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第二章
レイモンドの訪問 中編
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私はそれほど飲んでいなかったし、ヒュー様も酔っているようには見えませんでしたが、ゆっくり庭を歩いて案内し、皆が飲んだくれている部屋からも離れているけど見える場所にあるベンチに座って、休むことにしました。
「あの…レイモンド様にまた会う機会を作ってくださって、ありがとうございました。
ヒュー様がレイモンド様をここへ連れてきてくれるって伺っていました。
多分…レイモンド様は一人は来てくれなかったでしょうから…。」
「まあ…僕も興味があったからね…純粋に単なる好奇心だけどね。」
冗談めかしてニヤリと笑いながら言いました。
「興味…ですか…。」
「レイモンドの妹がそこまで暴走するほどの相手って、どんなご令嬢なのかなとか、レイモンドがあそこまで人が変わったようになってしまうほどの影響を受けたご令嬢って、どんな子なのかなとか。」
「…私は…あまりご令嬢らしくない、寧ろ地味な人間だと思いますよ…。
そもそもそんなレイモンド様の婚約者候補になんて、恐れ多いと思っていましたし。
貴族の家に生まれたからには、政略結婚も仕方が無いって思っていましたけど、出来る事なら私は、自分の意志で、自分の能力を使って生きたいって思っているだけです。」
「でも貴族令嬢が、着飾る以外に、何が出来るの?」
何だ?!この人…何か見下されているような気がする…。
「着飾る以外にも出来る事はありますね。
少なくとも私は、自分で服やドレスは作れますし、料理もある程度は出来ます。
あ、私、庶民の生活の方が向いているのかもしれないですね?!」
心の中で、前世は庶民だしって呟いてみました。
「それで…ヒュー様は、何をお望みなのでしょう?」
何か一見、人当たりの良さそうなヒュー様でしたが、私と二人きり…と言っても近くに侍女はいるけど…になってから、どうもトゲを感じ、何か面倒くさくなってきてしまいました。
「…あのさ…レイモンドは君の事をもうすっかり諦めているけど、でも君のことを忘れたわけではないんだよ…。
ハッキリ言って見ていられないんだよね…。
レイモンドはあんなに落ち込んで日々を過ごしているのに、君はこちらの国で、殿下やアルフレッド殿にちやほやされて、何かイラっとするんだよね…。」
え!?私、何で良く知らない人に、こんなことを言われなくちゃいけないの?!
「…あの…レイモンドの事を心配するのは理解できます。
でもあなたは私の事を知っているわけではないですよね?
知っていただきたいとも思いませんけど、でもね、知りもしないで人を批判って、どうかと思いますよ。
正直言ってレイと再会出来たことについては感謝しておりますが、だからといってこんな失礼なお話にお付き合いする筋合いもありませんので、私はこれで失礼いたします。」
そう言って立ち上がり、そのまま邸の方へ戻りかけたが、皆が盛り上がっているところへ戻るのも嫌で、邸の玄関から中へは入らずに、反対側へ周って、邸の裏庭へ向かいました。
私の後を付いてきていた侍女には、玄関でそのまま邸へ戻ってもらいました。
少しだけ裏庭で一人にさせて欲しいとお願いし。
邸の裏の方へ行くと、ちょっとした林や、大きめの池があり、そちらにもベンチなどがあります。
そちらには犬もいて、夜になると、邸の周りに放たれますが、日中は裏庭のみに放たれております。
なので裏庭へ行く途中には、柵もあるのですが、柵を開けて私は入っていきました。
すると、私に懐いている大型犬のうちの一匹…シオンが走ってきました。
前世のシェパードに似た犬なのですが、とても賢くて、良く私と一緒に遊んでくれます。
私が落ち込んでいる時は、ベンチで足元に座り、ずっと寄り添ってくれます。
シオンに癒してもらおうと、ドレスが汚れるのも気にせずに、芝生の上に座って、シオンに抱きついていると、突然、シオンが反応しました。
レイモンドでした。
レイは私の隣に腰を下ろし、言いました。
「ヒューと何か話していると思って、見ていたら、リーナだけ立ち上がって邸の中へ戻るのかと思ったら、侍女だけ戻ってきたから、ヒューのところへ行くふりをして、こっちかなと思って来たんだ。」
レイもこの屋敷に滞在していたことがあるから、勝手知ったるですね…。
「ごめん…ヒューに何か言われた?」
「ううん…何でもない。」
「リーナは…私たちをあまり頼ってはくれないよね…。」
「…そうなのかな…。」
「うん…。いつも自分で何とかしようとするでしょ…。」
「でも結果、いつもレイやアルに助けられてばかりだったけどね…。」
「助けていた…うーん…ちょっと違うかな。
多分、アルもだけど、リーナに好きになって欲しかったんだよ。
リーナにこっちを見て欲しかったんだよ。
…アルの事は好き?」
「…元々はアルと私で、利害関係が一致して、婚約しようって言いだしていたんだよね…。
そこへレイが乱入して(笑)
私は幼かったし、アルの事もレイの事も、お兄さん的にしか見ていなかったかな…。
というよりも、愛とか恋とか全然!分からなかったかな。」
「今は?」
「難しいね…。アルの事は好きだけど、今でもお兄さん的な気持ちの方が強いかな。
まあアルも私の事は、それこそ弟くらいにしか思っていないと思うしね。
そういう意味では、レイの方が心に刺さったなぁ…。」
「最初はアルとの婚約が偽装だなんて思わなかったからね…そして気が付いた時には、すっかり君しか見えなくなってしまっていたし。」
「今は?私以外も見えるようになった?」
「…リーナは?私が他の女性と結婚して欲しい?」
「私は…どうであれ、レイに幸せになって欲しいし、笑っていて欲しい…。」
「…無理だよ…私の時は止まってしまったから。
それより私もリーナの笑顔が見たいんだけどな…。
君の笑顔が見られたら、私はそれで満足なんだけどな…」
寂しそうに微笑まれてしまいました。
「私は…レイの事、好きだけど…でも、どう好きなのか、分からない…。」
レイはいきなり芝生の上に横になった。
「ねえ…私はきっとこのまま、誰とも結婚しないから、最後にリーナとの思い出だけ欲しいな…。
それを胸に抱いて生きていくから…。
私にキスしてくれる?」
「え?!」
「あの…レイモンド様にまた会う機会を作ってくださって、ありがとうございました。
ヒュー様がレイモンド様をここへ連れてきてくれるって伺っていました。
多分…レイモンド様は一人は来てくれなかったでしょうから…。」
「まあ…僕も興味があったからね…純粋に単なる好奇心だけどね。」
冗談めかしてニヤリと笑いながら言いました。
「興味…ですか…。」
「レイモンドの妹がそこまで暴走するほどの相手って、どんなご令嬢なのかなとか、レイモンドがあそこまで人が変わったようになってしまうほどの影響を受けたご令嬢って、どんな子なのかなとか。」
「…私は…あまりご令嬢らしくない、寧ろ地味な人間だと思いますよ…。
そもそもそんなレイモンド様の婚約者候補になんて、恐れ多いと思っていましたし。
貴族の家に生まれたからには、政略結婚も仕方が無いって思っていましたけど、出来る事なら私は、自分の意志で、自分の能力を使って生きたいって思っているだけです。」
「でも貴族令嬢が、着飾る以外に、何が出来るの?」
何だ?!この人…何か見下されているような気がする…。
「着飾る以外にも出来る事はありますね。
少なくとも私は、自分で服やドレスは作れますし、料理もある程度は出来ます。
あ、私、庶民の生活の方が向いているのかもしれないですね?!」
心の中で、前世は庶民だしって呟いてみました。
「それで…ヒュー様は、何をお望みなのでしょう?」
何か一見、人当たりの良さそうなヒュー様でしたが、私と二人きり…と言っても近くに侍女はいるけど…になってから、どうもトゲを感じ、何か面倒くさくなってきてしまいました。
「…あのさ…レイモンドは君の事をもうすっかり諦めているけど、でも君のことを忘れたわけではないんだよ…。
ハッキリ言って見ていられないんだよね…。
レイモンドはあんなに落ち込んで日々を過ごしているのに、君はこちらの国で、殿下やアルフレッド殿にちやほやされて、何かイラっとするんだよね…。」
え!?私、何で良く知らない人に、こんなことを言われなくちゃいけないの?!
