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だいぶ慣れてきましたが慣れてしまったら終わりのような気もします

考えの読めない言動ばかりで困惑します

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 アンドリューの話を聞くと、どうやら聖女の存在が国民の間で噂として流れ始めたことと、順調に幻獣人を解放していることが王太子派に追い風となったみたい。王城での立場が逆転しつつあるので、これまでのようにコソコソと隠れる必要はなくなった、とのことだった。

「それでも、国王派が何か仕掛けてこないとも限らない。今後も注意は必要だが……教会の者たちもそろそろエマの顔を見て安心したいだろう」
「アンドリュー……! あ、ありがとうございますっ!」

 これまで聖女の存在さえも隠す必要があったのは、国民に知れ渡らないようにと国王派が動いていたから。幻獣人を解放する前に聖女の存在を秘匿出来れば、国王派には都合がよかったんだものね。
 でも、幻獣人を何人か解放したことで私の身の安全もだいぶ守られるようになった。積極的に出かけるのはまだ危ないけれど、姿も見られないようにと隠れて暮らさなくて良くなったのは助かります!

「そうだ、マティアスとギディオンの二人を解放してくれたんだったな。感謝する、エマ」
「い、いえ!」

 アンドリューはキョロキョロと周囲を見回し、やはりギディオンはここには来ていないか、と呟いた。やっぱり館にはいない、という認識なんだ……。

「いるわよ、アイツ。なんかそこのダメ聖女を気に入ったみたいよ」
「エマを気に入った? ギディオンがか?」

 何をしたんだ、と驚いたようにこちらを見たアンドリューに私は全力で首と両手を横に振った。私が知るわけがないのです。

「まぁ、ギディオンがこちらに歩み寄ってくれているのはいいことだ。……おそらく」
「信用出来ませんよ、あんな毒野郎。どうせ良からぬことを企んでいるに決まっています。オレは前みたいに外に出ていてもらいたいですね」
「まぁ、そう言うな、シルヴィオ」

 シルヴィオを宥めてはいるけど、苦笑しているからアンドリューもその考えは有り得ると思っているんだな……。本当に、どれだけ危険視されているのあの人。不安ばかりが膨らんでいくのですが。

「ともあれ、順調に解放してくれているおかげでこちらも動きやすくなった。この調子で早めに全員を解放してもらいたい」

 自分はこちらに顔を出せないこともあるから、解放の順番を話し合ってそちらの判断で解放を進めていい、とアンドリューは言ってくれた。指示待ちでどうしようかと思っていたところだから、ハッキリそう言ってもらえたことで少し安心だ。
 とはいえ、アンドリューがいない場で指示を出せる気はしない。出来れば一つ一つ言ってもらいたいけれど、無理は言えないものね……。自分のこの性格が恨めしい。

「わかりました。それで、あの……教会には、すぐに向かってもいいんですか?」

 憂鬱なことばかり考えていても、気分が落ち込み続けるだけ。だから、今はせっかくの朗報についてもう少し話を進めてもらいたい。
 今すぐにでも向かいたい気持ちを抑えて訊ねると、アンドリューはクッと喉の奥で笑った。

「許可を出したら今すぐ飛び出してしまいそうだな? だが、向かうなら教会にも連絡を入れておいた方がいい。もう一晩だけ我慢してくれ」

 うっ、バレバレだった!? お恥ずかしい……。でも、そっか。ちゃんとシスターにも事前に連絡を入れておかなきゃだよね。
 今はまだ国王軍から狙われているかもしれないわけだし、シスターたちにも少し警戒してもらうことになるから。ああ、なんだか申し訳ないなぁ。それでも、一度は顔を見たいし、無事を直接伝えたい。

 本当はまだ出歩かない方がいいんだろうなって思うよ。だからこれは私のワガママをアンドリューがなんとか叶えてくれようとしているんだってわかる。
 それだけで十分ありがたいよね。もう一晩おあずけだろうが、長居は出来なかろうが、ちゃんと我慢します!

「オレがお供します!!」
「はは、言うと思っていた。だがもう一人いた方がいいな」

 真っ先に一緒に行くと言ってくれたのはシルヴィオ。うん、わかってた。この前はお留守番だったもの。次もお留守番で、と言ったらかなりごねる気がする。

「僕はここにいるからね。扉は出すから、それでいいでしょ?」
「アタシも留守番するわ。教会って場所があんまり好きじゃないの」

 もう一人、というアンドリューの言葉にはカノアとマティアスが揃って拒否の姿勢を示した。
 カノアの反応もある程度は予想がついていたかも。マティアスはちょっと意外だったかな。教会、苦手なんだ……。
 だけどそれがなくても、最近はリーアンに付き合って禍獣の討伐に行ってくれたりと忙しかったから、マティアスにはゆっくり休んでもらいたい。

「となると、リーアンだな。頼めるか?」
「えー。あんまり気乗りしないなー。だってさー、ただ待ってるだけっしょ? つまらないじゃん」

 アンドリューに頼まれたものの、リーアンもあまり気が進まないようだ。まぁ、そうだよね……。私のワガママで教会に行くだけだもの。一緒に行くだけの人からすると暇なだけだ。率先して行きたいというシルヴィオが変なのです。

「アンドリュー、オレだけでいいですよ。エマ様から離れませんから」
「そうは言っても、万全の態勢で向かいたいだろう? 万が一にも禍獣と国王軍、両方の襲撃があったらどうする」
「その時は扉を通って館に逃げます」
「教会の者を放り出してか?」
「エマ様の方が大事ですから」

 そ、それはダメ! 自分のせいでみんなが危険な目に遭うのだけは絶対に避けたいです!
 はぁ、会いたかったけど、今回は見送ろうかな。そう諦めかけた時だった。

「ヒヒッ、それなら僕が行こうかぁ?」

 いつの間に部屋から出てきたのか、ポケットに両手をつっこみ、にんまりと口元に笑みを浮かべたギディオンが名乗りを上げた。
 あまりの事態に理解が追い付かず、その場にいた全員が一瞬その動きを止める。

 え、え? 今、ギディオンが一緒に教会に行くって言ったの!?
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