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冒険者たちの衝撃 ※モルト視点②
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「いらっしゃい! ごめんなさい、わざわざ屋敷にまで来てもらっちゃって」
とはいえ、貴族家に訪問するというのはかなり緊張するものだ。別に初めてってわけじゃないが、何か粗相をしたらまずいという意識がどうしても働く。
だが、俺たちは揃って呆気に取られることとなった。
なんと、依頼主であるウォルターズ家のご令嬢、ハナ様が自ら玄関ホールにまで来て出迎えてくれたのだから。
しかも、明るく笑ってとても気さくに話してくれる。服装もドレスというよりは仕立ての良いワンピースといった感じで親しみを覚えた。当然、それでも俺らが簡単に手を出せるような代物ではないんだが。
そして何より、ハナ様はとてもかわいらしい女性だった。
美人顔というよりも愛嬌のある愛らしさとでもいうのだろうか。妙に人を惹きつける、そんな魅力に溢れている人だ。
とにかく笑顔がよく似合う。癖のあるブルネットの髪がフワフワ揺れているのがまたかわいらしい。
ハナ様は終始ご機嫌な様子で、俺たち四人を見ると「年齢が近そうで安心しました」と言いながらニコニコしていた。
……本当に、貴族への印象がガラッと変わってしまいそうだ。もちろん、ハナ様が特殊なのだろうことはわかっているが。
「どうぞ楽にしてください。私も客商売のお手伝いをしている身なので、人と接することには慣れているんです。普段通りでも気にしませんよ!」
客間に通された俺たちは、まだどこか緊張が残る中で勧められたソファーに腰掛けた。テーブルには紅茶とお菓子が出される辺り、やはり貴族家なのだと思い出す。
改めて背筋を伸ばし、代表で俺が話を切り出した。
「今回は、ギャレック領までの護衛を頼みたいとのことですが……その、なぜあの領に? 差し支えなければどういった用件で向かうのか聞いておきたいんですが」
まずは依頼内容の確認と、念のためギャレック領に向かう理由を聞かせてもらった。あまりあの地に行きたがるものはいないからな。
元々、ギャレック領の出身であればその地の良さが身に染みてわかるんだが……やはり髑髏領主の恐ろしい噂の影響力は強い。
行きたいという者がいれば、ここ王都では変わり者のレッテルを貼られる程度には滅多にないことである。
だからよほどの用向きでもあるのだろうと思って聞いたのだが、予想外すぎる理由に俺たちは揃って驚いたんだ。
「えへへ。実は婚約したものですから。ギャレック領には嫁ぎに行くんですよー!」
ハナ様はとても幸せそうにふにゃりと微笑んだ。先ほどまで浮かべていた明るい笑顔も素敵だったが、この微笑みもとても愛らしい。よほどお相手を思っているのだろうことが見てとれて、こちらも幸せな気持ちにさせられた。不思議な人だ。
「ギャレック領の方と婚姻を!? わぁ、おめでとうございますーっ!」
「おめでとうございます。ですが、その。ギャレック領には貴族がいませんが……一般の方とご結婚されるのですか?」
真っ先にコレットが祝いの言葉を告げる。この手の話題は女性に任せるのが良さそうだな。
ただ、リタが首を傾げるように、確かにどこに嫁ぐのかは疑問だった。
なぜなら、ギャレック領には貴族がいないからだ。
あれほどの力と広さを誇るギャレック領であれば、領地を持たない子爵家や男爵家、準男爵家が住んでいることもあるのだが、誰も彼もがギャレック辺境伯、つまり髑髏領主を恐れて近付きたがらないんだよな。
まぁ、ハナ様は領地を持たない男爵家。一般人との婚姻もなくはない、のかもしれない。
……いや、しかし。
確かウォルターズ家の子はハナ様しかいなかったはず。それなのに他所へ嫁ぐというのなら、もしかするとウォルターズ家はこの代で終わらせるつもりなのだろうか。爵位は継げずとも、店は評判もいいし王族の覚えもいい。上手くいけば存続だって夢じゃなかったはずではないか?