「…あの…レイモンドの事を心配するのは理解できます。
でもあなたは私の事を知っているわけではないですよね?
知っていただきたいとも思いませんけど、でもね、知りもしないで人を批判って、どうかと思いますよ。
正直言ってレイと再会出来たことについては感謝しておりますが、だからといってこんな失礼なお話にお付き合いする筋合いもありませんので、私はこれで失礼いたします。」
そう言って立ち上がり、そのまま邸の方へ戻りかけたが、皆が盛り上がっているところへ戻るのも嫌で、邸の玄関から中へは入らずに、反対側へ周って、邸の裏庭へ向かいました。
私の後を付いてきていた侍女には、玄関でそのまま邸へ戻ってもらいました。
少しだけ裏庭で一人にさせて欲しいとお願いし。
邸の裏の方へ行くと、ちょっとした林や、大きめの池があり、そちらにもベンチなどがあります。
そちらには犬もいて、夜になると、邸の周りに放たれますが、日中は裏庭のみに放たれております。
なので裏庭へ行く途中には、柵もあるのですが、柵を開けて私は入っていきました。
すると、私に懐いている大型犬のうちの一匹…シオンが走ってきました。
前世のシェパードに似た犬なのですが、とても賢くて、良く私と一緒に遊んでくれます。
私が落ち込んでいる時は、ベンチで足元に座り、ずっと寄り添ってくれます。
シオンに癒してもらおうと、ドレスが汚れるのも気にせずに、芝生の上に座って、シオンに抱きついていると、突然、シオンが反応しました。
レイモンドでした。
レイは私の隣に腰を下ろし、言いました。
「ヒューと何か話していると思って、見ていたら、リーナだけ立ち上がって邸の中へ戻るのかと思ったら、侍女だけ戻ってきたから、ヒューのところへ行くふりをして、こっちかなと思って来たんだ。」
レイもこの屋敷に滞在していたことがあるから、勝手知ったるですね…。
「ごめん…ヒューに何か言われた?」
「ううん…何でもない。」
「リーナは…私たちをあまり頼ってはくれないよね…。」
「…そうなのかな…。」
「うん…。いつも自分で何とかしようとするでしょ…。」
「でも結果、いつもレイやアルに助けられてばかりだったけどね…。」
「助けていた…うーん…ちょっと違うかな。
多分、アルもだけど、リーナに好きになって欲しかったんだよ。
リーナにこっちを見て欲しかったんだよ。
…アルの事は好き?」
「…元々はアルと私で、利害関係が一致して、婚約しようって言いだしていたんだよね…。
そこへレイが乱入して(笑)
私は幼かったし、アルの事もレイの事も、お兄さん的にしか見ていなかったかな…。
というよりも、愛とか恋とか全然!分からなかったかな。」
「今は?」
「難しいね…。アルの事は好きだけど、今でもお兄さん的な気持ちの方が強いかな。
まあアルも私の事は、それこそ弟くらいにしか思っていないと思うしね。
そういう意味では、レイの方が心に刺さったなぁ…。」
「最初はアルとの婚約が偽装だなんて思わなかったからね…そして気が付いた時には、すっかり君しか見えなくなってしまっていたし。」
「今は?私以外も見えるようになった?」
「…リーナは?私が他の女性と結婚して欲しい?」
「私は…どうであれ、レイに幸せになって欲しいし、笑っていて欲しい…。」
「…無理だよ…私の時は止まってしまったから。
それより私もリーナの笑顔が見たいんだけどな…。
君の笑顔が見られたら、私はそれで満足なんだけどな…」
寂しそうに微笑まれてしまいました。
「私は…レイの事、好きだけど…でも、どう好きなのか、分からない…。」
レイはいきなり芝生の上に横になった。
「ねえ…私はきっとこのまま、誰とも結婚しないから、最後にリーナとの思い出だけ欲しいな…。
それを胸に抱いて生きていくから…。
私にキスしてくれる?」
「え?!」
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