39 / 39
エピローグ
しおりを挟むあのドラゴンの浄化から一年……。
「おはようアル! 今日の浄化場所は林の中にあるんだよね?」
私は今東の領地を巡っている。
あれから私達はまた西の領地へと移動し、西が終わったら北、それが終わった東と移動してきた。この東の領地が終われば、今邪気に侵されている場所の浄化は一通り完了する。
結局あの湖以外は長年浄化されていなかった場所は見当たらず、順調に浄化することが出来ている。
あとは定期的に巡回に出て、異常がないか、新しく邪気が発生した場所がないか確認するのが私の今後の仕事だ。
今も婚約者のアルは浄化部隊の隊長として、私を守ってくれている。
「そうだよ。この町を通過したらだんだん道が狭くなるから、林に着いたら俺の馬に乗ってもらう予定だよ」
「分かった。ここが終わったらそろそろ旅も終わりなんだよね」
「あぁ。もう8割程完了しているからね。あと半年以内には終わると思う。この旅が終わったら王都に戻り式をあげよう」
「うん! その為にも頑張らなくっちゃね!」
「あぁ。メイの綺麗な姿が見れると思うと楽しみだな。早く式をあげて俺だけのメイにしたい」
「俺だけのって……もうっ! 恥ずかしいよ。でも私もアルのタキシード姿が楽しみだなぁ。絶対かっこいいもん!」
浄化の旅も以前と違うのは、週に2日の浄化から週4日の浄化へと契約更新をしたこと。もう前の会社も辞めてアパートも解約し、身辺整理も済ませて元の世界に戻ることはなくなったのだ。こちらの世界に住むようになってからは2日浄化して、2、3日休んでまた2日浄化してというリズムで過ごしている。
浄化の日が増えた分、私も限界まで力を使うことがなくなって、食事もお粥生活から解放されている。お給金も上がり、浄化のペースも早くなって良いこと尽くしだ。
今は旅を早く終えて、アルとの結婚式をするのを心待ちにしている。順調に交際を続け、今ではアルと愛称で呼ぶ仲になっているのだ。そしてこの旅が終わった際には、彼は侯爵位を授けられるらしい。本当なら伯爵位になるはずだったのだが、私との婚約を踏まえて王様が奮発してくれた。
実はこの為にお父さんとお兄さんが不正を働いてた侯爵家を一つ潰したとかなんとか。その侯爵家というのが、なんとあの私が拉致された事件の黒幕だったと言う話だ。
侯爵家の悪事を暴いたのもアーノルドの手柄の一つにする為に、あの時彼に別行動を取らせていたらしい。このことは私達だけの秘密だ。もちろん最初に情報を掴んだのは彼なので、その情報を元にちょっと手助けしてくれただけらしいが、やはり宰相様達の策略には驚いた。味方にいるなら心強いが、敵には絶対回したくない。
「そういえば兄も結婚式の為にタキシードを新調するとか言ってたな。別に来なくて良いのに」
「ふふ、そんなこと言わないでよ。お兄さんも楽しみにしてくれてて私は嬉しいよ」
「本当に? 最近少し厚かましいだろう? 嫌だってハッキリ言っていいんだよ」
浄化の合間に長期休みが取れるようになり、その時にアーノルドの実家との交流を深めている。お兄さんにも本当の妹のように可愛がられており、アルはそれがちょっと不満らしく、よくお兄さんと言い合いをしている。そんな彼はいつもより幼く見えて、可愛いと思っているのは秘密だ。
泉に着くといつも通り深呼吸をする。左手の指輪に触れると力が湧いてくる気がする。
「メイのことはちゃんと守ってるから、安心して」
そう言って微笑む彼に頷き返し、泉に手を入れて根元を探す。
「根元が見つかった! 今から浄化を始めます!」
そしてみゆちゃん達はというと……。
「ライザーそっちに魔物が行ったわよ! ファイアウォール!!」
そうみゆちゃんが叫ぶと炎の柱が立ち上がり、ライザーの後ろに迫っていた魔物を倒して行く。