まぁ、俺も貴族家のことはよく知らないからな。もしかすると、色々とギリギリだったりするのかもしれないし……。あまり詮索するのは良くないだろう。
そう、思考を放り投げた時だった。
「いいえ? エドウィン様と結婚するのですよ?」
ハナ様から告げられた言葉に、パーティーメンバー全員で絶句してしまった。
エドウィン様、と言ったな……?
それは、つまりもしかしなくても、エドウィン・ギャレック様。つまり、我らがギャレック領の髑髏領主その人ということか!?
「あはは、ごめんなさい。そうですよねー。あんなに偉大な方の婚約者がこんな貧乏貴族の娘だとは思えないですよねー! 釣り合わない自覚はあるんです。でも本当のことですよ!」
いや、いやいやいや! 家柄は、まぁ、そうなのかもしれないが、ハナ様自身が釣り合わないだとかそんなことは決してない。っていうか問題はそこじゃねぇ!!
「そ、そんなにお家の存続危機なのですかぁ!?」
「コレット!!」
うっかり同じことは思っちまったが、口に出していいヤツじゃねぇぞ! さすがに口を滑らせたと思ったのだろう、コレットも慌てて口を押さえたがもう遅い。
しかし、ハナ様はコロコロと笑って全く気にしていないようだった。でも、失礼なことに変わりはない!
「申し訳ありませんっ!!」
「いいんですよー、皆さん大体そう思うだろうことは予想してましたから!」
本当に寛大な方だな……? もうこれはいつも以上にしっかりと仕事をしてお詫びするしかない。男爵家に払えるものなんて、労働力しかねーんだから。
くそ、コレット。後でゲンコツな!
「それに、私は本当に幸せなのです。エドウィン様と出会えたことが。だって、とってもかわ……素敵な方だったので! 一目惚れしちゃったんです!」
キャッと言いながら頰を染める、心から幸せそうなハナ様の姿と言葉にまたしても揃って絶句してしまった。しかも今、かわいいって言いかけていなかったか?
……俺たちは今日、このわずかな時間だけで一生分驚いたかもしれない。
とはいえ、貴族家に訪問するというのはかなり緊張するものだ。別に初めてってわけじゃないが、何か粗相をしたらまずいという意識がどうしても働く。
だが、俺たちは揃って呆気に取られることとなった。
なんと、依頼主であるウォルターズ家のご令嬢、ハナ様が自ら玄関ホールにまで来て出迎えてくれたのだから。
しかも、明るく笑ってとても気さくに話してくれる。服装もドレスというよりは仕立ての良いワンピースといった感じで親しみを覚えた。当然、それでも俺らが簡単に手を出せるような代物ではないんだが。
そして何より、ハナ様はとてもかわいらしい女性だった。
美人顔というよりも愛嬌のある愛らしさとでもいうのだろうか。妙に人を惹きつける、そんな魅力に溢れている人だ。
とにかく笑顔がよく似合う。癖のあるブルネットの髪がフワフワ揺れているのがまたかわいらしい。
ハナ様は終始ご機嫌な様子で、俺たち四人を見ると「年齢が近そうで安心しました」と言いながらニコニコしていた。
……本当に、貴族への印象がガラッと変わってしまいそうだ。もちろん、ハナ様が特殊なのだろうことはわかっているが。
「どうぞ楽にしてください。私も客商売のお手伝いをしている身なので、人と接することには慣れているんです。普段通りでも気にしませんよ!」
客間に通された俺たちは、まだどこか緊張が残る中で勧められたソファーに腰掛けた。テーブルには紅茶とお菓子が出される辺り、やはり貴族家なのだと思い出す。
改めて背筋を伸ばし、代表で俺が話を切り出した。
「今回は、ギャレック領までの護衛を頼みたいとのことですが……その、なぜあの領に? 差し支えなければどういった用件で向かうのか聞いておきたいんですが」
まずは依頼内容の確認と、念のためギャレック領に向かう理由を聞かせてもらった。あまりあの地に行きたがるものはいないからな。
