上 下
12 / 25

12

しおりを挟む
「こちらがその物件です」



 案内役の女が手を向けたのは、確かにすべての条件が兼ね備わっている洋館だった。



「やったー! 家だー! うちん家だー!」



 エミルが鉄柵の前で飛び跳ねる。コイツ、もしかして家なき子だったのか?

 特級だったのに、なんかいつも貧乏くさいんだよな……。



 しかし、不動産屋で担当の男から見せられた図面通り頑丈そうな鉄柵に囲まれた庭は緑豊かで広々としている。解放感は満点だ。

 くわえて屋敷も三階建ての洋館で石造りながら外壁の装飾も凝っている。

 窓の数からみて部屋数も確かに10以上あるな。ちょっと郊外だけど、ギルドもメインストリートも十分徒歩圏内と言えよう。

 

 あの担当の男。すげーうさん臭かったけど、なるほど確かに全てが図面通りだ。



「それでは内見しましょう」



 担当の男から引き継いだ案内役の女は、あのうさん臭さから一転してクールに俺たちをナビゲートしてくれた。

 なんなん? これコイツらのやり口なん? と似非関西弁で疑いたくなるくらいには警戒している俺。



「……ちょっと……広すぎる……これじゃ遠いよ……せめて部屋は……と……な……」



 となりのユナは洋館を見てつぶやく。やだやだやだ! 最後まで聞きたくない!



「行きましょう! さぁ早く!」



「え? え? え?」



 俺が手を引いて走るとさっきまでクールだった案内役の女が目を真ん丸に見ひらいてあわてた。

 あれ? この人もしかしてこう見えて押しに弱いタイプ?

 俺、そーいう人タイプですけど?



 と、みょうなギャップにドキドキしながら門を開け、屋敷の扉に手をかけた時だった。





「――――――――――――――――待ちなさい!!」





 凛とした声だった。



 思わず俺はドアノブに伸ばした手を引っ込める。

 なんだこれ? なんか学校の先生に怒られてるような感覚だ。



 声は後ろから放たれた。俺はそっと振り返る。



「せ、先生……?」



「先生じゃありません!!」



 ひぃ! と俺は情けない声を出してしまう。

 振り向いた先、外の門の中央で腕を組んでいる奴は女だった。

 いや、まぁ声でそれはわかってたんだけど、その突き刺すような眼差しが俺の中学の担任に似てたんだ。



「うちに住みたい冒険者ってあなたたち?」



 その女は左右に居たエミルとユナをにらみつける。

 絶対にエミルとユナの方が強いのに、何故か二人とも委縮してコクコクと首を縦に振るだけだった。



「で、あなたがそのリーダーね」



 また眼差しがこちらに向けられて俺は体に力が入ってしまう。

 いや、なんだろうこれ。魔法じゃないよな?



「はい。こちらがリーダーのケイタ様です」



 案内役の女は笑みを絶やさず、俺を紹介してくれた。いや、肝座ってんなーこの人。



 とりあえず会釈する。



 案内役の女はそのまま、門の女へ手を向けた。



「あちらがここの管理人のアリアスさんです」



「かかか、管理人?」



 つい、ユナみたいな噛み方をしてしまったが、案内役は動じることなく「えぇ」と返した。



「ふん。また変わったやつらがきたもんだわ。まぁいいわ。これからよろしく」



 アリアスはエミルとユナと握手を交わした。え? 俺は?



「……いや、あの。俺たちはですね。まだ契約じゃなくて……」



「なんですって?」



 ギロリと視線が向けられると、また体がこわばる。



「いいい、いやいや! えーっと……」



 まーいーや! もうここでいいだろ!



「契約します! ここにします! はい、これ!」



 俺は案内役に革袋ごと金を渡した。

 あんだけしっかりした先生っぽいやつが管理してんなら中も大丈夫だろ。

 っつーか、マジで怖ぇ。エミルとかユナみたいな怖さじゃなく、単純に怖ぇ!



