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2章:贋作は真作足りえるか
村
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「・・・ったく服の裾が焦げちまったじゃねーか」
「君のデリカシーの無さが悪いんだよ。というか、能力も使わず避けるなんて、相変わらずバカげた身体能力だね」
アリスはそう言うと、やはり不意打ちしかないか、と危険極まりないことをボソッとつぶやいた。
「いやいや、刀も使わずにお前の魔法を正面から受け止めたら、めちゃくちゃ火傷しちまうじゃねーか・・・。って、おいアリスなんか村が見えてきたぞ!」
その声に、アリスは目を輝かせた。
「小さな村だが、久しぶりに湯浴みができるかもしれないな!」
二人は顔を見合わせると、先ほどよりも少し速足で眼前の村へと歩を進めた。
数刻後、二人が到着した村は、マリーたちがいた村よりもさらに古くさびれていた。家の数も10軒もなく、ちらほらと見える村人も老人が大半を占めていた。クロウ達が村へとはいると、一人の杖を突いた白髪の老人が近づいてきた。
「これは珍しい、旅人の方達ですかな?」
「えぇ、実は———」
「あぁ、私たちは旅をしていて、偶然この村に立ち寄ったのだがね、突然で申し訳ないが湯浴みをする場所はあるかい?」
クロウがその問いに答えようとしたが、アリスが割って入ってきた。そんな彼女の様子にクロウはあきれて
「落ち着けよアリス、たかだか3日間風呂に入れなかったくらいで」
「たかだかだって!?1日入れなかっただけでも発狂しそうだったのに、今日はもうイライラしてしょうがなかったよ」
「・・・さっきの魔法ぶっぱなしたのって、そのストレス発散だったりする?」
アリスはぴくっと動きを止め、クロウから目をそらし、
「ナ、ナンノコトダカ?過ぎたことはまぁいいじゃないか!それよりもどうなんだい、お風呂は貸してくれるのかい?」
アリスに気圧されたのか、老人は若干たじろぎながら、少し後ろにたっていた彼の妻らしき人に声をかけた。
「このお嬢さんが湯浴みをしたいそうなんじゃが、用意してくれるかの?」
「ええ、分かりました。それじゃあ、ええと・・・アリスちゃんていうのね、ついてらっしゃい」
そう言ってアリスを連れて行ってしまった。
「なんかすみませんねぇ」
「いやいや、あの年のころはわがまま盛りじゃからのう。お二人は親子ですかな?」
「・・・ええと、まぁそんなところです」
クロウは正確に二人の関係を説明しようと思ったが、自分でもどんな関係か分からなかったので、まぁ困ることもないだろうと老人の言葉を肯定した。それと同時に、アリスに娘だと勘違いしたと伝えた時の彼女の顔を想像し、このことは黙っておこうと固く胸に誓ったクロウだった。
「それよりお前さんも結構汚れているじゃないか。あの子が入り終わった後、君も風呂に入ってきなさい」
「ありがとうございます。でもいいんですか、こんなよそ者を村に招き入れちゃって」
「あぁ、別に大丈夫だよ。この村に盗られて困るようなものはないし、君たちも悪い人間には見えない」
それにね、と続けて老人は言う。
「この村には今は若い者がいないから、君たちのように若い子が来るとみんなとても喜ぶと思うよ。・・・あぁそういえば自己紹介がまだだったな。儂の名前はリュカというんじゃ、よろしく」
「俺の名前はクロウって言います。それじゃあ、ご厚意に甘えさせていただきます。今は若い人がいないって言いますけど、昔は若い人が結構いたんですか?」
それを聞いて、リュカは少し悲し気に
「あぁ、それほど多くなかったが、いたよ。みんな戦争で徴兵されて、帰ってこなかったがね」
ここにもあの戦争の傷跡があるのかと、クロウはこぶしを握り締めた。その様子には気づかず、リュカは続けて
「あともう一人、そこの家に住んでいるアンネさんという人のところにもティアちゃんという娘さんがおったんじゃが、迷いの森にある館に奉公しに行ったきり5,6年くらい戻ってこないんじゃよ。心労がたたってか、アンネさんの夫も先日亡くなって、そのあとアンネさん自身も病で倒れてしまって・・・」
「その娘さんにそのことを伝えたりはしないんですか?」
クロウの疑問にリュカは苦笑いをして
「できることなら知らせたいんじゃが、迷いの森に入って館にたどり着くには、わしらは年を取りすぎてしまった。館にたどり着いてティアに伝える前に、魔物に十中八九やられてしまうんじゃよ・・・。まぁ、でも医者の話じゃと、アンネさんも快方に向かっておるらしいし、まぁどうにかなるじゃろ」
そういうリュカの表情は、その言葉を信じているというよりも、そうであってほしいという希望が多分に含まれているとクロウは感じ取った。
「ん?どうしたんだい、なんか空気が重い気がするのだが」
後ろを振り向くと、そこにはアリスが立っていた。風呂から上がったばかりなのだろう、その頬はほんのりと赤らんでおり、流れるような黒髪には未だに少し水滴がついていた。
「結構早かったな。いま、この村に関していろいろ教えてもらっていたんだよ」
クロウはそう言い、アリスに今聞いたことを話した。そして、その話がちょうど終わったころ、一人の老人が慌ててリュカに駆け寄り、何かを伝えていた。話を聞くごとに、リュカの顔には焦りが浮かび始めていった。
「な!?アンネさんが・・・。いや、すまないクロウ君、ここで少し待っていてくれるかい?」
