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16 悪令嬢の数年後

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 聖女カナエの結婚式は国を挙げて数日間祝った。私はイリアスとして毎回聖女カナエのメイクをしていた。ジョルジュにも気づかれない私ってなんなの?と思いつつ、聖女カナエの護衛で必ずついているジークは無表情だった、と、思いきや意外と機嫌がよさそう。

 それからは結構忙しかった。聖女カナエの花屋のアドバイス、貴族の死化粧に納棺、もちろん教会での死化粧。ジークが貴族街に屋敷をかまえようかと話しだすほどだった。プラス、イリアスとしてジークと飲み会って、ジークお酒弱っ!ビール一杯で潰れて私が魔法を使いお姫様抱っこをして屋敷に帰ったのは未だに笑い草……ジークは相当悔しかったらしい。リベンジを何度もしたが、ジークがお酒で私に勝てることはなかった。

 聖女カナエの花屋が貴族街で人気になる頃、聖女カナエが結婚して約一年と少し後、執事エドルフとメイド長マゴットがやっと準備が整ったから結婚式をしましょうと告げてきた。

 表面上平民娘と伯爵の結婚式。伯爵家の結婚式で、領民の代表がやってくるからガーデンパーティにすることになった。

 最初のうちは金髪の自毛ウィッグをつけていたが、もういいかなと短いままの金髪に青い瞳の平民イリアの姿のままで領地をうろついていた私は、ボリュームを押さえた花嫁の衣装に身を包む。

「姉う……姉さん!」

 マゴットが用意した新品の平民の服を着た弟と妹がパーティ会場に飛び込んできた。裕福な平民の服の父母も一緒だ。

「綺麗よ、イー、イリア」

 母の声に涙が出そうになる。

「ありがとう、母さん」

「義父上、義母上、義弟妹よ、ようこそ、エルデバルトへ。今後とも妻ともどもよろしく頼む」

 挨拶をしたジークがふと思い出したように、

「妻のイリアは平民で貴族社会に疎い。だから貞淑でマナーに定評があるダスティン伯爵夫人に学びを受けたいと思うのだがよろしいか?」

と母に話した。母は弟妹を抱きしめながら、

「え、ええ、よろしくお願いします」

と涙ぐんだ。ダスティン伯爵家も王都に近く、王都内に屋敷を持っていない。私はダスティン伯爵家にマナーを学ぶ名目で行くことが出来る様になったのよ。

 ジークは私を見て、

「いいな、イリア」

と告げた。領民が見ている中で頷く私に、領民はなんと思っているか分からないが、私は単純に自宅に帰る里帰りを許されたってことで嬉しかった。
 
「ジーク、おめでとう」

「イリアさん、おめでとうございます」

 ジーク第二王子だってことは知ってるわ。そして母親は末っ子には甘いこともね。まさか、女王陛下とマティス魔法師が貴族服で来るとは思わないじゃない。ねえ、気づいてよ、私の家族、エルデバルト領民!

「ジーク様のお母様ですか?初めまして」

 父上、女王陛下だから!ジーク、笑うのやめて!

「ジーク!お祝いにきたよ」

 ラートン神父が見栄えのいい神父を連れて乱入してきた。もうめちゃくちゃ。メイドを増やしたためメイド長になったマゴットが指示を出し続けている。

「あははは……」

 私は心底笑ってしまった。だって、だって、私悪役令嬢って役割よ。可笑しいじゃない、どうしてこんなにたくさんの人に囲まれて幸せなの?




 初夜と言っても私とジークは別々の寝室で、ジークの部屋と私の部屋は扉一枚で繋がっている。ジークは私に

「呑もう」

と誘ってきた。私はお酒は断らないたちなので遠慮なくジーク以上呑むことにしている。今日は珍しくワインで、ジークはすでにガーデンパーティでラートン神父に呑まされてダウンしたはずなのに、再びチャレンジってどういうこと?

 ワインは軽い口当たりでほんのり甘い。でもアルコールは結構高めそう。ジークはもう目元を赤くしている。

「ジークは私でよかったのですか?」

 新婚初夜のはずだが、ジークは酔っ払いだ。

「うん?ああ、お前がいい。イーリアの時に惚れたが、イリアにはまった。俺はお前に二度惚れしたんだ」

 イーリアに惚れた?悪令嬢に惚れる要素がありましたか?

「初めて見たお前は背が高く美人だった。たくさんいたふわふわしたドレスの女ではなくて一目惚れした。それにお前は謝っていないと言ったが、俺に『彼、足が悪いから』と謝ってきたぞ」
 
 それって謝っていないわよ。しかもあの頃の私は背が高くてふわふわのドレスが似合わないし、ジュルジュに気に入られたくて身長を合わせたくてローヒールのシューズだったわ。そもそもジークのこと多分年下に見ていたのよね。

「ねえ、ジーク」

 あーあ、寝ちゃったわ、仕方ないわね。私は魔法で浮かせるとジークを寝台に寝かせた。

「イリア、お前が俺のことをなんとも思っていないことは知っている。だが、今日は新婚初夜だ、一緒にいてくれ。酔っ払いを一人にするなよ」

 ジークはそう言い残すと、そのままーー寝た。つまりは私といたいために酔っ払ったということ?しかもワイン半分で?酔っ払っていたら私に何もしないから?そのため?

「あら、少しイラっとするわ」

 私は残りのワインを全部飲んだ。確かに私にはジークへの恋心はない。ドキドキしないし切なくなったりトゥンクもしない。でもジークいるのが普通だし、いると面白い。いないとつまらない。毎日……ではないけれど、一緒にご飯を食べて、たまに飲みに行って。

 私は前世彼氏もいないアラサーでうっかり殺され、今は若くてそれなりの美貌の令嬢だ。有り体に言えば、子作りに興味がある、ありまくりだ。つまりは子作り行為と恋愛感情は無関係だと私は思うのよ。でも、ジーク以外と致すつもりはないわ。だって夫婦なんだもの。

「ジーク、ジーク!起きなさい。おーきーなーさーーーいっ」

 ジークのガウンを脱がして下着の上から性器を叩く。私も強かに酔っ払いよ。

「う、わっ!痛い!おい、イリア?」

 私もガウンを脱いだ。下着だけの姿で、ジークの身体にくっついた。ジークはうたた寝程度だったみたいね、身体も下半身も。

「子作りをするわよ。丁寧にお願いするわね、私、処女ですから」

 前世も後世もヴァージンですからね。こうして酔っ払い同士で結ばれた。





 子供ができても男装してイリアスとして働けるってどうなの?聖女カナエも子沢山だが、未だに私はイリアスであり性別を疑われていないのはなぜ?

 あれから十年が経つのだが、私はイリアスとして仕事をしてイリアとして伯爵夫人を務めている。といっても王宮にも行かない、サロンにも参加しない。平民夫人だからだ。弟がダスティン家を継いで暇になった父母は孫を見るためにちょくちょく遊びに来る。

 私は死化粧を教える教師にもなった。男性メイクは基本口紅で血色良くする。硬直の解き方、女性メイクの基本などだ。なんだか慌ただしいが、ジークはそんな私で楽しんでいるようで、今日もイリアスとして飲み屋に誘われた。

「今日こそはお前に飲み勝つ!」

 一生勝てないと思いますが、私は華やかに笑って

「受けて立ちましょう」

と言う。

 ジークは楽しそうに声をあげて笑った。



~~本当のおわり~~
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