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✿ 密着!カナメ様の学園生活
23時、エピローグ
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カナメの部屋から出てくる影がある。
二つ。
マチアスと彼の従者であるアルノルトだ。
扉の前で頭を下げたのはカナメの従者であるアーネ。
三人の顔は多少異なるが、もれなく全員苦笑いを浮かべている。
アーネに関しては「本当に申し訳ありません」と大きく顔に書いてあるという状態だ。
マチアスは気にするなと首を振り、自分の部屋に戻っていく。
向こうの扉が閉まるのを確認し、アーネも扉を閉め施錠をした。
その途端に言った。
「まあ、こうなるとは思っておりました」
マチアスの意地か、それとも性格か。はたまた鋼の意志か。いや、その全てだろうか。
どれなのかは定かではないが、マチアスはカナメが完全に熟睡に入ったのを見計らい、やはり寝室を出た。
そう、いつものことだ。
カナメはつい最近まで知らなかったようではあるが、マチアスはカナメに強請られ──今日は初めて違ったが、これまでの理由はほぼほぼ「怖くて一人で眠れないから」である──同じベッドで寝ることになっても、それはカナメが熟睡するまで。
そこまで付き合い、そうなればそっと出ていき、朝カナメが起きる前にさも「自分の方が先に起きましたよ」という体でカナメが熟睡する寝室に戻ってくる。
婚約者であるうちは決して──やましいことをしなくとも──同衾しないというということだ。
正しいか正しくないかで言えば、この国において正しいと言えるだろう。
マチアスが仮にカナメと朝まで同じベッドで寝ていたとして、マチアスとカナメが初夜まで──同性婚であっても男女に関わらず貞淑であることが当たり前、という国である──一線を超えないと誰もがマチアスとカナメの常識を信じている。特にマチアスのあの真面目さでなお強く。
しかしそれでもこのマチアスの行動を知った時は国王も王妃もその公の顔を取り落とし、マチアスの両親の顔で「ええ……寝ることもしない。あの子、真面目。いや、当然なのだけど!」と驚いたと言う。
言わなくてもお分かりかもしれないが、サシャは「当然でしょう。そうでなかったら、一言忠言をと思いますよ」とニッコリ言ったとか。
「これもきっと、カナメ様への愛情なのでしょうね」
アーネはそう言って寝室の扉を見る。
これに同意したのか、アーネの前にいちごの氷が一つ落ちた。
「精霊様方も思いますか?曇り一つも許さないのでしょうね。マチアス殿下は、こうしてカナメ様を溺愛なさっているのでしょうね。ふふふ、真面目な王子様が溺愛を始めたのが先か、それとも溺愛するからこそ真面目な王子と呼ばれるお姿になったのか。どちらだと思われますか?」
今度は周りの空気が動く。残念ながらどちらを選択したのかアーネには分からない。
こういう時は、彼らのこうした行動の意味が理解できればとアーネは思う。
「私は元も真面目な方であったと思います。そこにカナメ様がきて、より一層真面目になったのではないかと。不器用だとご自身を評するのも、そうではないかなと思うのです」
アーネの髪がふわふわと巻き上がる。
アーネは楽しそうに笑うと
「ええ、私が生涯お支えする方が、あれほどまでに愛されているお姿を見るのは、なんとも言えず、幸せになりますよ。ねえ」
従者のための部屋にアーネの姿も消えた。
しばらくするとその部屋からも明かりが消える。
優しい風がふわりと部屋を満たして、何事もなかったかのように静かになった。
カナメは幸せそうな顔で、夢を見ている。
きっと彼の周りは明日も、笑顔で溢れるのだろう。
二つ。
マチアスと彼の従者であるアルノルトだ。
扉の前で頭を下げたのはカナメの従者であるアーネ。
三人の顔は多少異なるが、もれなく全員苦笑いを浮かべている。
アーネに関しては「本当に申し訳ありません」と大きく顔に書いてあるという状態だ。
マチアスは気にするなと首を振り、自分の部屋に戻っていく。
向こうの扉が閉まるのを確認し、アーネも扉を閉め施錠をした。
その途端に言った。
「まあ、こうなるとは思っておりました」
マチアスの意地か、それとも性格か。はたまた鋼の意志か。いや、その全てだろうか。
どれなのかは定かではないが、マチアスはカナメが完全に熟睡に入ったのを見計らい、やはり寝室を出た。
そう、いつものことだ。
カナメはつい最近まで知らなかったようではあるが、マチアスはカナメに強請られ──今日は初めて違ったが、これまでの理由はほぼほぼ「怖くて一人で眠れないから」である──同じベッドで寝ることになっても、それはカナメが熟睡するまで。
そこまで付き合い、そうなればそっと出ていき、朝カナメが起きる前にさも「自分の方が先に起きましたよ」という体でカナメが熟睡する寝室に戻ってくる。
婚約者であるうちは決して──やましいことをしなくとも──同衾しないというということだ。
正しいか正しくないかで言えば、この国において正しいと言えるだろう。
マチアスが仮にカナメと朝まで同じベッドで寝ていたとして、マチアスとカナメが初夜まで──同性婚であっても男女に関わらず貞淑であることが当たり前、という国である──一線を超えないと誰もがマチアスとカナメの常識を信じている。特にマチアスのあの真面目さでなお強く。
