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だいぶ慣れてきましたが慣れてしまったら終わりのような気もします
予想外の事態に震えています
しおりを挟む「あの、これは洗って返しますね……」
「あげるわよ、そのくらい。いい? 社交辞令とかじゃないわよ? 本当に返さないで」
涙が落ち着いた後には、居た堪れなさが残ります。ひ、人前で泣いてしまうなんて……! 恥ずかしすぎる。まるで本当に子どもだ。頭に手を置かれてもおかしくはない子どもだよ。
はぁ、無駄に時間を使ってしまった。はやくギディオンを解放しないと。と、その前に。
「あの、重ね重ね申し訳ないんですが……」
「何」
視線が怖い。どちらかというと諦めモードな雰囲気を感じるけれど。
でも、なんというかマティアスって世話焼きだよね。なんだかんだで見捨てずに話を聞いてくれるもの。怖いのは変わらないんだけど、信用も出来るのでちゃんと頼んでおこうと思います。
「え、えっと。幻獣人の解放の時、いつも突風が吹き荒れるんです。あの、私はそれでいつも右手が固定されたまま吹き飛ばされてしまうので押さえていてもらえると、助かるのですが……」
「……カノアから聞いてはいたけれど、本当に弱いのね。ま、飛ばされかけたら押さえてやるわよ。アンタがくっついてないと魔道具の効果も消えてしまうし」
なるほど、飛ばされかけたら……。一度は飛ばされるのが決定しましたね?
い、いや、押さえてくれるだけありがたいと思おう。
「で、では、いきます!」
どこに触れればいいかわからないのでとりあえず地面に、と思ってその場にしゃがみ込む。ここでいいかと目で訴えると、マティアスも頷いていたので大丈夫だろう。
ただ自分は膝をつく気はないようで、反対の腕で脚にしがみ付いてなさいと言われてしまった。
あ、もっとくっつけ? はいはい、魔道具の効果でしたね。それでこそ幻獣人だ。
ギュッと左腕で身体と密着するようにマティアスの脚にしがみ付く。片腕で抱き上げられた時も思ったけど、ものすごい筋肉質だな。スラッとしたスタイルの良さといい、ダンサーさんみたい。
はぁ、現実逃避はやめよう。やらなきゃ終わらないんだから。私はおそるおそる、紋章のある右手で地面に触れた。
その瞬間、いつも通り突風が起こる。地面から吹き上がっているみたい! しっかりマティアスの脚にしがみついていたのにフワッと身体が浮き上がるのを感じた。
……まぁ、予想はしていましたよ。私の軟弱な片腕の力では捕まったままでいることは出来ないってことはね!
ああああっ! 秒で脚から腕が離れたよぉっ! 右手だけが地面についたまま、という逆さまこいのぼり状態ですっ! もう嫌ぁぁぁぁっ!!
「嘘でしょう!? ああっ、もう!」
気付いたマティアスはすぐに私の身体を押さえてくれた。そのまま抱き寄せるようにして地面に座らせてくれる。
あ、膝をついてる……! しかも服がちょっと汚れてしまっているようだ。魔道具から離れたせいですね! ごめんなさぁぁぁい!!
「そんな怯えた顔で見ないでちょうだい。別に怒ったりしないわよ。これはアタシの誤算。ちゃんとあらかじめ言われていたんだもの。まさかあんだけくっついていて離れるなんて思わなかったのよ……。アンタの軟弱さをナメていたわ」
本当に面目ない。私もまさかあれだけ密着していたのに手が離れてしまうとは思ってもみなかったので。
いや、嘘です。予想は出来ていました。ただもう少しくらい粘れるとは思っていたんだよ? でも二秒と保てなかった。
毎回身体が持って行かれそうになるほどの強風だものねぇ……。次回からはその辺りも含めてしっかり伝えたおきたいですね。誰が付き添ってくれるかにもよるけれど。
そんな反省会をしつつも、突風は続く。上空に向かって吹き荒れる風とともに、いつも通り光の玉がポーンと飛び出てきた。
シルバー? ううん、グレーかな? グレーの光を暗めの緑色で覆った感じで光っている。全体的に暗めな色合いの光球だ。
あれがギディオンの髪色になるんだろうな、などとぼんやりその行方を目で追っていたのだけれど……。
「な、なんだかどんどん遠くに行ってません……?」
その光球はその場に止まるわけでも、私たちの下へ来るわけでもなく、遠くへと飛んで行ってしまう。
遠ざかっていく光球がだんだんと灰色の蛇の姿に変化していった気がしないでもないけれど、その時すでに遠すぎてハッキリとは確認出来なかった。
次第に風も収まり、自分の力で立てるようになった後も、呆然と光球が飛び去った方向を眺めている私たち。あれです、現実逃避。
「えっと……。あれは、もしかして。その、逃げました、よね?」
「……ええ、逃げたわね。間違いなく」
そんなことある!? え、なんで? 風で飛ばされた、っていう雰囲気ではなかったと思う。だって、突風から逸れてものすごいスピードで飛んでいったし……。
「っあああああああ!! 本っ当にムカつく野郎ねっ!? 他の幻獣人や聖女と慣れ合う気はないって、そういうわけね! ハッ、良い度胸じゃない。このアタシを怒らせるなんてね!」
突然叫び出したマティアスに軽く飛び跳ねる勢いで驚く。いやだって今は至近距離にいるし、ものすごい大きな声だったものだから……!
恐る恐る見上げてみると、マティアスの目は据わっており、口元だけは弧を描いていた。こ、こここここ怖っ!?
……ああ、そういえば。怒らせなければ大丈夫って、マティアスのことをみんながそう言っていたっけ。
お、おおおお怒らせちゃいましたけど!? ど、どうしようーっ!?
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