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第二章

初イベント そして出会い

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 イベント当日広場には参加者が集まりガヤガヤしていた。
 予定時刻になるとスタッフの人が説明を始めた。
「なるほど。初イベは討伐ptを競うイベントか」
 倒したモンスターが強いほどたくさんのptが与えられ、制限時間内により多くのptを稼いだ上位5人が賞品を貰えるようだ。
 参加者にはリストバンドが配られ、身に付けることで自動でptが管理されるらしい。
「やぁ、フォックスじゃないか」
「知り合い?」
「この間話した俺を助けてくれた勇者だよ」
「ここにいるってことはもしかしてユイトもこのイベントに?
 強いんだからギルドが出してるモンスター討伐依頼をこなせば、路銀には困らないんじゃないのか?」
「僕たちは今のままでも大丈夫だけど、このイベントの賞品をモンスターの被害にあった人たちに寄付しようと思って」
 さすが勇者、立派な考えだ。
 これでは俺が入賞するために棄権してくれとはとても言えない。
「そういや、エリナとカトレアは?」
「二人には調べごとをお願いしてるんだ」
「ふーん」
 この時、スタッフからイベント開始が宣言された。
「それじゃ、お互い頑張ろう!」
 ユイトは爽やかに去っていった。
「オレも行くわ。魔石ゲットできるといいな」
 アオイも出発し、他の参加者も続々と広場から出ていく。
「今日はヨロシクな」
 1日だけの相棒の頭を撫でると、たぶん任せろと言っているのだろう。ガウッ、と鳴いた。
 ユイトが出場する以上、1位はあいつで確定だろうな。残りは2位から5位までの4枠か。競争率が激しくなった。
 上位に入るために、苦戦覚悟で大物を狙うか、ptは低いが1戦に時間のかからない初級モンスターで数を稼ぐか。
 当然俺は後者を選ぶ。この日のために教科書でモンスターについて学んできたのだ。
 気持ちいい日差しのもとを散歩気分でしばらく歩いていくと、目的地の森に到着した。
 俺が狙うのは初級の中でも集団で行動するモンスターだ。まとめて倒せばそれなりのptになる。
 教科書によれば目当てのモンスターは森の中の池周辺に生息してるはずだ。
 森に入ってからまだ他の参加者の姿は見かけていない。とりあえず、同じ事を考えている参加者はいないようで安心した。
「おっ、さっそく発見♪」
 教科書に書いてあったとおり、池のそばにゼリー状のモンスターが5匹ぷにぷにしている。
「よし、行くぞ!」
 イベント事務局で受け取った、この魔獣が使える技や魔法が載った説明書を確認して攻撃を仕掛ける。
 敵が動き出す前に魔獣が炎を吐き出し3匹は倒すが、2匹に逃げられた。
「へぇー、魔獣での戦いってこんな感じなんだぁ」
 声に出して指示しなくても心で思うだけで、だいたいイメージどおりに攻撃してくれた。
 魔獣とのリンクが深くなればたぶん精度も上がるんだな。
「あっ、しまった!」
 炎が草から木へ広がりつつあったので、急いで水をかけて鎮火した。
 危うく火事になるところだった………。森の中で火はダメだわ。場所に応じた戦いかたをきちんと考えないとな。

