上 下
69 / 130
なんだか急展開ってやつじゃないですか!?

つい涙腺が緩んでしまいます

しおりを挟む

 私の不安をよそに、シルヴィオはマイペースに私の世話を焼き、ギディオンもマイペースに食事を摂りつつ出発までの時間を過ごした。
 ギディオンはそうでもないけれど、シルヴィオがあからさまにギディオンをいないものとして扱うので私は気が気ではない。

「ふわぁ、おはよー。みんな早いねー」
「あ、おはようございます、カノア。すみません、早起きしてもらっちゃって」

 しばらくすると、眠そうに目を擦りながらダイニングにカノアがやってきた。
 んー? とこちらに顔を向けつつ首を傾げた拍子に、モノクルを繋ぐチェーンがシャラッと鳴る。

「別にぃ。ドアを出す約束だったし。また寝直すから」

 どこか寝ぼけた様子のカノアは少し可愛い。あ、寝癖がついてる。

「そんな調子で大丈夫ですか、カノア。ちゃんと教会へのドアを開けられます?」
「だぁいじょうぶ。そんなの寝ていても出せるくらい簡単だからー」

 シルヴィオの心配にも目を擦りながら返事をしたカノアは、片手でちょちょいとドアを出した。ほ、本当に簡単に出すなぁ。

「じゃ、戻ってきたらちゃんとドアを閉めてね」

 例のごとく、このドアは私たちしか通れない仕組みになっており、館に戻って閉めたら消えるという便利な仕様。
 そもそも、他の人にはドアを視認することさえ出来ないっていうからすごいよね。魔法って本当に不思議。

「じゃあ、行きましょうか」
「はい! あ、ギディオンも、よろしくお願いしますね」
「ヒヒヒッ、覚えていてくれたんだ? ありがたいねぇ」
「チッ」

 シルヴィオに促され、ドアを通り抜ける。あわよくばギディオンを置いて行こうと思っていたのだろう、私が彼に声をかけたら舌打ちをしていたけれど聞かなかったことにします……!

 ビクビクしながらも一歩通り抜けると、フワッと鼻腔をくすぐる草の香り。私の黒髪が風に吹かれて微かに揺れ、所々で銀色に変わった部分が陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

 そして、目の前には懐かしい光景。

「きょ、教会だぁ……!」

 懐かしい建物を目にした瞬間、私は思わず駆け出した。実際にはそこまでの時間は経っていないんだけど、気持ち的には数年ぶりだよ!

 シルヴィオがすぐ後ろから追いかけてきてくれているのがわかったけれど、足は止まらない。ごめんね、でも今だけ許して! そう思いながら走り続け、やがて広場でワイワイと遊ぶ子どもたちの姿が目に入ってきた。

「みんなーっ!!」

 我慢出来ずに叫ぶと、その声を拾った子どもたちが一斉にこちらに顔を向けた。大きく手を振りながら駆け寄ると、「エマお姉ちゃんだ!」「帰ってきたぁ!」という声が私の耳に届く。

 次第にその姿が近付いてくると、可愛い獣の耳や尻尾がよく見え、顔が綻ぶ。

「エマお姉ちゃんっ!!」
「みんな! 久しぶり。元気にしていた?」

 最初に飛びついてきたのはメアリー。狼なだけあって走るのがすごく速い。大きな耳が頰に触れてちょっぴりくすぐったい。
 続いてクマ耳のダニエルがよちよち歩きのミサーナを抱えて駆け寄ってきてくれた。さすがクマさん、力持ちだから抱っこが安定しているね。

 この二人は子ども組の中でも年長さん。しっかり年下の面倒を見ているんだなぁ、って感じて胸がいっぱいになる。

 それからあっという間に子どもたちに囲まれて、私は質問攻めにあっていた。でもうるさいだなんてまったく思わない!
 こんな風に出迎えてくれるなんて嬉しすぎるよぉ!

「心配したんだよ? 大丈夫? 元気だった?」
「突然いなくなるんだもん、すっごく悲しかったんだからな!」
「エマおねーちゃ、どこいってたの?」
「みんなごめんね、本当に。でもほら、この通り私は元気だよ」

 嬉しそうに笑ったり、心配そうにしたり、少しだけ怒ったり、子どもたちは目まぐるしくその表情を変えてたくさん話しかけてくれる。うぅ、可愛い!

「エマ! 良かった。思っていたよりずっと元気そう」
「か、カラぁ……!」

 一番最後に、とても安心したような顔でカラが声をかけてくれた。なんだかその顔を見た瞬間、込み上げてくるものがあってつい涙目になってしまう。

「もうっ、泣かないでよ。そんなことされたらあたしも泣けてきちゃうじゃないの……!」
「うぅ、ごめん。だって、嬉しいんだもの」

 私たちが二人して泣き始めると、子どもたちがみんなしてハンカチを差し出してくれたから余計に泣いてしまった。みんな、優しい子たちっ!

「グスッ、いい加減に泣き止まないといけないわね。幻獣人様も待っていらっしゃるし」
「あ! そうだった!」

 つい自分達だけで盛り上がって、シルヴィオとギディオンのことが頭から抜けてしまっていたよ。本当にごめんなさい。

 すぐに振り返って改めてみんなに二人のことを紹介すると、子どもたちは興味津々で二人のことを観察し始めた。
 とはいえ、シルヴィオとは面識があるから、初めて見るギディオンに注目が集まっているけれど。

「子どもたち、あの毒……ギディオンは少し意地悪な人なのであまり近付かないようにしてくださいね」
「えー、意地悪なの? 幻獣人様は、僕たちを守ってくれるのに?」
「お目目が見えないねぇ。どうして隠しているの?」
「どうして意地悪するの?」

 シルヴィオが本音をどうにか隠しながらみんなにやんわりと注意をすると、さすが子どもは好奇心の塊というべきか、余計に気になってたくさんの質問がギディオンに飛ぶ。
 だ、だ、大丈夫かなぁ? ソッとギディオンに目を向けると、意外にも彼は面白そうに口元に笑みを浮かべていた。
 これなら安心かな、そう思いかけた時。

「あ、たぶん余計なことを言いますよ、あいつ。今から」

 シルヴィオがスッと真顔になってそう呟いた。えっ、そうなの!? ちょ、余計なことって何!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...