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第2章
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王都の近くで何があっても対応できる様にと潜んでいたヴァールストレーム辺境伯爵の部下の一人が、ヴァールストレーム辺境伯爵領へ戻ってきた。
彼は白い光が王都を包み光の柱が上がった後、なぜか王都に入れなくなったと言い、ユスティとハイルを見つけ連れ出すと言うそれを遂行できなかったとヴェヒテに頭を下げた。
同時に、王都からポツポツと出てくる人間がいることに気がつき、彼らに話を聞くと彼らも王都に入れなくなり困惑しており、結局一番近い領地まで困惑していた彼らと共に行ったことをその場で口頭にて報告した。
その中の一家に「ハイルを殺したハイルを見たか」と聞いたところ、ハイルが連行される瞬間を見ていたのだと証言し、「あんなに幼い子供が人を殺せるはずはない。あれはただの生贄だよ。あんなに小さい子が、かわいそうに……」と話していたのだと言う。
それを聞いていた他のものも、「たしかに、あれは怒りを向けるために用意された可哀そうな子供に違いないよ。あの子が生きているといいのだけれど」と同情し憐れんでいた。
「その、私に『ハイル様は生贄』だと言った、その一家のものたちが言うには」と、部下の男は前置きし、王都を出た時の様子を教えてくれたと報告に加えた。
ヴェヒテに伝えたその様子によると、光に包まれた瞬間一家で身を寄せ合い抱きしめあい、あたりが静かになると全員が唐突に「王都から離れなければ」という気持ちになったそうだ。
そして慌てて必要最低限の荷物を持ち王都から出たところでこの部下に出会ったのだと。
ヴェヒテはここでやはりと頷いた。
二度目はないと言ったシュピーラドが有言実行したのだと、確信をしたのである。
王都、および光の柱が天高く建った──現在は光の柱は全て消滅しているが──領地には一切侵入ができない。
犬も猫も小鳥でさえも。
ヴェヒテの部下と共に行動した家族の様に光が収まった途端「ここから出なければ」と強く思い、最低限の荷物で逃げたものも──────いや、逃げることが叶った者もいる様で、その彼らも話してくれた他のものと同様に、戻ろうとしても何かに邪魔をされ入れなかった。
ある意味住み慣れた領地から弾かれる様に追い出される格好となった領民は多く、彼らは一番近い領地へ入りそこで再び生活を始めている。
最初は「突然現れた人間を受け入れてくれるだろうか」と心配だった“弾かれてしまった”彼らを、その領地の人間は不思議と優しく受け入れてくれていた。
新しい領地での生活は大変だろう彼らだが、この分であればきっと問題はないだろう。
また、ヴェヒテは王都から戻り報告してくれた部下が帰る道で光の柱が建った領地をある程度調べてきてくれたのもあり、その近隣領地の当主宛に早馬で書簡を持って行かせた。
突然現れ膨れた領民で困ることもあるだろうから、治安に問題ができたら騎士や兵士、もし技術者や金銭で困ったらそれをできる限り手助けしたい。と。
王都に光の柱が建ち入れなくなった今、王家に何かを頼むことはもう不可能だろう。王族はみな王都にいたのだ。そうなれば養子に出たとはいえ、王族の血を引く唯一の人間はヴェヒテだけに。
そもそも、あの王家が今も健在であったとして、こんな状況であっても彼らは決して動かなかっただろう。
そんな王家の血を、ヴェヒテが今、どれだけ恥じているだろうか。きっと想像できないほどに違いない。
そして今彼は、その王家の血を引くものとして、あれを引き起こした王の弟として、何かしなければとヴェヒテは強く責任を感じていた。
