上 下
95 / 130
聖女(仮)として出来ることをやってみます!

なんだか過激な言葉を聞いた気がします

しおりを挟む

 ジュニアスが私を抱えたまま音もなく前へと進んでいく。私の目には見えないけれど、きっと周囲にはうじゃうじゃとコウモリの禍獣が……あ、ダメダメ。想像もしないようにしよ。

 それから数十秒後、ピタリと立ち止まる。もしかして石碑の前に辿り着いたのかな? それすらもわからない私は困惑気味に着きましたか? と小声で訊ねた。頷いた気配がした、かもしれない。

 縦抱きにされているから顔が近いんだよね。とても綺麗な顔立ちが目の前にあると思うとすごく恥ずかしいけれど、暗闇で見えないから問題ありません!
 大きな音も立てられないし、ちょうど良かった。真っ暗で困るかと思ったけど、意外と助かっているなぁ。

「で、では、ジュニアス。お願いします。手は石碑にくっついたまま身体が吹き飛んでしまうので……押さえていてもらえると助かります」
「……承知」
「あと、私にはどこに石碑があるのかわからないので……私の手を掴んで石碑に触れさせてもらえます?」
「……」

 小さくため息を吐かれた。そういうのも、距離が近いからこそ気付いてしまう。ごめんなさい、手のかかる大人で。

 それにしても、見えない物に触れるなんてすごく怖い。箱の中に手を突っ込んで何が入っているか当てるゲームに似ているかも。
 あれ、私は絶対に出来ないって思っていたけどまさかこんなところで疑似体験するとは。

 スッと右手首が取られる。ジュニアスがきっと石碑に触れさせようとしてくれているんだ。
 ひぃ、ちょっと怖い。けど、私一人だったら永遠に触れられなかっただろう。つくづくジュニアスがいてよかった!

 そして指先がひんやりとした石碑に触れたのを感じた次の瞬間、ブワッと風が巻き起こる。そのあまりの勢いにジュニアスも飛ばされてしまったのか、抱っこされていた腕が一瞬で私の身体から離れた。
 そう、おかげでこいのぼりである。あああああっ! せっかく事前に伝えられたのにっ!

 でも、正直無理もないかも。だって、これまでよりもずっと風の勢いが強いから。な、なんで? と疑問に思っている場合じゃない! 腕! もげるっ!

「っ!」
「!」

 苦痛に目をギュッと閉じていたら、ガシッと身体を抱き締められるのを感じた。
 たぶんだけど、ジュニアスがすぐに支えてくれたんだと思う。ありがとう! 助かるよ! 本当にありがとう! でもこの風の勢いに負けず立っていられるなんてすごい。てっきり、飛ばされちゃったのかと思ったから。

 きっと、ここが洞窟内だからだ。狭い空間であの突風。勢いが強くなったのはそのせいなんじゃないかな。

「……ごめん」
「えっ!?」

 耳元でポツリと謝罪の言葉。声的に間違いなくジュニアスだ。
 あ、謝られてしまった。きっと、手を離したことに、だよね? え、ジュニアスって実は優しいのでは? ここ最近、冷たい対応しかされていなかったからビックリしたけど、これは感動する。

 すぐに大丈夫って返事をしようとしたんだけど、その時いつものように幻獣人の光が飛び出したものだから眩しすぎてまた目を閉じる。真っ暗だったから余計に目にくるぅっ!

 でも、一瞬だけ見えたその光が黒と赤紫が混ざり合った色なのがはハッキリとわかった。なんだか不思議な色合いだったな。

 なんて考えている場合じゃない! 耳元でバサバサッという羽音が一斉に聞こえてきた全身にブワッと鳥肌が立った。
 コウモリ型の禍獣!? い、いやぁぁぁぁ!!

「逃げる」
「っ!」

 私が身震いしたのを察知したのだろう、ジュニアスがポンポンと背中を叩きながら走り出した。
 そ、そうだった。解放後はすぐに洞窟の外に行くって言っていたよね。私に出来ることは、ジュニアスにしがみつくことっ!
 あ、あとはお願いしますぅぅぅ!!

 遠くの方が明るくなっているのが確認出来た。きっと出口だ。パチパチと瞬きを繰り返して目を少しずつ慣らしていく。
 でも、慣れるより前に外へと飛び出した。は、速い。

「あっ、あれは……!?」

 洞窟を出た先で見たのは真っ黒で大きな狼のような獣の姿だった。一瞬、禍獣かと思って身体が強張ってしまったけど、赤紫の瞳がとても綺麗だったからすぐにあれがジーノなんだってわかった。

 私の予想通り、その大きな黒い狼はみるみる内に姿を変えていく。
 それは人型になっていき、あっという間にオールバックの燕尾服のような恰好をした男性が姿を現した。

「久しぶりね、ジーノ。でも、再会を喜んでいる場合ではないの。まずは急いで朝露の館へ行くわよ」

 洞窟外で待機していたマティアスが言葉少なにジーノに説明をしてくれた。すごく助かります……!

 ちなみに、マティアスはここで洞窟から飛び出してきたコウモリ型の禍獣を一掃してくれていたらしい。
 えっ、一掃!? 姿は見てないけど、かなりの数がいたんじゃ……いや、まぁ、もう驚くのはやめよう。マティアスだもんね。うん。

 一方のジーノは一言も発さず、綺麗な姿勢で礼をした。たぶん、了承の意味だよね? それにしても綺麗な姿勢……。
 毛先が赤紫の黒髪は綺麗にオールバックでまとまっているし、モデル体型だし、なんというか執事っぽい。

 もう少しどんな人なのかを観察したかったのだけれど、次の瞬間にマティアスが発した言葉に一気に意識をもっていかれる。

「さぁ、これから国王軍とやり合うわよ!」
「……ええっ!? な、なんでそんな話になるんですかっ!?」

 聞き間違いじゃなければ、国王軍とやり合うって言ったよね? 言ったね!? 確かにこちらの人数は増えたけど……ど、どうしてそうなるのーっ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

処理中です...