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魔石ではなかったようです。
しおりを挟む「あなたは本当に不思議な人ですね。今までこの状態の私に近づいてくる人は自分の親ですら居なかった。普通の時ですら、みんな私が心を読んでいるんじゃないかと疑って深くは関わろうとしない。誰にでも人に知られたくない秘密は持っているのに……。やはりあなたはみんなに光を照らす存在。そしてその光を私だけに注いでくれることはないのでしょうか……?」
「……ぐうっ……ぐう」
「人に優しくされるというのはこんなにも嬉しいことなのですね。今回はその優しさに免じてあなたの隠していることには触れないでおきましょうか……。ユリ様、ユリ様起きてください」
「うん……? リア様?」
「起きましたか? もうすっかり暗くなりましたよ」
リア様に起こされて窓を見るともうすっかり暗くなってしまっていた。弱っている人の隣で寝てしまうとは私の方が図太くて少し落ち込む。
「あっ……寝てしまってすみませんでした。リア様の体調は良くなりましたか?」
「ええ、あなたから魔力を頂いてすっかり回復出来たみたいです」
「それなら良かった!」
「そもそもあなたが来なければ魔力の消費も抑えられたんですけどね」
「え?」
あれ? もしかして私お邪魔だった?
「制御が効かなくて人が近くにいると勝手に思考を読むと言いませんでしたか? だからあなたがいた分魔力を少しずつ消費していたんですよ。まぁあなたがくれた魔力量が多くて無事に回復したんですが」
「なら結果オーライじゃない?」
「ええ、だから今回はあなたに免じてその秘密をみんなには内緒にしておきますね」
「秘密……?」
私はそんな秘密にしていることなんてないのだけど。何のことを言っているんだろう。
「分からないって顔をしていますね。あなたがこちらの世界の未来を知っていることや、聖女の力によって魔石を浄化させることが出来るのを隠していることですよ」
「!!」
そうだった。おっきな秘密を抱えているじゃないか。しかもみんなが一番知りたいであろう情報を隠していることもバレバレだ。
「そもそもあれは普通の魔石ではなかったのであなたの情報も全てが正しい訳ではないようですが」
「そうなの?」
「ええ、詳しくは皆さんのいる時にお伝えしますが、あなたが黙っていたことについては内緒にしておきますから安心して下さい。私から皆さんにお伝えしますね」
「……ありがとう。ごめんなさい」
ちゃんと目を見て言うことが出来なかった。後ろめたいことがあるからだ。私がちゃんとみんなに話していたら、リア様もあんなに魔力を消費することもなかったかも知れないのに。
「だからあなたの情報が全てではないと言ったじゃないですか。あそこに私が行かなければ分からないこともありましたから気にしないで下さい」
「うん……」
「それにあなたの前の世界での記憶についてはみんなにはまだ話してないんですよね?」
「そう。他のみんなに言ってもなかなか信じられる内容じゃないでしょ?」
「でしょうね。ですからこのことは私達2人だけの秘密。何かこの件について相談したいことがある時は私を頼って下さい」
「リア様……」
「あなたが心配している聖女に関しても、そこまで心配しないで大丈夫ですよ」
私が聖女に関して心配しているとはどう言う意味?
「あなたがみんなに言わなかったのは、聖女を迎えてしまったらみんながあなたから離れていくことを恐れていたのではありませんか?」
そう言われた途端ドクドクと血の巡る音が頭に鳴り響く。私はみんなが離れていくことを恐れて言えなかったの……? そんな自分勝手な思いのせいで、みんなの手を手こずらせて、リア様にこんな大変な思いをさせたの?
「自分でも気付かない深層心理というやつですね。ですがあなたが想像しているような未来にはなりません。ですから安心して下さい。私があなたの幸せを守りますから」
「リア様?」
リア様らしからぬ発言に少し戸惑う。真剣な瞳で告げられるその言葉にはどんな意味が込められているのか。
「だってほら、あなたに嫌われてしまったらもうその特殊なスキルについて調べられないじゃないですか。私はそのスキルの為なら何だってしますから」
「もう! ちょっとドキッとしたのに!! 今のトキメキを返して下さいよっ」
やはりリア様はリア様だった。いつも通りの様子にやっと安心する。それにやはりあのゲームの世界の話を1人で抱えるには重たかったのだ。リア様に知られてしまったのは誤算だったが、彼が味方についてくれているなら安心だ。彼のこの特殊なスキルの為なら何だってするという言葉は、私のことを裏切ることはない、いつまでも味方で居てくれるのだと信頼出来るから。
◇
「さて、お待たせ致しました。鑑定結果を報告致しますね」
会議室のような広い部屋にみんなが集まる。リア様が回復したので話を聞き、その後夕食を取る予定だ。
「よろしく頼む。あの魔石は何だったんだ?」
「あれは魔石ではありませんでした」
「魔石ではない? そんな訳ないだろう。だったらアレは何だって言うんだよ」
「あれは……」
みんながごくりと息を呑む。果たしてあれはなんだったのか。
「あれは魔王の魂の一部です」
「「魔王の魂!?」」
「はい、魔王の魂です。ですから魔石とは似ているようで全く本質が違うのですよ」
「だったらその魂を壊せば魔王を倒せるということか!?」
「いえ、あれを壊しても魔王を弱体化させることは出来るでしょうが倒すことは出来ません。あくまで魂の一部なので」
「なるほど……。だがその魂の一部をどうにかしないと、魔王本体を倒したとしても完全に倒すことは出来ないということか?」
「ご名答。さすがミラー様。そうです……魂の一部を残したまま魔王を倒しても、いずれまた魔王は復活するのです。ですから魔王を完全に倒すにはアレをどうにかしなければなりません」
そう言いながらリア様が私を見るので頷く。ゲームの中ではリア様の説明通りのことが起こっていたのだから。
リア様の説明に一同静まり返る。魔王という未知のものを倒さなければならないのに、その前に魂の一部を壊さないと倒すことが出来ないと分かったのだ。
今まで魔王を倒そうと修行を積んでいたユーリも衝撃が大きいようで俯いている。
「魔王を倒せない……。だったらどうしろって言うんだよ」
「そんな話歴史書には一切書かれてなかった。ユリ殿があの魔石に気づいてくれなければ僕達は大きな過ちを犯す所だったんだな」
「でもそれが見つかったからこそ対処出来ます。あの魂を浄化すれば良いのです」
「浄化!? それは一体どうすれば良いんだ!?」
ユーリがリア様の胸元を掴み揺さぶるのをマーク様が引き離す。
「少し落ち着きなさい。それじゃあリア殿が喋れないだろう。この話に困惑しているのは君だけじゃないんだ」
「……悪い」
「浄化するには聖女の力が必要とのことです。さぁ! みんなで神殿に向かうのです!! そして私と一緒に奇跡の瞬間に立ち会いましょう!! 特殊スキルが勢揃いするその瞬間を目に焼き付けなくてはっ!!!!」
「真面目に考えろ!!」
「私はいたって真面目ですよユーリ殿」
「……とりあえずリア殿は一旦下がってくれるか? こっちでもう一度話し合いたいから身体を少しでも休めてくれ」
ミラー様がとうとう遠慮なくリア様を追い出すことにしたらしい。うん、仕方ないだろう。
「私なら元気ですが?」
そう訴えるリア様をマーク様が引っ張って退出していく。ユーリやミラー様が会議前よりも疲労感が出ているのは気のせいではないだろう。
こうしてリア様抜きで真面目に話し合った結果、神殿にいる聖女を迎えに行き、彼女を連れて再度ダンジョンに向かい浄化をしてもらうことに決まった。
明日から早速みんなで出発する予定だ。
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