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41.黒マントの女

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 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。
 南部寅次郎・・・南部興信所所長。総子の夫。
 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。総子からは『兄ちゃん』と呼ばれている。
 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。
 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。現在は休暇中。
 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。
 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。
 愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。EITOエンジェルスの後方支援担当になった。
 本郷弥生・・・EITO大阪支部、後方支援メンバー。
 大前(白井)紀子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。ある事件で総子と再会、EITOに就職した。
 芦屋一美(ひとみ)警部・・・大阪府警テロ対策室勤務の警部。総子からは『ひとみネエ』と呼ばれている。
 芦屋二美(ふたみ)二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。総子からは『ふたみネエ』と呼ばれている。オスプレイやホバーバイクを運転することもある。後方支援メンバー。
 芦屋三美(みつみ)・・・芦屋グループ総帥。EITO大株主。芦屋三姉妹の長女で、総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。芦屋三姉妹と総子は昔。ご近所さんだった。
 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。
 佐々一郎・・・元曽根崎署刑事。横山と同期。大阪府警テロ対策室勤務。
 指原ヘレン・・・元EITO大阪支部メンバー。愛川いずみに変わって通信担当のEITO隊員になった。
 用賀哲夫空自二曹・・・空自のパイロット。EITO大阪支部への出向が決まった。二美の元カレ。
 南部寅次郎・・・南部興信所所長。
 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。
 佐々一郎・・・元曽根崎署刑事。横山と同期。今は大阪府警テロ対策室勤務の警部。
 真壁睦月・・・大阪府警テロ対策室勤務の巡査。
 幸田仙太郎所員・・・南部興信所所員。総子のことを「お嬢」と呼ぶ。
 倉持悦司・・・南部興信所所員。
 横山鞭撻・・・元大阪府警の刑事。南部興信所所員。
 花菱綾人・・・元大阪阿倍野署の刑事。南部興信所所員。


 =====================================

 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =
 ==EITOエンジェルズとは、女性だけのEITO大阪支部精鋭部隊である。==

 午前7時半。JR我孫子町駅。
 駅の出入り口近くで、老婦人が餌を撒いている。餌と言っても、食パンを細切れにしたものだ。最初は、野良猫に『餌付け』をしていたらしい。ところが、いつの間にか、鳩の餌場になっていた。老婦人は、今度は、鳩の為に餌をやりに毎日通うようになり、野良猫の時のように、さっと、餌を撒いて帰って行く。
 老婦人が去った後、横山と花菱が乗用車で老婦人を尾行した。
 そして、今度は女性の団体がワゴン車でやって来て、「追加の餌」を撒いて、去って行った。
 見張っていたライトバンの幸田と倉持が、車を発車させ、尾行を始めた。
 今度は、黒マントの女が、どこからか現れて、何やら派手な銃で、餌を撒いた。
 鳩は次々と、横倒しになった。3トンパネルトラックが到着し、真っ黒な捕獲網で鳩を捕え、男達は捕獲網をトラックに積み込んだ。
 すると、どこからか、鳩が舞い降りて来た。
 黒マントの女は、また、銃から餌を撒いた。鳩たちは横倒しになる。男達が真っ黒な捕獲網で鳩を捕え、男達は捕獲網をトラックに積み込んだ。
 また、どこからか、鳩が舞い降りた。同じ事が数回繰り返された。
 黒マントの女は、長波ホイッスルを吹いた。パネルトラックは、どこかへ移動した。
 今度は、違うトラック軍団が現れ、作業員達は三角ポールをあちこちに配置し、梯子を使って、駅舎の屋根に上って工事を始めた。黒マントの女は、いずこかへ消えた。
 作業員達は、テグスを張り巡らした。
 午前8時半。あびこ観音近くの住宅。富樫家。
 住人である、富樫キヌエの前にPCを置き、幸横山と花菱、そして、駆けつけた南部が話を始めた。
「富樫さんは、猫が好きなの?鳩が好きなの?」「猫。」「そうやろうと思った。猫は、どこに行ったのかな?」「さあ。鳩が多くなったから、追い出されたんやな。」
「もういっぺん聞くで。富樫さんは、猫が好きなの?鳩が好きなの?」「猫。」
「鳩に追い出された猫は、可哀想やないのん?最初、猫に餌あげた時、猫が可哀想やと思って、餌あげたんやろ?鳩も可哀想なん?」「・・・。」
「追い出された猫は、どう思ってるやろな。あのお婆ちゃんは、自分ら見捨てて、鳩に餌やってる、そう思ってるやろな。」「・・・。」
「区役所の人は、餌やるのを中止してくれ、って、何度もこの家に来たんやな?」
「あんたら、区役所の人か?」「いや、興信所の人です。実はね、液の近くの人達に頼まれたんや。これ、見てくれる?」
 横山が操作すると、映像の中に富樫が現れて、餌を撒いた。
 そして、しばらくすると、女性の団体が来て、また、餌を撒いた。
「富樫さんが、猫に餌あげてた時、何匹おったん?」「10匹。」「鳩が来るようになった時は、鳩は何匹おったん?」「10匹・・・かな。」「まあ、前の時の数字は、ええよ。横ヤン。」
 横山は、別の映像を見せた。駅舎の入り口の屋根には、びっしりと鳩が止まっている。ざっと数えても50匹、いや、50羽はいる。
 50羽は、代わる代わる、餌場に降りたり、屋根に上がったりしている。
「増えてるの、分かる?」「うん。」「子供が出来て、増えた訳やなさそうやで。今、富樫さん以外に餌やった人おったやろ?こいつらは、富樫さん、あんたが全部鳩に餌やってるって世間に思い込ませてるんや。猫は可哀想か?鳩は可哀想か?可哀想やったら、富樫さんが全部飼うか?可哀想なんは、富樫さんや。息子さんも娘さんもおるのに、一人暮らしさせて。喧嘩したんか?仲裁したろか?但し、もう猫にも鳩にも餌やらん、って約束してくれたら、やで。」富樫は頷いた。「すんません。」
 南部は、富樫キヌエに向かって、『お婆ちゃん』とは呼ばなかった。一人の人間として、問題に対峙して貰いたかったからだ。
 南部は、訝っていた。鳩の騒音や糞の害は、地下鉄長居駅や長居公園でも起きていた。
 そして、JR我孫子町駅の鳩。長居から飛んで来たに違いない、と言われてきた。
 しかし、長居から移動しているのなら、地下鉄我孫子駅の方が、ただ南下するだけだから納得出来る。JR我孫子町駅だけが、社会問題化するのも、おかしい。それに、他府県の人には、分かりづらいが、JR長居駅と地下鉄長居駅は、すぐ近くだが、JR我孫子町駅と地下鉄我孫子駅は、750メートル離れている。地下鉄長居駅から、JR我孫子町駅に向かうのは、南方向ではなく、南西方向だ。
 鳥のテリトリーは、よく分からない、だが、背後に何かある、と南部は睨んだ。
 それで、大阪府知事から、EITOの大前に、何とかならないかと打診され、大前から横断を受けた時に、迷わず芦屋三美に援助を申し出た。
 幸い、二美が、マジシャンの娘を空輸してきた。作戦は始まった。
 午前9時。
 幸田と倉持は、東住吉区杭全(くまた)の住宅地の外れに着いた。
 どこからか、鳩の鳴き声が聞こえた。
 幸田は、南部と総子と大前に報せた。
 午前9時18分。元「福知山線脱線事故」現場付近。
 関東の住民などに「大阪の事故」として語られる事故現場は、兵庫県である。
 マンション住人は転居し、事故から19年経った今年、マンションの一部を残す形で整備された追悼施設で追悼慰霊式が行われた。
 兵庫県の事故ではあったものの、大阪府警宛と大阪府知事宛に、「事故の事後処理の不手際を謝罪しろ」という脅迫状が届いていたので、念の為、大阪府警は、警察に協力して、警備に当たるようにEITO大阪支部に打診していた。
 大前は、鳩の一件が気になったが、芦屋総帥と南部興信所の協力申し出はありがたかった。大前は、総子にチームの大半を警備応援と交通整理に向かわせる指示を出した。
 敢えて、EITOエンジェルズの格好で、旧マンション周辺の交通整理に当たりながら
 、総子達は、追悼式が無事済むことを祈った。
 午前10時。
 総子のスマホに、佐々ヤンこと佐々刑事からの電話があった。
「犯人知ってる。犯人は車掌や。JRに制裁加える、という電話やメールは、ガセやったみたいやな、チーフ。大阪府警のサイバーセキュリティーシステムからプロバイダに圧力かけて、投稿者をしょっ引くらしい。テロ準備罪やな。小柳警視正が、EITOは引き上げてええ、って言ってる。」
「ありがとう、佐々ヤン。お言葉に甘えて引き上げるわ。」
 総子はインカムで、皆に指示を出した。
 午前11時。大阪市港区。
 ある住宅地に、芦屋一美と真壁、警官隊のパトカーが到着した。表札には、『日樫』とあった。
「いらっしゃい。」奥の仏間に、大学生らしき人物が座っている。
 一美が尋ねた。「日樫、日樫京介さんですね。あなたは、大阪府知事と大阪府警に脅迫状を送りましたか?」
「はい。メールで。電話も私です。隣の部屋に全てあります。一つだけ、我が儘を言わせて貰っていいですか?」「何ですか?」「今、線香に火を点けたばかりなので、火が消えるまで待って頂けませんか?」
 一美は驚いたが、仏壇の近くの5つの遺影に気づき、納得した。
「君は、福知山線事故で亡くなった身内に、お別れが言いたいのね?」
「はい。」「いいわ。一緒に待ちましょう。但し、自殺は許さないわよ。」「・・・はい。」
 7分後。線香の陽は完全に消えた。
「日樫京介。大阪府警お呼び大阪府知事脅迫の疑いで緊急逮捕します。」
 冷然と言った一美は、日樫に手錠をかけ、警察官が連行した。
 一美と真壁は、遺影に向かって、黙礼をしてから、踵を返した。
 午前11時。EITO大阪支部。司令室。
「総子、済まんな。今日はダブルヘッダーや。幸田さん達が、「鳩けしかけ犯人」のアジトを突き止めた。杭全にある、NPO法人『動物に人権を』協会や。その建物を共有使用しているのが、『まちかね商会』や。半グレやな。幸田さん達では無理や。出動してくれ。大阪府警のソタイも動く。」
 大前は、総子に通信すると、昆布茶で一息入れた。
「やっぱり、お婆さんが一人悪かったんヤないんですね。」と、紀子が言うと、「うん。今回は一緒くたに作戦に入れへんかった、『長居』の方も裏があるんやろな。芋釣りできたら、エエけどな。」と、大前は応えた。
 正午。東住吉区杭全。NPO法人の建物。
 パネルトラックから、『眠っていた』鳩を、工事作業員風の男達が、次々と、『既存』の鳩小屋に放り込んだ。
 眠りから目が覚めた鳩と、前からいた鳩は、抗争を始めた。
 たちまち、周辺は『大音声』に包まれた。
 建物から、拳銃を持った男達が出てきて、鳩を撃ち、黙らせた。
「あーあ。『手下』やったのに。」と、総子は大袈裟に嘆いた。
 EITOガーディアンズ姿の用賀は、メガホンを使って、「NPO法人さん、鳩が虐殺されましたよー。ほっといて、大丈夫ですかあ?」と呼びかけた。
 血相を変えて、NPO法人のおんな達は飛び出して来た。
 彼女達が絶句していると、男達は、EITOエンジェルズに銃を向けた。
 総子達は、一斉に胡椒弾を撃った。胡椒弾とは、胡椒や調味料を原料に捏ねた丸薬で出来た弾丸である。
 不意を突かれた、男達は、胡椒弾で鼻孔をやられ、立ちすくんだ。
 すかさず、総子達は、シュータや、バトルスティックで、男達をたたきのめした。
 シュータとは、EITOが開発した、うろこ形の手裏剣で、先端に痺れ薬が塗ってある。
 EITOエンジェルズが、半グレ集団を鎮圧するのに、30分とはかからなかった。
 総子は、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、犬笛に似た、人間の耳では聞こえにくい音波を出す通信機で、通常はパイロットである用賀が連絡通信を開始するが、今回、用賀はリモートで、それを行った。
 すぐに、佐々ヤンこと佐々刑事と刑事達が到着した。
「チーフ。護送バスをチャーターしといたで。ご婦人方にトラックに乗って貰うのもちょっと・・・やしな。」と、佐々刑事は笑った。
 午後2時。EITO大阪支部。食堂。
「芦屋商事から、仰山差し入れして貰ったサカイな。幾らでも食べてええで。麻生さん、態々済みませんでした。ご協力感謝します。二美、悪いけど、とんぼ返りやけど、麻生さんを送ってあげてくれ。」
 大前の言葉に、二美は「了解。」と短く応え、素麺を頬張った。
「いえ、いい経験になりました。父のアシスタントしていたことは無駄になりませんでした。父に接見した時、『冥土の土産話』として報告します。」
 麻生めぐみは、箸を止めて、大前に深くお辞儀をした。
 麻生めぐみは、東京本部の爆破未遂事件で、逮捕された、元マジシャンの麻生海の娘だった。芦屋三美のアイディアで、『目眩まし』に一役買ったのだった。
 大前と総子は、にっこりと頷いた。
「ああ。お婆ちゃんな。2度と餌付けせんことを条件に、吉本知事からシャム猫プレゼントして貰ったらしい。」「よかったな、兄ちゃん。次は、長居やな。」「うん。」
 午後3時。司令室。
 大前に、福知山線事故の遺族による、脅迫事件の取り調べが始まった、と小柳警視正から連絡が入った。
 大前は、PCに向かって、報告書を書き始めた。
 紀子とヘレンは、紅茶と煎餅の準備を始めた。
 ―完―
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