あの夏の歌を、もう一度

浅羽ふゆ

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 お別れ会は僕の引っ越し前日に午後の授業の時間を使って行われた。
 みんなの出し物は思った以上に気合いが入っていて、特に女子の佐々木達が踊ったダンスなんかは凄く本格的だった。
 そしてハイライトは僕の手紙。
 どうやら何人かは僕がピアノを弾くんじゃないかと期待していたようだったけど、その期待には応えられなかった。というか、応える気も最初からなかった。
 そこに少しだけ申し訳なさを感じながら読んだ僕の手紙は思い出話や感謝の言葉がつづられているだけのありきたりな物だったけど、ユーヘイを筆頭に女子も含めて何人か泣いていたから大成功かな、と思う。まあ、僕は終始笑っていたけどね。
 そして家に帰って、誰もいないリビングでようやく実感が湧いて来て、ちょっとだけ泣いてしまったのは僕だけの秘密にしておこうと思う。




◇◆◇◆◇◆◇◆




 そうして、僕は待ちに待っていなかった出発の朝をむかえた。
「それじゃ……ユーヘイ、またね」
「おう。クラスの珍事件とかいっぱいメールするわ」
「こっちも田舎の事件あったら直ぐメールするよ」
「田舎の事件ってすんげーでかい大根が穫れたとかか?」
「もちろん。ネギでもジャガイモでもトマトでも何でもメールするよ」
「うわー! うぜー!」
わざわざ見送りに来てくれたユーヘイと最後の笑い話を終えて別れの握手を交わした。
父さんが待つ車に乗り込んで町を去る時、一気にここが別の町に見えた。
僕はそんな別の何かに変わってしまった流れていく風景の中、百メートル先の角を曲がるまでずっと手を振っていたユーヘイに小さく手を振り返していた。
「良い友達持ったな」
「……まぁね」
 角を曲がった時、僕に言った父さんの言葉が嬉しくて少し恥ずかしかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――――新しい家まで高速道路を使って七時間かかった。

 最初は良かったけど、一時間もしたらずっと同じ風景が続いて退屈だった。
 父さんともそこまで会話も無いし、ただジッと車の中で行きたくもない村に着くのを待たなければならない。
 だから途中何度か休憩で寄ったサービスエリアもあんまり楽しめなかった。
 そうした望まないロングドライブの末に辿り着いた場所はやっぱり想像通りの田舎で、もちろん期待なんかしていなかったけど、ここまでイメージ通りだとは思いもしなかった。
「やっぱり近くにコンビニとかないんだね」
「ん? さっき来た道に無かったか?」
 父さんは三十分も前に通り過ぎたコンビニの事を言っているのか僕にはわからなかったけど、見ていた限りではそれ以降コンビニは無かったはず。
 車で三十分の距離を近くって呼んでしまう父さんはもう立派な田舎者になっているみたいだったから、僕はもうそれ以上何も言わなかった――――。


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