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それでも私は聖女にはなれませんからね!
急展開すぎませんかぁ!?
しおりを挟む「さ、今日はどの茶葉を使ったお茶にしましょうか!」
「お、お茶なんて、教会には一種類しかありませんよ、シルヴィオ!」
急かすように私を教会の生活棟へと連れて行こうとするシルヴィオに困惑してしまう。お茶の種類がどうとかいう突っ込みなんて言ってる場合じゃない!
少しだけ強めに、待って! と声をかけると、ようやくシルヴィオは私を押して歩くのをやめてくれた。ふぅ。
「私、ちゃんと話が聞きたいんです。シルヴィオが嫌って思う気持ちはよくわかったんですけど……。必要なこと、ですから。たぶん。お、お願いしますっ!」
「エマ様……」
きちんと向き合って頭を下げると、困り切ったようなシルヴィオの声が頭上で聞こえた。
数秒、沈黙が続いたのでそぉっと顔を上げると、シルヴィオが腕を組んで呻きながら顔を下に向けたり上に向けたりしているのが目に入る。ものすごく悩んでくれている……!
「……わかりました。でも! 話を聞くだけですからねっ! オレはまだ、解放を認めていませんから」
「う、うん! ありがとう!」
まだ、他の幻獣人の解放を認めてもらわないといけない、という問題点が残っているけど、とりあえず話は聞かせてもらえそうなことに胸を撫で下ろす。
どうしてそこまで嫌がるんだろうなぁ。個人的な恨みや揉め事でもあったのだろうか。それともただ単に毛嫌いしているだけ? ……気にはなるけど聞かない。また不機嫌にさせたら怖いもん。
「まったく、相変わらずだな。エマ、シルヴィオのことについては心配いらない。嫌でも解放することになるさ」
「え、それはどういう……」
「聞けばわかるだろう。すまないがあまり時間も取れなくてな。シスターに話さなければならないこともある。今日はその約束があったから来たんだ。共にシスターの部屋で話そう」
嫌でも解放することになる、っていうのが気にはなったけど、アンドリューが僅かに悪い笑みを浮かべていたからあえて触れないでおこう。ま、まぁ、なんとかなるならそれでいいです。
そのままアンドリュー、不機嫌そうなシルヴィオ、私の三人は揃ってシスターの部屋へと向かうこととなった。
「あら……。皆様お揃いでしたのね。さぁ、こちらへ」
部屋に着くと、シスターは一瞬驚いたように目を見開いてからいつものようにおっとりと微笑んで私たちを室内に招き入れてくれた。
王太子と幻獣人が一緒なんだもんね。驚くのも無理はない。それでもすぐにいつも通り振舞えるシスターの落ち着き具合は見習いたいものだ。
「シスター、オレがお茶を淹れますよ」
「いえ、そんな。幻獣人様にそんなことはさせられませんよ」
「オレがやりたいのですよ。女性が相手なら、いかなる時ももてなす側でいたいんです。さぁ、座って?」
シルヴィオのフェミニストが発動された。そういうことをサラッと出来るのがすごいなぁ。尊敬する。
シスターもここは頼んだ方がいいと判断したのか、おっとり微笑んでお願いしますと告げ、椅子に腰かけた。うん、それが正解だと思います!
「早速だが本題に入らせてくれ」
シルヴィオがお茶を淹れている間、早速アンドリューが話し始める。チラッとこちらに目を向けた……?
「このままでは、エマが狙われることになる」
「なっ……」
「聞き捨てなりませんね。誰がエマ様を狙うと?」
急展開した話についていけない! 驚きの声を上げるだけの私に比べ、誰よりも先に口を挟んできたのはシルヴィオだった。あれ、お茶の準備をしていたのでは?
「落ち着け、シルヴィオ。まずは最後まで話を聞くんだ。聖女様の話になるとすぐこれだ……それでは冷静な判断が出来ないぞ」
アンドリューの言葉に渋々口を噤むシルヴィオ。彼もわかってはいるんだね。良かった、理性的な部分が残っていてくれて。
引き続きお茶の準備を再開し始めたシルヴィオを尻目に、アンドリューの説明は続く。
「回りくどい言い方はしない。エマを狙っているのは……国だ」
「国……!?」
「正確には私の父、現国王だな」
ど、どういうこと? なんで国王様が私なんかを狙うというのだろう。国にとってどんなメリットがあるのかさっぱりわからない。
けれど、シスターはどこか察しがついていたのか、そうですか、の一言だけをため息とともに溢した。落ち着いた雰囲気ではあるけど、酷く心を痛めているようなその様子に私もギュッと胸を締め付けられる思いがした。
「国王は幻獣人の復活をあまり良いとは思っていないからな。これだけ世界の危機に面しているというのに、自分たちの力でなんとかするの一点張り。何か計画をしているのはわかるんだが、私相手には警戒して明かしてくれないのでな」
話を聞くと、現国王様とアンドリューでは考え方で対立しているのだそう。現国王派と王太子派で対立していて、いつ暴動が起きてもおかしくない状況がずっと続いていたんだって。
だからもし今後、私が国王様に捕らえられでもしたら、王太子派が暴動を起こす可能性もあるという。それどころかすでに私は一人、幻獣人を解放している。このことが公になれば現国王派が動き出すだろう、とも。
わ、私、やっぱりとんでもないことをしてしまったよね!?
「とにかく、幻獣人の復活を阻むためには聖女様を捕らえればいいと考えているだろう。捕えたとしても雑に扱われることはないだろうが……城に監禁状態となるのは避けられない」
「そんな……」
今まで心のどこかでまだ他人事だった私。でもいよいよ大ごとになってきたなってじわじわ感じる。
私はただの無力な人間なのに! 前聖女様のような封印の力とかも持っていないんだよ? 利用価値ないよぉ!?
「国の者たちに連れ去られる恐れがある以上、教会にいては危ない。シスター、どうかわかってもらいたい。私は、エマに守りの強固な場所に移り住んでもらいたいと考えている」
でも、いくら私がそう思っていたところで、私が封印を解く鍵であることは変わらない。アンドリューの提案は乗るべきものだと、私は瞬時に理解した。
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