上 下
48 / 63

幼馴染みたいです。

しおりを挟む
「じゃあまた後でね」

「なぁ……お前あんな便利なことも出来るんだな。それで魔王の居場所も見られるんじゃないか?」

 部屋に入ろうとするとユーリが声を掛けてくる。

「!?  確かに」

 何故その発想が無かったのだろう。いや、無意識に避けていたのだろう。1人で魔王の居場所を探るなんて……少し怖い。

「今見てみるか?」

「え?」

 そう言って私の許可もなく勝手に部屋に入るユーリ。
 こうやって2人で一緒の空間にいるのが久しぶりで、少し恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。
 ユーリも先ほどまでの空気が嘘のように、ごく自然に私の部屋にいる。

「でもやっぱり怖くない?」

 鏡の前に立つユーリに問いかける。私はまだ怖いという気持ちの方が強い。

「大丈夫、俺が隣に居るから」

 そう言う彼はもう先程までの怒りは収まっているようで。いつもの調子。久々に彼が隣に居て頼もしく感じた。
 一緒にダンジョンに入っても、いつも私の事を気にしてくれる彼。彼がそう言うならと鏡に聞いてみる。

 しかし鏡に魔王の居場所を問うが、やっぱり恐怖から声が震えてしまう。
 それを感じ取ったかのように鏡に何も変化はなく、私達を映し続けている。


「やっぱり魔王は居ないってこと?」

「いや、そんなことはないはずだ」

「うーーん、何で映さないのかな。ちょっと待ってて」

 化粧台の上に置きっぱなしのノートを開いて問いかけてみる。

「それは?」

「落界人用の魔法アイテムなの。これに聞けばスキルの使い方とか教えてくれるの」

「……お前、そんな大事なノート置きっぱなしにしてるなよ」

「確かに。次からはちゃんとバックにしまいます」

 少し呆れた顔のユーリに見られながらもノートに聞いてみる。

『鏡は本心から見たいものしか映さない』

「……やっぱり魔王を見るのは怖いって感じてしまったから見れなかったのかも。ごめんね」

「そうか」

 少し気まずい空気が流れる。彼の役に立ちたいのに結局私がしたのはみんなを惑わせる情報しか出すことが出来なかった。
 こうやって彼らが本当に知りたいことは手に入れられないことを歯痒く感じる。


「そういえば昨日ララさんと散歩しているところ見たよ? ララさん可愛くて良い子だよね」

 話を変えようと口にしたのが昨日見た2人の姿だった。……失敗した。口には出したものの、あまり聞きたくないなと思ってしまう。しかしそんな私の心を知らない彼はこの話題に乗ってきてしまった。

「お前は本当に人を信用し過ぎだ。まだ何も知らないだろう。あいつは見た目程そんな単純なやつじゃないぞ」

「なんか知ってる風じゃん。ユーリの方こそララさんのことそんなに知ってるの?」

「あぁ。同郷の出身だからな。昨日もその話をしてた」

「え?同郷……?」

「あぁ、同じ集落の出身だ。あいつは4人兄弟の長女で、俺は6人兄弟の長男」

「待って、情報が多すぎて整理できないんだけど。ユーリが6人兄弟ってことも初耳だよ!?」

 ユーリの発言にこちらは混乱しているのだが、彼はそうだっけ?とあまり気にしてない様子。
 ユーリのことを知ってるつもりだったが、私はそんな情報すら知らなかった。彼の戦い方や、普段のトレーニング内容は知っていても、そんな基本情報すら知らないのだ。

「……それって幼馴染ってことだよね?」

「あぁ、そうとも言うな」

 落ち込む心を一度落ち着かせ、先程聞いたことの確認を取る。しかし彼のあっさりとした返事を聞いた瞬間薄暗い気持ちが湧いてくるのを感じる。やっぱり2人は……。

「おい!大丈夫か?顔色が真っ青だぞ?」

 どうやら動揺が顔に出ていたらしい。彼に心配され鏡を見るが、確かにそこには真っ青な顔をした自分が映っている。
 動揺をして呼吸の仕方も忘れてしまったのかも知れない。だがそんなこと彼に知られたくないから誤魔化してしまう。

「ちょっと力を連続で使って疲れてるのかも……」

 そう言った側からふらついて倒れそうになる。しかしふらついた私をしっかり受け止めてくれる腕がそこにはあった。
 彼の温かい体温に包まれると、呼吸するのが楽になった気がする。もう少しこのままでいたい。そう思うとそれが通じたのか更に力を込めて抱きしめてくれる。

「ユーリ……」

「ごめん、疲れてるよな。もう戻るからゆっくり休め」

 急に体温が離れていったと思ったらそのまま振り向く事なく彼は部屋を去っていく。それだけでまた心細さを感じてしまう。
 やっぱり私はユーリのことが好きなのかな……?
 でもユーリは? ただのキスフレみたく思ってるだけ? 本当に好きなのはララさん?

 1人で居ると嫌な考えばかりしてしまう。
 彼がララさんのことをどう思っているのか知りたいが、怖くて聞くことが出来ない。
 それに自分のユーリに対する気持ちだってまだ曖昧だ。
 この世界で助けてくれたから好きなだけか、彼をひとりの男性として好きなのか分からない。

 彼が居なかったら今の私の居場所はないから、ただの依存心なのかも知れない。
 そんな依存心から彼の幸せの邪魔をしてはいけない。
 とにかく一休みしよう。そして起きたらこのことは一旦私の胸の中に閉まってしまおう。
 今考えなきゃいけないのは神殿とあの魔石の関係についてだけだ。そう自分に言い聞かせて眠りについた。さっき朝ごはんを食べたばかりだが、今日一日ぐらいグータラしても文句は言われないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

眼鏡をこよなく愛する人畜無害の貧乏令嬢です。この度、見習い衛生兵となりましたが軍医総監様がインテリ眼鏡なんてけしからんのです。

甘寧
恋愛
「……インテリ眼鏡とかここは天国か……?」 「は?」 シルヴィ・ベルナールの生家である男爵家は首皮一枚で何とか没落を免れている超絶貧乏令嬢だ。 そんなシルヴィが少しでも家の為にと働きに出た先が軍の衛生兵。 実はシルヴィは三度の飯より眼鏡が好きという生粋の眼鏡フェチ。 男女関係なく眼鏡をかけている者がいれば食い入るように眺めるのが日々の楽しみなのだが、この国の眼鏡率は低く人類全てが眼鏡をかければいいと真剣に願うほど信仰している。 そんな折出会ったのが、軍医施設の責任者兼軍医総監を務めるアルベール・ウィルム。 実はこの人、イケメンインテリア眼鏡だったりする。 見習い衛生兵として頑張るシルヴィだが、どうしてもアルベールの尻を追いかけてしまう。 更には色眼鏡の大佐が現れたり、片眼鏡のいけ好かない宰相様まで…… 自分の恋心に気づかない総監様と推しは推しとして愛でたいシルヴィの恋の行方は……?

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

処理中です...