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第三章
海底遺跡の戦い
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こんな海底になぜ巨大な遺跡があるのか、一体どのくらい昔からこの場所に存在するのか皆目見当もつかない。海中で時が止まった遺跡は腐食がほとんど見られず、厳かな雰囲気で堅牢に佇んでいる。
「でっかい扉だな」
10メートルはありそうな重厚な扉は人の力ではとても開きそうにない。と分かっていつつも試してみたくなる。
ゴゴゴゴゴゴ
「イテェッ」
数百キロはあるかと思った扉がすんなり開いた。全身で力いっぱいに押していたから前方に転んでしまった。
「って開くのかよっ!」
「水が入ってこないね」
ユイトの言うとおり、扉を開けても海中の水は何かに阻まれたように入ってこない。
「これだけの大きな遺跡全体に効果を長年持続させるのは相当な魔力よ」
遺跡の内部は白い空間が続いていた。今も現役で使用されているんじゃないかと思うくらい時の経過を感じさせない施設は、周りの壁そのものが光っていて先まで見通すことができる。
「きっと魔剣はこの先だ。行こう」
廊下はただ真っ直ぐに続いている。部屋もなく同じ光景の繰り返しのため、本当に前に進んでいるのかさえ分からなくなる。
「トビラが見えたよ」
白い廊下の先、複雑な紋様の中心に碧石のはめ込まれた扉があった。
「なんか特別な部屋って感じだな」
「開けるよ。みんな気をつけて」
ギィ~~
俺とユイトで扉を開け、周りに注意しながらゆっくりと中へ入る。
中はがらんどうの大きな部屋になっている。他に扉や窓はなく、何も置かれていないからっぽの空間だ。
バタンッ!
「!」
扉が勝手に閉まった! 急いで開けようとするが三人がかりでもびくともしない。
「何かくるわっ!」
バシャーーーーッ!
エメラダの声に反応して振り返ると、部屋の中心で穴もないのにいきなり水が勢いよく噴き出した。
水は重力に逆らって集まりむくむくと盛り上がって、7、8メートルの人の形を成していった。
「モンスター!?」
「我は魔剣を護る者なり」
人の輪郭をした水の巨人は感情のない声で喋ると、いきなり大きな腕を振りおろしてきた。
「うわっ!」
間一髪で避ける。今まで立っていた床が大きく抉られた。
「魔剣を護る者? ってことは魔剣を手に入れるためにはこいつを倒さないといけないんだな」
「ならこの一発ですぐに決着を着けるわ。
『爆龍灰燼撃』」
あれはイーワンが使っていた魔法! エメラダも使えたのか。
「蒸発しなさいっ!」
炎の龍は勢いよく水の巨人へ突っ込んだ。
バシューーーーーーーーーッ!!
ものすごい音と蒸気が巻き起こったが、巨人は何事もなかったように立っていた。
「ノーダメージ!?」
「ならこれならどうだ。
『雷帝降刃術』」
巨人の頭上から凄まじい雷撃が貫いた。人間の使う雷系魔法の中で最上位の技だ。水は電気を通すというし、さすがにこれは無傷ではいられまい。
「我は魔剣を護る者なり」
だが水の守護者はまるで攻撃などなかったかのように変わらぬ姿で立っている。
「ユイトの攻撃でもダメなのか!? ユイトの能力は相手のステータスを凌ぐ強さを自分に付与できるんじゃないのか?」
「どういうわけか分からないけど、能力が発動しないんだ」
「此処は理より外れし場所。意志こそ力なり」
表情のない表情で語りかける。
「小難しい言い回ししやがって。つまり、普通に攻撃しても無駄ってことか」
「強い意志を込めて攻撃しないとダメなのかも」
「意志で力が変わるなんて信じられないわね」
「魔剣を求めし者よ。汝はなぜ力を求める」
巨人はユイトに向かって語りかけた。
「僕は困っている人を助けたい。悲しむ人をなくすため、笑ってすごせる世界を守るために魔剣の力を使いたい」
ユイトは真っ直ぐな瞳で力強く答えた。
