40 / 42
40【眞空Diary】不誠実の代償
しおりを挟む
「ふーん、血、つながってねぇってことね。そりゃ顔似てねぇよな、おまえら」
そばに誰もいないところで話をしたかったので、眞空は放課後の部活に出る前の純一をクラブハウス棟の裏に呼び出した。ここは純一が冬夜にキスをした場所だと聞いていたので本当は近づきたくなかったが、大会前で慌ただしい純一に時間を取らせるのも気が引けて、なるべく純一の負担にならない場所を選んだつもりだった。湿った土の匂いのする薄暗い一角で、横に並んで緑のフェンスにもたれかかる。
眞空はすべてのはじまりから順を追って丁寧に純一に説明した。両親が事故で死んで海斗と一緒に施設に引き取られたこと。その施設の園長に養子としてもらわれたこと。同じく孤児として施設にいた亜楼と冬夜も園長に養子として引き取られた子供で、自分たち双子とは血のつながりがないということ。
そして、ずっと冬夜を好きだったこと。つい先日、冬夜も自分を好きだと言ってくれたこと。
純一は途中で相槌を打つこともせず、ただじっと眞空の話に耳を傾けていた。眞空が話し終えると、驚くでも怒るでもなく、ふーんと薄い反応だけを静かに口元に浮かべた。
「ま、俺もそんなにバカじゃねぇからなんとなく気づいてたけどな、おまえらの気持ちくらいは。だからわざと挑発するようなことしてたのに、気づけよバーカ」
純一はうつむいて、足元に転がる小石を蹴っている。
「……ずっと、騙してたんだな」
だるそうにぽつりとつぶやく友の横顔を盗み見た眞空は、その哀しみに充ちた弱々しい双眸にはっとさせられて、もたれかかっていたフェンスから慌てて背中を離し純一の方にからだを向ける。
「騙してたわけじゃない! ただ、ずっと言えなくて……ごめん」
非があったのはまちがいなく自分の方だと眞空はただ親友の哀しみを受け入れるほかなく、そっとまつげを伏せることしかできない。
「俺、おまえがあのとき……俺がおまえに冬夜を好きだって教えたときに、冬夜はおれのものだから手出すなってはっきり言ってくれたら、冬夜のことあっさりあきらめてたぜ? だって勝ち目ねぇじゃん? どうせずっと前から両想いだったんだろ。なんか、俺だけ空回っててバカみてぇ」
「ごめん……怖くて、勇気なくて言えなかった……弟を好きだなんて非常識、誰にも言えなくて……本当にごめん」
本当は、迷うことなく冬夜を好きだと言った純一の潔さに尻込みしていたと、ただ意気地のなかった自分を省みて口唇を強く噛みしめる。
「……もっと早く、ちゃんと言ってくれればよかったのに……遅ぇんだよ、おまえ。俺が軽蔑するとでも思った? 見くびんなよ。俺はたとえおまえたちが本当に血のつながった兄弟だったとしても、おまえたちの気持ち受け入れてたよ」
「……っ」
「そんくらい、おまえたちがお互いを大事にしてるって知ってたから。なのに……何も言ってくれなかったんだな、おまえは。俺のこと信じてくれなかったんだな。……親友だと思ってたのは俺だけか?」
「そんなことあるわけねぇだろ! おれだっておまえのこと大事な親友だって思ってる! ……親友だと思わせてくれよ……ほんと、ごめん……」
なんにでも自信があって、欲しいものには貪欲に進んでいく強気な親友がふとこぼした苦笑に、眞空はただ誠実に謝罪の言葉を並べることしか方法を知らない。
純一はしばらくうつむいたまま、何かを思案していた。そしてふいに顔を上げると、眞空を射貫くように強く見る。
「おまえを嫌いになったわけでも冬夜を嫌いになったわけでもねぇけど、なんとなく腹立つから、しばらくおまえたちと口利かなくていい? ……そういうのなんていうんだっけ? ……あ、絶交だ、絶交」
とても絶交を提案しているような重々しさはなく、あっさりとそう言ってのけた純一は眞空の返しを聞く前に歩き出した。
「そんな! ちょ、待てって」
「じゃあ俺、部活行くから」
片手をぴらぴらと振って去っていく純一の背中を、眞空は手を伸ばして引き留めようとするが、その手はあっけなく空を切り裂いたのち下ろされる。
