10 / 16
10 ゴードン神父
しおりを挟む
さすがに十人の遺体と怪我人を運ぶのは危険だから、ジークは伝令として怪我がの軽い騎士を向かわせて、私はメイクはないものの遺体の処置を始めた。ライムをちぎり薄く伸ばしてはラップフィルムに変えて、修復をしていく。ジークも服を捲ったりと無言で手伝う。
「ジーク、騎士や近衛兵を侮辱した発言をして謝ります。ごめんなさい」
私はイーリアでもある。だから当時の私の発言について謝った。するとジークはくっ……と噛み締めるように笑って、
「お前が言ったんだが、お前じゃない。気にするな」
と不思議な言い方をする。
ジークはあの小さな新領主が魔物の巣を討伐する前に何とかしたくて、ここに来たのだろう。生き残った騎士を助け、遺体を家族に返すために。それは第二王子として国民を守っていることに繋がる。素晴らしいと思う。
「ーーそれにしても、何故ジークが私の監視人なんです?別の人でも構わないではありませんか」
だって元第二王子よ、目の前のこの人。
「女王陛下からは『元婚約者を見極めて捕まえなさい』と言われた。意味を履き違えるなよ」
えっ、えーーーーっ!
「声と顔に出ているぞ、お前」
ど、どういうことなの。
「ジョルジュに婚約破棄されたんだ。だったら前婚約者の俺に権利が戻るのは当たり前だろう」
「え、でも、私、犯罪をーー」
「犯してはいないだろう。聖女をいじめ抜いただけだ。それに王族並のマナを持つお前を平民として放置してどうする。ちょっとした罰のつもりだろうよ、陛下は。だから俺が着いていた。イリアは伯爵家の嫁になるのは嫌か?別の公爵家の方がいいか?」
待って、話しについていけない。置いてきぼりよ、私。
「無理です。私、ジークのことをあ、あ、愛していないもの。私は恋とか知らない」
私は前世でアラフィフで婚期を逃した女で、恋だの愛だのを知らないで過ごしてきた。興味は特になく、歌劇団に夢中になっていたイタイ系女子のおばさんだ。
「お前はジョルジュとは結婚するつもりだっただろう?愛だの恋だのに浮かれていただろうが」
「ジョルジュの横にいる私って可愛いってくらいにしか感じてなかったわよ、イーリアも!」
ついイリアスの声で叫んでしまい、洞窟前で遺体以外人がいないのでホッとした。イーリアも恋愛オンチみたいなのよ。
ジークがため息をついて遺体の腕を私に寄越した。最後の修復だ。腕を丁寧に合わせてラップで巻いて袖を下ろす。
「お前の好きなものは?」
「はい?」
「お前の好きなものだ。あるだろう、イリアでもイリアスでもいい」
私の好きなものは、この仕事。歌劇団。香りの良い花。ハーブティー。それから青空。
考えていると、ジークが告げた。
「その中に俺を入れてくれ。慣れれば愛着が湧くだろう」
と言われてもーー
「うん、僕も入れてよ」
私の真後ろにゴードン神父がいて飛び上がりそうになる。
「だってジークの本当のお兄ちゃんだし」
私は本当に飛び上がった。
ゴードン神父がゴールディ・フォン・エルデバルトで、本当の第二王子だって誰が思うのよ。何度も死にかけた幻の第二王子らしい。第一王子のお茶会でも寝所で死にそうになっていたらしいのだから、折り紙付らしい。あくまで本人談なんだけれど。
「エルデバルト伯爵家は皇太子のスペアの家名で、僕が虚弱で男色家だからジークが継いだんだ」
元虚弱でしょう?肉体の穴掘りが得意な神父様。あらいやだ、下品なエスプリが。
私はゴードン神父とジークに挟まれて馬車の御者席に座っていた。一番大きな馬車が教会から持ってきた馬車だからということで、騎士であり馬扱いが得意らしいジークが手綱を持っている。荷台には領主の遺体を守って更に魔物の巣の拡大を食い止めた騎士が運ばれている。
「教会のある場所も王領地でエルデバルト伯爵家か管理している。墓を横にした道を抜けた裏にエルデバルト伯爵家の屋敷があるんだよ。僕は教会で寝泊まりしているけれど、ジークはたまに帰っているよね」
「たまにだ。近衛官舎がある」
「でも、これからは帰ってくるだろう?婚約者が待っているんだし」
へ?あ、ええーーっ!
「もちろん、君に断る権利はなーい。だって決められたことなんだから。それにジークはーー」
「これ以上言うな」
ゴードン神父の首筋に私を通り越えて剣が突きつけられ、私は息を呑んだ。ジークってば、実の兄に剣を突きつけるなんて、よっぽど何か秘密があるのね。太眉がびきびきしていた。まあ、いいわ。どうやら私には権利がないらしいし、王都追放されたあとは、スペアとの結婚。悪令嬢に相応しい?のかしらね。
「もちろん、イリアス君には仕事もしてもらうからね」
「断る」
「僕はイリアス君に聞いているんだよ」
ゴードン神父はやっと剣を下ろされて、大して問題なをかなかったみたいに笑っている。ジークは無言で剣を鞘に戻して手綱を握り直していた。私、兄弟に挟まれているんだ、不思議な感じだった。
領主屋敷に戻ると、騎士の家族が待っていて、遺体との涙の対面、生存者の喜びの抱擁があり、広間で死の国への祈りが特別に行われた。私の世界で短めの通夜という見送りの儀式があり、死の国の祈りがありそれが終わったのが明け方で、領主と一緒に亡くなった騎士たちは領主の横に埋められることになり、馬丁と御者兼任の穴掘り夫がひたすら穴を掘っている。もちろん、領民も手伝っていた。私たちの仕事はおしまいだ。
「ジーク、騎士や近衛兵を侮辱した発言をして謝ります。ごめんなさい」
私はイーリアでもある。だから当時の私の発言について謝った。するとジークはくっ……と噛み締めるように笑って、
「お前が言ったんだが、お前じゃない。気にするな」
と不思議な言い方をする。
ジークはあの小さな新領主が魔物の巣を討伐する前に何とかしたくて、ここに来たのだろう。生き残った騎士を助け、遺体を家族に返すために。それは第二王子として国民を守っていることに繋がる。素晴らしいと思う。
「ーーそれにしても、何故ジークが私の監視人なんです?別の人でも構わないではありませんか」
だって元第二王子よ、目の前のこの人。
「女王陛下からは『元婚約者を見極めて捕まえなさい』と言われた。意味を履き違えるなよ」
えっ、えーーーーっ!
「声と顔に出ているぞ、お前」
ど、どういうことなの。
「ジョルジュに婚約破棄されたんだ。だったら前婚約者の俺に権利が戻るのは当たり前だろう」
「え、でも、私、犯罪をーー」
「犯してはいないだろう。聖女をいじめ抜いただけだ。それに王族並のマナを持つお前を平民として放置してどうする。ちょっとした罰のつもりだろうよ、陛下は。だから俺が着いていた。イリアは伯爵家の嫁になるのは嫌か?別の公爵家の方がいいか?」
待って、話しについていけない。置いてきぼりよ、私。
「無理です。私、ジークのことをあ、あ、愛していないもの。私は恋とか知らない」
私は前世でアラフィフで婚期を逃した女で、恋だの愛だのを知らないで過ごしてきた。興味は特になく、歌劇団に夢中になっていたイタイ系女子のおばさんだ。
「お前はジョルジュとは結婚するつもりだっただろう?愛だの恋だのに浮かれていただろうが」
「ジョルジュの横にいる私って可愛いってくらいにしか感じてなかったわよ、イーリアも!」
ついイリアスの声で叫んでしまい、洞窟前で遺体以外人がいないのでホッとした。イーリアも恋愛オンチみたいなのよ。
ジークがため息をついて遺体の腕を私に寄越した。最後の修復だ。腕を丁寧に合わせてラップで巻いて袖を下ろす。
「お前の好きなものは?」
「はい?」
「お前の好きなものだ。あるだろう、イリアでもイリアスでもいい」
私の好きなものは、この仕事。歌劇団。香りの良い花。ハーブティー。それから青空。
考えていると、ジークが告げた。
「その中に俺を入れてくれ。慣れれば愛着が湧くだろう」
と言われてもーー
「うん、僕も入れてよ」
私の真後ろにゴードン神父がいて飛び上がりそうになる。
「だってジークの本当のお兄ちゃんだし」
私は本当に飛び上がった。
ゴードン神父がゴールディ・フォン・エルデバルトで、本当の第二王子だって誰が思うのよ。何度も死にかけた幻の第二王子らしい。第一王子のお茶会でも寝所で死にそうになっていたらしいのだから、折り紙付らしい。あくまで本人談なんだけれど。
「エルデバルト伯爵家は皇太子のスペアの家名で、僕が虚弱で男色家だからジークが継いだんだ」
元虚弱でしょう?肉体の穴掘りが得意な神父様。あらいやだ、下品なエスプリが。
私はゴードン神父とジークに挟まれて馬車の御者席に座っていた。一番大きな馬車が教会から持ってきた馬車だからということで、騎士であり馬扱いが得意らしいジークが手綱を持っている。荷台には領主の遺体を守って更に魔物の巣の拡大を食い止めた騎士が運ばれている。
「教会のある場所も王領地でエルデバルト伯爵家か管理している。墓を横にした道を抜けた裏にエルデバルト伯爵家の屋敷があるんだよ。僕は教会で寝泊まりしているけれど、ジークはたまに帰っているよね」
「たまにだ。近衛官舎がある」
「でも、これからは帰ってくるだろう?婚約者が待っているんだし」
へ?あ、ええーーっ!
