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6 早朝のベッドで
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温かい食事に、温かい足湯。ヒールで屋敷内を歩くだけだった足には血豆が出来ていて、1日中歩いてくたくたの身体を休めるように硬いマットレスに身体を沈めた。黒いジャケットと靴下は脱いで掛けてある。ライムが私の足を冷やすように包み込んでくれる。血豆は潰した方がいいかしら。
ああ、明日ラートン神父に話さないといけない。少しでもここに置いてくれないかと。ライムがベッドで繰り返し跳ねていたが、私は脆弱に生きてきた貴族慣れした身体を横たえた。ジョルジュ様の夢くらい見るかなと思っていたが、全く何も見なかった。
明け方の光と冷たい指先の感覚で私は目を開く。私に覆い被さって頬に触れてたラートン神父の柔らかな微笑み、私の横に立っている監視人の手の剣がラートン神父の首に突きつけられていた。
ーーライムは?
ライムはラートン神父と監視人の足を止めている。出来るなら全部でもよかったのよ、ライム。
「ラートン神父、何をしているのですか?」
「夜這い」
「明け方です。私は見ての通り女ですが、事後ですか、事前ですか?」
「ーーなっ……俺がいてそんなわけがあるか!」
あら、監視人ってそんな業務もあるの?大変ね。
「ーー豪胆だなあ。さすが悪令嬢だけある。僕は男色家だから、女性だと分かった今、事は起こらない」
あ、今って言いましたか?今まで気づかず、事前だったってこと?
「ーー不愉快ですわ、退いてくださらない?」
私は声を戻して、ラートン神父に言い放った。ライムも硬質化を解き、二人ともが動けるようになる。
「食事に呼びに来たんだ。イーリア・ボゥ・ダスティン伯爵令嬢。ジークもどうだい?手持ちの乾燥食料も飽きただろう」
監視人はジークって言うのね。
「人の名前を晒すな、ラートン」
……知り合い?まあいいわ、お腹は空いているもの。
「色々と話してくださるなら、ご一緒致しますわ」
私はベッドから立ち上がり、紳士の礼をした。
「本当にご令嬢かい?洗練された紳士の仕草なんだけれど」
ありがとうございます。前世でずっと憧れて男装俳優を見ていた甲斐がありました。
食事は贅沢にも神父の部屋で三人だけだった。
「ここはね、追放された貴族の最初の救済措置なんだよ」
「そんな場所で神父様に犯されそうになりましたが」
私の言葉にも全く動じない神父って何者?
「だって君が本当に僕好みの男の子だったからね。軽蔑するかい?」
食後のお茶の話題としてはなかなかなエスプリだ。神父は青銀の真っ直ぐな長めの前髪を弄りながら話している。年の頃は二十代前半って感じだろうか。
「ラートン神父が男色家だろうと軽蔑はしませんよ。恋愛対象は人それぞれです。ただ、興味もなく同意がないのに至近距離に顔面があった私の気持ちは察していただきたい」
私は男装用の声に戻していたから、口調も変えていた。神父は鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔をして、
「軽蔑しないのかい?子供を為さない僕を」
と貴族らしい表現をして来た。ああ、貴族は後継者を作るのが義務だから。つまり貴族なんだ、神父は。
「性的嗜好は神から与えられたものです。それを人である私たちがどうこう言うことは出来ない……ってくらいに開き直ってみたらどうですか?神父様なんですから。経典にはそんな性的嗜好についての記載はありませんし」
私は薄いお茶を飲んで続けた。
「それにこちらは女王の手の中と言うことなんですか。王都追放をされた人が必ず通る王都門、そしてすぐに誰もが逃げ込める教会なんて出来過ぎです。こちらに滞在した後はどちらに?」
私の言葉に神父も監視人もさらに驚きを顔に出した。
「ーー驚いたな。大概は地方屋敷での軟禁となり男女共に結婚は許されない。親族が拒否したり、本人の希望した場合は、この教会で神に祈りを捧げ過ごすことになるが、君のような形で来たのは初めてだ」
私の肩からライムが飛び降り、皿についた汚れを吸着しては小さく揺れている。
「私のことはご心配なく、どこかに居住してこの子と仕事を始めるつもりです」
神父はにっこりと微笑んだ。
「では、こちらに滞在してはどうでしょうか」
ありがたい申し出だ。神父が男色家なら私に興味はないはずだし、しばらく職が安定するまでお世話になるのも悪くないわね。
「お願いします」
「ええ、こちらにいれば多分あなたのお仕事にもいいでしょうし」
と笑顔になった神父は私にお金を出した。
「昨日のベーカーさんの娘の葬い料です。教会も慈善事業ではありません。棺桶代、穴掘りに、祈り、そしてこれは納棺料ってところでしょうか」
私的にはパフォーマンスでボランティアでよかったのだが、受け取っておく。
「では、居住区へご案内します。昨晩の場所は来客ようですのでね」
監視人は無言で席を立って出て行くから、私は監視人の食器も片付けようと手にした時、監視人は私にもう一度聞いてきた。
「お前は何者だ」
これは私がイーリア・ボゥ・ダスティン以外の人間だと思っているんだろう。
「話してあげてもいい。そのフードを取る気になればね」
私は監視人にそう告げた。
ああ、明日ラートン神父に話さないといけない。少しでもここに置いてくれないかと。ライムがベッドで繰り返し跳ねていたが、私は脆弱に生きてきた貴族慣れした身体を横たえた。ジョルジュ様の夢くらい見るかなと思っていたが、全く何も見なかった。
明け方の光と冷たい指先の感覚で私は目を開く。私に覆い被さって頬に触れてたラートン神父の柔らかな微笑み、私の横に立っている監視人の手の剣がラートン神父の首に突きつけられていた。
ーーライムは?
ライムはラートン神父と監視人の足を止めている。出来るなら全部でもよかったのよ、ライム。
「ラートン神父、何をしているのですか?」
「夜這い」
「明け方です。私は見ての通り女ですが、事後ですか、事前ですか?」
「ーーなっ……俺がいてそんなわけがあるか!」
あら、監視人ってそんな業務もあるの?大変ね。
「ーー豪胆だなあ。さすが悪令嬢だけある。僕は男色家だから、女性だと分かった今、事は起こらない」
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「ーー不愉快ですわ、退いてくださらない?」
私は声を戻して、ラートン神父に言い放った。ライムも硬質化を解き、二人ともが動けるようになる。
「食事に呼びに来たんだ。イーリア・ボゥ・ダスティン伯爵令嬢。ジークもどうだい?手持ちの乾燥食料も飽きただろう」
監視人はジークって言うのね。
「人の名前を晒すな、ラートン」
……知り合い?まあいいわ、お腹は空いているもの。
「色々と話してくださるなら、ご一緒致しますわ」
私はベッドから立ち上がり、紳士の礼をした。
「本当にご令嬢かい?洗練された紳士の仕草なんだけれど」
ありがとうございます。前世でずっと憧れて男装俳優を見ていた甲斐がありました。
食事は贅沢にも神父の部屋で三人だけだった。
「ここはね、追放された貴族の最初の救済措置なんだよ」
「そんな場所で神父様に犯されそうになりましたが」
私の言葉にも全く動じない神父って何者?
「だって君が本当に僕好みの男の子だったからね。軽蔑するかい?」
食後のお茶の話題としてはなかなかなエスプリだ。神父は青銀の真っ直ぐな長めの前髪を弄りながら話している。年の頃は二十代前半って感じだろうか。
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私は男装用の声に戻していたから、口調も変えていた。神父は鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔をして、
「軽蔑しないのかい?子供を為さない僕を」
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