なんて志優れた回答。勇者の鑑だな。
「魔剣を求めし者よ。汝はなぜ力を求める」
今度は俺に向かって問いかけてきた。
「俺は…」
一瞬答えに口ごもる。前者のように立派な考えはないがせっかくここまで来たんだ、自分の気持ちを正直に伝える。
「俺は仲間と旅をするために魔剣を手に入れたい。弱くて自分の身も守れないのが嫌だから。足を引っ張らないための力を手に入れるためにここに来た」
巨人は2人の話を聴き終わると、再び動き出して攻撃をしかける。
「はぁっ!」
俺とユイトは攻撃を避けると、同時に左右の足へ斬りつける。
ばよんっ
水の足は少しだけ形を凹ませると、ゴムのような弾力で剣の勢いを跳ね返した。
「『氷龍輪舞撃』」
全身を凍てつかせるはずの氷の龍ですら、水でできた体に効果を及ぼすことはできなかった。
「意志を込めて攻撃してもダメじゃん、詐欺かよ!」
巨人はこちらに向き直ると、突然全身が弾け飛んで床に溶け込むように消えた。
「へっ、なに? あいつどこへ行った?」
「危ないっ!!」
エメラダに突き飛ばされた。
後ろに現れた巨人が俺を攻撃しようとしたところをエメラダに助けられた。だが巨人の攻撃を代わりに受けたエメラダが水の体内に取り込まれてしまった!
「エメラダっ!!」
水の中から脱出を試みるが魔法が発動していない様子。海中に潜る際に使った魔法も効果がないのか苦しそうに表情を歪ませる。
「我が体内は檻。魔力も意味をなさず一度取り込まれれば脱出は不可能」
必死に巨人の中から出ようとするエメラダだが、その表情にだんだん余裕がなくなって動きが鈍くなる。
「エメラダ!」
「止せフォックス! 君まで取り込まれるぞ!」
ユイトが止めるのも聞かずに自分から巨人の体内へと飛び込む。
急いでエメラダの元へ泳ぐ。
「!」
こちらに気づいたエメラダが手を伸ばす。俺はそれをしっかりと握ってエメラダを抱き寄せる。
〈早くここから出ないと〉
体内から水の壁を殴るが衝撃が吸収されるだけで抜け出すことができない。
〈くそっ、何でだ! 入るときはあっさりと入れたのに。せめてエメラダだけは逃がさないと〉
外からもユイトが繰り返し攻撃するが、水の壁には亀裂すら入らない。
〈魔剣を求めし者よ。汝はなぜ力を求める〉
頭の中で巨人の声が響く。
〈うるさいっ、そんなことより早くここから出せ!〉
〈答えよ。汝はなぜ力を求める〉
〈んなの、好きな女を守るために決まってんだろっ!!〉
自分の言葉に驚いた。いや、エメラダが好きだって自覚はあった。けど、命をかけて守りたいと思うほど真剣に好きになってたことに今気づいた。
もはや抵抗する力もなく苦しそうに口元を押さえているエメラダを優しく抱く。
〈俺はエメラダが好きだ! いつまでも一緒にいたい。一緒に旅をしてこれからも共に過ごしたい。でも俺にはエメラダの隣に立つだけの力がない。守られるだけじゃなく、守るための力がっ、世界中の誰よりもここにいるたった一人の大切な人を守る力が欲しい!!〉
突然巨人の体が光った。俺自身が光ったような気もしたが、眩しくて目をつむった次の瞬間に水が弾け飛んで外に出られた。
「エメラダっ、大丈夫か!」
「げほっ、げほっ!」
咳き込んで水を吐き出す。なんとか間に合ったみたいだ…。
「フォックス……」
弱々しくこちらを見つめる。
「もう大丈夫だ。あとは俺に任せて休んでな」
抱き抱えていた身体を床にゆっくりと下ろして頭を撫でた。
「一人で行く気? 無茶だ、僕も戦うよ」
「大丈夫だ。ユイトはここで待っててくれ」
弾け飛んだ水が集まり、再生した巨人の正面に立つ。
「あんたの言ってる意味が分かったよ。あんたはただの魔剣の守護者じゃなく、魔剣を求める者を試す役目もあったんだな」
「力を示せ」
巨人が大きく腕を上げ拳を振り下ろす。
「危ない!」
ユイトが叫ぶが、俺は片手で巨人の拳を受け止めた。
「あの攻撃を片手で!?」
そのまま反対の手で巨人の拳を殴る。
バチャンッ!
水が弾けて巨人の手首から先が無くなった。
すぐに手は再生する。しかし今までとは違い、飛び散った水はそのままで残った体から再生された。そのため若干巨人が小さくなったように思えた。
「はぁっ!」
剣で右足を横に薙ぐ。片足を失った巨人がバランスを崩して倒れる。
「さっきまで剣は弾かれるだけだったのに」
ユイトが驚くが俺にはもう理由が分かっている。
右足を再生して立ち上がる巨人は、もう巨人とはいえないくらい確実に小さくなっていた。
地上なら俺がこんな奴とまともにやりあえるわけがない。こいつが言ってた力になる意志とは、相手を倒そうとする戦意ではなかった。
魔剣を求める理由、力をふるう芯となる心がここでは己の力となるのだ。
自分の気持ちに気づいた今なら、水の巨人に負ける気はしない。
戦闘が続くにつれ巨人の体はどんどん小さくなり、もう俺と同じくらいの背丈になっていた。
「約束する。必ずエメラダを守りとおすって。だから魔剣は俺が貰っていくぜ!」
とどめの一撃を胸に深々と突き刺した。
水の守護者は無言のまま飛び散り、そのまま再生することはなかった。
剣を鞘に収めエメラダたちのところに戻る。
「! フォックスッ、まだ終わっていない!」
ユイトの声に床を見ると、飛び散った水が再び一ヶ所に集まろうとしていた。
「そういうことだったのか……」
水が集まり形を成したのは守護者の姿ではなく、1本の剣だった。
クリスタルのように透き通った淡く輝く青色をした綺麗な剣身の剣、これが魔石でできた伝説の魔剣………。
「魔剣自身が俺達を試していたのか」
柄を握って剣を引き抜く。光を反射してキラリと光ったのが挨拶のように思えた。
「これからよろしくな」
「やったね、フォックス」
ユイトは素直に喜んでくれる。
「あぁ。この剣、俺が使ってもいいかな?」
「もちろん。守護者を倒して魔剣に認められたのは君だ。所有者として胸を張っていいんだよ」
「ありがとう」
ユイトに頭を下げて横になっているエメラダの側に座る。
「大丈夫か? エメラダが回復するまでここでしばらく休んでいこう」
「フォックス!」
エメラダが急に抱きついてきて面食らった。
「どどど、どうひたほいきなひ?」
動揺で呂律が回らない…。
「なんでフォックスはいつもいつもアタシのこと助けてくれるの? アタシは魔王でフォックスよりもずっと強いのに…、アタシが危ないときは必ず助けてくれる。胸が締めつけられるみたいに苦しい…。どうしてこんな気持ちになるの?」
言ってる意味が分からない部分もあるけど、とにかくエメラダを落ち着かせることにした。
「助けるのは当たり前だよ。これからもエメラダが危ないときは必ず助ける。こうして魔剣も手に入ったしさ。
それに俺もエメラダにはいつも助けられてる、気にすることなんてないんだよ。これからも助け合っていけたらと思う。よろしくな」
こういうときどう言ったらいいのか分からなかったので、これで落ち着いてくれただろうか?