そうクロウに伝えると、答えも聞かずに速足で、右奥の少し小さめの家へと歩いて行ってしまった。クロウはアリスと目を合わせると、互いにうなずき、リュカの後を追った。
「君のデリカシーの無さが悪いんだよ。というか、能力も使わず避けるなんて、相変わらずバカげた身体能力だね」
アリスはそう言うと、やはり不意打ちしかないか、と危険極まりないことをボソッとつぶやいた。
「いやいや、刀も使わずにお前の魔法を正面から受け止めたら、めちゃくちゃ火傷しちまうじゃねーか・・・。って、おいアリスなんか村が見えてきたぞ!」
その声に、アリスは目を輝かせた。
「小さな村だが、久しぶりに湯浴みができるかもしれないな!」
二人は顔を見合わせると、先ほどよりも少し速足で眼前の村へと歩を進めた。
数刻後、二人が到着した村は、マリーたちがいた村よりもさらに古くさびれていた。家の数も10軒もなく、ちらほらと見える村人も老人が大半を占めていた。クロウ達が村へとはいると、一人の杖を突いた白髪の老人が近づいてきた。
「これは珍しい、旅人の方達ですかな?」
「えぇ、実は———」
「あぁ、私たちは旅をしていて、偶然この村に立ち寄ったのだがね、突然で申し訳ないが湯浴みをする場所はあるかい?」
クロウがその問いに答えようとしたが、アリスが割って入ってきた。そんな彼女の様子にクロウはあきれて
「落ち着けよアリス、たかだか3日間風呂に入れなかったくらいで」
「たかだかだって!?1日入れなかっただけでも発狂しそうだったのに、今日はもうイライラしてしょうがなかったよ」
「・・・さっきの魔法ぶっぱなしたのって、そのストレス発散だったりする?」
アリスはぴくっと動きを止め、クロウから目をそらし、
「ナ、ナンノコトダカ?過ぎたことはまぁいいじゃないか!それよりもどうなんだい、お風呂は貸してくれるのかい?」
アリスに気圧されたのか、老人は若干たじろぎながら、少し後ろにたっていた彼の妻らしき人に声をかけた。
「このお嬢さんが湯浴みをしたいそうなんじゃが、用意してくれるかの?」
「ええ、分かりました。それじゃあ、ええと・・・アリスちゃんていうのね、ついてらっしゃい」
そう言ってアリスを連れて行ってしまった。
「なんかすみませんねぇ」
「いやいや、あの年のころはわがまま盛りじゃからのう。お二人は親子ですかな?」
「・・・ええと、まぁそんなところです」
クロウは正確に二人の関係を説明しようと思ったが、自分でもどんな関係か分からなかったので、まぁ困ることもないだろうと老人の言葉を肯定した。それと同時に、アリスに娘だと勘違いしたと伝えた時の彼女の顔を想像し、このことは黙っておこうと固く胸に誓ったクロウだった。
「それよりお前さんも結構汚れているじゃないか。あの子が入り終わった後、君も風呂に入ってきなさい」
「ありがとうございます。でもいいんですか、こんなよそ者を村に招き入れちゃって」
「あぁ、別に大丈夫だよ。この村に盗られて困るようなものはないし、君たちも悪い人間には見えない」
それにね、と続けて老人は言う。
「この村には今は若い者がいないから、君たちのように若い子が来るとみんなとても喜ぶと思うよ。・・・あぁそういえば自己紹介がまだだったな。儂の名前はリュカというんじゃ、よろしく」
「俺の名前はクロウって言います。それじゃあ、ご厚意に甘えさせていただきます。今は若い人がいないって言いますけど、昔は若い人が結構いたんですか?」
それを聞いて、リュカは少し悲し気に
「あぁ、それほど多くなかったが、いたよ。みんな戦争で徴兵されて、帰ってこなかったがね」
ここにもあの戦争の傷跡があるのかと、クロウはこぶしを握り締めた。その様子には気づかず、リュカは続けて
「あともう一人、そこの家に住んでいるアンネさんという人のところにもティアちゃんという娘さんがおったんじゃが、迷いの森にある館に奉公しに行ったきり5,6年くらい戻ってこないんじゃよ。心労がたたってか、アンネさんの夫も先日亡くなって、そのあとアンネさん自身も病で倒れてしまって・・・」
「その娘さんにそのことを伝えたりはしないんですか?」
クロウの疑問にリュカは苦笑いをして
「できることなら知らせたいんじゃが、迷いの森に入って館にたどり着くには、わしらは年を取りすぎてしまった。館にたどり着いてティアに伝える前に、魔物に十中八九やられてしまうんじゃよ・・・。まぁ、でも医者の話じゃと、アンネさんも快方に向かっておるらしいし、まぁどうにかなるじゃろ」
そういうリュカの表情は、その言葉を信じているというよりも、そうであってほしいという希望が多分に含まれているとクロウは感じ取った。
「ん?どうしたんだい、なんか空気が重い気がするのだが」
後ろを振り向くと、そこにはアリスが立っていた。風呂から上がったばかりなのだろう、その頬はほんのりと赤らんでおり、流れるような黒髪には未だに少し水滴がついていた。
「結構早かったな。いま、この村に関していろいろ教えてもらっていたんだよ」
クロウはそう言い、アリスに今聞いたことを話した。そして、その話がちょうど終わったころ、一人の老人が慌ててリュカに駆け寄り、何かを伝えていた。話を聞くごとに、リュカの顔には焦りが浮かび始めていった。
「な!?アンネさんが・・・。いや、すまないクロウ君、ここで少し待っていてくれるかい?」
そうクロウに伝えると、答えも聞かずに速足で、右奥の少し小さめの家へと歩いて行ってしまった。クロウはアリスと目を合わせると、互いにうなずき、リュカの後を追った。
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