の籠に入れて。パジャマはアキラの世界風ではないドレスシャツの筈だよ。確かここに……」
こんなに多く……
「アキラに似合うといいなあって考えながら、私が布から選んだんだよ。私は服をデザインすることが好きなんだよ」
優しく微笑んでジーンが言う。その笑顔を見たら申し訳ないようなくすぐったいような不思議な気持ちになり、俯きながらドレスシャツに着替え始めた。
「さすがに疲れたな。私もマナが尽きそうだ」
僕がドレスシャツに着替えてベッドに入ると、ジーンが隣のベッドに腰を下ろし、目を細めて僕を見つめる。ジーンも同じ気持ちなんだ……なんだか嬉しい。
「アキラ、明日色々案内するよ。基本的には自由にして欲しい。でもーー」
じっと金の瞳が僕を見つめ、僕は目が離せなくなってしまう。
「番いは私だけにして欲しい。君が私を受け入れてくれなくても構わない。私は君を苦しめたくないんだよ。無理強いもしたくない」
「はい」
番いって、番うって、花嫁って、ジーンはそれでいいのかな。僕はジーンと今からセックスをするんだろうなと思っていた。タークさんの口ぶりでは、そんな感じだったからだ。拍子抜けして、僕は即答し頷いた。ジーンが嬉しそうに笑って僕の髪を撫でてから、
「先におやすみ。私はシャワーを浴びてから寝るからね」
とジーンが立ち上がって部屋の灯りを消して寝室を出て行く。魔法石が仄かに光り蓄光ライトみたいだ。奥のベッドはジーンが使うのだろうけど、誰かと一緒に部屋で寝るのなんて母が最後で、保育園卒園式以来だからなんだか緊張する。
ベッドに横になり眠れずに、思いを巡らせた。
思いがけない状況になったなあって思う。
地球以外の世界に連れて来られ自由にしてもいいだなんて。実感も湧かないし、どうしたらいいか分からない。
僕は朝起きたら、何をすればいいのかな。どんなことをしたらいいのかなあ。
急に変わった世界の中で頭が追いつかず、なかなか寝付けなかった。ここが異世界で酒井所長は絶対に来ることはないのに、目を閉じても眠りが来てくれない。
しばらくして扉が静かに開き、ジーンが戻って来た。僕は何となく寝たふりをして、ベッドに丸くなっていた。ジーンの気配が近づき、優しく何度か頭を撫でて来て、大きな手のひらの温かさが心地よい。
泣きたくなって僕は焦ってしまった。懐かしい肉厚の手を何故だか思い出す。その肉厚の手はトラックに潰されて冷たくなった母の温もりに似ていて、悲しくもなった。
僕が必死で目をつぶっていると、やがてジーンの気配が消えた。ベッドの横から寝息が聞こえ、僕は掛布を引き上げた。
その温かさが切なくて、僕はジーンの寝息をずっと聞いていた。
階段から見える下は緑が多く、近くを川が流れている。山の中腹に建てられたお城みたいだ。高い塀でぐるりと囲んでいて、塀には門がある。ジーンに肩を抱かれ、三階へ上がり部屋へ案内された。
「三階は特別なんだ。父母と私の部屋しかないよ。安心していいからね。今日はもう遅いから食事を部屋で取ろう」
大きな扉はジーンが触れると簡単に開き、驚いてる見ると室内は広々としていた。二間造りで、片方は寝室だ。こちらにはトイレと作り付けの広いシャワー付きバスタブがある。
「マナにより水もお湯も流れるし、シャワーも出来る。マナのコントロールが出来るまでは、私が着いていよう」
寝室にはシングルベッドが二つ。シングルベッドでも一つ一つが大きい。シルクなのか光沢のある折り方のベージュのリネンが、研究室のベッドとは違った。ゆっくりくつろぐためのソファとテーブルもある。本棚もあった。これからここで暮らすのだって言われてもピンとこないけど、落ち着いた感じの部屋は安心できた。
「ああ、来たね。軽食だけれど、寝る前だからね」
ジーンが扉を開けてワゴンを引き入れる。サンドイッチとホットミルクが置かれていて、ジーンはお茶だ。
僕にホットミルクを差し出しサンドイッチを食べながら、
「もう深夜だね。眠たくないかい?」
と聞かれた。レトロで巻き取り式に見える立ち時計は振り子がなくて、空中でくるくると輪が回転している。そんな時計は真夜中を示していた。僕は二つサンドイッチを食べ終わると目は冴えていたが、ジーンに言われてとりあえず頷いた。
「アキラの寝台は窓際にしよう。朝は窓に鳥が飛んでくるよ。パン屑を与えたいなら用意させるよ」
「ありがとうございます」
ジーンが寝室に僕を連れてくると、窓際のベッドを指さす。それからクローゼットを開いて、服を引き出した。
「君のマナとオドを感じて以来、服を作らせ続けたんだ。君の気に入るものがあればいいが、全部アキラの服だよ。洗濯物は浴室の籠に入れて。パジャマはアキラの世界風ではないドレスシャツの筈だよ。確かここに……」
こんなに多く……
「アキラに似合うといいなあって考えながら、私が布から選んだんだよ。私は服をデザインすることが好きなんだよ」
優しく微笑んでジーンが言う。その笑顔を見たら申し訳ないようなくすぐったいような不思議な気持ちになり、俯きながらドレスシャツに着替え始めた。
「さすがに疲れたな。私もマナが尽きそうだ」
僕がドレスシャツに着替えてベッドに入ると、ジーンが隣のベッドに腰を下ろし、目を細めて僕を見つめる。ジーンも同じ気持ちなんだ……なんだか嬉しい。
「アキラ、明日色々案内するよ。基本的には自由にして欲しい。でもーー」
じっと金の瞳が僕を見つめ、僕は目が離せなくなってしまう。
「番いは私だけにして欲しい。君が私を受け入れてくれなくても構わない。私は君を苦しめたくないんだよ。無理強いもしたくない」
「はい」
番いって、番うって、花嫁って、ジーンはそれでいいのかな。僕はジーンと今からセックスをするんだろうなと思っていた。タークさんの口ぶりでは、そんな感じだったからだ。拍子抜けして、僕は即答し頷いた。ジーンが嬉しそうに笑って僕の髪を撫でてから、
「先におやすみ。私はシャワーを浴びてから寝るからね」
とジーンが立ち上がって部屋の灯りを消して寝室を出て行く。魔法石が仄かに光り蓄光ライトみたいだ。奥のベッドはジーンが使うのだろうけど、誰かと一緒に部屋で寝るのなんて母が最後で、保育園卒園式以来だからなんだか緊張する。
ベッドに横になり眠れずに、思いを巡らせた。
思いがけない状況になったなあって思う。
地球以外の世界に連れて来られ自由にしてもいいだなんて。実感も湧かないし、どうしたらいいか分からない。
僕は朝起きたら、何をすればいいのかな。どんなことをしたらいいのかなあ。
急に変わった世界の中で頭が追いつかず、なかなか寝付けなかった。ここが異世界で酒井所長は絶対に来ることはないのに、目を閉じても眠りが来てくれない。
しばらくして扉が静かに開き、ジーンが戻って来た。僕は何となく寝たふりをして、ベッドに丸くなっていた。ジーンの気配が近づき、優しく何度か頭を撫でて来て、大きな手のひらの温かさが心地よい。
泣きたくなって僕は焦ってしまった。懐かしい肉厚の手を何故だか思い出す。その肉厚の手はトラックに潰されて冷たくなった母の温もりに似ていて、悲しくもなった。
僕が必死で目をつぶっていると、やがてジーンの気配が消えた。ベッドの横から寝息が聞こえ、僕は掛布を引き上げた。
その温かさが切なくて、僕はジーンの寝息をずっと聞いていた。
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