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「ななな、内偵調査って……もうアタリはついてるのか?」



 動揺のせいでユナばりに噛み噛みだったが、エミルの隣に並んで俺は口をはさむ。



「貴様が首を突っ込んで良い話ではない!!」



 クロウ即答。俺ソッコーで閉口。とラップみたいに心でつぶやく。

 そんな言い方しなくても……。

 まぁ、俺が首突っ込む話じゃないのなら、俺には関係ない。

 イコール俺が疑われている訳ではないという事だ!



「ったく……ビビらせんなよな」



 俺は肘でエミルを小突く。

 てっきりコイツが先走って俺の事であることないこと吹聴しやがったのかと思ったぜ。

 マジでやりかねないからなコイツは。



「あっぶな……酔っぱらって記憶ない時あるからなー。でも命拾いしたわね!」

「エミル。なんでお前は上から目線なんだ? しかも俺の生殺与奪を自分が握ってるとでも言わんばかりの言動。目に余るねこれは。帰ったら会議な」

「はー? なんの会議よ?」

「テメーの禁酒会議だ。あとアリアスもな。ユナは……まぁいいか」

「なんでユナはいいのよ? あ、わかった。あんたユナに変なことしようとしてるでしょ?」

「しねーから! あいつだきゃ手出しちゃダメ! 一番ダメ!」

「だきゃってなによ。だきゃって。じゃー私は手出していいわけ? アリアスは?」

「……ぐっ」



 アリアス。今はそのワードはいかん。

 昨晩の記憶が下腹部当たりを刺激してしまう!



「なによーその反応? あんたまさか私に手出そうとしてるわけ?」



 エミル! 勘違いだ! 俺が想像してるのはお前じゃない! アリアスだ!



「貴様ぁ! さっきから聞いていれば、えええエミルさんに手をだすだとぉ!?」



 だーかーら! 勘違いだってクロウくんよ! っつーか黙って聞きすぎだから!



「ちょっとクロウ。やめなさいよぉ」



 そんでエミルはちょっと面白そうになってきたなって顔しない!

 クロウくん、その気になっちゃうでしょ!!



「ゆるさん! 貴様のような奴にエミルさんは任せられん!!」



 クロウはローブをはためかせ、腰に下げていた杖を手に取った。

 なんか、さっきも見たんだけどこの流れ。

 そんで俺もデジャヴよろしくナレッジを出そうとする。





 ――――瞬間。





「やめなさいクロウ!!」



 はい。おんなじー。この流れ二周目ですー。



 でも、声の主はエミルではなく、俺の遥か後方から突き刺さるように放たれた。

 その凛とした声は初対面のアリアスを思いださせた。

 嫌な予感がするが、ゆっくりとふり返る。



「あー……あぁ」



 んー、想像通りの風貌だな。

 そこにはクロウと同じ城のローブをまとった黒髪をきっちりとしばった眼鏡女が立っていた。

 しかし、そのするどい眼光は俺でなく、俺の横にいるちびっ子に向けられている。



「久しぶりねアローナ」



 ひどくつまらなそうな顔で振り返ったエミルにアローナと呼ばれた女は眼鏡をくいッと上げてツカツカと詰め寄る。

 至近距離で真向かう女ふたり。こうして見ると身長差けっこうあるな。

 アローナは俺と同じくらいの身長だ。まぁ女性にしては長身に入るか。

 っつーかクロウはさっきの威勢はどこへやら。借りてきた猫みたいになってやがる。



「エミル。相変わらずね」



 たった一言で空気がピンと張り詰める。

 と言うより皮肉った笑顔のエミルの額に青スジが浮かび上がる。



「アローナも相変わらずね。今もモテないでしょ?」



 ピキン! とアローナの笑顔も引きつる。



「あらぁ? エミルちゃんは相変わらず節操ないのかしら? 尻軽っぷりはご健在?」



「あらー? 尻軽だなんて初めて言われたわぁ! アローナの本音が聞けて嬉しい!」



「うふふ! それは何より尻軽エミルちゃん!」



「行き遅れアローナさんよりはマシかもね!」



「そーお? 尻軽よりは一途の方がいいんじゃない? ねぇ、あなた?」



 っと、いきなりこっちに話ふんなよ!

 俺はクロウと顔を見合わせる。

 しかし、奴は首をふるだけで、まったく役に立ちそうもない。

 っつーか、こわい! アローナの笑顔怖い!!



「いいい、いやー。僕は、どっちかなぁー?」



 ついクセでもないのに頭を掻いてしまう。



「こいつに聞いてもムダよアローナ。私に手出そうとしてんだから」



 エミルは自信満々に言い放つ。こいつまだ勘違いしてんのかよ。

 しかし、それを聞いたアローナは一瞬目を見ひらいた後、指先を額に当てて小さく首をふった。



「こいつも宮廷魔導士団の男連中と一緒か……」



ため息と共に放たれた言葉に俺は凍り付く。



「え? なに? エミルって宮廷魔導士団で人気あったの?」



 驚愕を隠し切れず、俺はついクロウに聞いてしまう。

 彼は自信満々にうなずいてみせた。



「もちろん! エミルさんは我々のアイドルだ!!」



 豪語。

もし、この世界に百科事典があれば「豪語」の欄に載せたいくらいの豪語っぷり。



 俺はそっと横のちびっ子に向く。エミルもこっちに顔を向ける。

 そして俺は真顔でアローナに向く。

 彼女は冷たい目を俺に向けて一言だけ放った。



「ロリコン」





「ちがーう!!!」



 圧倒的間違い! 俺はロリコンじゃない!



 現に昨晩俺はアリアスという大人の女性と一線超えそうになったんだ!

 しかしダメだ! それは言えない! あの夜の秘密はバラすわけにいかない!

 じゃー、どうする!? どうすればいい俺!!



「あなたの名前は?」



 一人慌ててる俺をよそにほんと興味なさそうにアローナは聞いてくる。

 いや、興味ねーなら聞くなよ。



「ケイタだけど……」



 でも一応、教える。なんとなく礼儀だ。



「覚えておくわ。宮廷魔導士団の試験を受けに来たら無条件で落とすよう伝えておく」



「はぁ? どういうことだ?」



「簡単な話よ。これ以上、宮廷魔導士団にロリコンが増えないようにしたいの」



「ロリコン? これ以上?」



 って事は……?



 俺はクロウに向く。クロウは満面の笑みでサムズアップした。





 ――――マジか!!??



「宮廷魔導士団ってロリコン集団だったのか!?」



 俺が頭を抱えると、アローナは小さく首をふった。



「厳密にいえば宮廷魔導士団の男の半数以上は。かしら。ほんっと頭痛の種よ」



 そうか。それならばこのロリッ子がアイドル扱いなのもうなずける!!

 それなりに美人のアローナが人気ないのは周りがロリコンだからなら説明がつく!!





 ……っつーか。





「……この国で一番やばい集団って宮廷魔導士団なんじゃねーの?」



 超つえーロリコン集団ってもう最悪最強だろ。

 なんかここへ来てこの国のやべー裏側知っちゃった気がするな。



 なーんか嫌な予感がするー!!



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