上 下
40 / 63

魔石ではなかったようです。

しおりを挟む
 
「あなたは本当に不思議な人ですね。今までこの状態の私に近づいてくる人は自分の親ですら居なかった。普通の時ですら、みんな私が心を読んでいるんじゃないかと疑って深くは関わろうとしない。誰にでも人に知られたくない秘密は持っているのに……。やはりあなたはみんなに光を照らす存在。そしてその光を私だけに注いでくれることはないのでしょうか……?」

「……ぐうっ……ぐう」

「人に優しくされるというのはこんなにも嬉しいことなのですね。今回はその優しさに免じてあなたの隠していることには触れないでおきましょうか……。ユリ様、ユリ様起きてください」

「うん……? リア様?」

「起きましたか? もうすっかり暗くなりましたよ」

 リア様に起こされて窓を見るともうすっかり暗くなってしまっていた。弱っている人の隣で寝てしまうとは私の方が図太くて少し落ち込む。

「あっ……寝てしまってすみませんでした。リア様の体調は良くなりましたか?」

「ええ、あなたから魔力を頂いてすっかり回復出来たみたいです」

「それなら良かった!」

「そもそもあなたが来なければ魔力の消費も抑えられたんですけどね」

「え?」

 あれ? もしかして私お邪魔だった?

「制御が効かなくて人が近くにいると勝手に思考を読むと言いませんでしたか? だからあなたがいた分魔力を少しずつ消費していたんですよ。まぁあなたがくれた魔力量が多くて無事に回復したんですが」

「なら結果オーライじゃない?」

「ええ、だから今回はあなたに免じてその秘密をみんなには内緒にしておきますね」

「秘密……?」

 私はそんな秘密にしていることなんてないのだけど。何のことを言っているんだろう。

「分からないって顔をしていますね。あなたがこちらの世界の未来を知っていることや、聖女の力によって魔石を浄化させることが出来るのを隠していることですよ」

「!!」

 そうだった。おっきな秘密を抱えているじゃないか。しかもみんなが一番知りたいであろう情報を隠していることもバレバレだ。

「そもそもあれは普通の魔石ではなかったのであなたの情報も全てが正しい訳ではないようですが」

「そうなの?」

「ええ、詳しくは皆さんのいる時にお伝えしますが、あなたが黙っていたことについては内緒にしておきますから安心して下さい。私から皆さんにお伝えしますね」

「……ありがとう。ごめんなさい」

 ちゃんと目を見て言うことが出来なかった。後ろめたいことがあるからだ。私がちゃんとみんなに話していたら、リア様もあんなに魔力を消費することもなかったかも知れないのに。

「だからあなたの情報が全てではないと言ったじゃないですか。あそこに私が行かなければ分からないこともありましたから気にしないで下さい」

「うん……」

「それにあなたの前の世界での記憶についてはみんなにはまだ話してないんですよね?」

「そう。他のみんなに言ってもなかなか信じられる内容じゃないでしょ?」

「でしょうね。ですからこのことは私達2人だけの秘密。何かこの件について相談したいことがある時は私を頼って下さい」

「リア様……」

「あなたが心配している聖女に関しても、そこまで心配しないで大丈夫ですよ」

 私が聖女に関して心配しているとはどう言う意味? 

「あなたがみんなに言わなかったのは、聖女を迎えてしまったらみんながあなたから離れていくことを恐れていたのではありませんか?」

 そう言われた途端ドクドクと血の巡る音が頭に鳴り響く。私はみんなが離れていくことを恐れて言えなかったの……? そんな自分勝手な思いのせいで、みんなの手を手こずらせて、リア様にこんな大変な思いをさせたの?

