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スキルは奥が深いようです。

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「はみ出し者……それはスキルを捨てて生きる者のことをこの世界ではそう呼ぶのじゃ。……まぁわしは本当にスキル関係なしにはみ出し者としても生きてきたんじゃがの」



 そう言ってふっと笑う顔が悪い顔をしていて、恐らく色んな経験をしてきたんだろうと伝わってくる。今の穏やかな雰囲気からは想像出来ないが。

 話を聞きながら美味しいお菓子とお茶を頂く。おじいさんの作ってくれたクッキーは本当に美味しくてなんだか疲れも癒された気がする。そう喜んで食べる私たちを嬉しそうに見つめながらおじいさんの昔話を聞かせてくれる。



 ――わしの家系は料理スキル持ちを多く輩出する家系でな。え?スキルは遺伝しないだろうって?

 お前さん達みたいな特殊なスキルは置いといて、平民の場合は血というのにスキルは結びついていることが多いのじゃよ。まぁ全く無関係なスキルが生まれることもあるが、大体は似ておる。

 それが平民と貴族様との違いだからの。昔の人々が血に結びつかない特殊なスキルを持った人々のことを貴族としたんじゃ。

 



 そしてわしの父親も料理スキルを持った人じゃった。一族で様々な料理店を経営しておった。父親は親戚の中でも唯一の、どんな料理でも作れる万能の料理スキルじゃった。

 そんな父親の子として期待されたわしのスキルはなんとお菓子作り。しかも焼き菓子限定ときたことじゃ。

 お菓子全般だったらコース料理の最後として充分な役割が出来ただろうが、焼き菓子とは……。



 親戚、家族皆に落ちこぼれと揶揄されたわしはスキルを使って生きていくことを捨て、ありとあらゆることをしてきた。

 しかしどんなに努力しようとも、そのスキルを持ったものに敵うはずがない。だからこの世界ではスキルを使わずに生きていくことをはみ出し者と言うんじゃよ。



 なにをやっても上手くいかない、ダメなわしはもうこの世を去ろうと思った。最後にこんなスキルを与えた神様に恨み言を言おうと神殿に来たんじゃ。そこで前任の神官長がわしを拾ってくれた。

 スキルを捨てたならここで祈ることを仕事としなさい、神殿はどんな人でも受け入れる場所だと。



 そこから神官となり、祈りを捧げ、神殿内の雑用をすることで衣食住を与えられた。わしは前任の神官長感謝し、心を入れ替えて勤めたのじゃ。

 だが奴ときたら、神官は祈りのスキル持ちしか許さんと言い、わしみたいなはみ出し者を全員追い払ったのじゃ……。



 そう話すとおじいさんとララさんは辛そうな顔をする。



「奴っていうのは……今の神官長ですか?」



「そうじゃ。前任殿が急死してしまい、奴は急に現れた。そこからまるで魔法が掛かったかのように神官達は奴を支持し、神官長にしたのじゃ。わしみたいに祈りのスキルを持たない者たちは反論したが意味をなさなかった」



「……私には優しい神官長にしか見えないんですけどね」



「お主を必要としているから優しいのじゃ。それに何度も言うがあいつはララ、お前を洗脳している。早く目を覚ませ」



「……」



 そうお爺さんに言われて黙り込んでしまうララさん。居た堪れない空気にすかさず話を変える。



「ええっと、それで魔石の色が違ったっていうのはいつからですか?」



「おおそうじゃったな。はっきりとした時期は分からぬが、それも奴が神官長となった後からじゃったと思う。奴が来てから祈りの間にも入れなくなったが、わしが最後に見た時は緑だったからのう。ララから赤色だと聞いてビックリしたのじゃよ」



「最後に見た時は緑色で、気づいたら赤色になっていたと……。最後に見たのはどれくらい前なのですか?」



「今の神官長になってから今年で10年だからそれくらいじゃろう」



「なるほど……。ララさんが来た時にはもうすでに赤かったのよね」



「はい、まだ来て日は浅いですが緑だったとは知りませんでした。私も他の神官の人へ聞いてみますね。もっと詳しく知っている人がいるかも知れない」



 その後は美味しいお菓子とお茶を頂きながら3人で何で色が変わったのか考えてみたのだけど、やっぱり答えは見つからなかった。おじいさんは神官長のせいだというし、ララさんは神官長を庇いながらも不思議がっていた。ララさんは立場上神官長を悪く言えないだろうから、今度は1人でおじいさんに話を聞きに来た方が良いかもしれない。お土産の焼き菓子ももらい、また来ることを約束しておじいさんの家を後にする。



「神官長はおじいさんの言う通り悪者さんなんでしょうか……」



 元来た道を歩いていると不安そうに呟くララさん。

 自分の慕っている人を悪く言われたら嫌な気持にもなるだろう。どう声を掛けて良いのか迷ったが、私自身神官長を怪しんでいる為、結局何も言う事ができずに無言のまま2人で歩く。



