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2章『楽園へ行こう』
18ジューゴ、話を聞く
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マクファーレンの話。
騎士団支部に泊まり朝食を取り、幌馬車のリムを気遣いながらも、かなり気を張っていたはずだった。
「もうじき着くからね」
危機を感じてわりと早馬で来たのだが、ずっとちりちりした感覚に苛まれていたマクファーレンは、幌馬車の中にいるラーンスに目配せをした時だった。
二頭の馬が突然悲鳴を上げて後ろ足で立ち上がり道から外れかけ、それを手綱で制御しつつ、前方の黒のフードが両手を広げて背後に作った光の矢を射ち放つ。
「目眩ましの次は、光矢っ?……ラーンス、やめなさい!」
馬を何とか留めた瞬間、幌車にいたラーンスが飛び出し黒フード目掛けて斬りかかった。
「きゃあ……」
黒フードに気をとられていたラーンスの横から騎士が躍り出て、ラーンスの首を落とそうとするが、海老反り切っ先が頬を掠める。
「ちっ……フィリム、閃光と礫で援護しろ!」
フードが外れるとリムと騎士の男が一人、マクファーレンもこれならばと、幌馬車から飛び降りた。
「これが、間違いだったんだよ。あたしのミスさ……」
ファナが持ってきた水をコップから飲むことが出来ないマクファーレンに、僕はは近くの麦の干した茎を渡し飲み口を切る。
「これで吸うと飲めるよ」
半信半疑といった顔で吸い口に唇をつけると、吸い込んで驚いてコップの中を飲み干し、マクファーレンは一息をついた。
「あたしのミスで……リムを持ってかれたんだ」
長い剣を腰から抜き、だらりと手を降ろして間合いを詰める。
「姐さん、光の礫が……」
リムの手の中には小型のオートマシーナがあり、それから繰り出された光礫を叩き落としながら男と闘うラーンスの刃から鈍い音がして、剣ごと力負けをしラーンスが腹を蹴りあげられ微かな呻き声と共に、転がり土にまみれた。
「ラーンス!」
ピピッ……と走る鋭いが致命傷ではない礫を全身に受けながら、マクファーレンは剣の切っ先を地につけた独特の間合いから男の懐に入ろうとする。
「えっ……っ!」
背中に上から下に向かって熱い痛みが走り、そのまま体液がバッ…と噴き出すのを感じた。
足元に流れ落ちるそれは、鮮血だ。
「ーーなにが」
後ろを振り返ると見たことのある男が刃の血払いをして立っており、その後ろには別のリムが控えている。
「ガゼル……貴様……」
マクファーレンは膝をつき、何とか倒れないように剣で自身を支えた。
「お前の悪いところは、部下を見捨てられないところだ、マクファーレン」
「隊長じみたこと……言うんじゃない……よ……」
マクファーレンが前を見ると、幻影でガゼルを隠していたらしいリムが、無言のまま礫を飛ばしていたリムを見つめていた。
リムが前後に二人……。
確かにガゼルは騎士だが、リム二人を手駒にもてるような度量はないはずだ。
「くっ……」
「元隊長からのはなむけの言葉だと思うがいい」
ガゼルは隊長時代より長くなった銀の髪をひとまとめにして、相変わらず痩せているが以前よりも鋭い眼光でマクファーレンを見下ろし、そのままゆっくりとラーンスに向かって歩き出す。
「くっ……そ……ぉ」
土埃にまみれたラーンスはガゼルが近づいてくるのに気づかず、起き上がり驚愕の表情を見せた。
「お前は騎士ではないな。小器用に動き回る剣士、こちらに来ないか?リムを一人貸してつけてやろう。憧れの自由騎士になれるぞ。ーーどうだ?」
ガゼルの青い瞳を見つめて、息を呑む音がした。目が一転白くなり、シャボン玉のように虹色に虹彩が変化したのだ。
ラーンスが震えている。
ラーンスの側にいかないと……マクファーレンは手を伸ばした。
「……あ、あぐ……あぐぐ……」
ラーンスが震えながら後ずさる。
いけない……マクファーレンは叫んだ。
「ギルド『太陽の牙』のラーンス!……しっかり……しなさいっ!」
「う……がああああっ!」
ラーンスが狂ったように折れた剣を振り回し、そればガゼルをかすりもせずガゼルが鼻で笑った。
「洗脳に対抗するとは……洗脳体験済みか……まあいい。では、我々の目的を果たすか。リムはもらい受ける」
二人のリムが幌馬車の中に入り込み、小さなリムの目を塞ぎリムを眠りに誘う。
幌馬車ごと奪われ、マクファーレンは失血で意識が遠退き、泣きながらすがり付くラーンスの頭をがしがしと撫でるのが精一杯だった。
「だから、ジューゴ、馬車を追いかけてっ!あの子達をっ」
ファナが僕を見つめる。
僕は勢い立ち上がった。
騎士団支部に泊まり朝食を取り、幌馬車のリムを気遣いながらも、かなり気を張っていたはずだった。
「もうじき着くからね」
危機を感じてわりと早馬で来たのだが、ずっとちりちりした感覚に苛まれていたマクファーレンは、幌馬車の中にいるラーンスに目配せをした時だった。
二頭の馬が突然悲鳴を上げて後ろ足で立ち上がり道から外れかけ、それを手綱で制御しつつ、前方の黒のフードが両手を広げて背後に作った光の矢を射ち放つ。
「目眩ましの次は、光矢っ?……ラーンス、やめなさい!」
馬を何とか留めた瞬間、幌車にいたラーンスが飛び出し黒フード目掛けて斬りかかった。
「きゃあ……」
黒フードに気をとられていたラーンスの横から騎士が躍り出て、ラーンスの首を落とそうとするが、海老反り切っ先が頬を掠める。
「ちっ……フィリム、閃光と礫で援護しろ!」
フードが外れるとリムと騎士の男が一人、マクファーレンもこれならばと、幌馬車から飛び降りた。
「これが、間違いだったんだよ。あたしのミスさ……」
ファナが持ってきた水をコップから飲むことが出来ないマクファーレンに、僕はは近くの麦の干した茎を渡し飲み口を切る。
「これで吸うと飲めるよ」
半信半疑といった顔で吸い口に唇をつけると、吸い込んで驚いてコップの中を飲み干し、マクファーレンは一息をついた。
「あたしのミスで……リムを持ってかれたんだ」
長い剣を腰から抜き、だらりと手を降ろして間合いを詰める。
「姐さん、光の礫が……」
リムの手の中には小型のオートマシーナがあり、それから繰り出された光礫を叩き落としながら男と闘うラーンスの刃から鈍い音がして、剣ごと力負けをしラーンスが腹を蹴りあげられ微かな呻き声と共に、転がり土にまみれた。
「ラーンス!」
ピピッ……と走る鋭いが致命傷ではない礫を全身に受けながら、マクファーレンは剣の切っ先を地につけた独特の間合いから男の懐に入ろうとする。
「えっ……っ!」
背中に上から下に向かって熱い痛みが走り、そのまま体液がバッ…と噴き出すのを感じた。
足元に流れ落ちるそれは、鮮血だ。
「ーーなにが」
後ろを振り返ると見たことのある男が刃の血払いをして立っており、その後ろには別のリムが控えている。
「ガゼル……貴様……」
マクファーレンは膝をつき、何とか倒れないように剣で自身を支えた。
「お前の悪いところは、部下を見捨てられないところだ、マクファーレン」
「隊長じみたこと……言うんじゃない……よ……」
マクファーレンが前を見ると、幻影でガゼルを隠していたらしいリムが、無言のまま礫を飛ばしていたリムを見つめていた。
リムが前後に二人……。
確かにガゼルは騎士だが、リム二人を手駒にもてるような度量はないはずだ。
「くっ……」
「元隊長からのはなむけの言葉だと思うがいい」
ガゼルは隊長時代より長くなった銀の髪をひとまとめにして、相変わらず痩せているが以前よりも鋭い眼光でマクファーレンを見下ろし、そのままゆっくりとラーンスに向かって歩き出す。
「くっ……そ……ぉ」
土埃にまみれたラーンスはガゼルが近づいてくるのに気づかず、起き上がり驚愕の表情を見せた。
「お前は騎士ではないな。小器用に動き回る剣士、こちらに来ないか?リムを一人貸してつけてやろう。憧れの自由騎士になれるぞ。ーーどうだ?」
ガゼルの青い瞳を見つめて、息を呑む音がした。目が一転白くなり、シャボン玉のように虹色に虹彩が変化したのだ。
ラーンスが震えている。
ラーンスの側にいかないと……マクファーレンは手を伸ばした。
「……あ、あぐ……あぐぐ……」
ラーンスが震えながら後ずさる。
いけない……マクファーレンは叫んだ。
「ギルド『太陽の牙』のラーンス!……しっかり……しなさいっ!」
「う……がああああっ!」
ラーンスが狂ったように折れた剣を振り回し、そればガゼルをかすりもせずガゼルが鼻で笑った。
「洗脳に対抗するとは……洗脳体験済みか……まあいい。では、我々の目的を果たすか。リムはもらい受ける」
二人のリムが幌馬車の中に入り込み、小さなリムの目を塞ぎリムを眠りに誘う。
幌馬車ごと奪われ、マクファーレンは失血で意識が遠退き、泣きながらすがり付くラーンスの頭をがしがしと撫でるのが精一杯だった。
「だから、ジューゴ、馬車を追いかけてっ!あの子達をっ」
ファナが僕を見つめる。
僕は勢い立ち上がった。
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