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本編
09
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アンジェリカの卒業式、結局ノアが見る事は叶わなかった。
なにせもうエスコート役は必要ない。
“正しく”行われた式のエスコート役は彼女の父親であるし、卒業生に家族がいるわけでもない。
アーロンからの手紙には、大盛況で終えたと書かれていた。
折角だから姉と慕うアンジェリカの式を見たかったな、とノアは素直に残念がった。
ここで初めて、ノアは自分の個人的な感情でキースに恨み言を吐きたくなったのである。
せめて終わってからにしてくれれば、アンジーお姉様の式が見れたのに……チッ。といった形だ。
あの日、王妃となる事になってしまった事実に驚き呼吸を忘れ倒れてから、自分がここ最近してきたのが王太子妃教育であり一部王妃教育も入っていたのだと知って愕然としたし、父ランベールは常にピリピリして「ノアが王妃なんて……やはりキースは私が直々に……いや」なんて不穏な事を言い出したりするしで
(ぼくが、王妃様かあ……無理じゃないかなあ。だって、ぼくだしなあ)
不安が押しては引いて、押しては引いての連続である。
国王と王妃から聞いたところによると、卒業式いかんで廃嫡するかどうかを決めるつもりだったようだが、あの雰囲気だともう随分前から、それこそノアの教育が王太子妃教育へ変更された時点で、今回の処遇が決まっていたのではないかとノアは感じていた。
アーロンは卒業式前に知ったと言っていたが、大人たちの中ではきっとどこかで見限っていて、ただあの日の騒動でそれが早まっただけなんだろう。ノアはそうも考えている。
国王と王妃からはアーロンと自分となら良い国を作れると言ってもらえたが、今まで王子妃になると思っていたのに突然変わったなんて言われても覚悟が出来ていない。
ノアはずっと、アンジェリカを王子妃として支えていこうと思って過ごしていたのに、突然まさか王太子妃になり王妃になるのだと言われるなんて。
王族に嫁入りするのに覚悟がなかったのかと言われかねなくても、王太子妃ひいては王妃になる覚悟と、王子妃になる覚悟では違うとノアは婚約者になってからの人生で感じていた。
国王を支え、共に国を背負い、そして何かあれば国王の代わりになるだろう。そんな人間に自分がなれるものだろうかと不安は尽きないのだ。
しかしノアは非常に真面目である。
だから不安を抱えつつ、それを母やアーロンに時々吐露しながらも黙々と勉強に励み、王太子の婚約者として日々過ごす。
もうすでに国内外にアーロンが王太子となる事も婚約者はノアのままである事も発表済みだし、今更他の人にアーロンの隣を譲ったりなんて出来ない。
「ぼくなりに、がんばるしかないよね」
そう言ってペンを置いたノアを周りを、ノアを励ますように光がキラキラと輝いていた。
あまりに美しく優しい光に、エルランドは目を細め見ている。
ノアがその事を気にしたのはアーロンとお茶を飲んでいる時。
漸くアーロンの口から「王妃になるなんて事になって、ごめんね」が出て来なくなった今日。
“あの断罪の日”から半月ほど経っていた。
アーロンだって驚いたが元々スペアだ。もし兄に何かあれば国王になる可能性があるスペアである。
本当にそんな日が来るとは一切思っていなかったが、基本長子が家を継ぐこの国ではどんなであれ“あの兄”が国王だと思っていただけに、自分がそうなると言われれば驚くし、今まで以上の重圧を感じる。
しかしそれよりもアーロンは自分の婚約者であるノアにかかるプレッシャーの方を心配していた。
それを口に出せばノアに「もう決まったんだから……そりゃぼくでいいのか?ってぼくが一番思うけどね、でもがんばるしかないじゃん」と逆に励まされているような状態。
思わず「ごめんね」と言えば「ごめんねより『一緒に頑張ろうね』がいい」と怒られる。