「自分でも気付かない深層心理というやつですね。ですがあなたが想像しているような未来にはなりません。ですから安心して下さい。私があなたの幸せを守りますから」

「リア様?」

 リア様らしからぬ発言に少し戸惑う。真剣な瞳で告げられるその言葉にはどんな意味が込められているのか。

「だってほら、あなたに嫌われてしまったらもうその特殊なスキルについて調べられないじゃないですか。私はそのスキルの為なら何だってしますから」

「もう! ちょっとドキッとしたのに!! 今のトキメキを返して下さいよっ」

 やはりリア様はリア様だった。いつも通りの様子にやっと安心する。それにやはりあのゲームの世界の話を1人で抱えるには重たかったのだ。リア様に知られてしまったのは誤算だったが、彼が味方についてくれているなら安心だ。彼のこの特殊なスキルの為なら何だってするという言葉は、私のことを裏切ることはない、いつまでも味方で居てくれるのだと信頼出来るから。


 ◇


「さて、お待たせ致しました。鑑定結果を報告致しますね」

 会議室のような広い部屋にみんなが集まる。リア様が回復したので話を聞き、その後夕食を取る予定だ。

「よろしく頼む。あの魔石は何だったんだ?」

「あれは魔石ではありませんでした」

「魔石ではない? そんな訳ないだろう。だったらアレは何だって言うんだよ」

「あれは……」

 みんながごくりと息を呑む。果たしてあれはなんだったのか。

「あれは魔王の魂の一部です」

「「魔王の魂!?」」

「はい、魔王の魂です。ですから魔石とは似ているようで全く本質が違うのですよ」

「だったらその魂を壊せば魔王を倒せるということか!?」

「いえ、あれを壊しても魔王を弱体化させることは出来るでしょうが倒すことは出来ません。あくまで魂の一部なので」

「なるほど……。だがその魂の一部をどうにかしないと、魔王本体を倒したとしても完全に倒すことは出来ないということか?」

「ご名答。さすがミラー様。そうです……魂の一部を残したまま魔王を倒しても、いずれまた魔王は復活するのです。ですから魔王を完全に倒すにはアレをどうにかしなければなりません」

 そう言いながらリア様が私を見るので頷く。ゲームの中ではリア様の説明通りのことが起こっていたのだから。
 リア様の説明に一同静まり返る。魔王という未知のものを倒さなければならないのに、その前に魂の一部を壊さないと倒すことが出来ないと分かったのだ。
 今まで魔王を倒そうと修行を積んでいたユーリも衝撃が大きいようで俯いている。

「魔王を倒せない……。だったらどうしろって言うんだよ」

「そんな話歴史書には一切書かれてなかった。ユリ殿があの魔石に気づいてくれなければ僕達は大きな過ちを犯す所だったんだな」

「でもそれが見つかったからこそ対処出来ます。あの魂を浄化すれば良いのです」

「浄化!? それは一体どうすれば良いんだ!?」

 ユーリがリア様の胸元を掴み揺さぶるのをマーク様が引き離す。

「少し落ち着きなさい。それじゃあリア殿が喋れないだろう。この話に困惑しているのは君だけじゃないんだ」

「……悪い」

「浄化するには聖女の力が必要とのことです。さぁ! みんなで神殿に向かうのです!! そして私と一緒に奇跡の瞬間に立ち会いましょう!! 特殊スキルが勢揃いするその瞬間を目に焼き付けなくてはっ!!!!」

「真面目に考えろ!!」

「私はいたって真面目ですよユーリ殿」

「……とりあえずリア殿は一旦下がってくれるか? こっちでもう一度話し合いたいから身体を少しでも休めてくれ」

 ミラー様がとうとう遠慮なくリア様を追い出すことにしたらしい。うん、仕方ないだろう。

「私なら元気ですが?」

 そう訴えるリア様をマーク様が引っ張って退出していく。ユーリやミラー様が会議前よりも疲労感が出ているのは気のせいではないだろう。
 こうしてリア様抜きで真面目に話し合った結果、神殿にいる聖女を迎えに行き、彼女を連れて再度ダンジョンに向かい浄化をしてもらうことに決まった。
 明日から早速みんなで出発する予定だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

処理中です...