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しばらく歩くと大きな扉の前に着いた。メリアさんは扉を開けると私に入るように促した。

部屋に入ると大きなベッドが一つあった。周りにある調度品も豪華そうであったが、決して下品ではなく落ち着いた優しいものだった。明かりは蝋燭の火だけがついていた。

「この部屋はランド様と婚約者様がご結婚された後使われるはずの部屋だよ。」

「そうなのか………。」

「私は外で待っているから、何かあったら声をかけるんだよ?」

「わかった。」

メリアさんは部屋の外に出ていった。私はいりこの人が横になっているであろうベッドに近付いた。ベッドはとても大きく高価なものなのかとてもふかふかだった。ベッドの枕のすぐ横にちょこんと座るといりこの人の顔を覗き込んだ。

「いりこの人……………。」

いりこの人から返事はなく、目を閉じたままピクリとも動かない。

「………こういうときはいりこの人じゃなくて名前で呼んでくれないのかって言い返せよ。」

軽く揺すってみるがダメだった。

「………なあ、起きてくれ。いりこの人。どうすればあなたを助けられるんだ?私じゃあ全く検討がつかないんだ。」

彼の顔にそっと触れると、青白いその顔はとても冷たかったがまだ胸は呼吸で動いていた。………そうだな。返事できなくてもまだいりこの人は生きているんだよな。だから、まだ大丈夫。私は私のするべきことをしなければならない。私のできる限りのことをしよう。

まだ、覚悟が足りなかったようだな、私。………でも、今ちゃんと覚悟出来たぜ。いりこの人を助けるためにどんなことだってして見せる。

「だから、起きたら頭撫でてくれ。いつもみたいに目を細めて笑ってくれ。」

私はあなたに撫でられるのが大好きなんだ。撫でられるも隣で笑い合うのもあなただからいいんだ。だから死ぬな。生きてくれ。

いりこの人の頭をそっと撫でる。いりこの人の黒髪はとてもさらさらでさわり心地がよかった。

「………実はいりこの人の髪の毛、人の姿で触って見たかったんだよな。人の姿だと恥ずかしくて毛布かぶっちゃって触れなかったんだがな。………人の姿見られたことあるっていっても自分から見せたことは幼い頃の話だし、なんとなく見せるの怖くてな。」

だから、いりこの人が目を覚ましたら人間の姿になるんだ。そうして、初めて会ったときにつけたあのあだ名で呼ぶんだ。

……………もちろんほとぼり覚めて、あのあだ名で呼んだことを忘れた頃にちゃんと呼んでほしいって言われた方で呼ぶぞ。うん。
……照れ臭いからな。

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