「絶交ってなんだよ……海斗みたいなことすんなよ……」
ついこの間同じ単語を聞いたなと、眞空が参った。マイナスの感情を伴うことが、そんな頻繁にあっていいはずがない。
親友だと信じているなら、なおさら正々堂々と闘わなきゃいけなかったのに。遠慮して、気を遣って、勝敗がつくのが怖くて逃げてばっかだったおれに、親友を語る資格なんてあるわけない、よな……。
遠ざかる純一の背中を呆然と見つめる。眞空は己の意気地なしが生み出してしまったいびつな結果を、沈痛な面持ちで、今はそっと受け入れるしかなかった。
そばに誰もいないところで話をしたかったので、眞空は放課後の部活に出る前の純一をクラブハウス棟の裏に呼び出した。ここは純一が冬夜にキスをした場所だと聞いていたので本当は近づきたくなかったが、大会前で慌ただしい純一に時間を取らせるのも気が引けて、なるべく純一の負担にならない場所を選んだつもりだった。湿った土の匂いのする薄暗い一角で、横に並んで緑のフェンスにもたれかかる。
眞空はすべてのはじまりから順を追って丁寧に純一に説明した。両親が事故で死んで海斗と一緒に施設に引き取られたこと。その施設の園長に養子としてもらわれたこと。同じく孤児として施設にいた亜楼と冬夜も園長に養子として引き取られた子供で、自分たち双子とは血のつながりがないということ。
そして、ずっと冬夜を好きだったこと。つい先日、冬夜も自分を好きだと言ってくれたこと。
純一は途中で相槌を打つこともせず、ただじっと眞空の話に耳を傾けていた。眞空が話し終えると、驚くでも怒るでもなく、ふーんと薄い反応だけを静かに口元に浮かべた。
「ま、俺もそんなにバカじゃねぇからなんとなく気づいてたけどな、おまえらの気持ちくらいは。だからわざと挑発するようなことしてたのに、気づけよバーカ」
純一はうつむいて、足元に転がる小石を蹴っている。
「……ずっと、騙してたんだな」
だるそうにぽつりとつぶやく友の横顔を盗み見た眞空は、その哀しみに充ちた弱々しい双眸にはっとさせられて、もたれかかっていたフェンスから慌てて背中を離し純一の方にからだを向ける。
「騙してたわけじゃない! ただ、ずっと言えなくて……ごめん」
非があったのはまちがいなく自分の方だと眞空はただ親友の哀しみを受け入れるほかなく、そっとまつげを伏せることしかできない。
「俺、おまえがあのとき……俺がおまえに冬夜を好きだって教えたときに、冬夜はおれのものだから手出すなってはっきり言ってくれたら、冬夜のことあっさりあきらめてたぜ? だって勝ち目ねぇじゃん? どうせずっと前から両想いだったんだろ。なんか、俺だけ空回っててバカみてぇ」
「ごめん……怖くて、勇気なくて言えなかった……弟を好きだなんて非常識、誰にも言えなくて……本当にごめん」
本当は、迷うことなく冬夜を好きだと言った純一の潔さに尻込みしていたと、ただ意気地のなかった自分を省みて口唇を強く噛みしめる。
「……もっと早く、ちゃんと言ってくれればよかったのに……遅ぇんだよ、おまえ。俺が軽蔑するとでも思った? 見くびんなよ。俺はたとえおまえたちが本当に血のつながった兄弟だったとしても、おまえたちの気持ち受け入れてたよ」
「……っ」
「そんくらい、おまえたちがお互いを大事にしてるって知ってたから。なのに……何も言ってくれなかったんだな、おまえは。俺のこと信じてくれなかったんだな。……親友だと思ってたのは俺だけか?」
「そんなことあるわけねぇだろ! おれだっておまえのこと大事な親友だって思ってる! ……親友だと思わせてくれよ……ほんと、ごめん……」
なんにでも自信があって、欲しいものには貪欲に進んでいく強気な親友がふとこぼした苦笑に、眞空はただ誠実に謝罪の言葉を並べることしか方法を知らない。
純一はしばらくうつむいたまま、何かを思案していた。そしてふいに顔を上げると、眞空を射貫くように強く見る。
「おまえを嫌いになったわけでも冬夜を嫌いになったわけでもねぇけど、なんとなく腹立つから、しばらくおまえたちと口利かなくていい? ……そういうのなんていうんだっけ? ……あ、絶交だ、絶交」