しかしそれでもこのマチアスの行動を知った時は国王も王妃もその公の顔を取り落とし、マチアスの両親の顔で「ええ……寝ることもしない。あの子、真面目。いや、当然なのだけど!」と驚いたと言う。
言わなくてもお分かりかもしれないが、サシャは「当然でしょう。そうでなかったら、一言忠言をと思いますよ」とニッコリ言ったとか。
「これもきっと、カナメ様への愛情なのでしょうね」
アーネはそう言って寝室の扉を見る。
これに同意したのか、アーネの前にいちごの氷が一つ落ちた。
「精霊様方も思いますか?曇り一つも許さないのでしょうね。マチアス殿下は、こうしてカナメ様を溺愛なさっているのでしょうね。ふふふ、真面目な王子様が溺愛を始めたのが先か、それとも溺愛するからこそ真面目な王子と呼ばれるお姿になったのか。どちらだと思われますか?」
今度は周りの空気が動く。残念ながらどちらを選択したのかアーネには分からない。
こういう時は、彼らのこうした行動の意味が理解できればとアーネは思う。
「私は元も真面目な方であったと思います。そこにカナメ様がきて、より一層真面目になったのではないかと。不器用だとご自身を評するのも、そうではないかなと思うのです」
アーネの髪がふわふわと巻き上がる。
アーネは楽しそうに笑うと
「ええ、私が生涯お支えする方が、あれほどまでに愛されているお姿を見るのは、なんとも言えず、幸せになりますよ。ねえ」
従者のための部屋にアーネの姿も消えた。
しばらくするとその部屋からも明かりが消える。
優しい風がふわりと部屋を満たして、何事もなかったかのように静かになった。
カナメは幸せそうな顔で、夢を見ている。
きっと彼の周りは明日も、笑顔で溢れるのだろう。
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楽しくて一気に読んでしまいました!
特にカナメが可愛くてお気に入り(*^^*)
サシャお兄様もかっこいい!
これからも応援しております!!
ウパーさま
お付き合いくださり、ありがとうございます!
サシャお兄様、かっこいいですか?
かなりブラコンで吹っ飛んでいるところもありますが、それを含めてかっこいいと思っていただけたのなら嬉しいです( ˊᵕˋ )
応援もありがとうございます。
ちまちまと更新してまいりますので、またお付き合いいただけたら嬉しいです!
メッセージ、ありがとうございました⸜(◍ ´꒳` ◍)⸝
退会済ユーザのコメントです
にゃんこさま
メッセージありがとうございます!
そういえばそうですね…!
にゃんこさまのコメントで「擬態カナメばかり書いていた!」と気がついました😳
明日の更新からは擬態してないカナメの登場予定なので、ぜひいつものカナメの活躍(しないけど)にお付き合いください🤭
毒草を絶対に見つけたい(できれば王族管理下の敷地で)カナメ vs カナメがそんなものを見つけた日には何をし出すか分からないから探さないで欲しい殿下
こんな攻防です(殿下の言い分は他にもありますが…😅)
草原デートも書きたいのですが、書きたいものがたくさんでなかなか草原デートをさせてあげられません😣
殿下が最後に美味しいところを持って行った!そう思っていただけて嬉しいのですが、あと4話(短いエピローグを含む)があるのでぜひ(作者的に)最後の最後で一番美味しいところを持って行ったキャラクターを楽しみにしていただけたら嬉しいです🥰
新しいキャラクターも気に入っていただけて嬉しいです!
この先ちょこちょこ出てくるかもしれないので、そう言っていただけて本当に嬉しいです😍
ヨーセフさんは入れることができなかったのですが、概ねサシャと同じようなことを思っているかと思います(苦笑)
でもヨーセフさんからみたブラコンも書いてみたいですね。なんか、周りが疲弊している姿しか思いつきませんが……😅
ジェルバの嫌い(苦手)な彼の話は更新予定があるので、更新の際はぜひお付き合いください。
ジェルバが嫌いな思いを感じてもらいつつ、でも憎めないキャラとして書きたいのですが、どうにも力不足でただの嫌なやつになってしまって、なかなか完成しておりません😢
もう少しで終わりですが、ぜひぜひ最後までカナメ様の学園生活にお付き合いくださいませ🫶
退会済ユーザのコメントです
ぺんぺん草さま
殿下の回も本日更新で終わりになりますが、殿下ばっかりの後編になっています👑
部活ができたら、殿下の心配の種(カナメの精霊が何かやらかすのではないか、と言う)が増えそうでもあるので、参加できない方が周りの人の頭痛の種が増えなくていいのかもしれません🫣
アプリムさんも貴族のおぼっちゃん(という歳では決してありませんが…アーネよりも結構年上なので💦)なのですが、言葉の選び方がアーネたちとは全く違うので思い切って「いちゃつく」を選択してみました。
拍手いただいて嬉しいです🥰
いちごは基本同意してくれたりするような、ポジティブな反応になっています🍓
アプリムに「若い!」と言うと「若い括りにしていただくのは光栄ですが…」と恥ずかしそうにすると思います😊
カナメがそれをそばで聞いていたら「よかったね」と無邪気ににこにこ笑って拍手しそう(で、アプリムはもっと恥ずかしくなっていく)という図になりそうです。