「あなたが責任を感じる必要はないわ。だってあなたの人生は決まっていたんですもの。あなたは残念がっていたのかもしれないけれど、あなたはヴァールストレーム辺境伯爵の養子になると決まっていたから、ここのためにさまざまなことを学び力を手に入れたわ。同じ様にこの国の王になるあの人を、王にすると決めたものたちは育てなければならなかったんですもの」
ヴェヒテをヘレナはそう言って励ますが、なかなか「そうだな」とは思えない。それが彼なのだろう。
「あなたはまだただのヴァールストレーム辺境伯爵ですわ。今は行方不明のユスティとハイルのことも考えましょう?あとは領民の安全ね。大丈夫よ。この領地のみんなは、あなたのことを愛してるもの。大丈夫。守れるわ」
座っているヴェヒテの頭を胸に抱き込む様にギュッと抱きしめたヘレナは、ヘレナの腕を巻き込む様に顔を覆い泣くのを堪えるヴェヒテにただ寄り添った。
妻に抱きしめられ様々な感情が入り乱れて泣いた──正確には泣きそうになった、だけれど──ヴェヒテは、ニコライに冷たい水を張ったタライとタオルを持ってこさせ、それで顔を洗うと服を直し髪を整え、城の敷地内の神殿に向かった。
神殿の扉を開けると王座にはこんもりと花が置かれている。
ヴェヒテはそれを見て、久しぶりに少し笑った。
ハイルが花を王座に置くのを知っていた兵士やメイドたちが、ハイルがいなくなってしまった後、早くハイルが帰ってきます様にと願をかけて、あるものは一輪、あるものは花束で、この王座に捧げていくのだ。
それは今も続いていて、毎日こうしたこんもりした花の山を見ることができる。
誘われるようにヴェヒテが王座に近づくとその後ろに無表情のシュピーラドが現れ、ヴェヒテは見た瞬間に頭がカッと白くなり駆け出しシュピーラドのその顔に拳を叩き込もうとしたが
「すごいですね……僕たちの判断ですか……」
寸前でそれがピクリとも動かない。
王座を挟んで二人は顔を見合わせ、ヴェヒテが先に「いい加減にしてくださいよ」と呟いた。
シュピーラドは答えない。
「あれほど『精霊界と人間界では時間の流れが違う』と言いながら、なんでこんなに帰ってこないんです!ユスティとハイルはどこにいるんですか!!!」
遠慮なく怒鳴るヴェヒテの拳をシュピーラドは握り、深く頭を下げた。
彼は白い光が王都を包み光の柱が上がった後、なぜか王都に入れなくなったと言い、ユスティとハイルを見つけ連れ出すと言うそれを遂行できなかったとヴェヒテに頭を下げた。
同時に、王都からポツポツと出てくる人間がいることに気がつき、彼らに話を聞くと彼らも王都に入れなくなり困惑しており、結局一番近い領地まで困惑していた彼らと共に行ったことをその場で口頭にて報告した。
その中の一家に「ハイルを殺したハイルを見たか」と聞いたところ、ハイルが連行される瞬間を見ていたのだと証言し、「あんなに幼い子供が人を殺せるはずはない。あれはただの生贄だよ。あんなに小さい子が、かわいそうに……」と話していたのだと言う。
それを聞いていた他のものも、「たしかに、あれは怒りを向けるために用意された可哀そうな子供に違いないよ。あの子が生きているといいのだけれど」と同情し憐れんでいた。
「その、私に『ハイル様は生贄』だと言った、その一家のものたちが言うには」と、部下の男は前置きし、王都を出た時の様子を教えてくれたと報告に加えた。
ヴェヒテに伝えたその様子によると、光に包まれた瞬間一家で身を寄せ合い抱きしめあい、あたりが静かになると全員が唐突に「王都から離れなければ」という気持ちになったそうだ。
そして慌てて必要最低限の荷物を持ち王都から出たところでこの部下に出会ったのだと。
ヴェヒテはここでやはりと頷いた。
二度目はないと言ったシュピーラドが有言実行したのだと、確信をしたのである。
王都、および光の柱が天高く建った──現在は光の柱は全て消滅しているが──領地には一切侵入ができない。
犬も猫も小鳥でさえも。
ヴェヒテの部下と共に行動した家族の様に光が収まった途端「ここから出なければ」と強く思い、最低限の荷物で逃げたものも──────いや、逃げることが叶った者もいる様で、その彼らも話してくれた他のものと同様に、戻ろうとしても何かに邪魔をされ入れなかった。