とても絶交を提案しているような重々しさはなく、あっさりとそう言ってのけた純一は眞空の返しを聞く前に歩き出した。
「そんな! ちょ、待てって」
「じゃあ俺、部活行くから」
片手をぴらぴらと振って去っていく純一の背中を、眞空は手を伸ばして引き留めようとするが、その手はあっけなく空を切り裂いたのち下ろされる。
「絶交ってなんだよ……海斗みたいなことすんなよ……」
ついこの間同じ単語を聞いたなと、眞空が参った。マイナスの感情を伴うことが、そんな頻繁にあっていいはずがない。
親友だと信じているなら、なおさら正々堂々と闘わなきゃいけなかったのに。遠慮して、気を遣って、勝敗がつくのが怖くて逃げてばっかだったおれに、親友を語る資格なんてあるわけない、よな……。
遠ざかる純一の背中を呆然と見つめる。眞空は己の意気地なしが生み出してしまったいびつな結果を、沈痛な面持ちで、今はそっと受け入れるしかなかった。
10
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
カフェと雪の女王と、多分恋の話
凍星
BL
親の店を継ぎ、運河沿いのカフェで見習店長をつとめる高槻泉水には、人に言えない悩みがあった。
誰かを好きになっても、踏み込んだ関係になれない。つまり、SEXが苦手で体の関係にまで進めないこと。
それは過去の手酷い失恋によるものなのだが、それをどうしたら解消できるのか分からなくて……
呪いのような心の傷と、二人の男性との出会い。自分を変えたい泉水の葛藤と、彼を好きになった年下ホスト蓮のもだもだした両片想いの物語。BLです。
「*」マーク付きの話は、性的描写ありです。閲覧にご注意ください。
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
身代わりβの密やかなる恋
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
旧家に生まれた僕はαでもΩでもなかった。いくら美しい容姿だと言われても、βの僕は何の役にも立たない。ところがΩの姉が病死したことで、姉の許嫁だったαの元へ行くことになった。※他サイトにも掲載
[名家次男のα × 落ちぶれた旧家のβ(→Ω) / BL / R18]
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
エロ垢バレた俺が幼馴染に性処理してもらってるって、マ?
じゅん
BL
「紘汰の性処理は俺がする。」
SNSの裏アカウント“エロアカ”が幼馴染の壮馬に見つかってしまった紘汰。絶交を覚悟した紘汰に、壮馬の提案は斜め上過ぎて――?【R18】
【登場人物】
□榎本紘汰 えのもと こうた 高2
茶髪童顔。小学生の頃に悪戯されて男に興味がわいた。
■應本壮馬 おうもと そうま 高2
紘汰の幼馴染。黒髪。紘汰のことが好き。
□赤間悠翔 あかま ゆうと 高2
紘汰のクラスメイト。赤髪。同年代に対してコミュ障(紘汰は除く)
■内匠楓馬 たくみ ふうま 高1
紘汰の後輩。黒髪。
※2024年9月より大幅に加筆修正して、最初から投稿し直しています。
※ストーリーはエロ多めと、多少のギャグで進んでいきます。重めな描写はあまり無い予定で、基本的に主人公たちはハッピーエンドを目指します。
※作者未経験のため、お手柔らかに読んでいただけると幸いです。
※その他お知らせは「近況ボード」に掲載していく予定です。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
家事万能な鉄仮面〜獣人騎士団の家政夫はじめました〜
シノン
BL
誰も知らない世界に行きたい。考えた事はなかった。なかったのに。
学校の学生寮の掃除と弁当作りを依頼された三嶋薫。25歳。学校に入った瞬間に森の中にいて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる