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10 ゴードン神父

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 さすがに十人の遺体と怪我人を運ぶのは危険だから、ジークは伝令として怪我がの軽い騎士を向かわせて、私はメイクはないものの遺体の処置を始めた。ライムをちぎり薄く伸ばしてはラップフィルムに変えて、修復をしていく。ジークも服を捲ったりと無言で手伝う。

「ジーク、騎士や近衛兵を侮辱した発言をして謝ります。ごめんなさい」

 私はイーリアでもある。だから当時の私の発言について謝った。するとジークはくっ……と噛み締めるように笑って、

「お前が言ったんだが、お前じゃない。気にするな」

と不思議な言い方をする。

 ジークはあの小さな新領主が魔物の巣を討伐する前に何とかしたくて、ここに来たのだろう。生き残った騎士を助け、遺体を家族に返すために。それは第二王子として国民を守っていることに繋がる。素晴らしいと思う。

「ーーそれにしても、何故ジークが私の監視人なんです?別の人でも構わないではありませんか」

 だって元第二王子よ、目の前のこの人。

「女王陛下からは『元婚約者を見極めて捕まえなさい』と言われた。意味を履き違えるなよ」

 えっ、えーーーーっ!

「声と顔に出ているぞ、お前」

 ど、どういうことなの。

「ジョルジュに婚約破棄されたんだ。だったら前婚約者の俺に権利が戻るのは当たり前だろう」

「え、でも、私、犯罪をーー」

「犯してはいないだろう。聖女をいじめ抜いただけだ。それに王族並のマナを持つお前を平民として放置してどうする。ちょっとした罰のつもりだろうよ、陛下は。だから俺が着いていた。イリアは伯爵家の嫁になるのは嫌か?別の公爵家の方がいいか?」

 待って、話しについていけない。置いてきぼりよ、私。

「無理です。私、ジークのことをあ、あ、愛していないもの。私は恋とか知らない」

 私は前世でアラフィフで婚期を逃した女で、恋だの愛だのを知らないで過ごしてきた。興味は特になく、歌劇団に夢中になっていたイタイ系女子のおばさんだ。

「お前はジョルジュとは結婚するつもりだっただろう?愛だの恋だのに浮かれていただろうが」

「ジョルジュの横にいる私って可愛いってくらいにしか感じてなかったわよ、イーリアも!」

 ついイリアスの声で叫んでしまい、洞窟前で遺体以外人がいないのでホッとした。イーリアも恋愛オンチみたいなのよ。

 ジークがため息をついて遺体の腕を私に寄越した。最後の修復だ。腕を丁寧に合わせてラップで巻いて袖を下ろす。

「お前の好きなものは?」

「はい?」

「お前の好きなものだ。あるだろう、イリアでもイリアスでもいい」

 私の好きなものは、この仕事。歌劇団。香りの良い花。ハーブティー。それから青空。

 考えていると、ジークが告げた。

「その中に俺を入れてくれ。慣れれば愛着が湧くだろう」

と言われてもーー

「うん、僕も入れてよ」

 私の真後ろにゴードン神父がいて飛び上がりそうになる。

「だってジークの本当のお兄ちゃんだし」

 私は本当に飛び上がった。




 ゴードン神父がゴールディ・フォン・エルデバルトで、本当の第二王子だって誰が思うのよ。何度も死にかけた幻の第二王子らしい。第一王子のお茶会でも寝所で死にそうになっていたらしいのだから、折り紙付らしい。あくまで本人談なんだけれど。

「エルデバルト伯爵家は皇太子のスペアの家名で、僕が虚弱で男色家だからジークが継いだんだ」

 元虚弱でしょう?肉体の穴掘りが得意な神父様。あらいやだ、下品なエスプリが。

 私はゴードン神父とジークに挟まれて馬車の御者席に座っていた。一番大きな馬車が教会から持ってきた馬車だからということで、騎士であり馬扱いが得意らしいジークが手綱を持っている。荷台には領主の遺体を守って更に魔物の巣の拡大を食い止めた騎士が運ばれている。

「教会のある場所も王領地でエルデバルト伯爵家か管理している。墓を横にした道を抜けた裏にエルデバルト伯爵家の屋敷があるんだよ。僕は教会で寝泊まりしているけれど、ジークはたまに帰っているよね」

「たまにだ。近衛官舎がある」

「でも、これからは帰ってくるだろう?婚約者が待っているんだし」

 へ?あ、ええーーっ!

「もちろん、君に断る権利はなーい。だって決められたことなんだから。それにジークはーー」

「これ以上言うな」

 ゴードン神父の首筋に私を通り越えて剣が突きつけられ、私は息を呑んだ。ジークってば、実の兄に剣を突きつけるなんて、よっぽど何か秘密があるのね。太眉がびきびきしていた。まあ、いいわ。どうやら私には権利がないらしいし、王都追放されたあとは、スペアとの結婚。悪令嬢に相応しい?のかしらね。

「もちろん、イリアス君には仕事もしてもらうからね」

「断る」

「僕はイリアス君に聞いているんだよ」

 ゴードン神父はやっと剣を下ろされて、大して問題なをかなかったみたいに笑っている。ジークは無言で剣を鞘に戻して手綱を握り直していた。私、兄弟に挟まれているんだ、不思議な感じだった。

 領主屋敷に戻ると、騎士の家族が待っていて、遺体との涙の対面、生存者の喜びの抱擁があり、広間で死の国への祈りが特別に行われた。私の世界で短めの通夜という見送りの儀式があり、死の国の祈りがありそれが終わったのが明け方で、領主と一緒に亡くなった騎士たちは領主の横に埋められることになり、馬丁と御者兼任の穴掘り夫がひたすら穴を掘っている。もちろん、領民も手伝っていた。私たちの仕事はおしまいだ。





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