「サンキュー! 危なかったぜ」
それに負けじとライザーの魔法も炸裂している。
みゆちゃんは無事に私と一緒にこちらの世界に移住することが出来た。かなりやる気に満ちて怖いくらいだったライザーが、こちらにみゆちゃんを留まらせる魔法をついに完成させたのだ。
それまではずっと最大4日間しかこちらの世界に滞在することしか出来なかったが、私の浄化の魔法をドラゴンの魔石に込め、それとライザーの愛とやらで見事新しいアイテムを完成させた。みゆちゃんはもうこちらの世界から離れることはない。
そしてなんとみゆちゃんは魔道士の素質があったのだ。しかもかなり強く今では上級魔道士を名乗っている。
私とアルが怪我からの復帰でリハビリをしている中、みゆちゃんはライザーに魔法を教えてもらっていたらしい。元々みゆちゃんはあっちの世界でゲーマーだった。ゲームで魔法のイメージが出来上がっていたおかげか、異世界人の特典なのか分からないが、上級魔法と呼ばれるものも最初から難なく使いこなせた。
ライザーの家系は大体魔道士を輩出している家系であった為、魔法の才能に溢れたみゆちゃんはその実力が確認されるとすぐに婚約が認められた。今は浄化部隊の重要な戦力として一緒に旅をして活躍してくれている。
デザイナーの仕事は出来なくなったが、みゆちゃんは魔法使いの方が楽し過ぎると言って、とても充実しているみたいだ。ライザーとの仲も順調で私も嬉しい。私達の結婚式を終えたらみゆちゃん達も入籍予定となっている。
「ふぅ。浄化完了したよ!」
「あぁお疲れ様。メイの浄化する姿はいつ見ても綺麗だよ。他の人に見せるのが勿体ないくらいだ」
そう言って優しい顔で抱きしめ、額にキスしてくれるアル。彼のこの腕に包まれている私は世界一幸せだ。
「……ありがとう」
「なんかいつもと様子が違うね。どうかした?」
「もうすぐこの旅が終わると思うとなんか寂しくて。今までの日常がなくなっちゃうみたいで」
「確かにね。でもこれからの人生の方が長いんだ。一緒に楽しい思い出をどんどん作っていこう」
そう笑いかけると、キスを贈ってくれ私もそれを受け入れる。
「なんかめいが大人になっちゃったわ」
「だよな。最初の頃なんか私に魅力がない、どうしようとか悩んでて可愛かったのに」
「もう! 揶揄わないでよ!!」
「触れてくれないって悩んでたのに、今ではみんなの目の前でも平然とキスをするしね。成長したわ」
「みゆちゃん達だってそうじゃん! もう昔のことを出すのはやめてよねっ! 怒ったんだから!!」
そう怒ってみるが、本当は今こうしてみんなで居られることがとても嬉しいのだ。
「こら、メイを揶揄って遊んでいいのは俺だけだから返してもらうよ」
そう言って私を抱き寄せるアルに私も抱きつき返す。
「メイ、この先の未来をずっと君と過ごしていきたい。ずっと君のことを守るから、ずっと俺の横で笑っていて欲しい。俺には君が必要なんだよ」
「うん、私も! アルと一緒にずっと笑っていたい」
そう2人で笑い合うのをみんなが温かい目で見守ってくれていた。
ずっとひとりぼっちだと思ってた、要らない存在だと思ってた私に生きる理由をくれたこの世界。私自身を求めてくれる人たちがここにはいるのだ。
この大好きな彼らを守る為に、そして彼の隣に立ち続けられるように今日も私はこの世界で浄化に励む。まだまだ契約聖女は辞めません。この力をこの世界、そして彼が私を求めてくれる限り。
0
お気に入りに追加
45
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても優しいお話でした。
最後まで読ませて頂いてありがとうございました。
読み易かったです。