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幻獣人が全員揃う日はあと少しのようです
あとはやるべきことをやるだけです
しおりを挟むオアシスが私でも視認出来るようになってきた。砂漠地帯の一部だけに広がる湖、その周辺で禍獣と戦う国王軍たち。う、うわぁ……近付きたくなぁい。
国王軍は禍獣の王に操られている感じだけど、禍獣は敵という認識のままなのが不思議だなぁ。彼らの中で、禍獣は倒すべきものという意識が根強く残っていたりするのかもしれない。……本当のことは、わからないけど。
「なーなー、エマチャン! 俺の力解放してくれよー! そうしてくれたらあの人だかりも禍獣の群れもどうにか出来るからさー!」
「えっ、解放って何?」
「それがねー、今回の聖女サマは人型のまま獣型の力を解放出来るんだよ! ビックリじゃね? だからデカすぎる力の制御も自由自在ーっ!」
「うっそ! エマチャン、そんなこと出来るの!?」
なんだか二人して私を「エマチャン」って呼ぶのが兄弟みたいで微笑ましいな。二人ともノリが軽いし、雰囲気が近いよね。
……なんてほっこりしている場合ではない。
「い、一度に二人やるとすぐに力尽きてしまうんです。それに、あまり長時間は難しいので……最後の解放をする間、リーアンを解放します。その間、国王軍や禍獣の群れを抑えられますか?」
前回、考えもなしに解放の力を使って失敗しちゃったからね。今度は意識するようにしないと。
ちゃんと任意で解放の力を使ったり止めたり出来るのかは自信がないけど。
「やった! おう、オレっちに全て任せとけってーっ!」
「いいなー、リーアンだけずるーい」
「また今度やってもらえばいーじゃん。禍獣の王との戦いもあんだしー」
私の話を聞いて喜ぶリーアンと頬を膨らませるガウナ。な、なんだかすみません。でもこればかりはね……!
「むー……わかったよぉ。じゃ、オレはこのままエマちゃんを封印場所に運べばいいね?」
「よろしくお願いします、ガウナ」
「いいけどさぁ、ちゃんとオレにも今度やってね? 解放のやつぅ!」
「わ、わかりましたから!」
ガウナは見かけのかわいさとは裏腹に戦闘狂って感じだよね。約束したはいいけれど、この子に解放を使ったらものすごいことになりそう……。
うん、考えるのはやめよう。来る決戦の時にはきっと頼りになると思うし!
そうこうしている間にシルヴィオたちもオアシスに辿りついたみたい。
ジュニアスが戦闘態勢に入っていて、シルヴィオが目線でこちらに合図を送っているように見える。カノアは……少し離れた位置で避難しているみたいだね。
たぶん、最後の解放が済んだらすぐに戻れるような位置にいてくれてるのだろう。シルヴィオの指示かな? 頼もしい!
みんながそれぞれの判断でもう動き出している。私もぼんやりなんて出来ないね!
まずは一人であの場の禍獣を撃退し始めたジュニアスの援護を!
「ではいきますね、リーアン! ジュニアスを手伝ってください! ……『解放』せよ!」
「おっ、おおおおっ!?」
右手をリーアンに向けてこの前のように解放を求めると、私を中心に風が巻き起こって紋章が銀色に光り輝く。きっと銀髪になっている部分もまた光っているのだろう。私を足で抱えたままのガウナがキラキラだー、と小さく歓声を上げていた。
私の右手から放たれた光はリーアンに降り注ぎ、その力の変化をリーアンはすぐに実感したみたいだ。ニヤッと嬉しそうに笑ってものすごい勢いで禍獣の群れへと飛んで行くのが見えた。
これで、よし。あとは私の力が尽きる前に最後の幻獣人、エトワルを解放するだけ!
「ガウナも、お願いしますっ!」
「オッケー! いっくよー!」
私の呼びかけに答えたガウナは、勢いよくヤシの木の実の辺りまで飛んでくれた。その途中、眼下に広がる光景を改めて見ることになり、その恐ろしさに身体が震えた。
「あ、あんなにたくさん……禍獣が国王軍のことを襲ってる……!」
「え、今気付いたの!?」
「……人間の視力なんてこんなものなんです。それより、あのままじゃ被害者が増え続けてしまいますっ」
禍獣にとっても、操られている人間は敵認識なのかも。だからこそ、国王軍も身の危険を察知して迎撃しているのかな。そう考えるとしっくりくる。
いずれにせよ、禍獣も国王軍も私たちの敵ではあるけど……出来ることなら国王軍の被害は最小限に抑えてもらいたい。だって、操られているだけなんでしょう? アンドリューが悲しむもの。
私が必死でそう訴えると、ガウナはのほほんとした口調で答えてくれた。
「ふぅん。エマチャンもさ、マリエチャンと同じようなことを言うんだね? でも大丈夫だよ。みんなもそのくらいはなんとかしてやろうって思ってると思うし」
「そ、そうですか?」
「うん。ほら、今はリーアンが無敵だし。ジュニアスだって禍獣だけを狙って戦っているし。シルヴィオは怪我人の治療もしてるよー」
私にはそこまでの細かい動きは認識できないけど、ガウナが言うならそうなのだろう。
そっか、みんなちゃんと私の意思を汲んでくれてるんだね。あんなに自由気ままでマイペースなのに。なんか、感動しちゃう。
「っ、それなら、あとは最後の封印を解くだけっ……!」
「そうそう! エマチャンはエマチャンの仕事に集中してよ!」
私は顔を上げ、目的地であるヤシの実を見つめた。
「オレはオレで、自分の仕事をしなきゃいけないっぽいしね!」
「えっ」
その時、なぜかフッと周囲が暗くなった気がした。慌てて辺りを見回すと、知らない間に空を飛ぶ禍獣の群れが私とガウナを取り囲んでいることに気付いた。い、いつの間に……!
「オレも、本気出しちゃうかんねー!」
これまでで一番、身の危険を感じる解放になりそう……! 私はガウナの足にしっかりとしがみついて、身体の震えを誤魔化した。
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