運命のつがいと初恋

鈴本ちか

文字の大きさ
上 下
13 / 76
運命のつがいと初恋 第1章

しおりを挟む
 最寄り駅には出口が二つ、東と西にあったが西と指示があったので西出口の道路側で待つことにした。どう考えてもタクシーより陽向の方が先に着いているはずだ。
 どこのタクシー会社か聞こうかとスマホを弄っていたら目の前に黒光りしている車が止まった。車種に詳しくない陽向でも高級車と分かる。陽向は車道から離れながらまたスマホへ目を落とした。

「三田村様でしょうか?」

 背後から声がかかる。振り返ると黒いスーツ姿の男がいた。ずいぶんと背が高い男だ、身体つきはプロレスラーのように分厚い。短髪に銀フレームの眼鏡、身体のわりに小顔を支える首の太さは尋常じゃなく普通のサラリーマンと思えない。

「え、ええと、はい、そうですが」

 後ずさりながらぼそぼそと、聞かれたことに答える。東園が頼んだタクシーの運転手だろうか、ここで名前を呼ばれるんだ、きっとそうなんだろうけれど。
 最近のタクシーは防犯上屈強そうな人員を集めているのかもしれないなと思いながら道路に目を向けるが、高級車のほかは停車していない。
 ハザードランプの光を見ながらこれがタクシーかと首をかしげる。使わないからタクシー事情を知らないのだが、タクシーといえば黄色や赤など派手な塗装のイメージがある。 

「あ、私は東園の秘書をしております北見と申します。この体格なので誤解されやすいのですが怪しい者ではございませんので、どうぞお乗り下さい。東園の自宅へお連れいたします」
「秘書って、ええと」

 タクシーじゃなかったのか、そういえば車を、とは言っていたけれどタクシーって言葉は出ていなかったかも。
 秘書という職種があるのは知っているが初めて見た。東園って、何してるんだろうと改めて思う。秘書がいる仕事って、やはり経営者なのか。
 安易について行っていいのだろうか。ここで東園と待ち合わせていること、自分の氏名を知っていることを考えあわせてきっとこの人は本当に東園の秘書で、自分を迎えに来たのだろうけど。陽向は北見と名乗った男にちょっと失礼しますの気持ちを込めて頭を下げるとすぐさまスマホを取り東園に電話をかけた。
 本人に確認するのが早い。 

「三田村、電車は降りたか?」

 ワンコールで東園が出た。

「降りたよ。いま駅なんだけど、北見さんって人の車に乗っていいんだよね」
「北見に会えたか、よかった」
「わざわざ会社の人に頼まなくても、歩いていけたのに。駅から二十分くらいだろ?」
「駄目だ。もう暗いだろ、家まで街灯が少ない場所もあるから危ない」
「は? 危ないってことあるか。まだ七時半だし」
「とにかくすぐ来てくれ」

 危ない、とは。Ωだからか。満員電車は確かに毎日のように乗っていたら危ないかもしれないが、外は危ないという程ではない。
 北見の視線を感じて陽向はスマホをポケットにねじ込みよろしくお願いします、と頭を下げた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

処理中です...