「これからもアタシと一緒にいてくれる?」
衰弱してるからか、いつもの強気なエメラダと違う面がめちゃくちゃ可愛い………。
「当然だっての」
たぶん顔が赤くなっているだろうから見られないように、エメラダの視界を遮るためにおでこのあたりに手をポンッ、と置いた。
「ユイト、しばらくここで休んでから戻ろう」
緊張を消すためにユイトに話しかけて休憩するのだった。
「でっかい扉だな」
10メートルはありそうな重厚な扉は人の力ではとても開きそうにない。と分かっていつつも試してみたくなる。
ゴゴゴゴゴゴ
「イテェッ」
数百キロはあるかと思った扉がすんなり開いた。全身で力いっぱいに押していたから前方に転んでしまった。
「って開くのかよっ!」
「水が入ってこないね」
ユイトの言うとおり、扉を開けても海中の水は何かに阻まれたように入ってこない。
「これだけの大きな遺跡全体に効果を長年持続させるのは相当な魔力よ」
遺跡の内部は白い空間が続いていた。今も現役で使用されているんじゃないかと思うくらい時の経過を感じさせない施設は、周りの壁そのものが光っていて先まで見通すことができる。
「きっと魔剣はこの先だ。行こう」
廊下はただ真っ直ぐに続いている。部屋もなく同じ光景の繰り返しのため、本当に前に進んでいるのかさえ分からなくなる。
「トビラが見えたよ」
白い廊下の先、複雑な紋様の中心に碧石のはめ込まれた扉があった。
「なんか特別な部屋って感じだな」
「開けるよ。みんな気をつけて」
ギィ~~
俺とユイトで扉を開け、周りに注意しながらゆっくりと中へ入る。
中はがらんどうの大きな部屋になっている。他に扉や窓はなく、何も置かれていないからっぽの空間だ。
バタンッ!
「!」
扉が勝手に閉まった! 急いで開けようとするが三人がかりでもびくともしない。
「何かくるわっ!」
バシャーーーーッ!
エメラダの声に反応して振り返ると、部屋の中心で穴もないのにいきなり水が勢いよく噴き出した。
水は重力に逆らって集まりむくむくと盛り上がって、7、8メートルの人の形を成していった。
「モンスター!?」
「我は魔剣を護る者なり」
人の輪郭をした水の巨人は感情のない声で喋ると、いきなり大きな腕を振りおろしてきた。
「うわっ!」
間一髪で避ける。今まで立っていた床が大きく抉られた。
「魔剣を護る者? ってことは魔剣を手に入れるためにはこいつを倒さないといけないんだな」
「ならこの一発ですぐに決着を着けるわ。
『爆龍灰燼撃』」
あれはイーワンが使っていた魔法! エメラダも使えたのか。
「蒸発しなさいっ!」
炎の龍は勢いよく水の巨人へ突っ込んだ。
バシューーーーーーーーーッ!!
ものすごい音と蒸気が巻き起こったが、巨人は何事もなかったように立っていた。
「ノーダメージ!?」
「ならこれならどうだ。
『雷帝降刃術』」
巨人の頭上から凄まじい雷撃が貫いた。人間の使う雷系魔法の中で最上位の技だ。水は電気を通すというし、さすがにこれは無傷ではいられまい。
「我は魔剣を護る者なり」
だが水の守護者はまるで攻撃などなかったかのように変わらぬ姿で立っている。
「ユイトの攻撃でもダメなのか!? ユイトの能力は相手のステータスを凌ぐ強さを自分に付与できるんじゃないのか?」
「どういうわけか分からないけど、能力が発動しないんだ」
「此処は理より外れし場所。意志こそ力なり」
表情のない表情で語りかける。
「小難しい言い回ししやがって。つまり、普通に攻撃しても無駄ってことか」
「強い意志を込めて攻撃しないとダメなのかも」
「意志で力が変わるなんて信じられないわね」
「魔剣を求めし者よ。汝はなぜ力を求める」
巨人はユイトに向かって語りかけた。
「僕は困っている人を助けたい。悲しむ人をなくすため、笑ってすごせる世界を守るために魔剣の力を使いたい」
ユイトは真っ直ぐな瞳で力強く答えた。
なんて志優れた回答。勇者の鑑だな。
「魔剣を求めし者よ。汝はなぜ力を求める」
今度は俺に向かって問いかけてきた。
「俺は…」
一瞬答えに口ごもる。前者のように立派な考えはないがせっかくここまで来たんだ、自分の気持ちを正直に伝える。
「俺は仲間と旅をするために魔剣を手に入れたい。弱くて自分の身も守れないのが嫌だから。足を引っ張らないための力を手に入れるためにここに来た」
巨人は2人の話を聴き終わると、再び動き出して攻撃をしかける。
「はぁっ!」
俺とユイトは攻撃を避けると、同時に左右の足へ斬りつける。
ばよんっ
水の足は少しだけ形を凹ませると、ゴムのような弾力で剣の勢いを跳ね返した。
「『氷龍輪舞撃』」
全身を凍てつかせるはずの氷の龍ですら、水でできた体に効果を及ぼすことはできなかった。
「意志を込めて攻撃してもダメじゃん、詐欺かよ!」
巨人はこちらに向き直ると、突然全身が弾け飛んで床に溶け込むように消えた。
「へっ、なに? あいつどこへ行った?」
「危ないっ!!」
エメラダに突き飛ばされた。
後ろに現れた巨人が俺を攻撃しようとしたところをエメラダに助けられた。だが巨人の攻撃を代わりに受けたエメラダが水の体内に取り込まれてしまった!
「エメラダっ!!」
水の中から脱出を試みるが魔法が発動していない様子。海中に潜る際に使った魔法も効果がないのか苦しそうに表情を歪ませる。
「我が体内は檻。魔力も意味をなさず一度取り込まれれば脱出は不可能」
必死に巨人の中から出ようとするエメラダだが、その表情にだんだん余裕がなくなって動きが鈍くなる。
「エメラダ!」
「止せフォックス! 君まで取り込まれるぞ!」
ユイトが止めるのも聞かずに自分から巨人の体内へと飛び込む。
急いでエメラダの元へ泳ぐ。
「!」
こちらに気づいたエメラダが手を伸ばす。俺はそれをしっかりと握ってエメラダを抱き寄せる。
〈早くここから出ないと〉
体内から水の壁を殴るが衝撃が吸収されるだけで抜け出すことができない。
〈くそっ、何でだ! 入るときはあっさりと入れたのに。せめてエメラダだけは逃がさないと〉
外からもユイトが繰り返し攻撃するが、水の壁には亀裂すら入らない。
〈魔剣を求めし者よ。汝はなぜ力を求める〉
頭の中で巨人の声が響く。
〈うるさいっ、そんなことより早くここから出せ!〉
〈答えよ。汝はなぜ力を求める〉
〈んなの、好きな女を守るために決まってんだろっ!!〉
自分の言葉に驚いた。いや、エメラダが好きだって自覚はあった。けど、命をかけて守りたいと思うほど真剣に好きになってたことに今気づいた。
もはや抵抗する力もなく苦しそうに口元を押さえているエメラダを優しく抱く。
〈俺はエメラダが好きだ! いつまでも一緒にいたい。一緒に旅をしてこれからも共に過ごしたい。でも俺にはエメラダの隣に立つだけの力がない。守られるだけじゃなく、守るための力がっ、世界中の誰よりもここにいるたった一人の大切な人を守る力が欲しい!!〉
突然巨人の体が光った。俺自身が光ったような気もしたが、眩しくて目をつむった次の瞬間に水が弾け飛んで外に出られた。
「エメラダっ、大丈夫か!」
「げほっ、げほっ!」
咳き込んで水を吐き出す。なんとか間に合ったみたいだ…。
「フォックス……」
弱々しくこちらを見つめる。
「もう大丈夫だ。あとは俺に任せて休んでな」
抱き抱えていた身体を床にゆっくりと下ろして頭を撫でた。
「一人で行く気? 無茶だ、僕も戦うよ」
「大丈夫だ。ユイトはここで待っててくれ」
弾け飛んだ水が集まり、再生した巨人の正面に立つ。
「あんたの言ってる意味が分かったよ。あんたはただの魔剣の守護者じゃなく、魔剣を求める者を試す役目もあったんだな」
「力を示せ」
巨人が大きく腕を上げ拳を振り下ろす。
「危ない!」
ユイトが叫ぶが、俺は片手で巨人の拳を受け止めた。
「あの攻撃を片手で!?」
そのまま反対の手で巨人の拳を殴る。
バチャンッ!