「はい。確かに。では、アリアスさんあとはお任せしてもよろしいでしょうか?」



 案内役が聞くと、アリアスは「えぇ」と素直にうなずいた。



 案内役は契約金は後程うんたらかんたらとアリアスと言葉を交わすと、さっさとその場を後にする。

 いや、なんか去り際が雑だなぁ。契約決まったとたんにコロッと態度変えちゃう系?



 ……ん?



「あ、あのアリアスさん?」



「なにかしら?」



 ツカツカとヒールを鳴らしながらアリアスはこちらに向かってくる。

 いやいや、エミルもユナも何後ろに整列しちゃってんの? 怒られたあとじゃねーんだから。



 っつーか、このタイトスーツっぽい姿とヒールのせいなんだよな。先生っぽいの。

 キツイまなざしも清廉と整った顔立ちに相まって美人なのにキツさを助長させてんだよ。



 ――――――――しかし、聞かずにはいられない!!



 俺はゴクリとつばを飲み込んで相対するアリアスに口を開く。



「さっき案内役が契約とか言ってたけど、なんの契約でしょうか?」



 そうなのだ。俺はここを買ったんだ。そもそも管理人って何?



 俺はここの家主になるんだよな? 契約って不動産屋との仲介とかそういうのだよな?



 管理人って何?







「――――――――――――――――契約は、賃貸契約に決まってるでしょう」







 ……はい?





「ちょちょちょ! ちょっと待ってください! 俺たちは家を買いに来てて!」



「は? あなた何言ってるの? ここは私の家よ? 部屋が余ってるから賃貸に出しただけなんだから」



「は、はぁー!? ちょっと待て! ま、待ってください! って事は何? 俺たちはこの家の部屋を借りたってのか?」



「だからそうだって言ってるじゃない。3部屋ね。共用部分はもちろん使ってもらうけど」



「じゃ、じゃあアリアスさんも……この家に?」



「あたりまえでしょう。私の家なんだから」



 ――――――――絶望。



「賃貸契約って、ななな、何か月の契約をしたんでしょうか?」



「あなたさっきから何を言ってるのよ。10年契約でしょ? それ以外入居は認めてないんだから」



 まさか、一括で払うなんてね。でも、助かるわ。とアリアスは後ろに並ぶエミルとユナに振り向く。

 二人はあわててコクコクとうなずいた。



「いいい、いやいやいや! 俺たちは家を買いたくて! 賃貸じゃなくて! ちょっと不動産屋に連絡を」



「は?」



「え、えーと、ははは……いや、まぁ全然」



 なにが全然なんだ俺! くそー! あの不動産屋!! 最初からうさん臭かったんだよ!

 マジでこれもう詐欺じゃねーか! ユナの件から詐欺が横行しすぎだぞ!!



 弱肉強食の世界マジで最悪!!



「さ、これからみんなで暮らすんだから。中に入ったら家の紹介と自己紹介をしていかなくちゃね」



 よろしくね。とアリアスは笑いもせず、俺に言う。





 ――――――――――――――――――もう絶望!!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】18年間外の世界を知らなかった僕は魔法大国の王子様に連れ出され愛を知る

にゃーつ
BL
王族の初子が男であることは不吉とされる国ルーチェ。 妃は双子を妊娠したが、初子は男であるルイだった。殺人は最も重い罪とされるルーチェ教に基づき殺すこともできない。そこで、国民には双子の妹ニナ1人が生まれたこととしルイは城の端の部屋に閉じ込め育てられることとなった。 ルイが生まれて丸三年国では飢餓が続き、それがルイのせいであるとルイを責める両親と妹。 その後生まれてくる兄弟たちは男であっても両親に愛される。これ以上両親にも嫌われたくなくてわがまま1つ言わず、ほとんど言葉も発しないまま、外の世界も知らないまま成長していくルイ。 そんなある日、一羽の鳥が部屋の中に入り込んでくる。ルイは初めて出来たその友達にこれまで隠し通してきた胸の内を少しづつ話し始める。 ルイの身も心も限界が近づいた日、その鳥の正体が魔法大国の王子セドリックであることが判明する。さらにセドリックはルイを嫁にもらいたいと言ってきた。 初めて知る外の世界、何度も願った愛されてみたいという願い、自由な日々。 ルイにとって何もかもが新鮮で、しかし不安の大きい日々。 セドリックの大きい愛がルイを包み込む。 魔法大国王子×外の世界を知らない王子 性描写には※をつけております。 表紙は까리さんの画像メーカー使用させていただきました。

チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化進行中!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、ガソリン補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…

輝夜坊

行原荒野
BL
学生の頃、優秀な兄を自分の過失により亡くした加賀見亮次は、その罪悪感に苦しみ、せめてもの贖罪として、兄が憧れていた宇宙に、兄の遺骨を送るための金を貯めながら孤独な日々を送っていた。 ある明るい満月の夜、亮次は近所の竹やぶの中でうずくまる、異国の血が混ざったと思われる小さくて不思議な少年に出逢う。彼は何を訊いても一言も喋らず、身元も判らず、途方に暮れた亮次は、交番に預けて帰ろうとするが、少年は思いがけず、すがるように亮次の手を強く握ってきて――。 ひと言で言うと「ピュアすぎるBL」という感じです。 不遇な環境で育った少年は、色々な意味でとても無垢な子です。その設定上、BLとしては非常にライトなものとなっておりますが、お互いが本当に大好きで、唯一無二の存在で、この上なく純愛な感じのお話になっているかと思います。言葉で伝えられない分、少年は全身で亮次への想いを表し、愛を乞います。人との関係を諦めていた亮次も、いつしかその小さな存在を心から愛おしく思うようになります。その緩やかで優しい変化を楽しんでいただけたらと思います。 タイトルの読みは『かぐやぼう』です。 ※表紙イラストは画像生成AIで作成して加工を加えたものです。

赭坂-akasaka-

暖鬼暖
ミステリー
あの坂は炎に包まれ、美しく、燃えるように赤い。 赭坂の村についてを知るべく、男は村に降り立った。 しかし、赭坂の事実を探路するが、男に次々と奇妙なことが起こる…。 ミステリーホラー! 書きながらの連載になるので、危うい部分があります。 ご容赦ください。

悪役令嬢より愛を込めて。婚約破棄から始まる物語~貴族学園シリーズ~

しましまにゃんこ
恋愛
貴族学園を舞台にしたコミカルな短編集です。 ちょっぴり笑えてキュンとする異世界恋愛ストーリー。 安定の皆幸せハッピーエンド。 様々な国の貴族学園などを舞台に巻き起こる恋の騒動をお楽しみ下さい♪

彼女たちは爛れたい ~貞操観念のおかしな彼女たちと普通の青春を送りたい俺がオトナになってしまうまで~

邑樹 政典
青春
【ちょっとエッチな青春ラブコメディ】(EP2以降はちょっとではないかも……)  EP1.  高校一年生の春、俺は中学生時代からの同級生である塚本深雪から告白された。  だが、俺にはもうすでに綾小路優那という恋人がいた。  しかし、優那は自分などに構わずどんどん恋人を増やせと言ってきて……。  EP2.  すっかり爛れた生活を送る俺たちだったが、中間テストの結果発表や生徒会会長選の案内の折り、優那に不穏な態度をとるクラスメイト服部香澄の存在に気づく。  また、服部の周辺を調べているうちに、どうやら彼女が優那の虐めに加担していた姫宮繭佳と同じ中学校の出身であることが判明する……。      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  本作は学生としてごく普通の青春を謳歌したい『俺』ことセトセイジロウくんと、その周りに集まるちょっと貞操観念のおかしな少女たちによるドタバタ『性春』ラブコメディです。  時にはトラブルに巻き込まれることもありますが、陰湿な展開には一切なりませんので安心して読み進めていただければと思います。  エッチなことに興味津々な女の子たちに囲まれて、それでも普通の青春を送りたいと願う『俺』はいったいどこまで正気を保っていられるのでしょうか……?  ※今作は直接的な性描写はこそありませんが、それに近い描写やそれを匂わせる描写は出てきます。とくにEP2以降は本気で爛れてきますので、そういったものに不快に感じられる方はあらかじめご注意ください。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

処理中です...