口から「ごめんね」が出なくなるまでこんなに時間がかかるなんて、アーロンは思わなかった。
(まったく、兄上はどうしたってあんなにバカになったんだろう。二、三発殴ったら正気に戻ってくれたのかな。いや、ないな。ないな)
昔はもう少しマシだったのに、と思い返して重いため息をついてしまう。
「アーロン様、お疲れさま」
「いや、疲れたというか……兄上がいつからあんなにバカになっていたのかと考えたら、頭が痛くなっただけ」
「学園デビューしちゃったんだね」
「ブハッ」
笑い声はアーロンの従者トマスの口が発生源だ。
エルランドの肩も震えている。
「デビューかあ。言われてみれば、そうかもしれない。でもそんな言葉、ノアはどこで知ったの?」
「クラスの子に聞いたよ。『貴族ばかりの学園だから平民の自分を知る人間もいないし学園デビューしようと目論んだけど、勉強に精一杯でそれどころではなかった』って。それで学園デビューって何?って聞いたんだ」
「そう……。ノアのクラスって面白い子がいるんだね」
二人は違う科に所属しているためクラスが違う。
婚約者のいるクラスだとしても、全てを把握しているわけではない。
「でも、もう決まっちゃったことは決まっちゃったし。ぼくたち、がんばらないとね」
「そうだね。ノアと一緒に、僕も頑張るよ」
のほほん、とした空気で一息したノアがハタ、と思い出した。
これが先に出た“その事”である。
「そういえば……アンジーお姉様は今回の事で婚約者がいなくなっちゃったけど……どうするんだろう。アンジーお姉様やぼくたちの年代に釣り合う人なんていないよ」
「そうなんだよね。家柄的に良くても今の今まで残っているとなるとちょっとなあ、って場合があるから。なんで兄上があんなにバカだったんだろう。ほんとうに、信じられない」
はあああ。と二人の重いため息で本日の休憩時間が終わりを告げた。
婚約者がいなくなったアンジェリカはあの卒業式の日も供として傍にいた侍女シシリーと、王都にある知る人ぞ知る庭園にきている。
大きな庭園のここにはいくつもガゼボが建っており、それぞれ意匠も違い工夫を凝らしているだけではなく、魔力を流すとガゼボとその周辺に防音効果のある膜を貼る事が出来るのが売りであった。
膜とは言っても透明で庭園の景色は見る事が出来、ガゼボの外へ声を聞こえなくする事が出来るだけなのだが、そのだけが良い。
そして知る人ぞ知るだけに“知り合い”と会う事も少なく、気分転換や一人になりたい時などは格好の場所なのだ。
「わたくし、殿下……もう殿下じゃなかったわね、キースがわたくしを多少は尊重して毛嫌いする関係じゃなくなれるのであれば、カレンさんを愛妾にして二人のお子をわたくしと殿下の子として育てるという形にしてくだされさえすれば、それでよかったのよ」
「お嬢様をお飾りの妃なんて私は許せません!」
美味しい紅茶で喉を潤したアンジェリカは「ほう」と息を吐くと
「わたくし、殿下と『国王陛下と王妃殿下』という職業でパートナーになるなら、それでよかったの。いえ、それであれば妥協できたというのかしら。わたくし、脇目も振らずに教育を受けたのだから、それを生かしたいと思ったのよ。だからね、最低限尊重してくださればそれでよかったのに、そうお伝えしても聞いてくださらないし、ねえ」
シシリーはここ自慢のマドレーヌなどが綺麗に盛り付けられた皿から、いくつか選んで皿に取りアンジェリカに渡す。
ここのオーナーが精霊魔法で成長を促し、常に咲くように調えている自慢の薔薇が使われたクリームケーキは見た目も美しい。
「三年にあがるまでは“パートナー”としてならなんとか大丈夫かしらと思っていたのに、三年になった途端アレですもの。わたくし、何が起こっているのか考えるのも把握するのも、みんな投げ出したくなったわ」
「当たり前です!お嬢様を蔑ろにし、よりにもよってあのような、あのような娼婦を」
「シシリー、言葉が悪いわ」
