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12.日常の中の非日常

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 ○月○日。
 俺は、アパートで、1人でサケを飲んでいる。何とも悲惨な事件を思い起こしながら。
 俺達は、時々殺人事件にも出くわす。浮気調査の依頼人のすぐ近くで見付けてしまうのだ。
 その時も、後輩の倉持と一緒に、依頼人の夫が浮気しているかも知れないアパートを訪ねた帰りだった。
 隣の部屋のドアがギーっと怪談めいた音を立てて開くと、血の付いたナイフを持った男が後ずさりして、尻餅をついた。
 俺は迷わず倉持に指示した。まずは警察だ。倉持が少し離れて電話をしている間、俺は、じっと男を観察していた。
 恐らくは計画殺人ではない。揉み合って、つい刺したのだろう。どこにでもある果物ナイフだ。果物ナイフといえども、場所によっては致命傷になることもある。
 5分後。パトカーがサイレンを鳴らしてやって来た。
 アパートの外階段を上って来たのは、顔なじみの曾根崎署刑事の佐々ヤンだ。
「そこです。中の様子は分かりません。」「現場保存、ご苦労さん。後で書類、送ってくれ。詳しい事はホシから聞く。捜査状況は、差し障りない部分を署長から聞いてくれ。」
 言い残すと、佐々ヤンは部下に逮捕連行させ、他の部下と共に、部屋の中に踏み込んだ。
 事務所に帰って、所長に報告した。「ご苦労さん。午後からの案件、明日でええわ。そんなもん見た後じゃ身が入らんやろ。倉持と一緒に帰ってええぞ。」
 夕食後、所長から電話があった。
「刺した人間と刺された人間は同級生や。同窓会名簿のことで揉めたらしい。お前の推理通り、揉み合う内に果物ナイフで刺した。転んだ時に刺さったから、自分の体重で深く刺さった。よせばいいのに、あの男は無理矢理抜いた。お前も知っての通り、出血の蓋を取ってしまった。救急搬送中に絶命したよ。刺さった刃物抜くのは逆効果なのは、我々には常識でも、一般にはあまり知られてないからな。明日は、今日の午後の案件から頼むわ。倉持、夏風邪らしいから、花ヤンに相棒頼んどいた。倉持、感謝しとったぞ。この薬がええとか、こういう民間療法もあるとか、アドバイスしたんやて。先輩には感謝しかないって。ほな、頼むで。」
 倉持の気持ちも所長の気持ちも嬉しかった。飲み直そうか。そや。まだサバ缶は賞味期限来てなかったな。
 ―完―

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