「もちろん、君に断る権利はなーい。だって決められたことなんだから。それにジークはーー」
「これ以上言うな」
ゴードン神父の首筋に私を通り越えて剣が突きつけられ、私は息を呑んだ。ジークってば、実の兄に剣を突きつけるなんて、よっぽど何か秘密があるのね。太眉がびきびきしていた。まあ、いいわ。どうやら私には権利がないらしいし、王都追放されたあとは、スペアとの結婚。悪令嬢に相応しい?のかしらね。
「もちろん、イリアス君には仕事もしてもらうからね」
「断る」
「僕はイリアス君に聞いているんだよ」
ゴードン神父はやっと剣を下ろされて、大して問題なをかなかったみたいに笑っている。ジークは無言で剣を鞘に戻して手綱を握り直していた。私、兄弟に挟まれているんだ、不思議な感じだった。
領主屋敷に戻ると、騎士の家族が待っていて、遺体との涙の対面、生存者の喜びの抱擁があり、広間で死の国への祈りが特別に行われた。私の世界で短めの通夜という見送りの儀式があり、死の国の祈りがありそれが終わったのが明け方で、領主と一緒に亡くなった騎士たちは領主の横に埋められることになり、馬丁と御者兼任の穴掘り夫がひたすら穴を掘っている。もちろん、領民も手伝っていた。私たちの仕事はおしまいだ。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
呪いの騎士と生贄の王女
佐崎咲
恋愛
ぐいぐい王女×筋肉騎士がもだもだしながらくっつく話です。
==============
ロードは凄腕の騎士ながら、使い道のない剣の腕と筋肉を育てる日々。
呪いの言い伝えのせいで周囲に忌避され、騎士団にも居場所がなかったからだ。
しかし魔王復活の兆しが現れたある日、そんなロードの元に王女プリメラが呪いの力を利用しようと現れる。
「こら、ロード、王女殿下の御前だぞ! いい加減鉄アレイをやめなさい!」
と怒られながらも王女の話を聞くと、どうやら自身の命を救った兄王子が魔王討伐に行くのを食い止めたいらしい。
だからって『最後の王女』と『呪いの騎士』で先に魔王討伐するってどういうことだよとロードが筋トレの片手間に状況を見守るうち、気づけば王女と同僚たちが舌戦となっていた。
そこで王女の魔王討伐は思ってもいない方向に転がり始める。
ぐいぐいくる王女をもて余す中、ピンクの髪の聖女まで空から降ってきて、「私はあなたのこと、怖くないわ」と言い出す。
ロードが異世界から来た聖女による私だけは特別アピールを受けているとそこにプリメラがやってきて――
=====================
最後はお決まりの甘々です。
小説家になろう様にも掲載していますが一部構成が異なります。タイトルも異なります。どっちがいいんだろう…
※無断転載・複写はお断りいたします。
男装少女は復讐を誓う
縁 遊
恋愛
父親を殺され、母親を誘拐され犯人捜しに人生をかけている星蘭はある事をきっかけに皇女の婚約者候補という男性と知り合いになり犯人捜しを手伝ってもらう事になるが…。
果たして父を殺した犯人は誰なのか?!
母親は生きているのか?!
愛と復讐のミステリーです。
設定は中華風の異世界で魔法ありです。
秘密の男装令嬢は貴族学校へ行く
ミント
恋愛
訳あって、双子の兄のかわりに貴族学校へ行く事になった妹のエレナ。 貴族学校へは男子のみが行く場所だった為、男装をして行くことに。 自分が魔法使いだったなんて知らなかった! 気が付けば自分が男装するきっかけを作った事件の謎に迫って行くエレナのお話をお楽しみください。
有栖川探偵事務所〜白百合は殺意のメッセージ
409号室
ミステリー
ーー有栖川探偵事務所。
そこは、所長で天才的な推理力を発揮する男装の麗人・有栖川久子と、謎めいた美女で、情報通の山岸麗、美少女マッドサイエンティスト・別所海。
そして、スポーツ万能で、無敵の強さを誇るアタシこと城金香津美。
そんな女ばかりの探偵事務所。
今回の事件は、美しい依頼人の持ち込んだ、白百合の花束が織りなす悲しい殺意。
果たして、彼女たちは依頼人を救うことができるのか?
ノワールエデン号の約束
雨野ふじ
ファンタジー
バトナ王国第二王女のエマ・ファナマール・バトラと第二王女側近兼バトナ王国衛兵騎士団長のノワ・ミケール。
「エマ、お前はノワと共に来る日に向けての準備に旅立つのだ。」
二人は国王の命で隣国との条約を結ぶ旅に出た。
「姫、私を信じてください。」
しかし、二人を乗せた船は国境を前に海賊船ノワールエデン号に襲われた……。
──
悪徳商人の密輸船の新人船員、ジオン。
「俺は、誰だ。」
商人に拾われ、酷い扱いに耐えながら過ごしていた。
自分とは何者なのか。
記憶を探しながら、ジオンは旅を続ける。
目的地の国境前。
海の覇者と呼ばれるノワールエデン号が、密輸船の後ろに現れたのだった──…。
今、自分の帰る場所を、生きる道を探す物語が動き出す。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる