118 / 130
最終決戦に備えますが正直かなり不安です
彼らの有能さを改めて思い知りました
しおりを挟む扉の前に立つギディオンとジュニアスの間にピリピリとした空気を感じるのは気のせいではないと思います。
今は二人の後ろ姿しか見えないけれど、たぶん互いに顔を逸らしているし不機嫌そうなのが見なくてもわかる。今から恐らくたくさんの敵が待ち構えている場所に二人だけで向かうというのに本当に大丈夫かな……?
「心配しなくても死にはしませんよ。たぶん」
語尾にたぶんを付けないでください、シルヴィオ。
「そうよ。ジュニアスがただの獣人や禍獣なんかに後れを取るわけないでしょ」
ま、マティアス。自信満々で頼もしいですが、じゃあギディオンは……?
「あ、じゃあこいつらが戻ってきた時ってー、ぶっ倒れた国王軍がそこかしこにいるってことー?」
「えー、邪魔だねーそれ。踏んづけていこうか」
怖いことを言わないでくれますかねぇ!? リーアンとガウナの無邪気特攻コンビはっ!
他にも、何も口出しはしないけれどカノア、エトワル、ジーノは我関せずといった様子なのも私的にとても怖いです! もう少しくらい興味持って!
「お互いに嫌い合うのは構わないけど、仕事はきっちりこなしなさいよ、あんたたち。決戦はもう、始まってるんだから」
そんな中、マティアスがビシッとその場を引き締めてくれました。あ、ありがたい……!
「わかってる」
「はいはい、最も先陣に向かない僕が身体張ってきますよー。開けるよ、ブラコン」
「黙れ、根暗」
大好きなお兄さんに言われてジュニアスがせっかく素直な返事をしたというのに、ギディオンの余計な一言によって一瞬で元の険悪ムードに戻ってしまった。
ある意味、才能ですよね……ほ、本当に頼みましたからねっ!?
こちらの心配をよそに、二人はあっさりとドアノブに手をかけて躊躇なく扉を開く。向こう側の景色は……思っていた以上に凄まじいことになっていました。
え、何? この人数……地下室という閉鎖的な空間だから余計に大人数に感じるのかもしれないけれど、それでも多すぎません? これ、全部国王軍なの……? 威圧感に身体が硬直してしまう。
「じゃ、またあとで」
「えっ!?」
その光景に言葉を失っている隙に、ギディオンとジュニアスは扉の向こうに消えていった。一言だけを残して扉がパタンと閉められて。
「いっ、今の見ましたよね!? 封印された禍獣の王が確認出来ないくらい、国王軍でいっぱいでしたよね!?」
呆然と見送ることしか出来なかったのですが!? 大慌てで扉を指差し騒いでいると、マティアスに指で額を突かれた。あ、痛っ!
「落ち着きなさい、ダメ聖女。だからこそギディオンが向かったんでしょ。あの程度、暴走した禍獣の群れと変わんないわよ」
「そうですよ、エマ様。自我を持っていれば少しは厄介だったかもしれませんが、彼らは現在、我を失っています。頭を使わず、連携も取らない彼らに負けるわけがありません」
マティアスに続き、シルヴィオも笑顔で説明してくれる。いや、暴走した禍獣の群れも脅威なんですけど。
しかし彼らは幻獣人なんだから、私の常識で考えちゃダメ。様子からして本当に大丈夫なのでしょう。
で、でも、あんな光景を見ちゃったらどうしても不安に……!
「はい、帰還」
「ええっ!?」
と思っていたら、再び扉が開いて二人があっさり帰ってきた。
い、いくらなんでも早すぎじゃないですか!? まだ二、三分しか経ってないよね!?
「思っていた以上に早かったわね」
「楽な仕事だったからねぇ。ブラコン弟が怒りのぶつけ所を見つけてくれたからかな」
サクッとしたギディオンの説明によると、扉を閉めた瞬間に即効性の神経毒を撒き散らしたのだそう。
当然、二人の姿を認識した国王軍が数十人ほど攻撃を仕掛けてきたけれど、ジュニアスによる怒りの地ならしによって一斉に倒れ伏し、そのまま毒にやられて身動きが取れない状態になったという。え、怖……。
「わざとジュニアスを怒らせたのはそういうことね? ま、意識しなくてもアンタは怒らせたでしょうけど」
「戦略と言ってほしいねぇ。ヒヒッ」
ちなみに、睡眠薬も混ぜたとのことで数日は目覚めないという説明もされた。そ、それはそれで、あの場を戦場にしてしまうことに不安が残っちゃうな。
そんな懸念を口にすると、倒れた人たちは一斉にカノアが転移させるから問題ないとマティアスが教えてくれた。えっ、全員!?
「出来るよ。でもちょっと面倒くさいから戦いが終わったらホールケーキ食べたい。チョコのヤツ」
「わ、わかった。用意しよう」
「やった。じゃ、ちょっと頑張るかぁ」
カノアは相変わらず甘いものが好きだなぁ。アンドリューも思わず苦笑を浮かべている。緊張が解れてしまったよね。
「お疲れ様、ジュニアス。助かったわよ」
「……ん」
軽い確認をしているその背後で、マティアスがジュニアスの頭を撫でている。ジュニアス、表情はあまり変わらないけど嬉しそう……!
さて、ここでのんびりしている暇はないですね! 今度は私たちの番。これでもう邪魔されずに禍獣の王を解放出来るのだから。
「エマ」
いざ、扉の向こうへ向かうという時、アンドリューから声をかけられる。隣に並んで扉の前に立っているアンドリューは、感慨深げに目を細めていた。
何か話があるのだろうという雰囲気を察して、私は一度ジーノに下ろしてもらうよう頼んだ。
「突然この世界に迷い込んで、わけもわからない内に協力させて……命まで、かけさせている。私は、ずっとこれでいいのかと自問自答し続けていた」
行くわよ、というマティアスの声に促され、リーアンとガウナが真っ先に扉の向こうへと足を踏み出した。それに続いて私たちもゆっくりと向かう。
「マリエのことも。エマのことも。絶対に助けたい。せめて、この戦の後にこの世界で幸せに生きてもらいたい」
アンドリューの言葉を聞きながら、私は顔を上げた。そこには、以前に一瞬だけ見たあの光景がそのまま広がっていて、思わず身震いしてしまう。でも。
「じゃあ、幸せに暮らせる国を作ってください。アンドリューならきっと出来るって信じてますから」
明るい未来を思い描いていれば、少しは勇気が出るかな? 時にそれは絶望する要因になってしまうかもしれないけれど。
「そう、だな。エマは本当に強くなった。とても感謝している」
「……私だって感謝していますが、その感謝はまだお預けです」
「ああ、終わった後、改めて言わせてくれ」
扉の前で立ち止まったアンドリューと頷き合って、私は前を向く。
私の目は真っ直ぐ、禍獣の王とともに封印されているマリエちゃんを見つめていた。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる