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虚しさの11月
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「リュウって、結構暇な人?」
「お前は、本当に僕を怒らせる天才だよね」
レオくんとケンカした翌日の昼休み。目の前では、半眼の美少年、リュウが腰に手を当てて、睨むようにこちらを見上げていた。気付けば溜息ばかりの私にとっては、一人じゃないことが、ありがたかった。たとえ相手が、リュウであっても。
「レオとケンカでもしたわけ? お前んとこに行ってる様子がないんだけど。現に来てないし……表情も暗くて、絶対何かあるくせに『何でもない』の一点張り。お前が何か知ってるんじゃないかと思って、来てみたんだけど。どうやら、当たりみたいだね」
「そう……」
「何。お前も暗いわけ? 幽霊が暗いとか、笑えないんだけど。気が滅入るから、やめてくれない?」
そんなことを言われても、暗くなるなと言う方が無理な話だ。私は今、レオくんに避けられているのだから。
彼は、いつもより遅めに登校してきていた。姿を見つけたと同時に目が合って、しかし瞬間、逸らされた。そんなことは、初めてだった。
戸惑いながらも、声を掛けようと近くに下りて行った私は、謝る気でいた。だけれど、彼は視界に入っているはずの私を無視し、すぐ横を素通りしていった。呆然と、大きな背中を見送ることしかできなかった私は、誰もいなくなった桜の木の下で、ただ突っ立っていた。やがて、ふつふつと感情が込み上げる。
「意味わかんない! 無視するなんて!」
誰にもぶつけられない怒りを、吐き出す。それは、余計に虚しさを生んだ。
それからこの時間まで一人反省しながら、幹に体を預けていたという次第だ。
「で? どっちが悪いわけ?」
「え?」
「え? じゃないんだけど。何とぼけた声出してんの? らしくもなく、ケンカしたんだろ?」
悪いのは、どちらか……私も悪い。だけど、私だけ?
「どうせ、お前だろうけど」
鼻で笑われ、思わずムッとする。確かにそうだけど、このように言われてしまうと、素直に「そうだ」とは言えない。言いたくなくなる。
「だって……寂しかったから……」
「はあ?」
そうだ。私は、寂しかったんだ。まるで、無視をするかのように話し続ける彼の態度を辛く感じたのは、寂しかったからなんだ。
隣にいるのに、そばにいるのに、こちらを見もしない彼――だから辛くて、苦しくて、嫌だったんだ。
そうして、口をついて出た言葉――あれが、彼にとって地雷だったなんて思わなかった。あれほどの効果を持つものだなんて、考えが及びもしなかった。
私は今まで、彼の何を見てきたのだろうか。
「ま、よくわかんないけどさ、ケンカなんて両成敗だよな。どうせ、くだらない理由なんだろ。ちょうどいいから、このまま別れたら?」
「それは……」
到底、受け入れられない提案――そのはずなのに、言葉が続かない。
彼が、このまま私の前に現れてくれなければ、自然消滅――それは、ありえない話でもないからだ。
「そばにいなくても、レオを煩わせるなんて……」
「煩わせる?」
「会ってないくせに、レオの頭の中がお前でいっぱいなのがムカつくって言ってんの――って、無駄なこと喋ってたら、もうこんな時間じゃん。仕方ない。僕は、このまま別れることを願ってるから。じゃあね」
なんとも不穏な願いを残して、リュウは振り返ることなく、校舎へと歩いていく。その背を見送りながら、先ほど向けられた言葉を思い出していた。
「会っていない時も考えている、か……」
ケンカしても、やっていることが同じとは……なんて――
「滑稽……」
呟いた私の口元は、小さく弧を描いていた。
「お前は、本当に僕を怒らせる天才だよね」
レオくんとケンカした翌日の昼休み。目の前では、半眼の美少年、リュウが腰に手を当てて、睨むようにこちらを見上げていた。気付けば溜息ばかりの私にとっては、一人じゃないことが、ありがたかった。たとえ相手が、リュウであっても。
「レオとケンカでもしたわけ? お前んとこに行ってる様子がないんだけど。現に来てないし……表情も暗くて、絶対何かあるくせに『何でもない』の一点張り。お前が何か知ってるんじゃないかと思って、来てみたんだけど。どうやら、当たりみたいだね」
「そう……」
「何。お前も暗いわけ? 幽霊が暗いとか、笑えないんだけど。気が滅入るから、やめてくれない?」
そんなことを言われても、暗くなるなと言う方が無理な話だ。私は今、レオくんに避けられているのだから。
彼は、いつもより遅めに登校してきていた。姿を見つけたと同時に目が合って、しかし瞬間、逸らされた。そんなことは、初めてだった。
戸惑いながらも、声を掛けようと近くに下りて行った私は、謝る気でいた。だけれど、彼は視界に入っているはずの私を無視し、すぐ横を素通りしていった。呆然と、大きな背中を見送ることしかできなかった私は、誰もいなくなった桜の木の下で、ただ突っ立っていた。やがて、ふつふつと感情が込み上げる。
「意味わかんない! 無視するなんて!」
誰にもぶつけられない怒りを、吐き出す。それは、余計に虚しさを生んだ。
それからこの時間まで一人反省しながら、幹に体を預けていたという次第だ。
「で? どっちが悪いわけ?」
「え?」
「え? じゃないんだけど。何とぼけた声出してんの? らしくもなく、ケンカしたんだろ?」
悪いのは、どちらか……私も悪い。だけど、私だけ?
「どうせ、お前だろうけど」
鼻で笑われ、思わずムッとする。確かにそうだけど、このように言われてしまうと、素直に「そうだ」とは言えない。言いたくなくなる。
「だって……寂しかったから……」
「はあ?」
そうだ。私は、寂しかったんだ。まるで、無視をするかのように話し続ける彼の態度を辛く感じたのは、寂しかったからなんだ。
隣にいるのに、そばにいるのに、こちらを見もしない彼――だから辛くて、苦しくて、嫌だったんだ。
そうして、口をついて出た言葉――あれが、彼にとって地雷だったなんて思わなかった。あれほどの効果を持つものだなんて、考えが及びもしなかった。
私は今まで、彼の何を見てきたのだろうか。
「ま、よくわかんないけどさ、ケンカなんて両成敗だよな。どうせ、くだらない理由なんだろ。ちょうどいいから、このまま別れたら?」
「それは……」
到底、受け入れられない提案――そのはずなのに、言葉が続かない。
彼が、このまま私の前に現れてくれなければ、自然消滅――それは、ありえない話でもないからだ。
「そばにいなくても、レオを煩わせるなんて……」
「煩わせる?」
「会ってないくせに、レオの頭の中がお前でいっぱいなのがムカつくって言ってんの――って、無駄なこと喋ってたら、もうこんな時間じゃん。仕方ない。僕は、このまま別れることを願ってるから。じゃあね」
なんとも不穏な願いを残して、リュウは振り返ることなく、校舎へと歩いていく。その背を見送りながら、先ほど向けられた言葉を思い出していた。
「会っていない時も考えている、か……」
ケンカしても、やっていることが同じとは……なんて――
「滑稽……」
呟いた私の口元は、小さく弧を描いていた。
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