「神官長は確かにおじいさんのことを追い出したかも知れないけど、そうでない人もいるんです。おじいさんのような低スキルの方へ仕事を作ってくれていて、感謝してる人もいるんです」



「低スキル?」



 私がそう聞くとはみ出し者と低スキルの違いを教えてくれる。おじいさんみたく、使えるスキルがあるのにそのスキルを使わない道に進む人をはみ出し者、自分のスキルを仕事にするにはスキル内容が弱すぎて仕事にならない人、または魔力が低すぎてスキルを使いこなせない人をまとめて低スキル持ちと呼ぶらしい。

 スキルについて大分理解してきたと思っていたけど、まだまだ知らないことばかりだ。



「私のいた世界にはスキルなんてものはなかったから、みんな自分の好きな職に就いている人が多かったんだけど、この世界ではスキルを使わない・使えないことがそんなに悪いことなの?」



「逆に私はスキルを使えないのが想像出来ないです。でもそうですねぇ……、スキルがない人とある人の差が大きすぎるんです。例えば、リア様の『鑑定士』という職でも、鑑定出来る内容はその人のスキルによるってのは知ってますよね」



 リア様は何でも鑑定できるが、人によってはスキルに対しての鑑定だったり、物に対しての鑑定だったりと個人差があることは聞いているので頷く。私が頷いたのを確認すると、さらに詳しいことを教えてくれる。



「例えば宝石鑑定のスキル持ちの人が居ます。その人が鑑定すると一瞬で正確な鑑定が出来るけど、スキルを持っていない人が宝石の鑑定士になろうとすると、色んな知識を得たり実践したりで膨大な時間が掛かります。それでやっと鑑定しても、間違ってしまう可能性も捨てきれません。だから宝石を買おうとする人は、わざわざスキルを持っていない鑑定士よりも、早くて正確なスキル持ちの所で買います。だからわざわざスキルを持ってないのに、その道に進もうとする人は居ないんです」



 確かにそうかも知れない。でも他の職業は? おじいさんみたいな料理スキルだったら、スキルを持ってなくても努力でどうにかなりそうだけど。私だって料理をすることは出来る訳だし。そう思ってララさんに聞いてみたが、やはりそれもスキル持ちの方が有利なのだそう。

 

「ユリさん、今のステータス見られますか?」



 そう唐突に言われて不思議に思いつつも、身分証のカードをスキル開示して確認する。



「あれ? 何これ……体力回復?」



 カードの体力値の横に見慣れない文字が追加されている。



  ――――――――

 山本由莉 29歳



 職業 落界人

    鑑定士



 スキル 異世界チート



 体力 70



 魔力 ∞(無限)



 料理効果:体力回復(効果:小、持続時間:1時間)



 ――――――――

 

 「さっき食べたお菓子の影響です。今回の場合、もし体力を消費しても1時間の間は自然と少しずつ体力が回復するということですね。おじいさんが料理スキル持ちだからこその効果です。スキル持ち以外の人が料理しても何も効果がつきませんが、料理スキル持ちの人が魔力を使って料理をするとそういた特殊効果が得られるんです」

 

 「なるほど……それは確かにスキル持ちじゃないと真似できないね」



 「同じお金を出して食べるなら効果ありの方を選びますよね? だからスキル持ちでない人が店を出すのは厳しいんです。料理スキル持ちの人の料理なら美味しさも外れがありませんしね」



 ちなみにどんな効果がつくかはその人の料理スキルレベルに寄るらしい。おじいさんは恐らくスキルレベルが低いため、どんな効果がつくかもランダムで、効果が低く持続時間も短い。これがスキルレベルの高い人になると、どんな効果がつくかも選べるうえ、効果も大きいそうだ。王城の料理人や貴族の家にいるような料理人はそういったスキルレベルの高い人が多く、主人のその日の体調や予定に合わせて効果を選んで料理を出すらしい。

 街中で庶民を相手にしているような店は、スキルレベルが低いが何かしらの効果が得られるのを売りに料理を提供するのが通常とのこと。

 さらにスキルレベルが高くても、それに見合う魔力量がなければ結局使いこなせない。スキルレベルを上げることは経験によって可能なのだが、魔力量を増やすのは相当な努力とその人のもともとの体質に寄ってしまう為かなり困難なのだそう。

 

 「っと、難しい話はこれくらいにして、ユリさんはまだお時間ありますか? さっき話した低スキルの方の職場がすごいので見に行きません?」



 「え、私が見に行っても大丈夫なの?」



 「分からないけど多分大丈夫です! もし怒られても道に迷ったって言えばなんとかなります! 神殿内でもしょっちゅう迷子になってるので!」



 ……このヒロイン候補色々大丈夫かしら。
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