 それからも池を中心に探索し、そこそこの戦闘回数をこなした。戦い方に慣れ、日も高く昇ってきたので昼食を取るために、一旦街へと戻ることにした。
「あれはっ」
 ゼリー状モンスターの集団の中に、1匹だけ色の違うやつを見つけた。
 あいつは滅多に見かけないレアモンスターだ。他のと強さは変わらないが、倒せば一気にptを稼ぐことができる!
「悪いけどもう1戦頑張ってくれるか?」
 労うように魔獣の頭を撫でて、攻撃を仕掛けるタイミングを見計らう。
閃魔光斬波シャインブレイバースト!」
 俺達が攻撃するまえに蒼白い光が視界を横ぎり、一瞬でモンスターを全滅させた。
「俺のモンスターがっ!?」
 俺の叫びは虚しく森に吸収され、代わりに魔法を放った人物が話しかけてきた。
「やっと見つけたわ」
 声の主は薄暗い森の中であっても、輝くような金色のロングヘアーをしたとっても可愛い女の子だった。
 いやいや可愛いからって油断するな俺! この子はたった今俺の獲物を横取りしたんだ。イベント参加のライバルに違いない。
 しかし参加者なら身に付けているはずのリストバンドをしていないことに気づく。
「君は? 俺に何か用?」
「人間に名乗る名はないわ。でも名前がないと不便ね………。エリィとでも呼んでちょうだい」
 いきなり変なことを言い出してきたぞ。
「アンタしばらく前に召喚魔法を使ったでしょ?」
「あぁ、失敗したけどな……。それがどうかしたのか?」
 なんだ、学園の生徒か? だが少なくとも同学年では見たことがない。
 わざわざこんな森の中まで探しに来るだなんて一体何なんだ?
「あれは失敗なんかじゃないわ。アタシはそのときこの世界に喚び出された異界の魔王よ」
「は?」
 ますますわけが分からないことを口走ってきた。
「あぁ~、厨二ってやつか。
『汝は我が第三の目により顕現せし王。
 さぁ、今こそ盟約のとき!』
 こんな感じでOK?」
「ちっがうわよ! アタシは正真正銘、異世界の魔王なのよ!」
 どうやら俺の演技はお気に召さなかった様子。
 変なのに絡まれてしまった。
 怪訝そうな、というより可哀想な目で見ていると。
「いいわ、それじゃあ契約しましょ。そしたら私の言っていることが本当のことだと分かるわ」
 エリィと名乗る少女はこちらに手を差し出してきた。
 俺は緊張しながらその手を握る(だって仕方ないじゃん! 非モテ男子である俺にとって女の子と手を繋ぐなんて何気に人生初なんだから!)
「!?」
 彼女の手に触れた瞬間、俺の体?心?の中に何かが流れ込んでくるのを感じる。
 これが精神をリンクさせるということらしく、彼女の話が本当なんだと自然と理解できた。
「魔王!! 俺ホントに魔王召喚しちゃったの!? 」
 俺の様子を見て満足したように微笑む。
「でも人間と見た目同じだけど、魔族ってそういうもの?」
「それは仕方ないわね。アンタの召喚魔法が発動したとき、アタシは神との戦いに敗れて封印されるところだったのよ。力もほとんど使い果たして元の姿を維持できていないし。
 そうね、今のアタシの力はこの世界の基準でSRってところかしらね」
 なんかとんでもないことをさらっと言ったような………。
「おそらく、その戦いのエネルギーが原因で召喚場所がズレたんでしょうね。
 本来なら召喚されたからといって人間なんかと契約なんてしないんだけど、偶然とはいえ封印されそうだったアタシを助けてくれたことには感謝してるし、それに力が戻るまで暇だから特別に契約してあげたのよ」
 ほとんど力を失ってもまだSRランクの強さがあるなんてさすがだ。魔王だけに人間を見下してる感はあるが、協力してくれるというならありがたい。
「力が戻るまでってどれくらいかかんの?」
「完全に元通りになるには1000年くらいかかるかしら?」
「1000年っ!? エリィって一体、歳いくつガァッ!」
 突然、魔力の衝撃波で吹き飛ばされた!
「アンタ、女の子の年齢聞くなんてデリカシーないの?」
「いや1000年とか平然に言ってる時点でって歳ジャベファッ!!」
 再び衝撃波が襲いかかった!
「学習能力がないのかしら? 今のアタシでも人間1匹殺すことぐらいわけないのよ。試してあげましょうか?」
 全力で首を横にふった。
 すでにHPを半分以上削られた。これ以上はマジでシャレになんねぇ…。
「アタシは永遠の17歳なの。覚えておきなさい」
 この魔王めんどくせー!
 何はともあれ、俺にもこうしパートナーができたわけだし、イベント続ける意味なくなっちゃったな…。
 学園に報告しとかないといけないから、イベントはリタイアして戻ることにした。
 ちなみにイベントランキングの結果は、案の定ユイトが優勝、アオイは18位だった。

