上 下
17 / 130
それでも私は聖女にはなれませんからね!

急展開すぎませんかぁ!?

しおりを挟む

「さ、今日はどの茶葉を使ったお茶にしましょうか!」
「お、お茶なんて、教会には一種類しかありませんよ、シルヴィオ!」

 急かすように私を教会の生活棟へと連れて行こうとするシルヴィオに困惑してしまう。お茶の種類がどうとかいう突っ込みなんて言ってる場合じゃない!
 少しだけ強めに、待って! と声をかけると、ようやくシルヴィオは私を押して歩くのをやめてくれた。ふぅ。

「私、ちゃんと話が聞きたいんです。シルヴィオが嫌って思う気持ちはよくわかったんですけど……。必要なこと、ですから。たぶん。お、お願いしますっ!」
「エマ様……」

 きちんと向き合って頭を下げると、困り切ったようなシルヴィオの声が頭上で聞こえた。
 数秒、沈黙が続いたのでそぉっと顔を上げると、シルヴィオが腕を組んで呻きながら顔を下に向けたり上に向けたりしているのが目に入る。ものすごく悩んでくれている……!

「……わかりました。でも! 話を聞くだけですからねっ! オレはまだ、解放を認めていませんから」
「う、うん! ありがとう!」

 まだ、他の幻獣人の解放を認めてもらわないといけない、という問題点が残っているけど、とりあえず話は聞かせてもらえそうなことに胸を撫で下ろす。
 どうしてそこまで嫌がるんだろうなぁ。個人的な恨みや揉め事でもあったのだろうか。それともただ単に毛嫌いしているだけ? ……気にはなるけど聞かない。また不機嫌にさせたら怖いもん。

「まったく、相変わらずだな。エマ、シルヴィオのことについては心配いらない。嫌でも解放することになるさ」
「え、それはどういう……」
「聞けばわかるだろう。すまないがあまり時間も取れなくてな。シスターに話さなければならないこともある。今日はその約束があったから来たんだ。共にシスターの部屋で話そう」

 嫌でも解放することになる、っていうのが気にはなったけど、アンドリューが僅かに悪い笑みを浮かべていたからあえて触れないでおこう。ま、まぁ、なんとかなるならそれでいいです。
 そのままアンドリュー、不機嫌そうなシルヴィオ、私の三人は揃ってシスターの部屋へと向かうこととなった。



「あら……。皆様お揃いでしたのね。さぁ、こちらへ」

 部屋に着くと、シスターは一瞬驚いたように目を見開いてからいつものようにおっとりと微笑んで私たちを室内に招き入れてくれた。
 王太子と幻獣人が一緒なんだもんね。驚くのも無理はない。それでもすぐにいつも通り振舞えるシスターの落ち着き具合は見習いたいものだ。

「シスター、オレがお茶を淹れますよ」
「いえ、そんな。幻獣人様にそんなことはさせられませんよ」
「オレがやりたいのですよ。女性が相手なら、いかなる時ももてなす側でいたいんです。さぁ、座って?」

 シルヴィオのフェミニストが発動された。そういうことをサラッと出来るのがすごいなぁ。尊敬する。
 シスターもここは頼んだ方がいいと判断したのか、おっとり微笑んでお願いしますと告げ、椅子に腰かけた。うん、それが正解だと思います!

「早速だが本題に入らせてくれ」

 シルヴィオがお茶を淹れている間、早速アンドリューが話し始める。チラッとこちらに目を向けた……?

「このままでは、エマが狙われることになる」
「なっ……」
「聞き捨てなりませんね。誰がエマ様を狙うと?」

 急展開した話についていけない! 驚きの声を上げるだけの私に比べ、誰よりも先に口を挟んできたのはシルヴィオだった。あれ、お茶の準備をしていたのでは?

「落ち着け、シルヴィオ。まずは最後まで話を聞くんだ。聖女様の話になるとすぐこれだ……それでは冷静な判断が出来ないぞ」

 アンドリューの言葉に渋々口を噤むシルヴィオ。彼もわかってはいるんだね。良かった、理性的な部分が残っていてくれて。
 引き続きお茶の準備を再開し始めたシルヴィオを尻目に、アンドリューの説明は続く。

「回りくどい言い方はしない。エマを狙っているのは……国だ」
「国……!?」
「正確には私の父、現国王だな」

 ど、どういうこと? なんで国王様が私なんかを狙うというのだろう。国にとってどんなメリットがあるのかさっぱりわからない。
 けれど、シスターはどこか察しがついていたのか、そうですか、の一言だけをため息とともに溢した。落ち着いた雰囲気ではあるけど、酷く心を痛めているようなその様子に私もギュッと胸を締め付けられる思いがした。

「国王は幻獣人の復活をあまり良いとは思っていないからな。これだけ世界の危機に面しているというのに、自分たちの力でなんとかするの一点張り。何か計画をしているのはわかるんだが、私相手には警戒して明かしてくれないのでな」

 話を聞くと、現国王様とアンドリューでは考え方で対立しているのだそう。現国王派と王太子派で対立していて、いつ暴動が起きてもおかしくない状況がずっと続いていたんだって。
 だからもし今後、私が国王様に捕らえられでもしたら、王太子派が暴動を起こす可能性もあるという。それどころかすでに私は一人、幻獣人を解放している。このことが公になれば現国王派が動き出すだろう、とも。

 わ、私、やっぱりとんでもないことをしてしまったよね!?

「とにかく、幻獣人の復活を阻むためには聖女様を捕らえればいいと考えているだろう。捕えたとしても雑に扱われることはないだろうが……城に監禁状態となるのは避けられない」
「そんな……」

 今まで心のどこかでまだ他人事だった私。でもいよいよ大ごとになってきたなってじわじわ感じる。
 私はただの無力な人間なのに! 前聖女様のような封印の力とかも持っていないんだよ? 利用価値ないよぉ!?

「国の者たちに連れ去られる恐れがある以上、教会にいては危ない。シスター、どうかわかってもらいたい。私は、エマに守りの強固な場所に移り住んでもらいたいと考えている」

 でも、いくら私がそう思っていたところで、私が封印を解く鍵であることは変わらない。アンドリューの提案は乗るべきものだと、私は瞬時に理解した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...