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十三章 婚約期間準備と黒い影

88 四日目の夜と朝

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 政務室に戻ると、アズールに抱かれていて明らかに泣いて目元を腫らしていたから、シャルスが慌てて触れてきた。四日振りのシャルスの指先は温かくて、なんだか安心してまた泣けてきた。

「どうしたんですか、ノリン。レーダーのお祖父様に何か言われたのですか?」

 本当はレーダーの目的をグレゴリーに話さなくてはだめなのに、泣けて泣けて、普通にしているシャルスがいる安心感とかよく分からない安堵感にしばらく泣いて、シャルスの政務を邪魔してしまったことには反省している。うん、本当に。

 泣きすぎたのなんて、幼少の熱の時以来で、昼はあまり食べられずグレゴリーにも心配させたが、シャルスの休憩のお茶を準備する少しの隙間に、グレゴリーを宰相室に呼んで結界陣を張ると、レーダー公の目的を話した。

 意外にもグレゴリーは驚きもせず、

「ノリンの兄アッシュの調べから出てきている」

と武器の調達をしている一端を掴んでいることを告げてきた。

「アッシュ・ツェッペリンはかなり優秀だ。その従者のリュトを通じて商会の協力を得ていてな」

 リュトの家マギー商会だけではなく、父様の生家シュトラウス商会も協力しているのだろう。

「武器の保管場所を探っているから、そちらはわしらに任せるんだな」

 グレゴリーには手飼いの私兵がいるようでグレゴリーの言葉に頷いてから、僕が部屋に戻るとソファでシャルスが顔を上げて満面の笑顔で、僕はホッとした。

「ノリン、横へどうぞ」

 指先を触れられて、背中に何かが走るような気がして慌てて座る。それからお茶もお茶菓子もなんだか味がしなくて変な感じだ。それもシャルスに触れなければ大丈夫で、政務が終わり居住区に戻るとシャルスは部屋着に着替える。

 軍服からフリルシャツに貴族ジャケットと長ズボンに替えると、ソファにいた僕の横に座った。触られるとびくびくするから少し離れて座っていると、

「今日、初めてメイザースに意見をしました。私にはノリンに四日も触れられないのは耐えられませんでした」

シャルスがいつもみたいに肩を抱こうとしたのを逃げた。逃げて傷つけたと思ったから、僕はソファの隅で呟く。

「あ、あの、なんでか、シャルス様に触れられると、か、感じて立てなくなるのです」

 もう誰に触れられてもだめだ。身体がびくびくして正直おかしくなる。それを聞いて、シャルスが手を引っ込めてからすごく嬉しそうに笑った。

 夜は念願のゼブー肉のステーキだったんだけどなんだか味がよく分からなくて、そりゃあ一口含んで二、三回噛むだけで溶けるような脂の甘さや、イチイ市のミックススパイスは素晴らしい味を引き出していた。でも、なんだか『食べた』だけで『味わった』感覚がしない。シャルスの口元や指先に目がいってしまい、お腹の中がもやもやしていて、食後のデザート酒に真っ赤になった。

 もう分かっている、ああ、畜生、認めよう。

 おじさんと成人年齢プラスの童貞非処女は、欲求不満なんです!

「坊ちゃん」

 レーンの言葉に僕は頷く。

「ノリン、あとで部屋へ」

 多分、僕は顔が真っ赤だ。





 シャルスの部屋へ入るのはなんだか戸惑い、サテンシルクの薄手のガウンを羽織って扉の前に立つ。

「ノリン、どうしたんですか?こちらにどうぞ」

 天蓋付きの大きなベッドに座るシャルスはタオル生地のふわふわのバスローブなのに、なんだか恥ずかしい。

 シャルスは珍しくガラスケースの中に飾ってあるボトルを出してきた。それは子供部屋には不釣り合いな琥珀色の酒だ。

「ノリンはこんなお酒も嗜むと彼らに聞きました。緊張しているみたいなので、どうですか?」

 グラスは二つ。一つは多めで、一つは少なめ、その多めの方を僕に渡してくる。それを口にすると少し落ち着いた。本当に緊張していたんだ、僕。それくらい訳がわからなくなっていたらしい。

「ノリン、平気ですか?舌がピリピリしますね」

 ああ、そうだ。これはオーガスタ時代、シャルスに別れ際に渡した酒なんだ。帰ったら開けようと笑っていたものを、シャルスは記憶がないにもかかわらず持っていてくれた。それが嬉しかった。

 二人で無言で飲んでいると、シャルスに手を上からら握り込められてぞくりとする。そのまま指の間を撫でられた。

「ーー四日は長いですね。私は凄く凄くあなたに触れたかったです」

「僕も……」

 おい、何を言いたいんだ、僕は。でも、シャルスにベッドにそっと倒されたから、久々の強い酒の酔いで頭がぐるぐるして言えないでいた。




 言わなくてよかったのに。

 ふっ……目が覚めて、僕は瞬時に状況を把握した。魔の森で暮らしていたオーガスタ時代の癖だ。その癖が全力で、僕の恥ずかしさを伝えてくる。

『シャルス様に触れたい。もっとしてください』

 う、

『シャルス様の、気持ちいい』

 うぐ、

『奥、奥が気持ちいい、もっと、もっとぉ』

 うぐうっ!

 精神的には相当いい年のおっさん年齢なのに、喘いで、乱れて、懇願して、しまいには、

『このまま一緒にいてください、シャルス様』

とか言って寝落ちだよ!

 有り体にいえば、僕とシャルスは激しく致した営みの残滓を身体とベッドに染みつけたまま、朝まで眠っていたわけだ。

 僕は大の字に、シャルスは僕に向かって横になりやや丸くなっている。起きあがってため息をついた。

「坊ちゃん、入浴の準備は整えてあります」

 僕の影からレーンが現れて、僕にだけ聞こえるように囁くような小さな声で話す。

 実はお湯に浸かりたい。シャルスや僕の精液が身体にこびりついているし、尿、いや、違う潮を噴いてシーツはしっとりしている。マットに染みたらどうしようなんて思うんだけど、でも、シャルスは僕の左手を握っていて、離してくれない。

「あらあら、眠っていてもマスターをお求めとは。僕、認めちゃいます」

 レーンが素になった。

「殿下には感謝しているんです。マスターはまだ性に開花したばかりでしたから」

 筋金入りの童貞処女だったんだよ!

「陛下と殿下により開花はしましたが、自らが咲く意志がなければ満開とはいきません。マスターは求め応じそしてこれまでにない快楽を得ました。それは今後の営みを貪欲にします」

 は?それ、僕が淫乱になるってこと?

「昨晩の快楽を身体が求め続けますよ。その快楽を与えたのは殿下です。恋愛オンチのマスターには、身体から始まる『好き』を実体験してもらいました」

 シャルスじゃないと、昨日の気持ちよさは体現できないってこと?お臍の辺りはまだ気持ちよくて……。

「陛下もマスターを快楽の極みに追いやるのでは?」

 シャルスが身じろぎをしたから、レーンは僕の影に消える。

「ノリン、おはようございます」

「おはようございますーーシャルス」

 シャルスはとびきりの笑顔で破顔する。気持ちよさの先、絶頂にイきたくて苦しくて、結腸の奥を刺激してほしい僕は、シャルスに呼び捨てを要求され、シャルスの上に跨って腰を揺らしながら僕は何度も頷き約束した。

 結腸を突きつけたそこは多分内臓といわれる器官なんだろうけど、僕は潮を噴きながらイきっぱなしになり、最後には痙攣しながらシャルスの身体に倒れたーーのを覚えているから、凄く恥ずかしい!

 うぐぐぐぅっ!

「お風呂に入りましょう、ノリン」

 僕は手の繋がりを大切にしながら、全身が真っ赤になるほど恥ずかしくなっていて、小さく頷いた。

 












 



 



 







 
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