「あ~あ」
 俺は一人寂しく部屋に帰ってきた。
 学園への報告は無事終了。さすがに魔王ということは秘密にした。
 だが問題はそのあとだった。
「それじゃあ部屋に行こうか。これからよろしく」
「なんでアタシがアンタの部屋に行かなくちゃいけないわけ?」
「なんでって、この学園では生徒はみんなパートナーと同室なんだよ。当然、俺達も一緒の部屋で過ごすことになる」
「知らないわよ。アタシは自分の部屋を用意させるわ」
「えーっ! ちょっと待てよ。これって同じ部屋に住んで、嬉し恥ずかしハプニングが起きるパターンじゃないの!?」
「なに考えてんのよ、このエッチ!」
 俺の切なる願いを学園長に懇願するもそこは教育機関、男女同室は認められなかった。
 エリィは手配された部屋へとスタスタ行ってしまった。
 ということがありましたチクショーッ!
 責任者出てこーい! 具体的には作者出てこーい!
 ここで作者が逃げ出したため、時間は明日に飛ぶ。

 召喚魔法で人が喚び出されたことは今までにないらしく、俺は教室で好奇の目で見られている。
 周りの反応がクスクスからヒソヒソに変わっていた。
「やぁ君がフォックスが召喚したっていう異界の女の子だね」
 そんな中、堂々と話しかけてきた奴がいる。
「こんな冴えない男に召喚されて君も災難だね」
「余計なお世話だよ!」
 俺の文句など意に介さず、フィヨルドは自信に満ちた態度でエリィに言葉を投げかける。
「どうだい、こいつとの契約なんて解除して俺と再契約しないかい?」
「なっ!?」
 コイツ、エリィをヘッドハンティングする気かっ!
「俺のところへ来れば何不自由ない毎日が送れるぜ。欲しいものは何でも買い揃えてあげようじゃないか」
 金持ちというステータスを存分に活かしてくる。
「フォックス、お前には代わりの召喚獣を喚ぶための魔石を用意しよう。満足いくまで好きなだけ召喚するといい」
 魔王であるエリィの代わりなんているか? いるとしたら異世界で対等以上に戦ったっていう神様ぐらいだろ。
 まぁ、そんな話に乗るつもりなど毛頭ないが。
 しかし、エリィはどう思ってるのだろう?
 確かにフィヨルドのところに行けば、この世界での生活は充実する。オレなんかといるより、優雅に暮らせるだろうな………。
 エリィの反応が気になってチラリと横目で見てみた。
「愚かな人間ふぜいが気安く話しかけるな。
 コイツのそばを離れるなんてありえない。アタシの隣に立つことが許されるのは世界中でコイツだけよ。
 キサマごときがこのアタシと契約できるなんて思うな。身の程を知れ!」
 端から聞いてるとメッチャ恥ずかしいことを言ってるようだけど、エリィにとってあくまで“恩を返すため”なのだ。
 意外と律儀だよなこの魔王さま。
「くっ、あんまり調子に乗るなよ。俺のほうが優れているってことを教えてやる」
 気分を害したフィヨルドから模擬戦を挑まれた。
「このアタシに勝負を挑んだこと、地獄で後悔するがいい!」
「ちょ、ちょっと待てよ」
 即答したエリィに耳打ちする。
「相手はSSRのドラゴンなんだぞ? 今のエリィには厳しいんじゃないのか?」
 今は子猫のような愛くるしい姿をしているが、模擬戦では元の猛竜となって襲いかかってくる。
「そんなの見れば分かるわよ。大丈夫だからアンタは黙って見ていなさい」
 まぁ、本人がそう言うのなら心配する必要はないのかな。
 勝負は放課後、実技の授業で使われる闘技場で行われることになった。
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