上 下
37 / 39

お兄さん

しおりを挟む
 
「一応俺病人なんだけどな」

「ご、ごめん。つい」

 彼に平手をくらわせてしまって今は小さくなる私。椅子に座ってベットにもたれかかりながら寝ていたので腰が痛い。

「懐かしいな。初めて3日目の朝を迎えたのが昨日のように感じるよ」

「そうだね。あの時はアーノルドが急に部屋に入ってきたからびっくりしちゃった」

「今回は最初から部屋に居たのに叩かれたけどね」

 そう言って悪く微笑む。うん、そんな顔もカッコいい。寝起きの少し掠れた声もちょっと色っぽい。絶対私より色気があるのはズルい。少し寝癖のついた髪も素敵に感じてしまう。

「とうとう5日目かぁ。もうそろそろかなって思ってたけど、最近が怒涛すぎてもう驚く余裕もないよ」

「そうだよな。とりあえずライザーを呼ぼうか。っとその前にメイは身だしなみを整えたいよね」

 こういう所に気づいてくれるのも嬉しい。この病室に侍女を呼ぶことは出来ないので、洗面所を借りて1人で軽く身支度をする。


 準備が出来たと告げると、アーノルドが魔法で小さな鳥を作ると飛ばしていく

「もう魔法を使って大丈夫なの?」

「今のはほとんど魔力を消費しないからね。さすがに伝言を任せるようなものは魔力を多く使うから怒られちゃうけど、今のは俺が呼んでるってのろしのようなものだから問題ないよ」

「私ももっと魔法を習いたいな」

「浄化の旅が終わったらライザーに教われば良いんじゃないか?」

「うん! そうする」

 そう話していると、ライザーが慌ててやってきた。

「アーノルドどうした!!  ってメイ!?」

「おはようライザー」

「……そうか。とうとう5日目の滞在になったか」

 そう言うと少し暗い表情のライザー。私のこちらへの滞在が長くなるということは、みゆちゃんをこの世界へ引きとどめる魔法の開発までの残された期間が僅かだと言うことだ。

「恐らく今回のドラゴンの浄化が大きいのだろうな。間違いなく今までで一番大きな浄化だし、メイの魔力がこの世界にかなり浸透しているはずだ」

「うん、私もそう思った。みゆちゃんは今日もう居ないんだよね?」

「あぁ、昨日の夜元の世界に戻って行ったよ。やっぱりまだ4日が限界だな。早く方法を見つけないといけない」

「うん……。ライザーならきっと大丈夫だよ! 私に協力できる事があったらなんでも言って!!」

「あぁ、その時はよろしく頼むよ」

「うん! 任せて!!」

 私が自信満々に返事をすると、やっとライザーの表情が少し柔らかくなる。しばらく話してライザーは退室していった。

「今日は邪魔しないから二人でイチャイチャしてろよ」

 うん、一言余計だ。2人だけだということを変に意識してしまう。昨日はアーノルドもほぼ寝ていたし心配の方が上回っていたから何も感じなかったのだが、今日はお互いに体調は万全じゃないものの意識はちゃんとある。昨日とは状況が違うのだ。

「メイは変わったね。今まではそんな自信がなかっただろう。ドラゴンの浄化で少しは自信がついたのかな」

「それもあるかも知れないけど、アーノルドのおかげだよ。アーノルドが私のこと信じてくれてるって思うと、何でも大丈夫だって思うの。それで自分のことについても自信がついてきたんだと思う」

「なるほど、俺の愛の力か」

 そう言ってからかってくる彼を小突こうと思ったらバランスを崩して彼の上に倒れこんでしまう。

「おっと、大丈夫? メイもあの浄化で3日間寝ていたんだって。昨日はそんなことにも気づけずにごめん。今は体調はどう?」

「今はもう大丈夫! まだちょっとふらつくことがあるけど、怠さとかはもうないよ」

「まだふらつくならちゃんと休まないと」

 そういうと彼は私の腕を引っ張り、そのまま抱きしめられる。ベッドの上で抱きしめられ私の心臓はドキドキと早い鼓動を刻む。

「何もしないから。しばらくメイを充電させて。もう2度と触れることは出来ないと思ったんだ。メイを感じてたい」

「うん、私もアーノルドを感じてたい」

 そうして私たちは病室に来客が来るまでゆったりと過ごしていた。




 来客は彼のお兄さんだった。

「おお、君がアルの婚約者か! 今回はありがとうな! 君のおかげでアルが助かったと聞いている! これからも宜しく頼むよ!」

 そういって豪快に笑う彼のお兄さん。アーノルドはアルと呼ばれているのか、可愛いじゃないか。私もアルと呼んでみたい。

「自己紹介を忘れていたな! アーノルドの兄のレオンだ。あいつの3つ上で、今は父上の補佐をしている」

 お兄さんはアーノルドとは全く違うタイプらしい。背丈や見た目は似ているのだが、雰囲気が全く違う。アーノルドは穏やかな雰囲気を出しているのだ、お兄さんは豪快だが人を引き寄せるような魅力がある。人望があるのだろうなと一目で感じさせる何かを持っているのだ。

 こんなお兄さんがいたら幼いころの彼が劣等感を持つのも分かる気がする。天性の人を引き寄せる才能があるのだろう。それに対してアーノルドはきっと努力でそれを手にしてきたタイプだ。

「兄さん、ここは病室だからもう少し静かにしてくれよ」

「お前の個室なんだから良いだろう。将来の妹との交流の方が大事だ」

「妹……」

「そうだろう? 結婚したら義理の妹になるんだ。もう家族のようなものだろう」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」

「うん、可愛いな。聖女ってイメージにピッタリだ」

「……兄さん」

「そんな怖い顔で睨むなよ」

 彼が少し不機嫌になるも、お兄さんは全然気にした様子なく流している。

「本当はもっと話したいんだが、これ以上抜けていると怒られてしまうからな。また今度ゆっくり話そう!」

 そう言うと握手を求められ、手を出すとブンブン振られて転びそうになるとことを支えてくれる。そして嵐のように去って行った。

「はぁ、うるさかっただろう。ごめん」

「ううん、とってもパワフルな人なんだね。アーノルドとはタイプが違ってビックリした」

「だろう? 兄はとても魅力ある人なんだ。昔からいつの間にか敵対している奴まで魅了してしまうんだから、ある意味一番怖いタイプだよ」

「なんかわかる気がする。でも私はアーノルドが一番だよ?」

「本当に? 兄は俺と見た目はそっくりだろう? 同じ顔を見て兄に惹かれたりしない?」

 少し不安そうに聞く彼が可愛く思えてしまう。

「確かに顔はそっくりだったけど、前にも言ったでしょう? 私はアーノルドの見た目だけに惚れたんじゃないもの。アーノルドだから好きなの」

「ごめん、冗談だよ。ありがとう」

 そう謝るとキスを送ってくれる。

「……前まで全然キスしてくれなかったのに。いきなり変わりすぎじゃない?」

「あんな経験したらそうなるよ。意地張って触れないまま死んでしまったら成仏出来ない。それにメイは俺の特別だからね。メイのキスで元気になるのも俺の特権だと思うことにした。他の奴には絶対させないから、俺だけが知っているんだから良いかなって」

「なんかアーノルドも変わったね。少しライザーに似てきたんじゃない」

「……それは嫌だ」

 そう言う彼の姿が本当に嫌そうで笑ってしまった。

 そうやって5日目を二人で過ごして私は元の世界に帰っていった。そしてそこから1か月間はこちらの世界に来てはアーノルドのリハビリに付き合う日々を過ごした。彼が回復するまでは浄化の旅もお休みなのである。そうして彼が元の状態に戻り、いよいよ来週からは旅のスタートだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

処理中です...