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番外編:本編完結後
★ 拗らせ思春期野郎の憂鬱:前編
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巽がそれを知ったのは、本当に偶然だった。
前々から度の超す我儘を叶えさせる子供だと思っていたが、まさかまさかそんな事をさせているとは、巽は思ってもいなかったのである。
──────俺、彼シャツ支持派だもんね!
なんのこっちゃ?と思った巽はよくよく話を聞いた。
何かで“彼シャツ”と言うものを知った、巽の世話役椿田龍二──世話役の任はとっくの昔に解かれているが、文字通り恐ろしい事に龍二はそれはもう大真面目に生涯巽の世話役のつもりでいる──の唯一の愛人澤村奏はその時から今日に至るまで、夜は基本彼シャツでいるのだと言う。そして飽きるまで生涯それでいると。
──────相手はりゅーじさんだからね、ドキドキさせる事は出来ないだろーけれど、自己満足!上は俺、下は龍二さん。はんぶんこってあれ!
だとか。
よくそんな事を奏に許したのだと巽は思ったが
(まあ、なんだかんだ、奏を愛してるからそんくらいやってやるか。あいつ、そういうやつだもんなあ)
そういう気持ちで片付けた。この気持ちを例えばこれまた巽をよく知る中町祥之助あたりが聞けば
「奏さんとは種類が違えど、巽さんのお願いならなんでも叶えますよ、あの人」
とでも言うだろうけれど。
まあ、ともかく巽は彼シャツというものを、頭の隅に置いてしまったのであった。
巽は男女関係なく服装如何によって興奮したりすると言うような、そういう事はなかった。
好みの女が誘惑するような服装をしていても「で?」としか思わない、と言う事だ。
好みの相手であるのなら、服装は関係ない。つまり好みではない相手も、服装で気持ちが左右される事は一切ないと言う事である。
しかし、それは違ったと、自分は間違っていたのだと今の彼は知っていた。
改めて恋人になってくれたカイトにだけは、服装で左右されると知ってしまったのだ。
となるととても気になってしまう。
随分前に奏から聞いて頭の隅っこに残ってしまったソレが。
「──────うん、巽さんがヘンになったのはわかった」
「そういう誤解を生むような……!」
「姉さんなら言うよ、『変態か』って。笑顔で」
ちょっと引き気味に言うのはカイト。
そんな事を言わないでくれ、と言うのは巽。
二人がいるのは巽の家である。
外は快晴。とてもいい天気、いい青空。雲ひとつなく、きれいな青空が広がり、時折気持ちのいい風が吹く。それはそれは過ごしやすい陽気。
実に、最高だ。
「だって、言う?俺は言わないよ……」
「そりゃ俺に彼シャツってなァ?」
「違うって、俺が、彼女とかに対して、だよ。思ったコトもない」
この人、変だ。と言わんばかりの視線に巽は居心地悪く感じつつ、でもめげない。
こんな事をお願いする巽なんて、年齢のせいもあって、とても大変すっごく哀れである。
でも本人は気になってしまったし、見てみたいし、興味があるし
(何より、なんとなく悔しいじゃねえか)
世話役龍二に対して、ちょっとした対抗心だ。
今の巽の主成分は子供のような駄々と、あきれるほどの好奇心だろう。今現在、とても悲しい男になってしまった。
「仮に彼シャツ、してあげたとして。俺になにも得ない、よね?」
「あァ?」
「だって、巽さんが嬉しいだけ。俺は何もいい事がない、でしょ」
まさか、ただ自分のシャツを着てもらう事が対価を求められるような事だと思わずに、巽は目をまん丸くする。
「ただ着るだけじゃねェか」
「超下心がある状態の人のをね」
「手を出してェとか言ってるわけでもないだろ」
二人でじっと見つめ合っていたが、二人でため息をついた。
カイトが巽に手を伸ばす。
「貸して」
なんだかんだ言ったって、カイトも随分と巽に甘くなった。
折れる事も増えたし、仕方がないなと可愛いわがままくらいは叶えるようになった。
こうして言うとカイトが巽を下に見ているような感じがするが、そう言うわけではない。
ただよりを戻しギクシャクしていた頃を過ぎて、ようやく二人でまた心を寄り添わせて過ごし始めようとしている中で生まれた変化なだけだ。
いくらカイトが自分からもう一度巽と付き合うと決めて向き合おうとしていたとはいえ、そうそう簡単に許して元通りなんて出来ない。
今だって、きっとこれからも、カイトはふとした瞬間巽を許せない気持ちで支配される事もあるだろう。
けれど巽はそれで良いと言う。それを受け止められる、受け止めたいからこそ、一緒にいるのだと胸を張って言う。
そうやって二人で本当に普通に、特別な事なんてひとつもなく過ごしている中で漸く、カイトは巽を甘やかしてみたり、しつこい巽に折れてみたり出来るようになった。
そう、やっと、出来るようになったのだ。
「巽さん、これ、下、本当に何も履かないの?」
「は?」
「ごめん、そうだった、巽さんは、思春期に突入してたんだっけ……。下は下着しか履けないんでしょ」
「ああ……っていうか、なんだ、思春期っておい」
「兄さんが笑顔で言ってた。『藤は拗らせた思春期の男の子に成り下がってる』って」
「なりさがって……俊哉のやろう……あいつ……絶対に頼まれたワインを手に入れてやるものか」
「兄さんは巽さんに超甘いから笑って済ますけど、姉さんが怒るよ。そのワイン、姉さんが、欲しがってたやつだから」
「あの夫婦、理不尽だな!」
前々から度の超す我儘を叶えさせる子供だと思っていたが、まさかまさかそんな事をさせているとは、巽は思ってもいなかったのである。
──────俺、彼シャツ支持派だもんね!
なんのこっちゃ?と思った巽はよくよく話を聞いた。
何かで“彼シャツ”と言うものを知った、巽の世話役椿田龍二──世話役の任はとっくの昔に解かれているが、文字通り恐ろしい事に龍二はそれはもう大真面目に生涯巽の世話役のつもりでいる──の唯一の愛人澤村奏はその時から今日に至るまで、夜は基本彼シャツでいるのだと言う。そして飽きるまで生涯それでいると。
──────相手はりゅーじさんだからね、ドキドキさせる事は出来ないだろーけれど、自己満足!上は俺、下は龍二さん。はんぶんこってあれ!
だとか。
よくそんな事を奏に許したのだと巽は思ったが
(まあ、なんだかんだ、奏を愛してるからそんくらいやってやるか。あいつ、そういうやつだもんなあ)
そういう気持ちで片付けた。この気持ちを例えばこれまた巽をよく知る中町祥之助あたりが聞けば
「奏さんとは種類が違えど、巽さんのお願いならなんでも叶えますよ、あの人」
とでも言うだろうけれど。
まあ、ともかく巽は彼シャツというものを、頭の隅に置いてしまったのであった。
巽は男女関係なく服装如何によって興奮したりすると言うような、そういう事はなかった。
好みの女が誘惑するような服装をしていても「で?」としか思わない、と言う事だ。
好みの相手であるのなら、服装は関係ない。つまり好みではない相手も、服装で気持ちが左右される事は一切ないと言う事である。
しかし、それは違ったと、自分は間違っていたのだと今の彼は知っていた。
改めて恋人になってくれたカイトにだけは、服装で左右されると知ってしまったのだ。
となるととても気になってしまう。
随分前に奏から聞いて頭の隅っこに残ってしまったソレが。
「──────うん、巽さんがヘンになったのはわかった」
「そういう誤解を生むような……!」
「姉さんなら言うよ、『変態か』って。笑顔で」
ちょっと引き気味に言うのはカイト。
そんな事を言わないでくれ、と言うのは巽。
二人がいるのは巽の家である。
外は快晴。とてもいい天気、いい青空。雲ひとつなく、きれいな青空が広がり、時折気持ちのいい風が吹く。それはそれは過ごしやすい陽気。
実に、最高だ。
「だって、言う?俺は言わないよ……」
「そりゃ俺に彼シャツってなァ?」
「違うって、俺が、彼女とかに対して、だよ。思ったコトもない」
この人、変だ。と言わんばかりの視線に巽は居心地悪く感じつつ、でもめげない。
こんな事をお願いする巽なんて、年齢のせいもあって、とても大変すっごく哀れである。
でも本人は気になってしまったし、見てみたいし、興味があるし
(何より、なんとなく悔しいじゃねえか)
世話役龍二に対して、ちょっとした対抗心だ。
今の巽の主成分は子供のような駄々と、あきれるほどの好奇心だろう。今現在、とても悲しい男になってしまった。
「仮に彼シャツ、してあげたとして。俺になにも得ない、よね?」
「あァ?」
「だって、巽さんが嬉しいだけ。俺は何もいい事がない、でしょ」
まさか、ただ自分のシャツを着てもらう事が対価を求められるような事だと思わずに、巽は目をまん丸くする。
「ただ着るだけじゃねェか」
「超下心がある状態の人のをね」
「手を出してェとか言ってるわけでもないだろ」
二人でじっと見つめ合っていたが、二人でため息をついた。
カイトが巽に手を伸ばす。
「貸して」
なんだかんだ言ったって、カイトも随分と巽に甘くなった。
折れる事も増えたし、仕方がないなと可愛いわがままくらいは叶えるようになった。
こうして言うとカイトが巽を下に見ているような感じがするが、そう言うわけではない。
ただよりを戻しギクシャクしていた頃を過ぎて、ようやく二人でまた心を寄り添わせて過ごし始めようとしている中で生まれた変化なだけだ。
いくらカイトが自分からもう一度巽と付き合うと決めて向き合おうとしていたとはいえ、そうそう簡単に許して元通りなんて出来ない。
今だって、きっとこれからも、カイトはふとした瞬間巽を許せない気持ちで支配される事もあるだろう。
けれど巽はそれで良いと言う。それを受け止められる、受け止めたいからこそ、一緒にいるのだと胸を張って言う。
そうやって二人で本当に普通に、特別な事なんてひとつもなく過ごしている中で漸く、カイトは巽を甘やかしてみたり、しつこい巽に折れてみたり出来るようになった。
そう、やっと、出来るようになったのだ。
「巽さん、これ、下、本当に何も履かないの?」
「は?」
「ごめん、そうだった、巽さんは、思春期に突入してたんだっけ……。下は下着しか履けないんでしょ」
「ああ……っていうか、なんだ、思春期っておい」
「兄さんが笑顔で言ってた。『藤は拗らせた思春期の男の子に成り下がってる』って」
「なりさがって……俊哉のやろう……あいつ……絶対に頼まれたワインを手に入れてやるものか」
「兄さんは巽さんに超甘いから笑って済ますけど、姉さんが怒るよ。そのワイン、姉さんが、欲しがってたやつだから」
「あの夫婦、理不尽だな!」
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