きみにふれたい

広茂実理

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始まりの4月

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 ずっと物心ついた時から、不思議な感覚に囚われていた。それが何かはわからないけれど、どこか物足りないような、寂しいような、そんな感覚。
 街を歩けば何故だかきょろきょろとしてしまって、いつも友達には誰かを探しているのかと聞かれていた。
 そんなはずはないのに。心当たりなどないのに。
 もしそうであるならば、私はいったい誰を探しているというのだろうか。
 そんな地に足のつかないような、ふわふわとした感覚を抱えながらも、私はこの黒髪のようにまっすぐ生きてきた。
 少し長くて鬱陶しい時もあるのだけれど、これが一番しっくりくるのだから仕方がない。
 そしてそんな私はというと、その髪を風になびかせながら、必死の形相で自転車を漕いでいた。真新しい制服が、早速皺にならないか心配する余裕もない。
 何だってこんな日に、時間ギリギリという状態に陥ってしまったのか。
 今日は、私が進学した高校の入学式だというのに。
「えっと、自転車はここで良いのかな?」
 正門を通り、自転車置き場から次に進むべき場所を探す。
 顔を上げると、そこには大きな桜の木があった。
「すごっ……めちゃくちゃ咲いてる!」
 あまりの綺麗さに目を奪われていると、突然声を掛けられた。
「新入生? 遅刻ギリギリだ、よ……」
 声が大人のそれだったので瞬時に先生だと判断し、私は慌てて振り返った。
「はい、ごめんなさ――、え……?」
 カチリ――どこからか、そんな音が聞こえた。
 視界に色が咲く。
 世界は、こんなにも光に溢れていただろうか。
 まるで、時が止まったかのようだった。動くこともできずに、ただただ見つめ合う。
 そこには初めて会う、先生らしき人がいた。
 知らない人。なのに、何故だろう。胸が痛くて、堪らない。ギュッと締め付けられて、息が苦しくなる。
 この時、どうしてか思った。

 ああ……私は、ずっとこの人を探していたんだ、と――

 私の意思に反して、とめどなく涙が溢れる。
 どうしてなんてわからないけれど、今日のこの日のために、何もかものすべてがあったのだと、そう思った。

「お待たせ」

 そんな私たちの出会いを見守るように、桜の木が優しく微笑んでいた。
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