ある意味住み慣れた領地から弾かれる様に追い出される格好となった領民は多く、彼らは一番近い領地へ入りそこで再び生活を始めている。
最初は「突然現れた人間を受け入れてくれるだろうか」と心配だった“弾かれてしまった”彼らを、その領地の人間は不思議と優しく受け入れてくれていた。
新しい領地での生活は大変だろう彼らだが、この分であればきっと問題はないだろう。
また、ヴェヒテは王都から戻り報告してくれた部下が帰る道で光の柱が建った領地をある程度調べてきてくれたのもあり、その近隣領地の当主宛に早馬で書簡を持って行かせた。
突然現れ膨れた領民で困ることもあるだろうから、治安に問題ができたら騎士や兵士、もし技術者や金銭で困ったらそれをできる限り手助けしたい。と。
王都に光の柱が建ち入れなくなった今、王家に何かを頼むことはもう不可能だろう。王族はみな王都にいたのだ。そうなれば養子に出たとはいえ、王族の血を引く唯一の人間はヴェヒテだけに。
そもそも、あの王家が今も健在であったとして、こんな状況であっても彼らは決して動かなかっただろう。
そんな王家の血を、ヴェヒテが今、どれだけ恥じているだろうか。きっと想像できないほどに違いない。
そして今彼は、その王家の血を引くものとして、あれを引き起こした王の弟として、何かしなければとヴェヒテは強く責任を感じていた。
「あなたが責任を感じる必要はないわ。だってあなたの人生は決まっていたんですもの。あなたは残念がっていたのかもしれないけれど、あなたはヴァールストレーム辺境伯爵の養子になると決まっていたから、ここのためにさまざまなことを学び力を手に入れたわ。同じ様にこの国の王になるあの人を、王にすると決めたものたちは育てなければならなかったんですもの」
ヴェヒテをヘレナはそう言って励ますが、なかなか「そうだな」とは思えない。それが彼なのだろう。
「あなたはまだただのヴァールストレーム辺境伯爵ですわ。今は行方不明のユスティとハイルのことも考えましょう?あとは領民の安全ね。大丈夫よ。この領地のみんなは、あなたのことを愛してるもの。大丈夫。守れるわ」
座っているヴェヒテの頭を胸に抱き込む様にギュッと抱きしめたヘレナは、ヘレナの腕を巻き込む様に顔を覆い泣くのを堪えるヴェヒテにただ寄り添った。
妻に抱きしめられ様々な感情が入り乱れて泣いた──正確には泣きそうになった、だけれど──ヴェヒテは、ニコライに冷たい水を張ったタライとタオルを持ってこさせ、それで顔を洗うと服を直し髪を整え、城の敷地内の神殿に向かった。
神殿の扉を開けると王座にはこんもりと花が置かれている。
ヴェヒテはそれを見て、久しぶりに少し笑った。
ハイルが花を王座に置くのを知っていた兵士やメイドたちが、ハイルがいなくなってしまった後、早くハイルが帰ってきます様にと願をかけて、あるものは一輪、あるものは花束で、この王座に捧げていくのだ。
それは今も続いていて、毎日こうしたこんもりした花の山を見ることができる。
誘われるようにヴェヒテが王座に近づくとその後ろに無表情のシュピーラドが現れ、ヴェヒテは見た瞬間に頭がカッと白くなり駆け出しシュピーラドのその顔に拳を叩き込もうとしたが
「すごいですね……僕たちの判断ですか……」
寸前でそれがピクリとも動かない。
王座を挟んで二人は顔を見合わせ、ヴェヒテが先に「いい加減にしてくださいよ」と呟いた。
シュピーラドは答えない。
「あれほど『精霊界と人間界では時間の流れが違う』と言いながら、なんでこんなに帰ってこないんです!ユスティとハイルはどこにいるんですか!!!」
遠慮なく怒鳴るヴェヒテの拳をシュピーラドは握り、深く頭を下げた。
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