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聖女(仮)として出来ることをやってみます!

種族違えば基準も違うのは当たり前だと思います

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 それからどれほどの時間を担がれながら移動しただろう。目が回ってしまった私は途中からちょっと記憶がありません。
 気付けばジュニアスがゆっくり歩いていたのでハッとなって身体を起こした。

「下ろす」
「え、あ、はい。う、わ……」

 私が起きたことに気付いたジュニアスは、そう言うなりすぐに私を地面に下ろした。
 それ自体は助かるんだけど、目を覚ましたばかりなのとまだ気持ち悪いのもあって立っていられずよろけてしまった。

「おーっと」
「うっ、ごめ、なさ……」

 そんな私を支えてくれたのはギディオンだった。なんだかんだいって助けてくれるよね、ギディオン。ありがとう、助かります。盛大にため息を吐きつつも背負ってくれているし。

「ジュニアス。この聖女サマは歴代の聖女サマと違って弱すぎるから気をつけないとすぐ死ぬよ?」
「弱い」
「そう。よわよわ。君の大好きなマティアスの手を煩わせることになる」
「ダメ。聖女」
「ヒヒヒッ! そうそう、ダメ聖女ってマティアスは呼んでるねぇ!」

 とはいえ言うことは相変わらず酷い。ジュニアスに悪意はないと思うけどそれが余計にグサッときます。
 ダメ聖女なのは自覚しているけど、弱っている時にまで言わないでほしいです。余計ダメになるから……!

 さて、ギディオンに背負われているという情けない状況ですが、ただぼんやりしていても仕方ないので現状把握に努めます。本当はただぼんやりしていたい。気持ち悪いし。
 でも、そんなこと言っている場合じゃなかったはず。

「ま、マティアスとはまだ合流していないようですが……無事だとはわかっていますが大丈夫でしょうか」

 さっきはものすごい勢いで走っていた二人が今は普通の速度で歩いているから危機を脱したのはわかる。それでも、国王軍や禍獣がどうにかなったとは思えないもの。

「来る」
「え?」

 そんな私の質問に答えてくれたのはジュニアスだ。それはありがたいんだけど……端的過ぎて状況がまったくわからない!
 ギディオンは困っている私の反応が楽しいのかヒヒヒといつも以上に笑っているだけで教えてくれないし、詰んでます。

 途方に暮れかけたその時だった。ジュニアスが立ち止まって空を見上げる。それにつられて私も上を見ると何かが落ちてくるのが見えた。
 ……えっ、マティアス!?

 そう思ったのも束の間、マティアスはあれだけのスピードで上空から落ちてきたというのに轟音を立てることもなくスタンと地面に着地した。
 さすがに風ブワッと起こったし、ギディオンに背負われていなければ吹き飛んでいた勢いだったけど。幻獣人って規格外デスヨネ。

「兄さん!」
「ああ、ジュニアス。久しぶりね。ちゃんと指示通りに逃げてくれて助かったわ」
「当然」

 ぽかん、としている私の前では感動の再会が繰り広げられていました。
 ジュニアスはヒシッとマティアスに抱きつきにいき、マティアスはそれを優しく受け止めてジュニアスの髪まで撫でている。本当に仲が良いんだなぁ……。

「ねぇエマサン。これってさぁ、雄同士、しかも兄弟の禁断の愛ってヤツ?」
「わ、私に聞かないでください……」

 でもそう言いたくなるくらい双子の距離は近い。今は額同士をくっつけて何やら積もる話をしているようだ。同じ顔の美形さんだから絵になるはなるんだけど居た堪れないですね……!

「あ、あの。久しぶりの再会を邪魔するみたいで申し訳ないのですが……急がなくてもいいので、しょう、か……」

 この二人に話しかけるのはとてつもなく勇気が必要だったけど、さっきまで逃げていたことを考えるとのんびりしていられないから……! ちょ、ジュニアス睨まないでーっ!!

「ジュニアス、確かに今はこのダメ聖女の言うことが正しいわ。ごめんなさいね、弟に会えて嬉しかったものだから」
「い、いえ。ゆっくり時間を作れなくてこちらこそすみません」

 マティアスが心なしか優しくなっている気がします。いや、これまでも言い方はきついながら基本的には世話焼きで、幻獣人の中では常識人枠ではあったんだけど。やっぱり弟に会えて心の余裕が出てきたからかもしれない。

「移動しながら状況の説明をするわ」

 それから私たちはマティアスの話を聞きながら再び移動を開始した。
 話によると、国王軍をけん制している間に禍獣が現れたことで場は混乱に陥ったそう。そ、それは確かに混乱するかも。
 禍獣が大量に現れたのはこちらとしてもよろしくない状況ではあるけれど、マティアスはそれを利用して時間を稼ぎ、隙を見てこちらに戻ってきたという。

「結局、いつこちらに来てもおかしくないわ。国王軍も禍獣もね」
「じゃ、じゃあやっぱり一刻も早くジーノを解放しに行くのは変わらないってことですね!」

 追手がいるのといないのとで危険度は違うけど、やることは変わらない。わかりやすいですね!
 それなら前を向かなきゃ。怖い、けど。むしろ怖いからこそさっさと終わらせて朝露の館に帰りたい!

「ジュニアス、エマを抱えて運んでちょうだい」
「承知」
「ああ、あなたが思う千倍は優しく扱いなさい。下手したら死ぬわよ、その子」
「……承知」

 千倍……と思ってつい顔を引きつらせてしまったけど、話によるとジュニアスは幻獣人の中で最も力が強いという。
 あ、それはぜひ! ぜひ千倍気を付けていただきたいですっ!!

 ビクビクしている間にジュニアスはヒョイッと私を片手で持ち上げ、気付けば私は肩の上に座らされていた。
 た、た、高、高い……! ビックリしたのと恐怖で思わずガシッとジュニアスの頭にしがみ付く。

「……腕、邪魔」
「ご、ごめ、ごめんなさい! で、でもちょ、ちょっと手は離せそうにないですぅっ!!」

 そのせいでどうやら私は腕でジュニアスの目を覆ってしまったようだった。
 でも本当にごめん。無理です。小刻みに震えながら必死に主張すると小さくため息を吐かれてしまった。うぅ……!

「……ジュニアス、訂正するわ。想定の十万倍は丁重に」
「…………承知」

 マティアスの呆れたような声に、ジュニアスの困惑したような声が私の胸に突き刺さる。
 ごめんなさい。でもこれって私はあんまり悪くないと思うの! 種族による基準の違いだと思います!

 そんなわけで、結局私はジュニアスに左腕だけで縦抱きにされることで落ち着きました。
 いや、心境的には複雑ですけどね。これ以上のワガママは言いません。

 うぅ、早く終わればいいのです! 先に進みましょう、さあ早くっ!
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