世界で一番幸せな呪い

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2章:贋作は真作足りえるか

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クロウが霧の中を進んでゆくと、ガサガサっという音が前方から聞こえてきた。クロウは、魔物が出てきたのかと身構えながら、草むらを注視した。クロウが目を凝らすと、そこには金色の刺繍がなされた漆黒のドレスを身にまとった少女———アリスがいた。この漆黒の髪には、葉やクモの巣が付いており、けもの道をひたすらに歩いてきたことが、その早々から察せられた。

「おぉ!アリス無事でよかった!」

クロウが笑いながら彼女に声をかけると、アリスは一瞬びくっとしたが、振り返りクロウの顔を確認すると、少しほっとしたような顔をした。

「あぁ、君か。まったく、迷子になるだなんてだらしがないな。もう少しシャキッとしてくれないと困るよ」

アリスは尊大な口調でそう言った。

「いや・・・、どっちかっていうと迷ったのはアリスなのでは?」

ボソッとクロウが言うと、アリスに睨まれたのでクロウは口を閉じた。気を取り直してクロウは

「この道をまっすぐ進むと、礼の館に着くらしいぜ」

クロウがそう言うとアリスは不思議そうな顔をしていった。

「どうしてそんなことがわかるんだい?」

そんなアリスの疑問に対して、クロウは先ほどあったプロメノという女について話した。

するとアリスはとても胡散臭そうな顔をして

「・・・かわいそうに、迷いの森の高濃度の魔素にあてられて、幻覚を見てしまったのか」

といった。

「いやいや、ほんとに見たんだって」

とクロウは反論したが

「魔素を含んだ霧を服どころか、体に一切浴びないだなんて、ありえないよ。それこそ、幽霊ぐらいのもんだろうよ」

とアリスに反論された。それ以上クロウに反論する余地もなく、ぐぬぬと言葉に詰まった。その時、アリスが急に立ち止まった。

「どうしたんだアリス?急に立ち止まって」

「いや・・・、君の見た幻も案外馬鹿にできないなと思ってね」

そう言うアリスの視線は一点に注がれていた。アリスの見ている先を見ると、そこには古めかしい洋館があった。その建物はレンガ造りで、丈夫な作りになっていたが、建てられてかなりの年月が経っているのであろう、建物のいたるところに蔦が張っており、また、ところどころひび割れていた。

「これが、アンネさんの娘さんが奉公に言っていた館で間違いないのか?」

と隣に立つアリスにクロウは思わず尋ねた。

「確かに、思ったよりも古めかしい建物ではあるが、間違いはないだろうさ。こんな辺鄙な場所に館を立てるもの好きがそうそういてたまるかい」

アリスはそう言いながら、不穏な気配のする屋敷にずんずん近づいていった。そして、アリスは大きな扉の玄関の前に立つと、コンコンとノックをした。

 すると数秒後、ギィィというきしむ音と共に、扉が開かれた。そして、中からメイド服姿の女が現れた。その女は、アリスよりも少し年齢が上程度の見た目の、切れ長の目をしている金髪金眼の容姿をしていた。

 その女は、扉を開けた時と同様に、無表情の顔のまま聞いてきた。

「本日は、いかがな御用でしょうか?」

「あぁ、私たちは人探しをしていてね。その人物がこの館で働いているとのうわさを聞いて、尋ねてきたんだ。ところで、君の名前は何というんだい?」

アリスがその質問をしたのも、もっともであった。なぜなら、そのメイド姿の女の容姿はアンネとかぶるところが多々あったためである。

「申し遅れました。私の名前はスキアと申します」

その女は淡々とアリスの質問に答えた。

「君はこの森から東に行ったところにある小さな村の出身だったりするのかい?」

そんなアリスの質問にスキアは首を傾げ

「質問の意図が分かりかねますが、私は幼子の頃親に捨てられ、それ以来、本館の主人に仕えておりますゆえ、出身は分かりかねます」

そんな、スキアの感情のない平坦な声を聴いていると、コツコツとこちらへ歩いてくる足音と共に、扉の奥の方から女の声が聞こえてきた。

「スキア、どちら様がいらしているの?」

そう言って、やってきたのは見た目が30前後の妙齢の婦人であった。その青みがかった紫色の髪は、毎日丹念に手入れをしているのであろう、一般人とは比べ物にならないほど艶めいていた。

「どうやら、人探しをしているようでして、その探し人がこの館で働いているという情報を受け、尋ねてきたようです」

とスキアは事実を淡々と述べた。その女は、クロウとアリスの様子を一瞥すると

「わたくし、本館の主人をしておりますトゥーラ=バティストと申します。どうぞ、気軽にトゥーラと呼んでくださいまし。立ち話もなんですから、お茶でも飲みながらお話ししましょう。何分、こんな辺鄙な場所に館があるものですから、来客も少なく、話し相手を欲していましたの」

トゥーラと名乗る女性は、艶めく紅色の唇に笑みを浮かべながらそう言った。クロウとアリスは案内されるまま、その玄関をくぐり、中へと入っていった。
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