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3日目の朝

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 あれからアーノルドから聞いたのであろうマーサが慌てて部屋にやってきて、私の存在を確認して朝食を用意してくれる。

 朝食を食べ、身支度を整えるとマーサがライザーとアーノルドを連れてやってきた。

「本当に3日目もこっちに居たんだな。信じられん」

「私にも訳が分からないんだけど、どうしてなの?」

 3日目にこちらに居たのは3年間で初めてだ。私の質問にライザーが答えてくれる。


「推測でしかないが、君の魔力がこの世界と馴染んで向こうの世界に引っ張られにくくなっているのかも知れない。君をこちらの世界に召喚する時も以前より魔力を使わなくなっていたんだ」

「そういうのは大事なことはもっと早く言ってよ!」

「ごめんごめん、こうなるとは思ってなかった。もしかしたら浄化が進んでいることも関係あるのかも知れない。浄化した場所は君の魔力が残っているから、その力が君をこちらの世界に引っ張っているのかも知れないな」

「そんな……私は元の世界に戻れるの?」

 急に帰れなくなるのは困る。仕事も無断欠勤になってしまうし、友人にもしっかり別れの挨拶をしたい。向こうの世界に大切な人だって残してきているのに。

「メイ様はやっぱり元の世界が良いのですか」

 アーノルドが少し苦笑いをしながら聞いてくる。

「そりゃあ向こうでやらなきゃいけないことがあるから。急に帰れなくなるのは困るよ」

 帰れなくなるのなら予め退職の手続きや身辺整理をしてからが良い。例え派遣社員と言えども急な失踪など迷惑過ぎるだろう。万が一事件としてニュースにでもなってしまったら嫌だ。警察もいい迷惑だろう。



「すぐに帰れなくなることはないと思う。明日には帰れるだろう。少なくとも2ヶ月くらいは3日滞在して向こうに帰るのが続くと予想している。召喚の魔力が減り始めたのも2ヶ月くらい前だからな」

 ライザーが答えてくれる。彼は私より5歳年上の29歳でまだ若い方なのだが、魔法に関しては国内一の実力と知識を持つ。彼が言うならそうなのだろう。

「2ヶ月かぁ。それから先は分からないんだよね」

「あぁ。申し訳ないがこればかりは断言出来ない。今までに例がないからな」

「分かった、色々考えておかなきゃね。それより今日は湖の浄化に行く? せっかくこっちに居るんだし浄化を進めた方が良いかな」

「いや、今日は元々の予定にも入っていないし、本来休みだった日だろう? しっかり休んでくれ」

「でも……」

 ライザー様の気遣いに素直に甘えることが出来ない。浄化が完了していないと、部隊のみんな私がいない間も魔物を討伐したりと色々大変なのだ。自分がいない間にそのせいで誰かが怪我をしてしまったら嫌だ。

「浄化はあと1日で終わりそうなレベルなのか?」

「いや、1日では厳しいと思う。少なくとも2日はないと厳しいかと」

 昨日の感覚では半分くらい浄化出来たと思うので、あと2日は掛かる予想だ。

「それならば今日はゆっくり休んでくれ。今日無理しなくても次週で浄化してくれれば問題ない」

 そう言われて今日はお休みすることに決めた。確かに今日浄化出来ずに来週に持ち越しになるのなら無理しても結果は変わらないのかも知れない。元々の契約にも浄化は週2日とあるし、今日休んでも誰にも文句を言われる筋合いはないはずだ。私は契約聖女なのだから。





「ということでアーノルド、今日一日メイを街へ案内してやれよ。今日は非番だろう? お前がいれば他に護衛をつけなくても済むしな」

「……俺が?」

 ライザーが急にアーノルドに話を振る。
 その提案は嬉しすぎるがアーノルドに迷惑をかけるのは嫌だ。

「そんなアーノルドも忙しいだろうし、私は適当に過ごすから大丈夫よ!」

「どうする? お前が忙しいなら他のやつに頼むが。メイも今まで浄化しかしてなかったから街を楽しみたいだろう?」

「そりゃあ街に行けるなら行ってみたいけど……」

 この3年間街を見て歩く余裕はなかったのだ。浄化して、疲れて寝るの繰り返し。せっかく異世界に来たのだから、その街を満喫してみたい。




「メイ様さえ宜しければ俺が案内しますよ」

「本当に良いの? せっかくの非番なのに」

 彼らも週に一度、私のいない日に交代で休んでいるだけだ。しかも普段は次の浄化場所へ移動しながらの休みなので、実質は半日程度だ。1日休みなんて滅多に取れないのに。

「あぁ、特に予定はないから問題はないよ。では1時間後に、支度が済んだら玄関で待ち合わせでよろしいですか」

「……はい。よろしくお願いします」

 こうして私とアーノルドの1日デートが実現した。どうしよう……2人きりでの会話すら久々だと言うのに。緊張しすぎて吐きそうだ。
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