「ああいう女をビッチというのですよ、お嬢様!」
「もっと言葉が悪いわ」
いまだに怒り冷めやらないシシリーは、この話題になると瞬間的に火が吹く。もちろん物理だ。
彼女の得意魔術に火がない事が幸いしている。もし火であればこの件で何度も彼女は何かを燃やしていた可能性があった。
「ごめんなさいね、シシリー。いまだに不思議でわたくし、つい話してしまうの」
「私も不思議でございます。こんなに素敵なお嬢様よりもあんな女狐を選んだなんて、ありえません!」
「シシリー、言葉」
「もう、お嬢様!あのような女は言葉が悪い言葉で十分でございますからね!」
アンジェリカも怒りに似た気持ちはあるが、それは裏切られたからとかそういう理由ではない。
都合がいいように、時には嘘をつき、人を傷つけ、ゴールテープを切ろうした事に、そして喧嘩を売ってきた事の方が怒っている。
元々キースとの関係は良くなかったけれど、カレンと出会うまではなんとか“国王陛下と王妃殿下という職業でつながるパートナー”にはなれるくらいであった。
お互いの関係は冷え切っても国のためになら手を取れる、そういうくらいの気持ちをお互い感じていたはずなのだ。
だからカレンが登場してすぐに、アンジェリカは何度もキースに伝えた。
──────カレンさんは男爵家なので愛妾にしか出来ません。殿下が養子先を“ちゃんと”見つけられるのであれば側室にもなれる可能性もあるでしょう。その方向で考えていきませんか。
最初はアンジェリカだって十分すぎる協力をしようと、その努力を惜しまないと思っていたのにそれを無にしたのはあちらだ。
「まあ、でもいいのよ。わたくし、夢が叶いそうなんですもの」
「お嬢様の夢でございますか?まあ!お嬢様の夢!私にそのお話をぜひ聞かせてくださいませ」
「ふふ、本当に決まったら、真っ先に教えるわよ。さあ、楽しいお話をして美味しい紅茶とお菓子を食べて帰りましょう。シシリーもほら、たまには一緒に食べなさい。いい?これは命令よ」
アンジェリカはこの庭園に咲き誇る薔薇のように美しい笑顔で「夢が叶うっていいわね」と笑っている。
なにせもうエスコート役は必要ない。
“正しく”行われた式のエスコート役は彼女の父親であるし、卒業生に家族がいるわけでもない。
アーロンからの手紙には、大盛況で終えたと書かれていた。
折角だから姉と慕うアンジェリカの式を見たかったな、とノアは素直に残念がった。
ここで初めて、ノアは自分の個人的な感情でキースに恨み言を吐きたくなったのである。
せめて終わってからにしてくれれば、アンジーお姉様の式が見れたのに……チッ。といった形だ。
あの日、王妃となる事になってしまった事実に驚き呼吸を忘れ倒れてから、自分がここ最近してきたのが王太子妃教育であり一部王妃教育も入っていたのだと知って愕然としたし、父ランベールは常にピリピリして「ノアが王妃なんて……やはりキースは私が直々に……いや」なんて不穏な事を言い出したりするしで
(ぼくが、王妃様かあ……無理じゃないかなあ。だって、ぼくだしなあ)
不安が押しては引いて、押しては引いての連続である。
国王と王妃から聞いたところによると、卒業式いかんで廃嫡するかどうかを決めるつもりだったようだが、あの雰囲気だともう随分前から、それこそノアの教育が王太子妃教育へ変更された時点で、今回の処遇が決まっていたのではないかとノアは感じていた。
アーロンは卒業式前に知ったと言っていたが、大人たちの中ではきっとどこかで見限っていて、ただあの日の騒動でそれが早まっただけなんだろう。ノアはそうも考えている。
国王と王妃からはアーロンと自分となら良い国を作れると言ってもらえたが、今まで王子妃になると思っていたのに突然変わったなんて言われても覚悟が出来ていない。
ノアはずっと、アンジェリカを王子妃として支えていこうと思って過ごしていたのに、突然まさか王太子妃になり王妃になるのだと言われるなんて。
