上 下
84 / 130
そろそろ腹を括って聖女を名乗らねばならないみたいです

自分勝手な宣言をしました

しおりを挟む

 みんなの視線が私に集まっている。え、ちょっと待って。さっきまでアンドリューの話は好き勝手なことをしながら聞いていたじゃない。

 あ、そっか。普段の私は、自分から話し始めることがないから驚いているのかも。え、ええい。臆しちゃダメ。せっかく聞いてもらえているんだから、ハッキリ言わなきゃ。
 私は小さく息を吐いて心を落ち着かせた。

「自分勝手な理由です。この世界を救うだなんて、大それたことは言えないし、思えないんです。本当に、器が小さいなって思うんですけど……」

 嫌われるかもしれない。幻滅されてしまうかも。こんな考えのヤツが聖女だなんてって。
 だけど、本音を隠す方が不誠実だと思うから。マリエちゃんのようにみんなを助けたいだなんて思えない、自分のことで精一杯な人間だけど……それが、私だから。

「私は、お姉ちゃん……マリエちゃんを救いたい。だって、恩返しを何も出来ていないから。だから、そのために急いで幻獣人をみんな解放します。そのために、頑張ります」

 この世界のためじゃない。国のためでもないし、教会のためでもない。そりゃあ、救えるならそれに越したことはないって思うし、出来ることならって思いはあるけど、それが目的じゃないんだ。
 私の望みはマリエちゃんに会いたい。ただ、それだけの自分勝手な理由のために動く。

「結局のところ、禍獣の王を倒してもらうのも危険な目に遭うのも幻獣人の皆さんなんですよね。私のこんな身勝手な願いのために動いてもらおうなんて、自分でも酷いなって思います。でも、これが本心です」

 結局、私はみんなを利用することになる。綺麗ごとを言ったって、意味がない。呆れられたってかまわない。どう思われてもいいの。目的が達成されるなら。

 自分が、こんなにも酷い人間だなんてね。薄々気付いてはいたんだ。これまではそんな自分を認めたくなくて、逃げて、遠慮して、隠れていただけ。

 私は聖女なんて存在にはなれない。けど、聖女という立場を利用させてもらう。開き直りって言われても構うもんか。絶対に、マリエちゃんに会うんだから!

「理由なんてなんでもいいのですよ、エマ様。それは身勝手ではなく、我々と利害が一致したというのです」

 全てを話しきって黙っていると、数秒間の沈黙を挟んでシルヴィオが微笑みながらそう言った。利害の、一致……?

「そうだな。勝手にこの世界に呼び出されて、姉が危険な目に遭っていて……理不尽な目に遭っているのはエマの方だ。そして、よくわからないまま幻獣人の解放をしてもらっていた」

 続けて口を開いたアンドリューが優しい眼差しをこちらに向けている。鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなるのを感じた。

「これでようやく、対等になれるんじゃないか? お互いの望みのために、協力しよう」

 な、なんでそんなに優しいことが言えるんだろう。こんなに自分勝手なのに。私はただ、自分の目的のためにみんなを利用するって言っているのに。

「真剣な顔して何を言うかと思えば。自分勝手? 規模が小さいのよ」
「ほーんと、何が飛び出すかと思ったー。エマチャンの勝手なんて、可愛いもんよー? 歴代聖女サマのとんでも要求、聞くぅ?」

 マティアスが呆れたような目を向け、リーアンがもっと酷いワガママの数々を愚痴っていく。そ、そうは言うけど、命がかかっているのに……!

「僕はどうでもいいかな。働いた分の報酬さえもらえれば」

 カノアはホールケーキを食べ終えて、マイペースにお茶をすすっているし……。あ、あれ? 私が気にしすぎだっただけ? いや、そんなはずはないと思うんだけど。なんだか基準がおかしくなってきちゃう。

「ヒヒッ、本当の自分勝手ってやつを、教えてあげたいねぇ」
「毒野郎は黙りやがってください」

 ギディオンはニヤニヤしながら誰にともなく独り言のように呟いている。それは遠慮したい、と顔を引きつらせていたらシルヴィオがピシャリと笑顔で毒を吐いた。毒を扱うギディオンに毒を吐くシルヴィオ……。

 な、なんだか自分が馬鹿みたいに思えてきたなぁ。絶対に、こんな風に軽くすませるような内容じゃないのに誰も気にしていないなんて。

 溢れてしまいそうだった涙が引っ込んじゃった。でも、これが幻獣人なんだよね。彼らの価値観なんだ。

 とても助かるけど、私はちゃんと自分の価値観を忘れないようにしたい。当たり前のように彼らを頼るようになったら、大切な何かを失う気がするもの。

「改めて、これからよろしくお願いします、みなさん」

 だから、立ち上がってしっかり頭を下げた。私のこの行動が意外だったのか、みんなが不思議そうにこちらを見てくる。ちょっと視線が痛いし恥ずかしい。あんまり見ないで……。

 誤魔化すために、私は話題を変えることにした。

「さぁ! 次は、誰を解放しに行きますか?」

 無理やり笑顔を作ってそう切り出すと、アンドリューがフッと笑って地図を出してくれた。助かりますっ!

 まだまだ解放しなきゃいけない幻獣人がいるんだもの。ここでのんびりして間に合わなくなったら困る。

 みんなでテーブルの地図を覗き込みながら、好き勝手に次はここに行こう、誰が一緒に行く、などの話し合いが始まった。いや、騒ぎ合いかな。あはは、収拾がつくかなぁ……?

 だけど、賑やかになったこの雰囲気が前のように嫌だとか苦手だとかは思わない。むしろ安心していることに気付いて、自分の変化を嫌でも思い知ることになりました。

 よ、よーし。私も話し合いに参加しなきゃ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...