水が弾けて巨人の手首から先が無くなった。
すぐに手は再生する。しかし今までとは違い、飛び散った水はそのままで残った体から再生された。そのため若干巨人が小さくなったように思えた。
「はぁっ!」
剣で右足を横に薙ぐ。片足を失った巨人がバランスを崩して倒れる。
「さっきまで剣は弾かれるだけだったのに」
ユイトが驚くが俺にはもう理由が分かっている。
右足を再生して立ち上がる巨人は、もう巨人とはいえないくらい確実に小さくなっていた。
地上なら俺がこんな奴とまともにやりあえるわけがない。こいつが言ってた力になる意志とは、相手を倒そうとする戦意ではなかった。
魔剣を求める理由、力をふるう芯となる心がここでは己の力となるのだ。
自分の気持ちに気づいた今なら、水の巨人に負ける気はしない。
戦闘が続くにつれ巨人の体はどんどん小さくなり、もう俺と同じくらいの背丈になっていた。
「約束する。必ずエメラダを守りとおすって。だから魔剣は俺が貰っていくぜ!」
とどめの一撃を胸に深々と突き刺した。
水の守護者は無言のまま飛び散り、そのまま再生することはなかった。
剣を鞘に収めエメラダたちのところに戻る。
「! フォックスッ、まだ終わっていない!」
ユイトの声に床を見ると、飛び散った水が再び一ヶ所に集まろうとしていた。
「そういうことだったのか……」
水が集まり形を成したのは守護者の姿ではなく、1本の剣だった。
クリスタルのように透き通った淡く輝く青色をした綺麗な剣身の剣、これが魔石でできた伝説の魔剣………。
「魔剣自身が俺達を試していたのか」
柄を握って剣を引き抜く。光を反射してキラリと光ったのが挨拶のように思えた。
「これからよろしくな」
「やったね、フォックス」
ユイトは素直に喜んでくれる。
「あぁ。この剣、俺が使ってもいいかな?」
「もちろん。守護者を倒して魔剣に認められたのは君だ。所有者として胸を張っていいんだよ」
「ありがとう」
ユイトに頭を下げて横になっているエメラダの側に座る。
「大丈夫か? エメラダが回復するまでここでしばらく休んでいこう」
「フォックス!」
エメラダが急に抱きついてきて面食らった。
「どどど、どうひたほいきなひ?」
動揺で呂律が回らない…。
「なんでフォックスはいつもいつもアタシのこと助けてくれるの? アタシは魔王でフォックスよりもずっと強いのに…、アタシが危ないときは必ず助けてくれる。胸が締めつけられるみたいに苦しい…。どうしてこんな気持ちになるの?」
言ってる意味が分からない部分もあるけど、とにかくエメラダを落ち着かせることにした。
「助けるのは当たり前だよ。これからもエメラダが危ないときは必ず助ける。こうして魔剣も手に入ったしさ。
それに俺もエメラダにはいつも助けられてる、気にすることなんてないんだよ。これからも助け合っていけたらと思う。よろしくな」
こういうときどう言ったらいいのか分からなかったので、これで落ち着いてくれただろうか?
「これからもアタシと一緒にいてくれる?」
衰弱してるからか、いつもの強気なエメラダと違う面がめちゃくちゃ可愛い………。
「当然だっての」
たぶん顔が赤くなっているだろうから見られないように、エメラダの視界を遮るためにおでこのあたりに手をポンッ、と置いた。
「ユイト、しばらくここで休んでから戻ろう」
緊張を消すためにユイトに話しかけて休憩するのだった。
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