王族に嫁入りするのに覚悟がなかったのかと言われかねなくても、王太子妃ひいては王妃になる覚悟と、王子妃になる覚悟では違うとノアは婚約者になってからの人生で感じていた。
国王を支え、共に国を背負い、そして何かあれば国王の代わりになるだろう。そんな人間に自分がなれるものだろうかと不安は尽きないのだ。
しかしノアは非常に真面目である。
だから不安を抱えつつ、それを母やアーロンに時々吐露しながらも黙々と勉強に励み、王太子の婚約者として日々過ごす。
もうすでに国内外にアーロンが王太子となる事も婚約者はノアのままである事も発表済みだし、今更他の人にアーロンの隣を譲ったりなんて出来ない。
「ぼくなりに、がんばるしかないよね」
そう言ってペンを置いたノアを周りを、ノアを励ますように光がキラキラと輝いていた。
あまりに美しく優しい光に、エルランドは目を細め見ている。
ノアがその事を気にしたのはアーロンとお茶を飲んでいる時。
漸くアーロンの口から「王妃になるなんて事になって、ごめんね」が出て来なくなった今日。
“あの断罪の日”から半月ほど経っていた。
アーロンだって驚いたが元々スペアだ。もし兄に何かあれば国王になる可能性があるスペアである。
本当にそんな日が来るとは一切思っていなかったが、基本長子が家を継ぐこの国ではどんなであれ“あの兄”が国王だと思っていただけに、自分がそうなると言われれば驚くし、今まで以上の重圧を感じる。
しかしそれよりもアーロンは自分の婚約者であるノアにかかるプレッシャーの方を心配していた。
それを口に出せばノアに「もう決まったんだから……そりゃぼくでいいのか?ってぼくが一番思うけどね、でもがんばるしかないじゃん」と逆に励まされているような状態。
思わず「ごめんね」と言えば「ごめんねより『一緒に頑張ろうね』がいい」と怒られる。
口から「ごめんね」が出なくなるまでこんなに時間がかかるなんて、アーロンは思わなかった。
(まったく、兄上はどうしたってあんなにバカになったんだろう。二、三発殴ったら正気に戻ってくれたのかな。いや、ないな。ないな)
昔はもう少しマシだったのに、と思い返して重いため息をついてしまう。
「アーロン様、お疲れさま」
「いや、疲れたというか……兄上がいつからあんなにバカになっていたのかと考えたら、頭が痛くなっただけ」
「学園デビューしちゃったんだね」
「ブハッ」
笑い声はアーロンの従者トマスの口が発生源だ。
エルランドの肩も震えている。
「デビューかあ。言われてみれば、そうかもしれない。でもそんな言葉、ノアはどこで知ったの?」
「クラスの子に聞いたよ。『貴族ばかりの学園だから平民の自分を知る人間もいないし学園デビューしようと目論んだけど、勉強に精一杯でそれどころではなかった』って。それで学園デビューって何?って聞いたんだ」
「そう……。ノアのクラスって面白い子がいるんだね」
二人は違う科に所属しているためクラスが違う。
婚約者のいるクラスだとしても、全てを把握しているわけではない。
「でも、もう決まっちゃったことは決まっちゃったし。ぼくたち、がんばらないとね」
「そうだね。ノアと一緒に、僕も頑張るよ」
のほほん、とした空気で一息したノアがハタ、と思い出した。
これが先に出た“その事”である。
「そういえば……アンジーお姉様は今回の事で婚約者がいなくなっちゃったけど……どうするんだろう。アンジーお姉様やぼくたちの年代に釣り合う人なんていないよ」
「そうなんだよね。家柄的に良くても今の今まで残っているとなるとちょっとなあ、って場合があるから。なんで兄上があんなにバカだったんだろう。ほんとうに、信じられない」
はあああ。と二人の重いため息で本日の休憩時間が終わりを告げた。
婚約者がいなくなったアンジェリカはあの卒業式の日も供として傍にいた侍女シシリーと、王都にある知る人ぞ知る庭園にきている。
大きな庭園のここにはいくつもガゼボが建っており、それぞれ意匠も違い工夫を凝らしているだけではなく、魔力を流すとガゼボとその周辺に防音効果のある膜を貼る事が出来るのが売りであった。
膜とは言っても透明で庭園の景色は見る事が出来、ガゼボの外へ声を聞こえなくする事が出来るだけなのだが、そのだけが良い。
そして知る人ぞ知るだけに“知り合い”と会う事も少なく、気分転換や一人になりたい時などは格好の場所なのだ。
「わたくし、殿下……もう殿下じゃなかったわね、キースがわたくしを多少は尊重して毛嫌いする関係じゃなくなれるのであれば、カレンさんを愛妾にして二人のお子をわたくしと殿下の子として育てるという形にしてくだされさえすれば、それでよかったのよ」
「お嬢様をお飾りの妃なんて私は許せません!」
美味しい紅茶で喉を潤したアンジェリカは「ほう」と息を吐くと
「わたくし、殿下と『国王陛下と王妃殿下』という職業でパートナーになるなら、それでよかったの。いえ、それであれば妥協できたというのかしら。わたくし、脇目も振らずに教育を受けたのだから、それを生かしたいと思ったのよ。だからね、最低限尊重してくださればそれでよかったのに、そうお伝えしても聞いてくださらないし、ねえ」
シシリーはここ自慢のマドレーヌなどが綺麗に盛り付けられた皿から、いくつか選んで皿に取りアンジェリカに渡す。
ここのオーナーが精霊魔法で成長を促し、常に咲くように調えている自慢の薔薇が使われたクリームケーキは見た目も美しい。
「三年にあがるまでは“パートナー”としてならなんとか大丈夫かしらと思っていたのに、三年になった途端アレですもの。わたくし、何が起こっているのか考えるのも把握するのも、みんな投げ出したくなったわ」
「当たり前です!お嬢様を蔑ろにし、よりにもよってあのような、あのような娼婦を」
「シシリー、言葉が悪いわ」
「ああいう女をビッチというのですよ、お嬢様!」
「もっと言葉が悪いわ」
いまだに怒り冷めやらないシシリーは、この話題になると瞬間的に火が吹く。もちろん物理だ。
彼女の得意魔術に火がない事が幸いしている。もし火であればこの件で何度も彼女は何かを燃やしていた可能性があった。
「ごめんなさいね、シシリー。いまだに不思議でわたくし、つい話してしまうの」
「私も不思議でございます。こんなに素敵なお嬢様よりもあんな女狐を選んだなんて、ありえません!」
「シシリー、言葉」
「もう、お嬢様!あのような女は言葉が悪い言葉で十分でございますからね!」
アンジェリカも怒りに似た気持ちはあるが、それは裏切られたからとかそういう理由ではない。
都合がいいように、時には嘘をつき、人を傷つけ、ゴールテープを切ろうした事に、そして喧嘩を売ってきた事の方が怒っている。
元々キースとの関係は良くなかったけれど、カレンと出会うまではなんとか“国王陛下と王妃殿下という職業でつながるパートナー”にはなれるくらいであった。
お互いの関係は冷え切っても国のためになら手を取れる、そういうくらいの気持ちをお互い感じていたはずなのだ。
だからカレンが登場してすぐに、アンジェリカは何度もキースに伝えた。
──────カレンさんは男爵家なので愛妾にしか出来ません。殿下が養子先を“ちゃんと”見つけられるのであれば側室にもなれる可能性もあるでしょう。その方向で考えていきませんか。
最初はアンジェリカだって十分すぎる協力をしようと、その努力を惜しまないと思っていたのにそれを無にしたのはあちらだ。
「まあ、でもいいのよ。わたくし、夢が叶いそうなんですもの」
「お嬢様の夢でございますか?まあ!お嬢様の夢!私にそのお話をぜひ聞かせてくださいませ」
「ふふ、本当に決まったら、真っ先に教えるわよ。さあ、楽しいお話をして美味しい紅茶とお菓子を食べて帰りましょう。シシリーもほら、たまには一緒に食べなさい。いい?これは命令よ」
アンジェリカはこの庭園に咲き誇る薔薇のように美しい笑顔で「夢が叶うっていいわね」と笑っている。
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