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「え? こんなにもらえんの?」



 クエスト報酬を受け取った俺は革袋を開いて、ついつい声を上げてしまった。

 いや、カウンターに置かれた袋の大きさで何となく分かってはいたが……。



「わーい! 今日は大宴会じゃーん!」



 横から覗き込んできたエミルがピョンピョン跳びはねながら余計なことを口走る。

 おい、ギルドの奴らが目を光らせてんだよ。やめろ。



「じゃじゃじゃ、じゃあ。今日はテーブルも一緒に……ぱぱぱ、パーティーメンバーですもんねねね!」



 こっちのサイコパスユナはまたネガティブ少女モードで頬を赤らめている。

 改めてパーティーメンバーって言われると、すげーテンション下がるな。





 ……さて、この大金。





 そう。俺は革袋の中身をマジマジと見つめながら思案していた。

 なにせ、最初のクエストで得た相応の報酬を一夜で散財した苦い経験を持つ俺だ。

 喉元過ぎて熱さ忘れすぎなバカエミルとは違う。



 考えろ、俺。



 ――――この大金にはもっと別の使い道があるはずなんだ。





「そうだ!!」



 俺はキラリと閃いて、顔を上げる。



「家を買おう!」



 我ながら名案である。

 そうなのだ。俺らには日々の飲食代もさることながら雨風しのぐ宿代もかかっているのだ。

 幸い、こちらには税金という概念がない。家を持ってしまえばそこにかかる金は今後一切なくなる。



 って事は、最悪金が無くてもそこらへんの草とか食ってればなんとかなりそうじゃね?



 っつーか2.3日飯食えなくても死にゃあしないし!



 それなら無理に効率の悪いクエストに手を出す必要もないし!!



「きーめた! おい! 俺らの家を買うぞ!」



 俺はエミルとユナに振り向く。



「おー! 家いいねー! お城建てよう! でっかいやつ!」

「わわわ、私たちが、一つ屋根の下……いっしょう一緒……」



 いや、一生は嫌だな。そしてお城も無理。二人とも現実を見ろ。



 とは言え、俺の提案に二人も賛同してくれたので、早速ギルドを出て不動産屋に向かう。



 久しぶりに宿からギルドの往復コースから外れたので、この町の景色がいつもと違って見えた。



「へー、ここ飯屋だったんだ」



 俺がつぶやくと、エミルが勝手に入ろうとするので襟首つかんで止める。



 しかし、今日は天気が良い。エミルの機嫌も良いし、ユナもどこかホワホワしている。

 なんとも浮足立ったパーティーである。



「あああ、ここここここが! 不動産屋さんです!」



 ユナが俺の腕に抱きついて家屋を指さす。っつーか、おもいっきり胸当たってんだけど。

 やめろよサイコパス。こういう事されると俺は破滅の道へと突き進みたくなるだろう。

 分かってるんだ。俺は。



 お前らは美人だが、手を出したら最後!!



 既成事実を得たお前らに骨の髄までしゃぶりつくされるって事をな!



「よ、よーし! 入るぞ! エミル! ユナ!」



 なので俺は平常心バリバリで腕を振りほどき、大きなレンガ造りの家屋に入る。



「らっしゃーい!」



 なんとも威勢のいい声と共に案内され、俺たちは家屋を二分しているカウンターに腰を下ろした。

 なんとなく思っていたが、この世界にも不動産屋はあって、しかもなんか作りも似てるって事はきっとこれが不動産屋のベストスタイルなんだろうな。この担当の男も金を持っていそうだ。身なりでわかる。



「はーい! ではではどんな物件をお望みで?」



 担当の男は七三に分けた金髪を撫でつけながら言う。



「えーっとねー。お城に住みたい!」



 はいエミルちゃん。子供みたいなこと言わない。



「わわわ、私は……でで出来るだけ狭いとこで! ワンルーム1畳とか……」



 はいユナちゃん。それ家じゃありません。物置です。



 俺は二人の口をふさいで担当の男に愛想笑いを返す。



「あのー、僕らは冒険者パーティでして。だからまぁ出来るだけ安く広くて、あと色々家具とかついてて、立地も良くて、部屋は10部屋以上。庭もあると良いかなぁ。あ、あと隣人トラブルとかなさそうな所じゃないとな! そんでまぁ安いとこで!」



 はい! 俺が一番現実見てないー! でも、言うだけタダなんだから最初は無茶言いたくなるだろ?

 だって、この世界はなかなかに土地が余ってそうに見えるし、ちょっと郊外に出れば空き家も多そうだ。



 担当の男は笑みをこぼさず口を開く。



「はーい! ありますよー!」





 いや、あるんかーい!



 と、心の中で突っ込むが、俺も笑顔を絶やさなかった。

 そしてエミルもユナも笑顔だった。



 俺たちは笑顔で物件探しを終えた。





 ……かに見えた。
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