元々、ギャレック領の出身であればその地の良さが身に染みてわかるんだが……やはり髑髏領主の恐ろしい噂の影響力は強い。
行きたいという者がいれば、ここ王都では変わり者のレッテルを貼られる程度には滅多にないことである。
だからよほどの用向きでもあるのだろうと思って聞いたのだが、予想外すぎる理由に俺たちは揃って驚いたんだ。
「えへへ。実は婚約したものですから。ギャレック領には嫁ぎに行くんですよー!」
ハナ様はとても幸せそうにふにゃりと微笑んだ。先ほどまで浮かべていた明るい笑顔も素敵だったが、この微笑みもとても愛らしい。よほどお相手を思っているのだろうことが見てとれて、こちらも幸せな気持ちにさせられた。不思議な人だ。
「ギャレック領の方と婚姻を!? わぁ、おめでとうございますーっ!」
「おめでとうございます。ですが、その。ギャレック領には貴族がいませんが……一般の方とご結婚されるのですか?」
真っ先にコレットが祝いの言葉を告げる。この手の話題は女性に任せるのが良さそうだな。
ただ、リタが首を傾げるように、確かにどこに嫁ぐのかは疑問だった。
なぜなら、ギャレック領には貴族がいないからだ。
あれほどの力と広さを誇るギャレック領であれば、領地を持たない子爵家や男爵家、準男爵家が住んでいることもあるのだが、誰も彼もがギャレック辺境伯、つまり髑髏領主を恐れて近付きたがらないんだよな。
まぁ、ハナ様は領地を持たない男爵家。一般人との婚姻もなくはない、のかもしれない。
……いや、しかし。
確かウォルターズ家の子はハナ様しかいなかったはず。それなのに他所へ嫁ぐというのなら、もしかするとウォルターズ家はこの代で終わらせるつもりなのだろうか。爵位は継げずとも、店は評判もいいし王族の覚えもいい。上手くいけば存続だって夢じゃなかったはずではないか?
まぁ、俺も貴族家のことはよく知らないからな。もしかすると、色々とギリギリだったりするのかもしれないし……。あまり詮索するのは良くないだろう。
そう、思考を放り投げた時だった。
「いいえ? エドウィン様と結婚するのですよ?」
ハナ様から告げられた言葉に、パーティーメンバー全員で絶句してしまった。
エドウィン様、と言ったな……?
それは、つまりもしかしなくても、エドウィン・ギャレック様。つまり、我らがギャレック領の髑髏領主その人ということか!?
「あはは、ごめんなさい。そうですよねー。あんなに偉大な方の婚約者がこんな貧乏貴族の娘だとは思えないですよねー! 釣り合わない自覚はあるんです。でも本当のことですよ!」
いや、いやいやいや! 家柄は、まぁ、そうなのかもしれないが、ハナ様自身が釣り合わないだとかそんなことは決してない。っていうか問題はそこじゃねぇ!!
「そ、そんなにお家の存続危機なのですかぁ!?」
「コレット!!」
うっかり同じことは思っちまったが、口に出していいヤツじゃねぇぞ! さすがに口を滑らせたと思ったのだろう、コレットも慌てて口を押さえたがもう遅い。
しかし、ハナ様はコロコロと笑って全く気にしていないようだった。でも、失礼なことに変わりはない!
「申し訳ありませんっ!!」
「いいんですよー、皆さん大体そう思うだろうことは予想してましたから!」
本当に寛大な方だな……? もうこれはいつも以上にしっかりと仕事をしてお詫びするしかない。男爵家に払えるものなんて、労働力しかねーんだから。
くそ、コレット。後でゲンコツな!
「それに、私は本当に幸せなのです。エドウィン様と出会えたことが。だって、とってもかわ……素敵な方だったので! 一目惚れしちゃったんです!」
キャッと言いながら頰を染める、心から幸せそうなハナ様の姿と言葉にまたしても揃って絶句してしまった。しかも今、かわいいって言いかけていなかったか?
……俺たちは今日、このわずかな時間だけで一生分驚いたかもしれない。
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